夢の旅人は仮想に生きる


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作:窓風
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EPISODE31 目覚め


そういえば、リメイクしようと投稿してからどうやら3年が経つようです。


 

 

 

 

2025年 1月23日 10:00

横浜港北区 総合病院

 

SAO未帰還者が解放された翌朝、寝起き早々に医師から色々質問をされていた。自分の名前や誕生日、両親の名前や家族構成など俺の記憶の具合を一通り確かめられると、何年も使っていなかった声帯を使ったためか、すでに俺の息は上がっていた。医師に水を飲むように言われ、ペットボトルを白く細い両腕でゆっくり口内に流し込む。カラカラに渇いた喉が潤うのを感じる。

 

一旦休憩にしようか、と医師:倉橋先生が告げたとほぼ同時に、病室のドアがノックされた。

 

「誠…!」

「……光晃(みつあき)おじさん?」

 

入ってきた男性は老人というには若々しく見えた。髪だけでなく鼻の下に生やした髭まで鈍い色の金髪に染めて黒いサングラスを首から下げた男性は碧ヶ丘(みどりがおか)光晃。父方の祖父の兄弟、つまり大叔父にあたるこの人のことは、先ほどの先生との問答によって思い出すことができていた。話を聞くにどうやら意識不明になる事故から今日に至るまで費用の諸々を負担してくれているらしく、今朝病院から連絡を受けてすぐに千葉からタクシーで飛んで来たそうだ。そういえば理髪店の社長だったな...と思い出した。

 

「メディ…なんとかだったか。最近の先端医療ってのはすごいな。」

「コレもまだ試作段階らしいから、まだまだデータを集めなきゃいけないらしいけどね。」

 

SAOに巻き込まれたきっかけともいえるのが、今俺が横になっているベッドと一体型の最先端医療機器『メディキュボイド』だった。医療(それも終末医療が主)に特化した高出力のナーヴギアといったほうがわかりやすいだろうか。提供者の勧めもあり、それを当時意識不明だった俺に使うことで意識の覚醒を試みたそうだ。カウンセリングを兼ねてSAOに半強制的にログインさせ、提供者も想定していなかったデスゲームに巻き込まれる結果になってしまったが、御覧の通り無事覚醒した。

 

元々、意識不明になるほどの事故で頭部に少なからずダメージを受けたため記憶障害が心配されていたらしい。実際はより深刻だったが、たまたまSAO内で遭遇した既知の-当時の俺は初対面同然だったが-友人たちのおかげもあって大部分の記憶の修復ができた。だがSAOから出られない以上、その記憶にどこか現実味を感じなかった俺は自己犠牲のもとヒースクリフと戦ったわけだ。

 

「意識もしっかりしてるし、ひとまず良かったな。9年前の誠のままだよ。」

「むしろSAOにいた分少しは成長したと思うよ。」

「手足も問題なく動かせるようだしな。最悪、半身麻痺とかを覚悟してたんだぞ?」

「それはホントに良かったと思ってるよ…」

 

目覚めたばかりの今は仕方ないとして、退院後も車椅子生活が続くのは7年も眠っていた身としてはあんまりである。しかし倉橋先生によると検査する必要はあるがその心配はなさそうとのことだった。

 

そして俺がこの数奇な人生を歩むことになった問題の事故というのが、2015年11月6日の夕方に起こったとある交通事故である。場所は俺がかつて通っていた高校の近くで、原因は飲酒運転による乗用車(プ○ウス)の暴走とされている。被害は飲酒運転をしていた中年ドライバーが死亡、歩道にいた歩行者4名が軽傷、1名が意識不明の重体となった。その意識不明となったのが俺だ。事故直前の記憶のせいか当時のことをまだよく思い出せないが、目撃情報によると俺は6歳の女の子を庇うようにして倒れていたらしい。すぐに救急車が駆け付け病院に搬送、頭部からの出血以外に目立った外傷はなかったが意識は戻らずにそのまま6年の月日が経過。そしてメディキュボイドの話を受けて光晃おじさんが他の親戚と相談した結果、この横浜の総合病院に移ることになったそうだ。提供者伝てでSAOにログインしたことを確認でき、意識が覚醒したことに喜んだのも束の間、デスゲームが始まってしまった。あとは他のSAOプレイヤー同様、あの城に2年もの間囚われることになった、というのが俺が知らない約9年の話だ。

 

(なんともまあ、漫画みたいな人生だな。)

 

と記憶喪失による実感が薄いためか他人事のような感想を持ったが、事実は小説よりも奇なりとも言うし、無事にリアルに帰ってこれたことを素直に喜ぼう。

 

その日の内にメディキュボイドが置いてある無菌室のような部屋から個室の病室に移動し、明日からリハビリの日々が始まるのだった。そんな中で、かつての知り合いが何人か見舞いに来てくれた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

2025年1月25日

 

