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作:窓風
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EPISODE12 圏内事件


 

 

 

 

2024年 4月23日 16:00

第57層 マーテン 

 

宿屋の開け放たれた窓から差すオレンジ色の日の光は、ゲームの中とはいえ春の気持ちよさを感じさせてくれる。これから起きるであろうことを思いながら、対面に座る女性:ヨルコさんに話しかける。

 

「今日このあと、なんですね。」

「ええ。もうじきシュミットを連れてくるそうよ。」

「そうですか...。では、また後で。」

 

窓の外からフルプレートアーマーの鳴らす足音が聞こえてきた。窓からチラッと覗くとキリト、アスナ、シュミットの3人がこの宿屋に入るところだった。生憎バレるわけにはいかないので、ヨルコさんと別れて窓から飛び降りる。なるべく静かに着地すると、転移結晶を使って別の階層へ飛ぶ。

 

真実を知るために。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

同日 19:00

第19層 ラーベルグ

 

夕方にヨルコさんと別れた後この19層に飛んで圏外に出ると、全身を覆うロングコートを装備し、フードを深く被る。柄ではないが、今回は致し方あるまい。

 

数十分歩いてたどり着いたのはグリセルダさんの墓。といっても枯れた1本の木の根元に元々あったオブジェクトをそう見立てているだけなのだが、グリセルダさんが死んだあの後、彼女の遺品を耐久値の自然減少に任せてここに供えたのだ。あれから半年も経った。

 

「グリセルダさん…」

 

お参りを済ませると、近くの茂みに身を隠す。ロングコートのおかげもあってかなり高い隠蔽ができるだろう。あとは奴らが現れるのを待つだけだ。俺の推測だと高確率で現れる。

ただ座って待ってるのもさすがに暇なので、今起こっている「圏内事件」についておさらいする。

 

「圏内事件」とは、つい昨日59層マーテンの街で起きた殺人事件だ。

目撃情報によれば、被害者はカインズ。死因は着込んだフルプレートアーマーを貫通する短槍による貫通継続ダメージ。デュエルによるものかと思われるが勝利者表示がどこにも表れなかったらしい。『圏内PK』という危険極まりない行為の広まりを未然に防ぐために、現在は『閃光』と『黒の剣士』により捜査が進められているとのこと。というのが、昨日攻略組全体の連絡で入った。まさかキリトとアスナが現場に遭遇するとは思っていなかったが、今後のことを考えると心強かった。

 

実はこれは巧妙なトリックで、実際には死者は出ていない。どんなダメージを受けているにしろ『圏内』に一歩足を踏み入れればHPの減少はストップする。前に一度、ハリネズミ型モンスターの針による貫通攻撃を受けたまま『圏内』に入った瞬間貫通持続ダメージが止まったのを確認している。よってカインズは「装備の耐久値がなくなった際の消滅エフェクトを死亡エフェクトに見せかけ、同時に転移結晶で飛んだ」ことになる。ヨルコさんも同様に死を偽装して飛び、カインズと合流する手筈となっている。

カインズが死んだ後に黒鉄宮の『生命の碑』で名前を確認すればすぐトリックがバレてしまいそうだが、そこは聴取を受けたヨルコさんが誤ったスペルを教えればいい。実際、去年の同じ日、同じ時間にKainsは貫通継続ダメージで亡くなっている。それを彼、Caynzは利用したのだ。

 

なぜこんなに詳しいのかというと、先月末に実際にカインズとヨルコさんに聞いたからだ。なんでもグリセルダさんの死の真相を知りたいとのことだった。そして彼女の夫グリムロックにも協力を仰いだそうだ。最初は渋っていたが、了承して今は武器を作っているとのことだった。そこで俺の推理はほぼ確信に変わった。2人が偽装死した後に起こす行動を聞くと、「グリムロックには部外者の俺に話したことを内緒にすること」を条件に「協力はできないが事の顛末を見届ける」という約束をした。一連の事件に関与している人の共通項は元『黄金林檎』のギルドメンバーだったということだ。そしてグリセルダさんの死……指輪事件が関係している。

