飯食え・アーカイブ   作:混沌の魔法使い

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下拵え 遭難

下拵え 遭難

 

照り付ける灼熱の太陽、終わりの見えない砂漠を額に汗を流しながら歩く1人の男――ゲマトリアを半壊させて飛び出して砂嵐に巻き込まれ遭難したカワサキは自分の勘を信じて砂漠を進んでいた。

 

「熱い……水を持ってきてなかったら死んでたな」

 

リュックから取り出した500mlのペットボトルの水を少しだけ口に含ませ、首から下げたタオルで汗を拭う。

 

「……ひでえな、これは」

 

少しでも情報が欲しくて砂丘を1つ登って見たが、視界に見えるのは砂に飲み込まれた建物の数々だった。

 

「信号機があんなに低いってマジか……都市1つ砂漠に沈んでるじゃねぇか……」

 

ここは確かに砂漠だが、砂嵐に飲み込まれて砂漠に沈んだ都市と知って思わず絶句する。

 

「世界が滅びたって言われても信じるな、これは……しかしどうしたものか」

 

人工物を発見出来たのはいいが、このまま進んでいいものか、廃墟の方に進んでしまう可能性もあるし、人がいる方に出る可能性もある。

 

「……自分の勘を信じるか」

 

どの道このままでは干乾びて死ぬのは目に見えている。仮に人を見つけられないとしてもどこかの廃墟で直射日光を防げればと生存確率は上がると考え俺は覚悟を決めて前へと歩み出した。

 

 

~2時間後~

 

「……やばいな、甘く見てたぜ砂漠」

 

持っていた500mlのペットボトルは既に空、2Lのペットボトルも残り半分程度、直射日光を防ぐ丁度いい廃墟もまだ見つけられていない。

 

「レーションは失敗だった。口の中の水分が持ってかれただけだったな」

 

まさか砂漠とは思ってなかったので何も考えず携帯食料を持ってきたが、それがよりにもよってクッキータイプ。腹が僅かに満たされた、大量の水を消費しただけと良いことなんか何もなかった。

 

「嘆いてもしょうがねえ、進むか」

 

立ち止まっても死ぬ、歩いても死ぬ。絶望的な状況だが、それでも俺は笑っていた。

 

「リアルと大して変わらんな」

 

外を歩いていたら酸性の雨が降る、酷ければ毒の雨が降るような世界で生きていたんだ。死が隣り合わせなのは今に始まったことじゃねぇなと呟き、俺は汗を吸ってずっしりと重くなったタオルを絞って、また首に掛けて歩き出した。

 

 

~2時間後~

 

「ぜぇ……ぜぇ……くそ、頭いてぇ、熱中症に脱水症状か……不味いな、このままだと長くは持たんぞ……」

 

水はとっくに空だ。頭は痛いし、耳鳴りもする、それにめまいもしてきた。体力はまだ余裕だが、熱中症と脱水症状は不味い。よろよろと歩きながら視線だけ動かす。

 

(どっかに水道、いや、雨水を溜め込んでるタンクとかないか)

 

水を入手しなければ不味い、だが水を入手する経路がない。壊れた貯水タンクでもないかと周囲を見るが、それらしい物はない。ユグドラシルでも砂漠エリアはあり、熱中症などもあった。だがゲームなのでアイテムボックスから無限の水差しを出せば解決する問題だった。

 

「無限の水差しかぁ……あれば……は?」

 

無限の水差しの事を思い出し、その名を呟いた俺の目の前に音を立てて1つの水差しが落下して来た。思わず視線をあげると黒い渦が見え、その下には無限の水差しが落ちている。

 

「幻覚……じゃねえな。なんだ俺にも神秘とか言う奴が適応されてるのか?」

 

幻と思ったが無限の水差しはちゃんと存在していた。ゲマトリアの言っていた規格外の神秘っていうのはこれの事か? と首を傾げながら無限の水差しを傾ける。

 

「ぷはっ! これは助かる」

 

頭から水を被り身体を冷やしながら水を飲み一息つき、空のペットボトルに水を汲む。

 

「まだ出るな、マジで無限の水差しだな」

 

