傍に立つ君は完璧で究極のアイドル   作:カミキヒカラナイ

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前話でここすき乞食したらいっぱいここすき貰えたので感謝の年内投稿です。滑り込みセーフ。

早いもので、このアイがゲボ吐いてばかりのよく分からん小説も投稿開始からもうすぐ一年が経とうとしています。たくさんの方に見ていただき、また過分な程の評価と感想を頂戴し、とても嬉しく思います。ここまで続けてこれたのは偏に読者の皆様からの温かい応援の声があったからです。

深い感謝と共に年内最後のご挨拶を締め括りたいと思います。長いようで短かった約一年間、ご支援本当にありがとうございました。
2025年も「傍に立つ君は完璧で究極のアイドル」をどうぞよろしくお願いいたします。



31.終幕(中):その決意は巌の如く

 鳴嶋(なるしま)メルトは才能に恵まれている。顔も良いし声も良い。大抵のことは卒なくこなせる要領の良さもある。

 とりわけ容姿に恵まれたことはメルトのこれまでの人生を順風満帆なものにしてきた。成長期に差し掛かり、肉体的に男性として成熟していくにつれそれは特に顕著になっていった。

 

 その才はモデル業において大いに発揮された。業界全体で見て特別優れた知名度があったわけではないが、若手モデルの中では突出した実績を残すに至る。その過程で何か特段の苦労や努力があったかと言えば決してそんなことはなく、メルトは持って生まれた素質だけでそこに立っていた。ただ立っているだけで、栄光は全て向こうからやって来た。

 大手事務所からの勧誘。モデルとしての成功と栄達。芸能人という肩書きを有するメルトは学校という箱庭においてはいつだって中心人物だったし、幸いにして学業に苦慮することもなかった。

 

 世は並べて事もなし。何をやっても上手くいく。まさに人生イージーモード。

 

 風向きが変わったのは、更なるキャリアアップとして芝居の世界に足を踏み入れた時だった。

 そこでメルトは、本物の才能というものを目の当たりにしたのだ。

 

 有馬かな。そして星野アクア。二人の演技は何も知らぬメルトにとって衝撃だった。最終回の撮影で明らかになった二人の本来の演技力と比較すれば、メルトの演技などゴミのようなものだ。自分の実力に周りが合わせてくれていたのだと、その時になってようやく気付いた。

 

 そう、メルトはあまりに無知だった。モデルで通用した力が演劇でも通用するとは限らない。極論すれば被写体の容姿以上にカメラマンの技量の比重が大きいモデル業と異なり、演技の世界は何より役者自身の実力が物を言う。どれだけ演出を凝らそうが、どれだけ見目良く着飾ろうが意味がない。見る者の心を震わせる演技ができなければ、役者にその実力がなければどんなに良い作品だろうと駄作に堕ちる。

 

 ドラマ「今日あま」こそがまさにそれだった。メルトの実力不足が、一つの作品を駄作に貶めたのだ。

 

 俺が最初から本気で臨んでたら、この作品はもっと良いものになっていたんじゃないのか──後から後から湧いてくる慙愧(ざんき)の念にメルトは苛まれた。

 それでも役者の道を行くことを止めなかったのは、憧れがあったからだ。有馬かなのような、星野アクアのような凄い演技ができる役者になりたいと……そう思ったからだ。

 

 そうして演技の世界に深く関わっていったことで、メルトは当たり前の、だが今まで意識することのなかった一つの真実を知った。

 ありとあらゆる才能が集まる芸能界。煌びやかなその世界は、残酷なまでの実力社会であるのだと。

 

 あれほど凄い演技を見せた有馬ですら役者の中ではマイナーで、アクアに至ってはほぼ無名に等しいという事実。それは衝撃を以てメルトを打ちのめした。

 あれほどの実力がある役者であっても正しく評価されない。あるいは、評価されても評判には繋がらない。ただ才能があるだけでは駄目なのだ。所属事務所による十全なプロデュースとバックアップがなければ、そもそも実力を発揮する場と機会を得られない。よしんば機会を得られたとしても、そこから人気が出るかは世間の流行り廃りに左右される。

 

 才能があるのは大前提で、正しい努力ができなければ生き残れない。それだけ役者という世界の層は厚く、容易に()()()()()。その上で培った実力を正しく発揮できる場と機会を手繰り寄せた者のみがメディア露出を果たし、人気俳優として脚光を浴びることができる。そういった運否天賦も含めた全てを引っ括めて“実力”と言うのだ。

 

 どれか一つだけでも駄目で、一つでも欠けては不足する。“才能”、“努力”、そして“運”。それら全てを持ち合わせてようやく一流と呼ばれるに値する。

 翻って、メルトにあったのは運だけだった。大手芸能事務所がバックにあること、鏑木(かぶらぎ)Pという顔の広い業界人と関係があることは幸運だった。そうでなければ「東京ブレイド」の舞台化企画なんて大仕事に関われるはずもない。モデルならいざ知らず、役者としての才能は平凡。努力の量においても周回遅れを喫している。そんな三流の役者が一流に追いつこうと言うのならば、並大抵の努力では足りない。東ブレの稽古が始まるまでの数ヶ月間、メルトはがむしゃらに努力した。毎日の走り込みは欠かさず、基礎練習と並行して渡された台本と原作は穴が空くほど読み込んだ。

 

 それでも届かぬ高みがあるのだと、メルトは散々に思い知ることになる。

 

