厚生労働省の人口動態統計(2023年/令和5年)によれば、45歳以上で出産した女性は年間1,745人(45~49歳:1,645人、50歳以上:100人)。総出生数727,288人の約0.24%にすぎない。医療の進歩や「まだ産めるかもしれない」という希望が晩産化を後押しする一方で、現実には経済・家庭・健康など、複合的な課題がのしかかる。
ジャーナリストの大川さつき氏はこう指摘する。

「確かに高齢出産は令和の常識になりつつあります。メリットもデメリットもあるのは当然ですが、何より大きくのしかかるのは今後の生活。子どもは産むだけではなく、育てる必要があります。体力はアウトソーシングもできなくはありませんが、それもお金あってこそ。その辺りはシビアです。現に今、若い人たちの出産を拒んでいるのもそのお金。妊娠出産、育児、そしてお金は切っても切り離せない問題です」
内閣府の令和4年度(2022年度)『こども・若者の意識と生活に関する調査』によると、40〜64歳でひきこもり状態にある人の出現率は2.02%。全国の推計人数は公表されていないが、約50人に1人の割合とされる。40~69歳全体では女性が約4割(40.6%)を占める。なお、平成30年度(2018年度)の内閣府調査では、40~64歳のひきこもり状態にある人は推計61.3万人で、女性は約2割(23.4%)だった。仕事も人間関係も途絶え、家庭の中で孤立していく中高年女性は増えているという現実がある。
今回お話を聞いた80代の女性は、45歳のニートの娘が妊娠したという。
「娘は産むと聞きません。無理だと諭すと母さんには関係ないと。さらにはこれまでの人生は子どもがいなかったからうまくいかなかったと言います。でも現実には、子どもを育てる力すら今の彼女にはない。それなのに産むと聞かなくて困り果てているところです」
内閣府の「少子化社会対策白書(令和5年度)」によれば、0〜2歳児の保育・教育費は年間約120万円。食費や衣類費など生活関連費を含めると、年間約200万円が必要とされる。
大川氏は警鐘を鳴らす。
「子どもができれば人生が変わるという幻想を抱くケースもあります。ですが、現実には育児は最も過酷な社会的責任です。経済力や支援なしに出産を選ぶのは、本人だけでなく生まれてくる子どもをも追い詰める行為になりかねません」
「子はかすがい」というが、貧困や孤立の中で産まれる命は、かすがいにならない可能性が滲む。美知子さんはこうこぼした。
「私の子育ては失敗と言えるでしょうね。だって娘は子どもを育てる力量もないのに子を産もうとしている。私ももう80歳。どうしたらいいのでしょうか...」
娘が選んだ道は【関連記事「相手はね…」に唖然。子離れも親離れもできない40代と80代の母娘が迎える「孫」という難題】でお読みいただける。
【取材協力】大川さつき(仮名):ジャーナリスト【聞き手・文・編集】もりかえで PHOTO:Getty Images【出典】厚生労働省:人口動態統計(2023年/令和5年)、内閣府:令和4年度『こども・若者の意識と生活に関する調査』、内閣府:少子化社会対策白書(令和5年度)