「よっす。」

「ははっ、ホントに向こうSAOと同じ顔なんだな。」

 

まず最初に来たのはやはりキリト/桐ヶ谷和人だった。

どうやってここを突き止めたのかと聞くと、すごい渋い顔で「ちょっとな…」と言われた。何があった。

 

まずキリ…和人から告げられたのはSAOの未帰還者300人が囚われていた、後の『ALO事件』の中身だった。主犯の須郷伸之はSAOのサーバーを丸コピしたALO内で300人を拉致り、アスナ以外にはアバターを与えずに睡眠状態にしつつ疑似的な信号で洗脳紛いの人体実験をしていたというのだ。しかも世界樹のグランドクエストはやはりクリア不可の無理ゲーだったらしく、例えあのガーディアンの壁を抜けても通常プレイならそれ以上何をしても進めないというカス運営っぷりでクソGMだったということも判明。ゲーマーを舐め腐っている。だったら茅場の方が断然マシに思えるくらいだ。

 

さらにその裏側ではALOを運営していたレクトプログレスでの立場を利用して、アスナ/結城明日奈と結婚しようとしていたという。和人からしたらそれは確かに耐えがたいものだったろう。その後にエギルから情報を得て、もう一度ナーヴギアを被る決意をしたのだという。

 

「情報量がすごいがよくやった。ありがとな。」

「いや……そういえば、結局お前はなんでALOにいたんだ?普通のプレイヤーにしか見えなかったけど。」

「それがさっぱりでさ。SAOがクリアされてホントに目覚めるのかなんて思ってたら突然の浮遊感。次の瞬間にはALOの空にほっぽり出されて海にドボーン。種族もケットシーで固定されてまたファンタジーっぽい世界だったもんだから、今度は本当に異世界転生でもしたんかって思ったね。」

「えぇ…」

「でも既視感があって試してみたらSAOと似たUIのメニューが登場。しかもデータはまんまSAOなもんだから何が起こってるかさっぱりだったね。すぐに現地人もといALOプレイヤーに会えたから、ALOについて色々教えてもらって、領主のルーさんと知り合って、後はソロの経験を活かして旅をしていたよ。この前蝶の谷で会えたのはマジでたまたまだったな。」

「待て、じゃあメンテのときはどうしてたんだ?ログアウトできたのか?」

「待機ルームみたいなとこに飛ばされて完全なログアウトはできなかった。その辺の諸々全部は、その須郷のせいだろうな。」

「ホントに余計なことしかしないな…」

 

それはホントにそう。

 

「あ、ちょうどいいや。ついでにちょっと頼まれてくれないか?」

「いいけど、何だ?」

「そこの引き出しに入ってるから出してくれ。」

「……これか?」

 

和人が引き出しから出したのは大容量のUSBだった。疑問符を浮かべる和人に1つお願いをする。

 

「それ、俺のSAOのデータ…をもとにできたALOのデータが入ってるんだけど、俺が退院するまで預かっててもらえないか?可能ならストレアも出してあげてほしい。」

「なるほどな。わかった。」

「助かるよ。ログアウトする前、すごく寂しそうだったからさ。ユイちゃんやお前がいればしばらくは大丈夫だろ?」

「任せてくれ。」

「あ、あとそれから、退院明けでいいからPC買うの手伝ってくれ。」

「あぁいいぞ…………は?」

「実は覚えてる限りノートPCすら持ってなかったからさ。その手に強いお前がいてくれて良かったよ、ホント。」

「え?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

2025年2月1日

 

「誠!」

「よぉ、元気そうだな。」

「珍しい客だな。」

 

翌週にはクライン/壷井遼太郎とエギル/アンドリュー・ギルバート・ミルズが来てくれた。2人は当然社会人で、遼は輸入商社のサラリーマン、エギルー本人の希望により呼び方は変えずーは自営業で、御徒町で『ダイシー・カフェ』というカフェ&バーの店を夫婦で開いているとのことだった。和人から連絡を受けて来たらしい。

 

「誠、俺ぁまだ怒ってるかんな。」

「わ、悪かったってあの時は……当時の俺はまだ色々信じ切れてなかったんだよ。ちゃんと反省してるから。」

「……ならよし!生きててくれりゃ俺は充分だ!」

 

遼が怒っていたのは、ヒースクリフとの決闘のことだと察した俺は両手を上げて降参の意を示す。今思い返せば、あの行動はリアルの俺を知る人に対する裏切りだ。結果としてこうしてリアルで改めて再会できたということでチャラにしてくれたが、この件は深く反省するとしよう。

 

「にしても、本当によく生きてたな。」

「生かされた、って言ったほうがいいかもな。あいつは最後までよくわかんなかったよ。」

 