 姫川(ひめかわ)大輝(たいき)と黒川あかね。劇団「ララライ」の二枚看板の実力はまさに異次元というべきものだった。

 そしてそれに匹敵、どころか一部においては凌駕しかねない才能の片鱗を見せた有馬かな。涼しい顔でそれについていく星野アクア。2.5次元舞台のノウハウにおいては他を圧倒する鴨志田(かもしだ)朔夜(さくや)に、不慣れなジャンルであっても安定した実力と圧倒的なパフォーマンスを発揮するララライの役者達。右を見ても左を見ても一流ばかり。誰一人としてメルト以下の役者などいなかった。

 

 だが、それだけなら覚悟はできていた。モデル上がりのぽっと出であるメルトと違って、ララライにいるのは生粋の役者達。才能も、努力の量においてもメルトとは積み上げてきたものが違うのだ。楽観はしていなかった。彼らとの間に隔たる壁は当然のものと認識していたし、それゆえ殊更に衝撃を受けることもなく、謙虚な気持ちで稽古に臨むことができた。

 

 それでもただ一人、桐生(きりゅう)シオンの存在だけは簡単に受け容れることができなかった。

 

 シオンとメルトの経歴は似通っている。共にモデル上がりで、役者としての経験は──メルトは「今日あま」の経験を以て先達を気取るつもりはなかった──互いに皆無。スカウトによって大手芸能事務所に抜擢された点も同様だ。この仕事に関われたのも事務所の力あってのものだろう。

 

 “努力”も“運”も同程度……だが秘めたる“才能”の量が桁一つ、いや二つほど違った。

 

 メルトは覚えている。忘れようはずもない。初めての本読み稽古で目の当たりにした、膨大無辺という言葉が陳腐にすら思える、ただひたすらに圧倒的な存在感を。

 

 あれほどの存在感があれば、多少の演技力の不足など十二分に補ってしまえる。肌に感じる情報量が桁違いなのだ。例えるならば巨大な竜が身動ぎしたようなものだ。ただ少し身体を揺らしただけでも、人間の一挙動とはその規模において絶大な隔たりがある。メルトがなけなしの才能と涙ぐましい努力の末にようやく一歩進む間に、あれは視線一つ、吐息一つで道そのものを破壊して余りある。

 

 これで相手が姫川大輝ならば、黒川あかねならば……有馬かななら、星野アクアならばどうとでも自分を納得させられた。彼らとは演技に費やしてきた時間が絶対的に異なる。彼らと比べてメルトの実力が劣後していることは至極当然のことであって、殊更に恥じ入るべきことではない。ただ揺るがぬ事実として粛々と受け止め、一秒でも早く彼らに追いつくべく努力を重ねればそれで良いと奮起できる。

 しかし相手がシオンとなるとそうもいかない。互いにモデル出身の同世代。芸歴は同程度で、演技に費やしてきた時間も両者共に同じかややメルトが上回る程度。故に経験不足という言い訳が通用しない。否応なく突き付けられる……残酷なまでに隔絶した、絶対的な“才能”の差を。

 

 そしてその差は役者としてのものだけに留まらない。モデルとしてもメルトとシオンの間には明確な格差が存在する。

 カリスマ読モとしてティーンの間で圧倒的な人気と知名度を誇るシオンは、純粋にメルトの上位互換と言って良い。ファン層が女性人気に偏っているメルトと異なり、同じ人間とは思えぬほど隔絶した美貌で万人を魅了するシオンのファンは男女の別を問わない。男物の服を身に纏えば世の女性は黄色い声を上げ、女物の衣装に袖を通せば遍く男性は理性を蕩揺させる。その人気はあかねという彼女ができてもなお衰えず、むしろ「今ガチ」で彼の温厚篤実な為人(ひととなり)が知れ渡ったことでより一層火がついたと言える。「今日あま」で評価を落としたメルトとは実に対照的だ。

 

 世に冠絶した容姿があり、役者としての稀有な才能があり、最大手プロダクション所属というステータスもあり、その上で人柄においても欠点らしい欠点が見えてこない。かつてのメルトにはあった驕りが存在しない。まさに大衆の理想を形にしたような好青年。天が二物も三物も与えたような存在だ。

 

 ……メルトとて本当は分かっている。顔の良さにかまけて日々を惰性的に生きてきて、「まあテキトーにやりゃいいだろ」なんていい加減な心構えで芸能界入りした自分が、一丁前に誰かに嫉妬する資格などないのだと。芸能界とは才能の坩堝(るつぼ)。生き馬の目を抜くこの世界で、碌に走ることすらしてこなかった駄馬に居場所など存在しない。

 

 それでも悔しいと、負け犬のままではいられないと思ってしまったのだ。これから更に人気と知名度を増していくだろう天才の光に押し潰される、その他大勢の影の一つではいたくないのだと……そう思ったのだ。

 それはアクアに対して抱いた憧れの感情とはまた異なる情動だった。それは意地だったろうか。このままでは終われないと、これまでの人生を真面目に生きてこなかったメルトに、失って困るようなプライドなどあるはずもないのに。

 

「……へぇ。いや、実際大したもんだよ。仕事モードのシオンを相手にして『負けたくない』なんて、そう言えるものじゃない」

 

 だが、アクアはそんな思いを笑わなかった。それどころか感心すらした様子でメルトのちっぽけな意地を賞賛した。

 

