2024年 1月3日 13:00
第27層 迷宮区
今日は特に中層プレイヤーへのヘルプの予定はないため、久しぶりに特訓をしようとしていた。今回は「トラップの類をスキルなしで見分ける技術の応用」。要は直感を鍛えるのだ。この層からトラップの難易度が上がるためちょうどいい。もちろん、道中で罠にかかりピンチの人がいれば最優先で救助する。
「さて、まあまあ潜ったから…これからやるか。」
まず発見したのは宝箱。通路の行き止まりにポツンと1つ置かれている。宝箱トラップのパターンは主に
「行き止まりに1個ってことはミミックではなさそうだな。俺だったら当たりにするがはてさて。……やっぱスキルがないと判別難しすぎるだろ。」
じっくり眺めるもやはりこの特訓は無理があるのか。誰だこんなことやろうって言ったやつ。俺だわ。
「ん-じゃあ当たりとみた。答えはどうだ…」
「その宝箱ちょっと待ったー!」
答え合わせをするべく剣を構えながら宝箱を開けようとすると、背後から待ったが入った。振り返るとオレンジ色のショートヘアを揺らしながら一人の少女が近づいてきた。
「その宝箱、トラップかもしれないよ?」
「それを確かめるために開けようとしたんだけど。」
「ちょっと待ってて。今見るから。」
「見る…?」
そう言うと少女は宝箱の前で何かを操作し始めた。攻略組に取得者はあまりいないが、そのスキルに俺は見覚えがあった。
「罠鑑定か…盗賊?」
「人聞きが悪いなぁ、
「はぇーなるほどねぇ。」
トレジャーハンターときたか。確かに中層ならそういうプレイヤーがいてもおかしくない。そもそもSAOはMMORPGだ。そういうロールプレイがあってもいい。ということは、フロア内にある宝箱の数とかも分かるのか?なんてことを考えていると「よし」という声が聞こえた。鑑定が終わったのか。
「どうだった?」
「トラップなし!当たりだね!」
「だよな。やっぱ読みは当たってたか。」
「え、もしかしてスキルなしで当てようとしてたの?」
「おう。メタ読みだけどな。」
「えぇ…」
引かれてます。そういえば最前線だった当時も似たやりとりをしてアスナにも同じ顔をされた。解せぬ。
「あ、いいこと思いついた。俺はソーマ。君は?」
「フィリア。」
「よしフィリア。少し俺と付き合ってくれないか?」
「はぁっ?!」
トレジャーハンター:フィリアはなぜか両手で体を隠すようにしながら赤面して数歩後ずさりする。あ、これ勘違いさせてるわ。
「で、出会っていきなりナンパ!?しかもこんなところで!?」
「ちょ、待った待った!パーティを組まないかってこと!」
「どういうこと!?」
「まずは一旦落ち着け!深呼吸!」
剣をしまい両手を上げて無害アピールを必死にすること5分。やっと落ち着いたフィリアに説明をする。
「俺が宝箱のトラップを予想するから、フィリアが答え合わせとして罠鑑定と解除をする。っていうことなんだけども。」
「わたしにメリットあるの?」
「宝箱の中身を譲る。スキル熟練度も上がるだろ?」
「それじゃソーマにメリットないじゃん。」
「フィリアの腕なら大丈夫だろうけど、仮にモンスターが出たら俺が守る。要は護衛だな。もちろんこれは依頼だ。報酬は別途出すよ。」
フィリアは突然の美味い話と依頼、報酬の言葉に「ぐぅ...」と欲が抑えきれない様子。
「じゃあもう1つ。発見した宝箱1個につき1万コルのボーナスを出そう。」
「…………やる。」
「決まりだな。」
メニューを開いてパーティ申請を送りつつ所持金を確認する。……まぁ10個くらいは覚悟しておこうか。それとボーナスの話をした途端目の色が変わったように見えたのは気のせいであってくれ。
「じゃあ早速」
「こっち!行くよ!」
「え、ちょ、ま」
パーティ申請が通った瞬間、俺の腕を引っ張り次のお宝へと爆走し始めたフィリアさんでした。テンションが上がった犬の散歩をしてる感覚ってこんな感じなのか。
◇◇◇
「ん-!いっぱいお宝ちゃん見つけたぁ!」
「それは…よかったね…」
結果、あれから発見した宝箱は29個。沢山のお宝を見つけられてとてもツヤツヤしているフィリアの隣で、結構な時間振り回された俺はげっそりしていた。ちなみにトラップだったのは12個で、予想的中したのが8個。正答率にして約70%だった。まあまあである。
さて、想像以上に疲れたが、忘れないうちに報酬を払うとしよう。
「えーと、1万コル30個だから30万。ホントによく見つけたな。はいまずボーナス分。」