 

(黄金林檎か……いいギルドだったと思うんだけどなぁ)

 

半年前、グリセルダさんの殺害現場にたまたま遭遇した俺は、失意のもと遺品をギルドハウスに届け、この木の下に遺品を供えた。俺があの指輪を素直に受け取っていれば何か変わったのだろうか。あの日を思い出すたびにやるせない気持ちになる。

 

さて、隠蔽が解けない程度に体勢を変えながら待つこと3時間弱。1人の男が現れた。

 

「グリセルダ…許してくれ…俺は、まさかあんなことになるなんて思ってなかったんだ…!」

 

墓の前で懺悔するのは今や聖竜連合のランス隊リーダーにまで出世したシュミットだ。グリセルダさんの死後1週間を過ぎたころ、憧れであった聖竜連合に入団したのだ。どうやら装備の入団基準だけが悩みだったらしく、あるクエストで思わぬ大金によって装備を一新、晴れて入団したとのことだ。想像よりだいぶ早く最前線で会うとは思っておらず、俺自身びっくりしたのはよく覚えてる。

 

懺悔の内容は、指輪事件当時の行動についてだった。指輪の売却に反対したが多数決で売ることとなり、いつのまにかポケットに入っていたメモに従い、ギルドハウスを出たグリセルダさんを尾行。ご飯で宿屋を離れた隙に回廊結晶を宿泊部屋の前に設定してギルド共有ストレージに入れた。これ以降は何も知らず、グリセルダさんの死後指輪売却額の半分を受け取った。

 

(そういうことだったのか...)

 

同じ売却反対派のカインズ、ヨルコさんはシュミットを疑い、今回の事件を起こしたのだ。シュミットが攻略組に加わるのが早すぎたため俺も疑っていたが、今の懺悔で納得した。

 

ここで、横槍が入る。麻痺毒付きのナイフに鎧通しアーマーピアスを受けたシュミットは力なく倒れ、現れた3人のプレイヤーに驚愕する。3人とも黒いポンチョを羽織り、犯罪者を示すオレンジ色のカーソルをもつ奴ら。目の部分をくり抜いたズタ袋を被っている毒ナイフ使いが『ジョニー・ブラック』、骸骨マスクをつけカインズとヨルコさんにレア武器エストックを突き付けているのは『赤眼のザザ』、そしてフードを深く被り中華包丁のような武器を持っているのが『PoH』。今年の元日に結成をアインクラッド中に知らしめた殺人者ギルド『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』のトップ3だ。攻略組でも要注意人物として背格好のデッサンが出回っているレベルだ。

 

(よりによってお前らか...!!!)

 

もう隠れる必要はないと判断し速攻でアスナにメッセージを送信。シュミットら3人の安全を確保するためロングコートを脱ぎ捨て前に出ると、予想外の客にシュミットは驚いた。

 

「そこまでにしてもらおうか、ラフコフ。」

「お前、か。『犯罪者(オレンジ)殺し(キラー)』。」

「久しぶりだな、『赤眼』。」

「なにザザ、あいつと知り合いなの?」

「前に、殺しそこねた、あいつだ。」

「へぇー、お前だったんだ。」

 

確かに『赤眼』とは過去に一度だけ戦ったことがある。自分の中の黒い何かが蠢くが、別にあの日の続きをしに来たわけじゃないと心を落ち着ける。

 

「トップ3がこんな辺境に何の用だ?」

「ずいぶんなご挨拶だなソーマよ。俺はここにいる3人を殺してくれって依頼があったもんだから来ただけだぜ?それもターゲットが攻略組となれば俺が直々に殺してやるのが礼儀だろ?」

「知るか。」

「つれないねぇ。」

 

何かを思いついたPoHはパチンと指を鳴らし、流暢な日本語で話しかけてくる。

 