「恋愛リアリティショー『今ガチ』……ネットテレビだが初めてシオンが出演した映像作品だ。結構話題になったし、話ぐらいは聞いたことあるんじゃないか?」

「知ってる……ていうか、見た。リアタイはしてなかったけど、同じ舞台に上がる同世代のタレントってことで気になって、個人的に調べたんだよ」

 

 東ブレのキャストが発表された時、メルトは真っ先にその名前に気付いた。アマチュアにもかかわらず下手なプロより人気を博すカリスマ読モのことは知っていたから、強い興味とほんの少しの敵情調査のつもりで調べを進め、「今ガチ」に行き着いたのだ。

 

鷲見(すみ)ゆき、MEM(メム)ちょ、黒川あかね、熊野(くまの)ノブユキ、森本(もりもと)ケンゴ。全員……うん、全員まだ十代の若手ながら、同世代では抜きん出た上澄みの有望株が集められた。既に確かな実績のある奴もいたし、メディア露出は少なくともプロとして少なくない場数を踏んできた奴もいた。こう言うと自画自賛に聞こえるかもしれんが、まあ、歴代恋リアの中でも特に優秀なメンツが集まった番組だったと思うよ」

 

 それについては異論を挟む余地はない。鷲見ゆき、MEMちょ、熊野ノブユキ、森本ケンゴの四人は既にプロとしての実績と知名度のある若手筆頭株だった。板上が長かったせいでメディア露出の少なかった黒川あかねとて言うに及ばぬ天才だし、本人は謙遜しているが、四歳の頃から子役として芸能界にいたアクアは、その芸歴において他の若手とは一線を画している。

 

「そんなあいつらでも、最初はシオンのオーラにビビって全く動けなかったからな。鍔姫(つばき)を演じる時に見せる本気のそれとは比べるべくもない、本人曰く“ちょっと緊張してピリついた”程度のオーラでな。しばらくしてあいつの人柄が分かってからは表面上は遠慮はなくなったが、それでも全員少なからずシオンの顔色を伺いながら番組を進めていた」

「……だから何だってんだ?」

「口さがない言い方になるが、皆端からシオンに勝つことを諦めてたんだよ。無論、俺も含めてな。結局あの番組はあかねが頭角を現すまで……いや、現してなおシオンの一強状態だった。誰もが二位争いに終始して、あいつ以上に目立ってやろうなんて気概を持てた奴は最後まで一人もいなかった」

「それは……しょうがないんじゃないか? 俺はいち視聴者として番組を見てただけだけど、でも明らかに一人だけ格が違っただろ。こう言っちゃ何だが無理に張り合おうとしても空回りするだけだって」

「その通りだ。だから誰もが賢く立ち回った。無理に張り合わず、シオンの邪魔をしない範囲で独自色を模索した。……だがお前は違う。同じ土俵に立った上で『負けたくない』と言った」

 

 そんな大層なものではない。こんなものは彼我の実力差も弁えられない負け犬の遠吠えでしかない。何か誇れるような取り柄があるわけでもなく、基礎的な演技力すら不足している身で「負けたくない」など、我ながら滑稽に過ぎる発言だ。

 しかしそう自嘲を口にするメルトに対し、アクアはなおも否を唱えた。星のような輝きを湛えた海色の瞳がメルトを真っ直ぐに見据える。

 

「意地だろうが何だろうが、それはあの五人にはできなかったことだ。つまりそれは、お前の意地があいつらを上回ったということに他ならない。違うか?」

「お世辞はいいって。『今日あま』から半年以上経ったのに、俺の演技力は素人に毛が生えた程度……桐生に勝つ勝たない以前に、このままじゃまた俺のせいで作品を駄目に……」

「むしろ素人以下だったのがたった半年でここまで成長したんだから大したもんだろ。天稟というほどのものはなくても素質はある。ひたむきに努力できるのも一つの才能だ。……それに、知ってるか?」

「……?」

「役者ってのはどいつもこいつも負けず嫌いなんだよ。それが根っからの役者なら尚更だ」

 

 ニヤリと太々しい笑みを浮かべるアクア。

 メルトが彼に向ける感情は単純な憧れともまた異なる。憧憬とライバル視が綯い交ぜとなった複雑なものだ。そしてそんな感情を向けられているなどとは露ほども思っていないだろう星の瞳の少年は、悪童のような笑みに諧謔(かいぎゃく)を滲ませて嘯いた。

 

 

「それで、お前は何て言ったっけ? あの有馬かなが手に負えないと白旗を上げた奴に、あの黒川あかねが本気を振り絞らないと追随すらできない奴に……存在感だけであの姫川大輝に伍するような()()()を相手にして、『負けたくない』? 本当、大した負けん気だよ。こんなに負けず嫌いな役者は俺の十余年の芸歴の中でも数えるほどしか見たことない」

 

「やっぱりお前、才能あるよ……俺なんかより、余程な」

 

 

 そんな会話があったのが、舞台開演の一週間前。もう随分と昔のことのようにすら思える。たった一週間の間に血の滲むような努力を積み重ね……メルトは今、この舞台に立っている。

 

 今の己は「キザミ」。かつて新宿の一角を力によって支配していた無頼漢であり、ブレイドの片腕としてその力を振るう独眼の鬼だ。

 

 その役柄(キャラクター)は「つるぎ」と似通っている。両者共に交刃の巷を生きる武闘派であり、血と暴力によって立つ新宿の覇者の一人だった。しかし一匹狼を好んだつるぎと異なり、キザミには多くの手下が存在した。