結局、なぜ茅場が俺やキリト、アスナの脳をナーヴギアで焼かずに生かしたのかは俺にはわからなかった。キリトは須郷を倒し未帰還者をログアウトさせた後にデジタルゴーストとなった茅場と話したと言っていたが、茅場も茅場で何をしているのやら……

 

「ほんじゃよ、退院して落ち着いたらまた3人で飲みに行こうぜ!」

「いいな。ウチの店もいいが、どっかの居酒屋にでも行くか。」

「じゃあ幹事は任せたぞ遼。」

「おう!任せとけ!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

2025年2月3日

 

「ソーマ…」

「おぉ、フィリアか。」

 

あの時と変わらないオレンジ色のショートヘアの女の子がドアの隙間からぴょこんと顔を出した。フィリア/竹宮琴音は、遼やエギル同様に和人から連絡を受けてわざわざ来てくれたらしい。

 

「そうそう、SAOに囚われた学生のための学校が春からできるんだって。」

「あぁそれな。青春を謳歌できなかった当時中学生以下だった青少年たちのための学校だろ?」

「言葉が鋭いよ?!」

 

和人が面会に来た次の日、総務省の役人を名乗る人物-もらった名刺は確かに総務省のものだったが-からその話は聞いていた。単位制の学校で、大学進学や就職までのフォロー、定期的なカウンセリングなどのメンタルケアも完備している政府直々によるものだ。その話が俺と何の関係があるのかと思ったが、その役人は俺の素性を調べており、俺の学歴が高校中退、即ち中卒扱いになっていることを突き止めていた。そんな俺のために諸々の手続きを任せてもらえれば、特例として俺もその学校に通うことができるというのだ。茅場とは違った胡散臭さを感じるも、こういに甘えることにしたのだ。

 

「ワケあって俺もそこに行くことになったしな。」

「そ、そうなの?!」

「お、おう。ほら、俺って高1の秋からずっと寝てたからさ。世間だと中卒扱いらしいから、特別にってことで言われたんだよ。」

「そ、そうなんだ。ふーん……」

「フィ…琴音はどうすんだ?」

「わたしは……」

「まぁ全員強制じゃないみたいだし、じっくり考えればいいさ。」

「う、うん…」

 

家庭の事情なのか、琴音はどうしようか迷っているようだったが、その次の日に交換していた連絡先から「わたしも行く!」と一報が入った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

2025年2月6日

 

「こんにちはー。」

「誠、スグを連れてきたぞ。」

「おーいらっしゃい。」

 

リハビリが順調に続く中、和人がリーファ/桐ヶ谷直葉と共に面会に来た。直葉は和人の妹-血縁上は従兄妹らしい-で、以前和人が話してくれた子のことだとすぐに理解した。とはいえ、リーファが和人の妹だと知ったときは「世界狭いなぁ!」と驚いたが。

 

「俺も中学まで剣道やってたけど、全国ベスト8はマジで凄いわ。ALOでの実力も納得だな。」

「ありがとうございます。でも誠さんもALOでは上位の部類に入ると思いますけど?」

「俺の場合はSAOでの経験が8割の我流だからなぁ。剣道の現役でも全道大会…こっちだと県大会に進むのがやっとだったよ。」

「高校も推薦だしな。自慢の妹だよ。」

「もう、やめてよお兄ちゃん!」

 

兄妹のじゃれあいを微笑ましく眺めていると、気になっていたことを和人に訊ねた。

 

「なぁ和人。あれからALOはどうなった?運営していたレクトのことはテレビのニュースで知ったが。」

「それなんだが…」

 

須郷による人体実験が白日の下にさらされ、ALOを運営していたレクトプログレスは解散、親会社のレクトも大打撃を受けた。会社はCEO-何の因果か明日奈の父である-を含めて刷新され、新体制となった。しかしALOを手放す以外に選択肢はなくどうするかといったところで、ALOの一プレイヤーであった有志の人々が新興会社『ユーミル』として無料同然の価格でALOを買い取ったそうだ。それによりALOは一命を取り留め、予定では今月末からサービスを再開するそうだ。世間のVRMMOに対する認識が厳しい中で継続することは中々挑戦的であったが、あの空に魅入られた者なら仕方ないのだろう。

 

そのことを話し終えた和人は何かを思い出したようだ。

 

「そういえば2人は俺がALOに入る前から知り合ってたんだよな?いつ知り合ったんだ?」

「たしかSAOがクリアされて1週間くらいだったかな。あの時のリアルは帰還者の対応でドタバタだったらしいな。」

「そうでしたね。あたしもその時はインしない日も多かったので、あの時会ったのは本当に偶然でしたね。変な人だなとは思いましたけど。」

「失礼な…って言いたいけど変な自覚はあったから何も言えん。」

 

そこからはソーマとリーファの出会いの話へと発展していった。

 

 




そんなわけで次回、回想を挟みまぁす
フェアリィ・ダンス編も終わりが近づいてきましたねぇ
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