「ちょうどいい。ソーマ、攻略組なんか辞めちまって俺らの仲間にならねぇか?聞いたぜ、今までにオレンジを6人はヤってるようだな。」

 

その言葉に元黄金林檎のメンバーは驚愕する。余計なことを…

 

「お前は俺たちと同じだ。人を斬ったときの感触はどうだった?快感だったんじゃねぇのか?」

「下らねえ話をしに来たんじゃねえ。それとも今ここで斬られたいか?」

「上等だ…!」

「まぁ待て。『疾風』様よ、まさか俺たち3人を1人で相手しようってのか?」

「そこまで自惚れるつもりはねえ。だが時間稼ぎはできたようだな。」

「何…?」

 

前に出そうになるザザを手で制し、得物でトントンと肩を叩くPoHと毒ナイフを構えるジョニー・ブラック。1VS3の戦いになると思われたが、そこに援軍が現れた。ドドドッ、ドドドッ、と徐々に近づいてくる規則的な足音の正体は馬。その背に乗る少年は落馬ともいえる様で降りると尻をさすった。

 

「間に合ったようだな。」

「ドンピシャ。」

「キリト、どうして…」

 

キリトはシュミットを一瞥すると、PoHに向き直る。

 

「ようPoH。まだその趣味の悪い格好してるのか。」

「お前に言われたくねえな、キリト。」

「あともう少しで援軍がここに来る。いくらお前たちだろうと攻略組30人を相手するのは骨が折れるだろ?」

「……Suck.」

 

流石に厳しいとみたか、3人は武器を納めキリトが来た方とは逆方向に丘を降りて行った。ザザは最後に「次は俺が馬でお前を追い回す」とだけ言い残すと2人のあとをついていき、丘には再び静寂が訪れた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「キリト、ソーマ。お前たちはなんでラフコフあいつらがここに来るとわかったんだ?」

「わかったわけじゃない。可能性が高いと思ったんだ。」

「同じく。」

 

そこからはキリトによる『圏内事件』の種明かしタイム。回答は100点。素晴らしい。

 

「……それで、あの2つの武器はどうやって用意したんだ?」

「グリムロックさんは、最初は気が乗らないようでした。もうグリゼルダさんを安らかに眠らせてあげたいって。でも僕らが一生懸命頼んだら、武器を作ってくれたんです。」

「悪いけど、グリムロックが計画に反対したのは、グリゼルダさんのためじゃないよ。『圏内PK』なんて派手な演出をすれば、いずれ結婚によるアイテムストレージの共通化が離婚ではなく死別によって解消されたときに、中のアイテムがどうなるのか誰かが気づいてしまうと思ったんだ。」

 

そう、問題はそこだった。これが2人に『グリムロックに内緒にする』という約束をする理由だった。

 

「死別でストレージが戻ったとき、持ち切れないアイテムは足元にドロップするんだ。つまりグリゼルダさんが殺されたあと、指輪はグリムロックが持っていた。そして改めて売りに行ったということになる。シュミットが受け取ったコルはその時のだろう。」

「じゃああいつがメモの差出人……?」

 

指輪事件の真犯人が浮き彫りになる。しかし3人の信じられないといった表情は変わらない。

 

「でも、あり得ません!2人はずっと仲が良かったのに!グリムロックが真犯人なら、なんで私たちの計画に協力したんですか!」

「この計画を聞いたグリムロックは、最後にどうなるのかも知っていた。そこを片付けてしまえば、指輪事件を今度こそ闇に葬れる。」

ラフコフ(あいつら)がいた理由はそれだな。多分グリゼルダさんのときから繋がってたんだろう。」

「そ、そんな……」

「詳しいことは本人に聞いてみよう。」

 

そのタイミングで背後から現れたのはアスナと、彼女にレイピアを突き付けられている男、グリムロックだった。前は白っぽい服を着ていたが、今は対照的に黒い服を身に纏いメガネのガラスも黒く染まっていた。

 

