「日本の不動産はバーゲンセール」中国人に次々と買われるリゾートや温泉地帯…登記簿300件を追跡して見えた、表に出ない“静かな買収劇”の実態
―孫社長はいつから日本と関わりを持つようになったのですか。 「私は1987年に来日し、茨城大学で外国人専任講師になりました。比較文化論が専門です。茨城大学に5年勤めた後、起業しました。その頃から、日本は『もったいない』と感じていました。良いものがあるのに、全然、海外には知られていないと思いました。大自然の雰囲気、温泉、癒やしは、日本独特の文化でしょう。特に田舎の温泉旅館は、中国とは雰囲気が異なります。私も日本の温泉旅館が大好きですからね」
―その中でも、石和温泉の甲斐路に目が留まったのは、なぜですか。 「甲斐路の値段、場所を見て、これは絶対に買わないといけないと思いました。中庭の日本庭園が気に入りました。日本全国の物件を20件ほど見たなかで一番でした。我々が2021年に買収する前、甲斐路から客足が遠ざかっていました。そのホテルを1年かけてリフォームし、中国で開催された『観光見本市』で紹介したり、SNSを使ったりして宣伝しました。だから、今ではお客様の8割は中国人です。今、石和温泉で最も外国人が来るホテルにもなっています。日本庭園が、他の旅館にはない特徴です。中国人客の中には足湯につかりながら、日本庭園を眺めるだけで満足する人もいます」
―ホテル甲斐路のほか、栃木県那須町のホテルも買収していますが。 「甲斐路より、少し前に買いました。買収額は安かったのですが、リフォームに数億円をかけました。甲斐路はビジネスホテルのようなイメージですが、那須は1泊4万〜5万円のリゾートホテルです。2023年9月にリニューアルオープンし、食事がおいしいと評判です。こちらの客は今のところ、ほぼ日本人。那須は東京から遠く、冬は寒いせいか、中国人客はまだ1割未満といったところです」
―日本の不動産は中国人の方からみると、いかがですか。 「中国に比べて1〜2割ほど安いです。中国では土地は国の所有なので、中国人も買うことはできません。それが日本でなら中国人でも土地が買えます。長期で投資するなら、絶対に日本でしょう」 ―甲斐路の経営は順調ですか。 「新型コロナの影響で、石和温泉にもほぼ人が来なくなり、中小零細のホテルはみな潰れかけました。ですが、それでも私は買収した甲斐路の経営を立て直す自信がありました。海外では今、日本に対する評価が上がっています。日本の文化が好きな外国人も多いですし、私は中国人ですが、狙っているのはインバウンド(訪日外国人)なのです」
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