 キザミは破天荒を好み、猛々しさを愛でた。荒々しく血腥(ちなまぐさ)い新宿きっての鬼武者はしかし、強者には寛容だった。そんな彼の力と尚武の気風に惹かれた者らが集い、それが戦力として形を成し、一大派閥を形成していたのだ。その手下は今やブレイドの軍門に下ったことで全て新宿クラスタの兵士となったわけだが……ここで重要なのはブレイドに敗れる以前、キザミは彼を慕う手下を軍勢として率いた派閥の長であったこと。

 

 それ故に、キザミは長らく読者から“お山の大将”と呼ばれ、不遇の時を過ごしてきたのだ。

 

 生来の強者として生まれたキザミはブレイドに敗れる以前は負け知らずであり、つるぎはおろか、ちょっかいを出してくる渋谷の手勢相手にも決定的な敗北を喫することはなかった。にもかかわらず何故キザミがそのような蔑称で呼ばれるに至ったか……それは彼の戦績がパッとしないことに起因する。

 切っ掛けは渋谷クラスタの尖兵の一人「(もんめ)」と演じた一騎打ちと敗北だった。人間族と比べて膂力を始めとする肉体性能に優れた鬼族の中でも特に優れた身体能力を持って生まれたキザミは、途中まで優勢に戦いを進めるも、盟刀の扱いに対する練度の差によって匁に敗れる。これは各盟刀が持つ特殊な力が盟刀使い同士の戦いにおいて重要であることを読者に強く印象付けるための一戦であり、避けては通れぬ敗北だった。

 

 そしてそれ以降、キザミは中々勝ち戦に恵まれなかった。それは生まれついての強者として力任せの戦い方ばかりをしてきた弊害であり、盟刀を己の膂力で乱雑に扱っても壊れない頑丈な武器としてしか見てこなかったツケだった。彼が己の盟刀と向き合い、その力を完全に我が物とするまで、キザミは敵からも、読者からも“お山の大将”として軽んじられ続けることになる。

 

 そんなキザミというキャラクターに、メルトは親近感を覚えていた。持って生まれた才能に胡座をかき、努力というものをしてこなかったが故に挫折を味わう……そんな背景に、メルトは今の己の境遇を重ねていた。

 

 しかし同時に思うのだ。キザミという男は自分とは違うと。

 舐めてた相手に散々やられて、みっともなく足掻いて負けて……弱い自分が情けなくて、悔しくて……だがキザミはそんな己と向き合い、かつてない強敵を前に遂に覚醒する。

 

 未熟であることから脱皮せんとする躍動が帯びる熱が羨ましかった。内に宿す才の輝きが炎のように立ち昇る様が眩しかった。

 あんな男になりたいと……鳴嶋メルトは、キザミというキャラクターの在り様に憧れたのだ。

 

『メルト、新しい脚本の舞台はお前にとって厳しいものになる。言うまでもないがこれは原作ファンの知らない物語……原作再現による補完には期待できない』

 

 メルトの脳裏にアクアと交わした会話が思い起こされる。

 そう、新シナリオ「血鬼の恩讐編」には匁との一騎打ちが存在しない。だから作中でも特に印象的なシーンに集中して稽古を積み、正確な「原作再現」によって基礎的な演技力の不足を補うという手法が使えない。

 

『だが幸いと言うべきか、新規脚本におけるキザミの見せ場は渋谷抗争編のものを流用できる』

『流用……?』

『その場面に必要な感情が同じってこと。匁との一騎打ちで、キザミはどういう感情を抱く?』

『キザミの、感情……』

 

 そんなの決まっている。“悔しさ”だ。件のシーンは初めて出会った強敵に敗北したキザミが悔しさをバネに根性だけで立ち上がる場面。

 翻って、新規脚本でキザミに用意された役割は鍔姫の手から盟刀“神喰(かみは)み”を奪うという重要なもの。しかしそれはほんの一瞬の交錯によるものであり、匁との戦闘シーンにはあったような、漫画にして四十頁(二話)分にも及ぶ手に汗握るような鍔迫り合いは存在しない。

 

 ある意味では出番を減らされたようなものだが、それはメルトにとってメリットでもあった。シーンが長ければ長いほど、周りの役者達との差はより明確に浮き彫りになる。逆にシーンが短ければ、そのワンシーンにのみ目標を絞って全身全霊を注ぎ込むことができる。

 しかし言うは易く行うは難し。未熟なメルトではその一瞬に全霊を込めたとて、それでもまだ一流の感情出力には到底及ばないのだ。相手が埒外の存在感を放つシオンとなれば尚更である。

 

『相手が匁から鍔姫になったことで敵としての規模はスケールアップしたが、キザミが抱くであろう感情に変わりはない。キザミは生来の強者。“強い鬼である己”こそが彼のアイデンティティで、それを初めて脅かす自分以外の鬼に抱く感情は一様に“悔しさ”であることは想像に難くない。後はシオンの演技に呑まれないよう今の感情演技に磨きをかけるだけでいい』

『だけでいいって……簡単に言うけど、どうすればいいんだ? 俺は黒川みたいな深い考察なんてできない。このまま漫然と稽古を続けてたって桐生の演技に追いつけるとは思えねぇ……』

『あのオーラにばかり目が行きがちだが、あれで普通に演技力あるからなあいつ。どんな役でもこなせるような器用さはまだないが、ああやってはまり役を宛てがわれれば手が付けられん』

 