「やったぁ!これで装備新調しよーっと!…あれ?30個?」
「最初会った時の分も入れてる。もう29も30も変わんないし。」
「ねえ、乗っといてなんだけどさ。ホントにいいの?カツカツじゃない?」
「これでも攻略組だからな。知らん間に結構貯まってたりするんだ。」
本当にカツカツなのは内緒。依頼の報酬は何がいいかアイテムメニューを開いて確認する。…うん、これにするか。
「攻略組だったんだ!只者じゃないとは思ってたけど。」
「ほんじゃ次に依頼の報酬。どうぞ。」
「これは...装備?」
フィリアに渡したのはフード付きの青いケープ。装備すると暗視と隠蔽にボーナスがつく結構いい防具だ。
「この前攻略したときにドロップやつだな。トレジャーハンターにはもってこいだろ?」
「ありがとう!でも、こんなにもらってもいいの?」
「そういう依頼だからな。実際そのくらいの働きはしてもらったと思うぞ?」
「う~……わかった。ありがたくいただきます。」
「うむ。」
じゃあいい時間だし街に帰るか、と歩き出したところに、フレンド申請画面が出てきた。
「その……誰かと一緒にお宝探してこんなに楽しかったの初めてだったから。また今度誘ってもいいかな?」
「もちろん。なんだかんだ俺も楽しかったよ。」
フレンド申請を承認し、フレンド一覧にまた新しい名前が並んだ。
◇◇◇
2024年1月6日 16:00
第48層 リンダース
51層迷宮区の攻略中に偶然アスナと会い、剣のメンテについての話になった。簡潔に最近はNPCの店で済ませていると伝えたら溜息をつかれた。曰く「ここまで登ってくるとNPCの店だと性能が知れてるから、プレイヤーに頼みなさい」。別に好きでNPCに頼んでいるわけではないのだが、『攻略の鬼』の剣幕に委縮してしまい素直に従うのでした。幸い、腕のいいマスタースミスを紹介してくれるらしい。それがこのリンダースにあるそうなのだが。
「あった。『リズベット武具店』。」
田舎風景が広がる街を歩くこと数分、アスナ御用達のマスタースミスの店を発見。早速入店。
店内は綺麗に整頓されており、各種類ごとに並べられたショーケースも見やすい。ほうほう、と武器を眺めていると、カウンターの奥からピンク髪の少女が出てきた。
「いらっしゃいませ!リズベット武具店へようこそ!」
アスナの口ぶりからおそらく同世代の子だろう。元気のいい声だ。店主が若い子なのもあるから人気もあるだろう。
「剣のメンテを頼みたいんだけど。」
「あ、もしかしてアスナの紹介ですね?色々話は聞いてます。」
「あぁ、無理に敬語にしなくていいよ。」
「あらそう?」
「ちなみにどんな話を聞いたの?」
「『真緑目隠れケチんぼの『疾風』がそっちに行くから』って。」
「アスナは普段俺をどういう目で見てるの…?」
ケチというより金欠なんだが。おかげで鍛冶スキルを取ってるレインにも頼めないし。
「ま、アスナの紹介ってことで初回はタダにするわ。」
「マジで助かりますリズベット様」
「土下座するレベル!?」
依頼のボーナスとしてフィリアにあげた30万コルが想像より痛く、まだ3日しか経ってないため所持金はまだカツカツだ。まったく我ながらアホである。なので今回のメンテは非常に助かっているのだ、土下座もする。
リズベットがメンテをするのに鍛冶場がある裏手に行くと、俺はウィンドウショッピングをしながらあること考えていた。
(『ソード・オブ・シーツリーズ』。28層ボスのLAドロップ武器。『アレ』が出たのと同時期にやっと装備できたんだよな。まだまだ現役だけど、あと半年しないうちに火力が足りなくなると思う。次いつLAを取れて、かつドロップが片手剣なのか保障はないし…。プレイヤーメイドを視野に入れておくか。)
おおよその予定を立てたところで、メンテが終わったようだ。返ってきた剣を見ると、新品のようにとても綺麗になっていた。
「流石マスタースミス。やっぱプレイヤーに頼むべきだな。」
「どんなもんよ!」
「ホントに助かりました。今後とも御贔屓させていただきます。感謝しますリズベット様。」
「堅いこと言わないの。あとリズでいいわ。」
「そうか。ソーマだ。また来るよリズ。」
「いつでも来なさいね!」
剣をしまい店をあとにする。いい店だった。おそらく年下だろうけどリズの気のいい姉御といった感じが話しやすかった。また来よう。
……通常時のメンテの金額だけ聞いとけばよかったな。