「久しぶりだねみんな。ソーマ君も。」

「グリムロック…なんで……」

「おおかた、依頼が確実に達成されるところを確認しにきたのだろう。」

「心外だな。わたしはたまたまここを通りがかったしがない鍛冶屋だよ。」

「嘘を言わないで。私が看破しなかったらずっとそこの茂みに隠れていたでしょ。」

「そもそも鍛冶屋が1人でこんな時間にこんな場所でフラフラすんなって話だけどな。」

 

隠れていた理由を取り繕うもアスナと俺にバッサリ切られてグリムロックは口を閉じる。

 

「グリムロックさん。あんたはグリセルダさんが殺されたとき、件の指輪が足元にドロップした。そしてそれを売却し、売値の半分をシュミットに渡した...違うか?」

「面白い推理だね探偵君。たしかにグリセルダが死んで共通ストレージが元に戻ったとき、アイテムは足元にドロップした。しかしね、その指輪を彼女が装備していたとしたら?指輪の性能を確かめたくなり、自分の指にはめていた可能性は考えなかったのかい?」

「あっ…!」

 

アスナの小さな悲鳴にも似た声が、盲点だったと気づかされたのだろう。それはキリトも同じだったようで言葉につまる。だからここは選手交代だ。

 

「それはないぞグリム。」

「ソーマ君…グリセルダの遺品を持ってきたのは君だろ?そのとき指輪はあったのかい?」

「残念ながら無かったよ。この指輪は(・・・・・)。」

 

そういって右手中指にある銀色の指輪を見せた。それは指輪事件の元凶ともいえるもの。アイテム名は『祈願の指輪(ホープリング)』。

 

「えっ?!」

「それは!」

「な、なぜ君がそれを!」

「ま、当然の反応だよな。嘘もついてたし。」

 

 

たまたま現場に通りがかった俺は、グリセルダさんを襲うオレンジを追い払う(・・・・)も、グリセルダさんの消滅に間に合わなかった。その時拾った遺品は剣と盾、そしてギルドの印章と結婚指輪の4つ。指輪は片手に1つずつしか装備できない。よってグリセルダさんはこの指輪を装備してなかった。装備していたらドロップするからな。でも肝心の指輪はストレージに入ったまんまだ。グリセルダさんと一緒になくなったと、この時は俺もそう思ってた。

 

 

「でも、結婚によるストレージの共通化があった。」

「そ。ギルドハウスに着く直前にそれに気づいた俺は、拾えた遺品は剣と盾だけだったと咄嗟に伝えたわけだ。俺はもうこの時点であんたを疑ってたよ。」

「くっ…!」

「指輪は結婚により共有していたグリムのストレージに残るか、足元にドロップするはずだ。あとは折を見て売りに行けばいい。」

「でも、2つの指輪はどうしたんだ?」

「ヨルコさん、思い出しました?」

「ええ、わたしもすっかり忘れていたわ。」

 

ヨルコさんは木の根元から掘り出した『永久保存トリンケット』から、2つの指輪を取り出す。耐久値無限を謳うこの箱は、小さいが中に入れた物の耐久値の自然減少を止めてくれる優れ物だ。

 

「あんたに剣と盾を渡したあと、こっそりヨルコさんに渡しておいた。あの後どうしたのかは知らなかったけど、一緒に埋めてたんですね。」

「ええ。……グリムロック。あの指輪をどうするか話し合ったとき、わたしはリーダーが付ければいいじゃないって言ったのよ。でもリーダーが何て言ったかあなたは覚えてる?『右手のギルドの印章と左手の結婚指輪は大切なものだから外せない』って言ったのよ!この2つの指輪が何よりの証拠だわ!」

 

グリムロックは何も言い返せないのか黙っているだけだった。しばしの沈黙が流れるが、カインズの疑問がそれを破る。

 

「でも、なんで指輪それを君が持っているんだ?」

「グリムが怪しいと睨んだ俺はここにGAのみんなで遺品を埋めた後、グリムを尾行した。当時の最前線のプレイヤーの店で売ったのを確認したら、すぐに買い戻したよ。それに、グリセルダさんの遺言でもあるんだ。」