 その通りだ。メルトは視線の先で殺陣(たて)を演じるシオンを見る。右手の大刀が、左手の軍旗が振るわれる度に颶風が巻き起こり、凄まじい威力を発揮してブレイド(姫川)を、刀鬼(アクア)を打ち据える。本職の殺陣師顔負けの演武を披露する二人だが、その様はまるで嵐に巻かれる木の葉のようだった。そこには演出以上の力の差が存在する。ここで言う力とは純粋な腕力の話ではなく、人間の感受に訴えかける魂の膂力とでも言うべきものである。

 

 光り輝いている──メルトは比喩でなくそう思った。目を向けたならばそこには霊炎の光に燃える彼がいて、深紅を貫き紫雲に煌めく眼光は断固たる意志を帯びて時空を貫くが如くに放たれている。人間の先頭たる者の壮絶がそこにあった。

 

(ホント冗談じゃねぇ。何であんなのと同じ時代に生まれちまったんだか)

 

 一周回って冷静になったメルトは、凪いだ瞳で舞台の中心に立つ少年を眺めた。

 同じ時代というか同年代なわけだが、あまりにもあんまりすぎる。何でオーラを出しただけで建物が揺れるの? ていうかオーラって雰囲気とか凄みとかそういう形のないものというか概念的なやつであって物理的な干渉力があるものではないはずなんだけどどういうことなの。あと当たり前のように振った剣から風やら衝撃波やら出てるけどこれもおかしい。超能力ってそういうものだっけ。サイキッカー名乗るにはだいぶ物理に寄ってないかあれ? 何で足踏みだけであんなMAP攻撃みたいな真似できるんだよ絶対おかしいって。というかさっきから目が光ってるの怖いんだけど何あれ。何でカラーコンタクト貫通して紫色に光ってるわけ? チェレンコフ光? 普通の人間の目はそんな電飾みたいにビカビカ光らねーんだよほんとマジ何なのあいつ怖いよぉ……

 

 彼から発しその身を包む烈火とも見紛う光彩を眺めながら一息に思う。

 しかしその一方で、メルトは恐怖と嫉妬以上の敬意を抱いてもいた。もはや常人では計り知れないほどの巨大な才を抱えていながら揺るがず曲がらぬその在り様。油断も慢心もせず己に許された能力を最大限に発揮し続けるその姿に、メルトは際限のない超克と邁進を見た。

 

 人が自分のためにできることなど高が知れている。困難を前にして折り合いがついてしまうからだ。多くの偉大は自分以外の誰か、あるいは何かのために行われる。

 では果たしてシオンは何のために、誰のためにこの芸能界(せかい)に立っているのだろうか。かつてのメルトのように驕り高ぶることもせず、謙虚なまでに全能を発揮し続けるその姿には何某かへの献身を感じさせる。信仰心とはまた違う。無形のものへの抽象的なそれとは異なり、有形の、目に見える誰かへの愛着と確信……その人が世界に存在することを寿ぎ、その人が世界へ影響する光景を崇拝し、積極的にそれを邁進しようとしているのではないだろうか。

 

 メルトは改めてシオンを見た。夜を髪として風に晒し、宿命を瞳の色に宿して世界を広く遠く見据えている。魂より生じる命の光は彼において人の最大を示していて眩い。彼はまさに光り輝く者だった。

 

 それでも──

 

(それでも、俺はお前を超える。この瞬間、この場面(シーン)だけは……キザミ(おれ)鍔姫(おまえ)にも負けない)

 

『メルト、むしろお前は無理に「キザミ」を演じなくていい』

 

 その一言は衝撃を以てメルトを打ち据えた。役者なのに演じなくて良いなどと。まるで突き放すかのようなその物言いがこの上ない金言であるのだと、気付かされるのにそう時間はかからなかった。

 

『お前がキザミ役に抜擢されたのは鏑木Pのキャスティングによるもので、最終的にそれを承認したのは雷田(らいだ)P、そして金田一(きんだいち)さんだ。じゃあそもそも、何でお前はキザミ役に選ばれたと思う?』

『何でって……そりゃあ、見た目じゃないか? 東ブレのファン層的に若者受けする外見のタレントは必要だろ』

『それもあるだろうが、なら別にキザミである必要はない。キザミは力自慢の武闘派で、ガタイも良いしイケメンだがどちらかと言えば精悍な顔立ちをしてるだろ? 中性的な容姿のお前とそこまで外見的な共通点はない』

『なら何で俺がキザミ役に……』

『お前、結構キザミに感情移入してるだろ。キザミの境遇に身につまされでもしたか?』

『え! 何でわかっ……あ、いや、別にそんなことは……』

 

 思わず苦しい言い訳をしてしまうメルトだったが、言うまでもなく図星だった。

 キザミは強いと思っていた自分の本当の弱さに直面し、メルトもまた己の才が舞台の主演足り得ぬことを知った。才能の限界を目の当たりにし挫折した者としての共鳴があったのだ。

 

『そう思ったのはお前だけじゃないってことだ。(はた)から見て俺も結構共通点あるなって思ったし、鏑木Pもそう思ったって不思議はない。あの人は好みのタレントを贔屓する傾向はあるが、私情でキャスティングするには今回の仕事は規模が大きい。浪漫を優先するには博打すぎる……なら、何かしらキザミ役を宛てがうに至った“根拠”があるはずだ』