時間で回復する水差しは本当にありがたい、少なくとも脱水症状で死ぬというのは無くなった。

 

「なるほど、アイテムボックスと思えば出せる訳か。安全な拠点を見つけたら中身を確認するか」

 

ゲームのデータのままなら色々アイテムがある筈だ。右も左も分らない、自分の身元も保障する物もないこの世界で生きる為に必要になるであろう金や拠点を得れる可能性があるのは正直ありがたい。

 

「良し、希望も出来た。行くか……とっとッ!?」

 

希望が出来て注意力散漫になったからか、足元の何かに引っかかってその場に倒れこんだ。

 

「何だ? 何に引っかかったんだ?」

 

足元の砂を払うと砂の下から出てきたのはアタッシュケースだった。砂汚れこそ酷いが損傷はそんなにないように見える。

 

「おいおい……まさかッ!!」

 

その近くの砂を払うと砂嵐で飛ばされたであろう鞄の中身が散乱していた。何かの書類に、スマホに、空のペットボトル……それにハンドガンの弾に、アビドス高等学校と書かれた生徒手帳に冷や汗が吹き出るのを感じた。

 

「嘘だろッ!? 埋まってるのかこの下にッ!? おい! 誰かいるのか! いるなら返事をしてくれッ!!」

 

砂嵐で飛んできただけならまだ良い。だが何か嫌な予感がする、呼びかけながら周囲を注意深く観察しているとある物に気付いた。

 

「なんだ……太陽?」

 

黄色い輪のような物の中心に太陽が浮かんでいる。それが点滅するように現れては消えている。まさかと思い駆け寄ると砂に埋もれている細い手が見えた。

 

「おい! おいッ! しっかりしろッ!!」

 

声を掛けながら砂を払うと砂の下から少女の顔が見えた。酷く消耗し、肌もカサカサに乾いている。それに髪がめちゃくちゃに切られていたし、制服もあちこちも血がにじんでいた。

 

「これ……自分で切ったのか」

 

切り口を見る限り、多分何かに絡まったか引っかかったのだろう。俺が飲み込まれたように砂嵐が迫って来ていたので髪を無理矢理切って逃げたって所か? 少女の様子を確認しながら砂を払い、ほぼ全身が砂に埋まっている少女を慎重に砂の下から引っ張り出す。

 

「ホシ……め……ね。も……め」

 

俺が見つけたのはどうやら意識が殆どない、ぼそぼそと誰かへの謝罪の言葉を口にしている少女の頭の上に浮かんでいた光輪だったようだ。極度の脱水症状による衰弱状態だ。普通ならこの状態にまでなればまず助からないが……。

 

「高位・治癒薬(ハイヒーリングポーション)ッ!」

 

アイテムボックスからポーションを取り出し、少し悩んでから封を開けて意識のない少女にぶちまける。

 

「うっ……」

 

小さな呻き声と共にカサカサだった肌に張りが戻り、血の気も少し良くなったように見える。

 

「次……おいおいおい。勘弁しろよッ!? どうなってるここはッ!?」

 

遠くに見える砂の塊――俺をここまで吹き飛ばしてくれた砂嵐が再び発生し、迫ってくるのを見て思わず絶叫する。

 

「緑の隠れ家(グリーンシークレットハウス)だッ! 緑の隠れ家ッ!」

 

アイテムボックスに手を突っ込み必要なアイテム名を叫ぶ、指先に金属の感触を覚える頃にはもう砂嵐は俺達の背後に迫っていた。

 

「間に合えッ!」

 

虚空に鍵を突っ込みグリーンシークレットハウスの入り口を呼びだし、意識のない少女をグリーンシークレットハウス引きずり込み扉を閉めるのと、砂嵐が俺達がいた場所を飲み込むのはほぼ同時だった。

 

「ふう……ギリギリだったな」

 

グリーンシークレットハウスの壁はガタガタと揺れているが、持ち運び出来る拠点作成アイテムでは最高レアのアイテムだ。自然発生の砂嵐ならば問題はない筈だ。

 

「とりあえず清潔(クリーン)」

 