「遺言…?」

 

グリセルダさんの最期に立ち会った俺は、彼女が残した言葉をありがたく頂戴することにした。余談だが、俺が『疾風』と呼ばれるようになったのはこの指輪をつけた数日後からだ。

 

「『君が使って』だってさ。GAで話し合う前に俺に譲る案があったっていうから、すぐに指輪のことだと思ったよ。」

「……そうか。」

「ねえグリムロック……なんでこんなことしたの?あんなにいい夫婦だったじゃない。」

 

ヨルコさんが問うも、グリムロックは寂しげに笑い答えた。

 

「彼女は、現実でも私の妻だった。彼女は、ユウコは、可愛らしくて従順で、何一つ不満のない妻だった。でもそんなユウコをこの世界が変えてしまった。怯えて引き籠る私とは対照的にユウコはどんどん逞しくなっていった。ギルドだって私の反対を押し切って創ったものだ。……私の知るユウコはもういない。ならば、ユウコがまだ私の妻である内に殺してしまえば、彼女は永遠に私のものになる!」

「そんな理由で、あんたは奥さんを……」

「いいや十分すぎる理由だよ探偵君。君もいずれ知るだろう。手に入れた愛情が失われようとしたときにね。」

「いいえ、間違ってるのはあなたよグリムロックさん。」

 

アスナはレイピアを納めながら、強い眼差しでグリムロックを見据える。

 

「あなたがグリセルダさんに抱いていた感情は愛情じゃない。ただの所有欲だわ!本当におくさを愛してるというのなら、その左手を見せてみなさい!」

 

アスナの鋭い一撃がトドメとなり、ついにグリムロック膝から崩れ落ちる。グリムの処遇は俺たちに任せてもらえるかというシュミットの言葉に頷き、元GAメンバーの4人は街へと戻っていった。その後ろ姿をポツンと残された俺たち3人はしばらく見ていた。

 

「そういえば、なんでソーマ君がいるの?」

「俺が攻略を休む日は中層プレイヤーのヘルプをしてるのは知ってるだろ?GAはその中の1つで昔会ったことがあるんだ。指輪の件があって以来音信不通だったんだけど、先月カインズとヨルコさんから『圏内事件』のことを聞かされてさ。」

「まさかお前も一枚噛んでたとはな。」

「話を聞いただけで協力は一切してない。でもグリムが関わってるって聞いたからな。あとはキリトの推理通りオレンジが来るだろうから守るために3時間待ってたってわけ。まさかラフコフの、しかもトップ3が来るとは思わなかったけど。」

「3時間も!?」

 

そうだ、と思い出しヨルコさんにメッセージを送ると、返信はすぐに来た。

 

『ラフコフ……あのオレンジたちが言ってたことはヨルコさんたちを混乱させるための嘘です。他の3人にも伝えておいてください。』

『わかりました。本当に色々ありがとうございました。』

 

ふう、と一息。

 

「それじゃあ、わたしたちも帰りましょうか。2日も攻略休んじゃったし。」

「そうだな。行くぞソーマ。」

「あ、ちょっと待ってくれ。」

 

そう言うと墓に近寄り、片膝をつき右手を左胸に当ててしゃがむ。

 

(グリセルダさん。あなたがくれた力で、必ずこの悪夢を終わらせます。だからどうか、安らかに…)

 

「おし、じゃあ行くぞ……ってどうした?」

 

祈り終わって立ち上がると、2人はまるで幻でも見ているかのような顔をしていた。振り返っても枯れた木が1本生えているだけ。

 

「おーい、置いてくぞ。」

「あ、あぁ。」

「う、うん。」

 

なんやねんと思いながら2人に声をかけて街へと戻る。後に聞いた話、グリセルダさんと思われる女性の幻影が、しゃがむ俺の肩に手を置いていて微笑んでいたらしい。

 

 

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