『その根拠が、俺とキザミが似てるってこと、なのか……?』

『監督や演出家の言語化できない意図を読むってのも役者には重要なスキルだから覚えとけよ。それがキャスティングにまで関わってくる例は流石に稀だが、お前はまだどんな役でもこなせるタイプの役者じゃないからな。尚のこと「鳴嶋メルトがキザミ役に選ばれた」ことには意味があると考えるべきだ。何故他の役者を差し置いてまで敢えてお前にキザミの役が宛てがわれたのか……』

 

『自信持てよメルト。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 理性の衣でその心を包み整えようとも、燻る火熱のようなものは確かにあって、それは今この場において冷たく燃焼している。これこそが負けたくないというメルトの本音、アクアが言うところの役者の素質であるというのなら……もはや敢えて抑えはすまい。恥ずかしげもなく胸の内を曝け出して、今こそ未熟者は役者となる。

 

 瞑目する。己以上の己になるための力を求めた。

 胸に役者の誇りを抱け。背に一万将兵の勇敢を背負え。

 

 いざ目を見開いたならば、そこにはメルトとしての己とキザミとしての己を違和なく統合しきった自分がいる。具足の音も猛々しく刀を持つ手を掲げる。武骨で粗野であるが、しかし手に馴染み己の心を大いに表すところのそれを握りしめて、幼さより羽化しつつある少年は裂帛の気合を吼えた。

 

「オオオオオオオ────ッ!!」

 

 己を鼓舞する魂の咆哮が響き渡り、スポットライトの光条がキザミを照らし出す。舞台の中心となる役者が切り替わったのを鋭敏に察知した観客の視線が集中すると同時、勢いのままに雑兵の一人へと斬りかかった。

 

『雷田Pは本当に良い仕事をしてくれたよ。プロの殺陣師ってのは“受け”の達人だ。胸を借りるつもりで勢い任せに行くといい』

 

 強い衝動が筋骨に力を漲らせている。もはや抑えようもないその感情をありのままに大呼吸の一度へと込めきって、キザミは気合と共に腕を振るった。

 抑えられないし、抑えるつもりもなかった激情が刃を冴え渡らせ、鋭い一閃となって放たれる。景気良く鋼の音が響き渡って、だが腕に伝わる手応えは想像より遥かに軽いものだった。受けの達人とアクアが言った通り、雑兵役を務める彼は傍目にはそうと分からぬよう掛かる力を受け流し、見事キザミに圧倒されてみせたのだ。

 

 プロの腕前に胸の内で敬意を表しつつ、キザミは二撃目で雑兵を斬って捨てる。

 その隙を狙って押し寄せる雑兵、数にして五。残心するその背に向けられる五つの刃は、しかし水のように冷たく流麗な剣技に打ち砕かれた。

 

 “流水死命”──キザミを救ったのは、本来であれば彼を敗北に追いやる運命にある剣士の一閃だった。

 

「匁……!?」

「行きなさい、キザミ! ここは僕が引き受ける!」

 

 最初は実力に見合わぬ配役を得たメルトへの隔意があった鴨志田。しかしメルトが稽古に臨む姿には確かな熱意と誠意とがあって、彼が今後も長足の進歩を遂げていくであろうことを鴨志田に予感させた。

 自身もまた一流を目指して日々稽古を積み重ねている人間である以上、熱意を持ってがむしゃらに努力する相手を嫌う道理はない。鴨志田は一度懐に入れた相手に対しては面倒見の良い一面があった。以降何かと世話を焼いてやった後輩に対する隔意はもはやなく、(鴨志田)は背中を押すように声を張り上げた。

 

「行け!」

「っ、恩に着る!」

 

 激励を背にキザミは駆け出す。キザミの剣技には匁ほどの洗練さはないが、しかし素早く力強い。踏み込む勢いといい、荒削りながら確かにそこには「キザミ」らしさがあった。立ちはだかる雑兵を次々に斬って捨てて、その視線の先にあるのはただ一人のみ。

 

 鍔姫は強い。それは武力のみに限った話ではない。彼女は彼女独自の世界を生きていて、他者を駒として使いつつも他者からの理解も共感も必要としていない。今も平然と味方の兵をも巻き込む規模の攻撃を繰り返して恥じるところもない。だから物惜しみせず果断に富む。見ようによっては、それは英雄の資質というものかもしれなかった。善悪を超えた威力があるからだ。彼女にとっては同胞が暮らすところの村々をば、まるで斟酌する素振りもなく奪い殺して焼いた女である。己の目的のためにはあらゆる行為が正当化されて当然という認識は、それ自体で既に強さだ。

 

 武力においても精神性においても過去に類を見ない空前絶後の大敵だ。匁程度に後れを取るようなキザミでは太刀打ちできないだろう。

 それでも立ち向かわねばならない理由がある。強敵を前に物怖じし戦わずして敗北を認めるような愚鈍怯懦とは対極の位置に立つのがキザミという男であり、今やメルトこそがキザミなのだから迷うところもない。喉よ裂けよとばかりに咆哮し、キザミ(メルト)は遂に鍔姫(シオン)の姿を間合いに捉える。

 

 間合いに捉えたことでより明瞭に分かってしまう、シオンとの間にある埋め難い才気の隔絶。一挙手一投足には人目を引く華やぎがあり、一度笑ったならばもうその場の主役とならずにおかない。自然体でそうあることが彼の特質であって、メルトが羨み、妬み……尊敬し憧れてやまないところであった。

 

 ついと振り向ける眼差しにも艶美を纏わせて、鍔姫(シオン)は微笑んで言った。

 

「また一人死にに来たか……良いぞ、そうでなくては面白くない」

 

(悔しい……)

 

 悔しい。どうしようもなく悔しい。この凄まじい男と並んで見劣りする才の不足が悔しくてならない。努力を怠り怠惰に過ごしてきた過去の己が呪わしい。才能の差が、努力の差が、どうしようもない隔たりとなって両者の間に厳然として横たわっている。

 

 それでも──

 

(それでも、このままじゃ終われねぇ!)