清潔の魔法を唱え、彼女の着ている制服を清潔な状態に戻してグリーンシークレットハウスの一室のベッドに寝かせ、アイテムボックスからモノクルの形状をしたアイテムを取り出して目に填める。これは鑑定の効果のあるアイテムで相手の状態を調べる事が出来るものだ。まぁ最大HPと状態異常かどうかしか分らんし、簡単な耐性を見極める効果がある。現実で効果があるか分らんが1つの目安になるだろうと思ってステータスを確認してみたのだが……。

 

「体力が10万8000……え? 10万?」

 

1回嘘だろ? と思ったが、もう1度見てもHPが10万を越えていた。頭の上に天使の輪も浮いているし、もしかすると黒服やゴルゴンダのように人型ではあるが、純粋な人間ではないのかもしれない。それに最大HPが10万でも、今の体力は400しかない。相当衰弱しているのは間違いない。

 

「とりあえずなんか食うもんでも作るか」

 

料理をしている間に砂嵐も落ち着くだろうし、彼女も目覚めるかもしれないと思い冷房のスイッチを入れてから部屋を後にし、キッチンに立つ。

 

「固形物は多分無理だよな」

 

あれだけ弱ってるのなら普通の食事はまず無理だ。栄養価があって食べやすいものが良いが、食材はあるかと少し不安を覚えながら冷蔵庫を開けてみるとゲームで保管していた食材がそのまま入っていて少し安堵する。入っている食材を見て、何を作るか決め冷蔵庫から黄金の卵と作っておいた鰹出汁を取り出す。

 

「よし、やるか」

 

ボウルの中に鰹出汁を300cc注ぎ、塩小さじ1/3、醤油小さじ1/2、みりん大さじ2/3を量っていれる。次は別のボウル黄金の卵を割りいれ、泡立てないように気をつけ、菜箸をボウルの底につけたまま切るように混ぜ合わせて良く解し、調味料をいれた出汁汁と混ぜ合わせ、漉しておく。

 

「本当は椎茸とか、かまぼことかいれると美味いが……まぁ今は無理だろうな」

 

胃が弱ってるだろうから固形物は避けたほうが良いだろう。蒸し器を準備している間に俺は俺で湧かした片手鍋にインスタントラーメンをほり込んでおく。

 

「どうも自分に作る分はおざなりになるな」

 

他人に作るときは色々と考えるが、自分の時は雑になるなと苦笑しながら、器の中に乳液を注ぎいれ、泡を取り除いてから蒸し器の中に入れる。

 

「次はっと」

 

片手鍋に鰹出汁100cc入れ、濃口醤油とみりんをそれぞれ10cc入れて1度沸騰させてから水溶き片栗粉でとろみをつけたら冷ましておく。

 

「さてと、俺も食うか」

 

丼に移すのもなんなので、鍋に粉末スープを入れて椅子をキッチンに持ってきて、蒸し器の様子を見ながら鍋から直接インスタントラーメンを啜る。

 

(しかしここは何処だ。それに奴らが言ってた神秘とやらも気になるし、なんでゲームの能力を現実で使えるかも謎だし……いや、何よりも)

 

「若返ってるな……なんでだ?」

 

俺は確か32だった筈だ。だがどう見ても20代前半、下手をすれば10代後半くらいに若返ってる自分にどうなってんだとぼやきながらインスタントラーメンを食べ終える頃には茶碗蒸しも仕上がっていた。

 

「後は荒熱を取ってから冷蔵庫で冷やして……それから俺も休むか」

 

まだあの少女は起きないだろうし、茶碗蒸しと餡を冷蔵庫で冷やしてから休む事を決め、今だ吹き荒れている砂嵐にいつまで続くんだとぼやきながら後片付けをし、ソファーに寝転がり目を閉じるのだった……

 

 

メニュー1 冷やし茶碗蒸しへ続く

 

 




と言う訳でブルアカ版でした。カワサキさんはアイテムボックスありでユグドラシルアイテム使用可能、複製がベースなので耐久は先生よりありますが、ヘイローがないので先生以上、生徒以下の耐久って所ですね。次回があればユメ先輩とのコンタクトから、アビドス行まで書いてみようかと思います。それでは失礼します。
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