「日本の不動産はバーゲンセール」中国人に次々と買われるリゾートや温泉地帯…登記簿300件を追跡して見えた、表に出ない“静かな買収劇”の実態
だがバブル崩壊後、一気に勢いは陰る。約60軒あった組合加盟の旅館数は、今では半分にまで減った。温泉街の目抜き通りを歩いても、シャッターを閉めた店が目立つ。営業を休止したパチンコ店は、まるで廃墟のようになっていた。 弱る温泉街。買いに出たのが中国資本だった。取材班が、石和温泉にある旅館やホテルなど40の主要施設を対象に調査を試みると、中国資本に買収された施設は、温泉街全体の25%を占め、既に10軒にも達していることが分かった。
買収が始まったのは2010年代前半。後継者不足で廃業した旅館・ホテルが主な対象となり、勢いは新型コロナウイルスの感染拡大後に加速した。古屋さんは「新型コロナの影響は本当に大きく、旅館が倒産して、経営者が夜逃げしたホテルまでありました。そこに手を伸ばしてきたのが中国勢。だから温泉街が真っ暗になるよりは、もうこの際、中国人にオーナーになってもらった方が、マシかなと思うようになりました」と、振り返る。
ホテル「甲斐路(かいじ)」はその一つだ。 2021年、東京で通販業などを営む孫志民(サンジミン)社長が買収した。経営不振に陥っていたホテルに大がかりなリフォームを施し、中国でも大々的に宣伝するなどして見事に経営を立て直す。今では宿泊客の8割が中国人だ。 この石和温泉では、ホテルを経営する「売り手」も、観光客の「買い手」も中国人という構図。日本を舞台に、日本人は抜きにして、中国人の間だけで完結するビジネスが今こうして、リゾートでも広がりをみせる。
■中国では買えない土地も、日本でなら1〜2割安く買える ホテル「甲斐路」と同じく2021年、高原リゾートとして知られる栃木県那須町のホテルも買収した孫氏。なぜ今、日本のリゾートへの投資を積極的に行うのか。その真意を聞こうと、東京・上野にある会社事務所を訪ねた。 ―石和温泉のホテル「甲斐路」は、どんな思いから買収したのですか。 「日本は中国に比べると、物件の価格が安いのです。私がたまたま中国人だったというだけで、私の会社は日本の法人です。経営している会社はネット通販が本業なので、将来を考えて、別の事業があった方が良いと考え、買いました」
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