 

 ギリリと歯を食いしばり、(まなじり)を決して更に一歩踏み込む。その一歩に全身全霊の覚悟を込めて、キザミ(メルト)は心からの感情を叫んだ。

 

「死にに来ただと……ハッ、寝言は寝て言うんだな! 俺は、勝つためにここに来た!!」

 

 勝つ。シオンに勝つ。自分に勝つ。目の前の相手も、過去の己も乗り越えて……鳴嶋メルトは、今こそ世界に覚悟を放つ。

 

(俺はこの舞台(せかい)で生きていくって決めたんだ! だから──!)

 

 そこを退け、桐生シオン。お前に打ち勝ち、俺は今よりも強い俺になる……!

 

 もっと先へ、更に先へ──!

 

「ねぇ、キザミ役の人……」

「うん……すごい迫力……!」

 

 メルトのその思いは濃密な感情の発露となって遠く観客席にも届く。目から、指先から、“悔しい”と……“負けたくない”という思いが、強く強く放たれる。

 

「────………すごい」

 

 この一瞬だけは……メルトの思いが、シオンの存在感を上回った。

 

「……!」

 

 ほんの数瞬、気圧されたように目を見開いた鍔姫。彼女は更にその笑みを深めると、それまで斬り結んでいたブレイドと刀鬼を無視してキザミへと斬りかかった。

 そして観客の視線が完全に鍔姫からキザミへと移ったその瞬間、戦場風景を映していたモニターに変化が訪れる。立ち込める暗雲から落雷が降り注ぎ、それに呼応するようにして大地より巨岩が迫り上がった。

 

 雷火に洗われた戦場を割断し天に聳える岩の槍。それはイメージだ。その力ある幻想が顕すのは何人にも揺るがせられぬ(いわお)であり、天を裂くが如くに峻厳たる鋭鋒である。

 

「聳えろ……“磐石(いわむら)”ァ────ッッ!!」

 

 キザミは断固たる意志の下に愛刀の()を叫び、逆手に握ったそれを地面に突き立てた。

 

 無防備を晒すその首元へと叩き落とされる断頭の刃、銘を“神喰(かみは)み”。原初にして最強の()()()()。不朽不変の盟刀の一つでありながら、唯一「盟刀を破壊できる盟刀」としてあらゆる盟刀に対する絶対的な優位性を持つ最強の刃は──しかし、まるで巨大な鉄塊同士が衝突したかのような轟音と共に跳ね返された。

 

「なにっ?」

 

 激しく飛び散る火花が視界を赤く染める中、鍔姫は驚愕に目を見開いた。さもあろう、よもや最強の名を冠する盟刀の刃が、鋼ですらない肉の身体を断てず弾かれるなど。

 

 盟刀“磐石(いわむら)”──それは本来であればもっと物語が進んだ後、未来において品川クラスタとの決戦の場で開帳されるはずのものだった。

 その能力は持ち主に岩の如き堅牢さを与えるという“守勢の剣”。しかしその強度は通常の攻撃ならば全く寄せつけず、盟刀の特殊能力による攻撃ですら容易には通さないという破格のものである。

 

 そして、この盟刀に選ばれる基準は剣士としての強さではない。如何なる難局においても折れない心……即ち強い精神力こそが能力の強度を高めるのだ。

 

「悪いが俺もこの刀にこんな力があるなんて今知った! 何だかよく分かんねぇが、このまま決めさせてもらうぜ……!」

 

 直後、キザミの手の中で盟刀が激しく光りだした。眩い白光を宿した刀身が唸りを上げ、ビリビリと大気を震わせる。

 

 弱さを知らぬ、ただ()()()()の剣士に盟刀“磐石(いわむら)”は扱えない。懦弱から脱却せんとする超克と邁進こそが岩のような強靭を生む。それは斬ることだけに特化した刃の鋭利では至らぬ境地。

 

 剣技“五百箇磐石(いおついわむら)”──受けたダメージを岩の刃と成す盟刀“磐石(いわむら)”の奥義。世にも珍しい、二十一ある盟刀の中でも唯一と言っていいカウンターの能力である。

 

 モニターの中で無数に天を衝く岩の槍の演出にタイミングを合わせる。そんな仕掛けなどないはずなのに何故か光り輝いている刀から努めて目を逸らしつつ、キザミは満身の力を込めて刀を振り抜いた。

 弾かれた衝撃で体勢を崩した鍔姫は咄嗟に刀を盾にそれを受けるが、これは彼女自身の力を受けて発動したカウンター。返ってくるのは彼女の力そのものだ。並の攻撃であれば歯牙にもかけない鍔姫であるが、さしもの彼女でもこれを完全に防ぐことはできなかった。

 

 最強を謳われた白銀の大刀が宙を舞う。けたたましい衝撃音と共に鍔姫の手から弾かれた盟刀“神喰(かみは)み”は重力に従って地面に落下し、舞台の端まで転がっていった。

 

 観客の誰もがここでキザミが覚醒することなど想像もしていなかったことだろう。しかし原作を知るファンはキザミの強さを疑ってはいなかった。何故なら彼は近い未来において、つるぎと双璧を成す新宿クラスタの軍団長として東京中にその勇名を轟かせることになるからだ。

 

 それは主とその玉座たる新宿を守護する巌の壁。決して膝をつくことなき不倒の鬼として各国から恐れられることになるその男、名を“峻厳”のキザミ。

 

 あれ程の存在感を放つシオンの演技を一瞬とはいえ凌駕する感情演技を見せたメルト。

 ギリギリにまで己を引き絞り、摩耗させ、それを代償としてこの一瞬に全てを懸けた男の渾身を、観客は熱い眼差しで見届けたのだった。

 




桐生(きりゅう)紫音(シオン)/鍔姫(つばき)
 やりたい放題暴れてたらキザミ君からお仕置きされてしまったで御座るの巻。彼女が敵として意識していたのは徹頭徹尾ブレイドと刀鬼と鞘姫だけだったので、キザミの存在は完全にダークホースだった。
 シオンとしてもメルトの感情演技は全くの想定外。アクアとの個人レッスン♡に気を取られて全く意識していなかったため、けっこう呑気してたシオンも土壇場で覚醒したメルトの凄まじい感情の発露にはビビった。

【星野アイ】
 実は結構年季の入った古参の「今日あま」原作ファン。アニメも履修済み。そのためドラマ版の失敗の一端を担った上に演出とはいえアクアを殴った主演のメルトには割と強めのヘイトを向けていたのだが、真摯に演劇と向き合い、努力を重ね、二段も三段も成長した彼の演技を見て評価を一転。頑張ったご褒美として刀を光らせてあげた。光る! 鳴る! DX盟刀!
 なおこの光はアイが目から放つ怪光線と同種なので、この一瞬メルトの刀は本物の破魔の剣と化していた模様。これで叩くと疫病神ちゃんは洒落にならないダメージを受ける。

【星野アクア】
 湿気が止まらない重曹ちゃんに、投身自殺未遂のあかねちゃん、そして実力不足に苦悩するメルトきゅんと、的確な助言と心に響く言葉で悩める若者達を次々と救っていく名アドバイザー。この世界ではあかねちゃんを直接的に救ったのはシオンだが、その手腕に一切の陰りはない。迷える子羊を笑顔にして食うメシは美味いか?
 次はお前が笑顔になる番だから覚悟の準備をしておいてください! ちかいうちに救います! アイにも会わせます! ルビーにも問答無用で前世バレしてもらいます! ヨスガられる準備もしておいてください! 貴方の末路はハッピーエンドです! 北海道にぶち込まれる楽しみにしておいてください! いいですね!

鴨志田(かもしだ)朔夜(さくや)/(もんめ)
 ドルオタになったことで女癖の悪さも解消され、完全にただの気の良い兄ちゃんになってしまったドルオタなこと以外欠点のないイケメンプリン頭。悪いけど作者はカプ厨なので勝手に朔×メルで楽しんでるよ。
 ところでアニオリの匁の必殺技“流水死命”の演出、かっこよかったですね。水の能力なのか氷の能力なのか判然としないけどかっこよかったですね。お陰でキザミの盟刀の能力について色々と妄想が捗りましたよ、ええ。

鳴嶋(なるしま)メルト/キザミ】
 はぁ〜メルトきゅんすき。推せる。原作も良かったけどアニメの演出が神でマジ良かった。まだ見てない人は是非見よう。転んでも泥に塗れても何度でも立ち上がって空に手を伸ばし星を追いかけ続けるメルトの姿は涙なしには見れなかった。
 2.5次元舞台編はメルトの素晴らしさを自分なりに表現したかったのが最大の目的でした。舞台開幕からシオンとアイの描写がガクッと減ったのは、この章に限り主人公はこの二人ではなくそれ以外の役者達のつもりで書いていたからです。
 推しの子原作では原作再現の超絶アクションと一分間の感情演技で魅せたメルトでしたが、こっちではゲッターと他ゲッター線汚染者が暴れ回っているためアクション面で攻めるのは不利。そのため一瞬の感情演技の方に一点集中する作戦に方針転換。その上でアクアがアドバイスした手法は、奇しくもアクアが子役として初めてデビューした際に使ったものでした。ちょっと無理矢理感というかこじつけ感あったかもしれませんが、でも憧れの男と同じ技で魅せるメルトきゅんエモくねの精神でゴリ押しました。反省はしているが後悔はしていない。

 突如作者の脳内に溢れ出した──
 ()()()()()記憶──

 はい、言うまでもなくキザミの「光る! 鳴る! DX盟刀!」こと“磐石(いわむら)”に関しては名前から能力に至るまで全て捏造です。何なら前話で描写したつるぎの盟刀“磐裂(いわさく)”も妄想の産物です。どっちも出典は日本神話。
 もしかしたら「そんな設定あったかな……」と原作とかアニメを見返してしまう方がいるかもしれないので、念のため。私は高校生にもなってまだ中二病を引きずっている終身名誉中二病患者のため、こういう香ばしい設定を考えてはそれを垂れ流す行為にEXTACYを感じてしまうのです。
 なのでこれを読んでる脛に傷を持つ元同士達は香ばしかったあの頃を思い出して身悶えしていってくださいね。たまには童心に返るのも良いと思うの。
 まだこれからという未来の中二病達は早くこの“高み(ステージ)”に来るといいよ。楽しいよ。


 それでは皆様、また来年もお会いしましょう。良いお年を!
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