——ずっと、『誰か』を笑顔にしたかった。
その想いだけは、今も胸の奥に焼き付いている。
でも、『誰か』が誰だったのか、はっきりと思い出すことはできなかった。
いつの日か、その子は病気になって外に出られなくなってしまった。
部屋の窓から、外の光だけをじっと見ていた気がする。
誰かが笑顔を失っていく姿を見て、幼いオレは何度も心をざわつかせた。
どうしたら、あの子を明るい顔にすることができるんだろう。
どうしたら、またあの笑顔に会えるんだろう。
小さい頃のオレは、ただそればかりを考えていた。
でも、小さかったオレには、どうしたらいいかわからなかったんだ。
そんな時、あの子の父さんと母さんが、
あの子と一緒にショーに行かないかと誘ってくれて……
オレはその誰か——いや、『あいつ』と一緒にショーを見に行って……
その日は、忘れられない日になった。
柔らかな照明が劇場の中を包み込み、
観客席は期待に胸を膨らませる人々のざわめき、そして笑顔で満ちていた。
隣で声を弾ませながらショーを見ているあいつは目を輝かせ、
今にも飛び跳ねそうなほど身を乗り出している。
頬は興奮でほんのり赤く染まり、無邪気な笑顔が灯りに照らされてきらめいた。
その指先が勢いよく前方を指すたび、あいつの瞳の中に映る光が揺れて踊っていた
…途中、あの時のあいつが何を言っていたか思い出せないけれど、
声の震えと興奮が、胸の奥まで伝わってきていたのは覚えている。
オレも、言葉が出るくらいに圧倒されていた。
それにあいつが笑ってる……!こんなに笑ってるの、いつぶりだろう?
いや、あいつだけじゃない。
他の人達もみんな、主役の人が歌って踊るたびに、
段々と笑顔になって言って……眩しいくらいだった。
胸の奥がじんわり熱くなる。
光と笑顔の渦に包まれると、どうしてだか心まで軽くなる気がした。
あ……。だから主役の人を『ヒーロー』って呼ぶのかな……?
あいつが小さく呟く。
あの時のオレでも声の端に、寂しさが混じっているのを感じる。
それにオレの胸も、ぎゅっと締め付けられていた。
手がわずかに震えていた。
言葉にできない悲しさが、こちらにも伝わってくる。
思わず声をかけた。
どうしていいかわからず、ただ隣で見守ることしかできない自分に、少しもどかしさを感じる。
⬛︎⬛︎の目が、わずかに光を取り戻したように見えた。
その瞬間、胸の中で何かがふわりと動いた気がした。
オレにも、あいつにも、希望がほんの少しだけ差し込んできたような気がした。
ー数年後ー
ーシンタの部屋ー
シンタは拳をぎゅっと握りしめ、胸の奥の高揚を抑えきれずに声を張る。
外の空は澄み渡る青空で、柔らかな日差しがカーテン越しに部屋の中を温かく照らしていた。
腕を大きく広げ、天に向かって宣言する。
部屋の壁に向かって、自分自身を鼓舞する声が反響して、胸の奥でワクワクとした熱がますます膨らむ。
鏡の中の自分を見つめ、笑みを浮かべる。
ヒーローになれる気がして、体の隅々まで力が満ちていくような気がした。
母さんの声が廊下越しに響く。慌てて声を落とし、背筋を伸ばす。
必死に取り繕うものの、胸の高鳴りは止まらない。
母さんが苦笑混じりに呟いた。
シンタは手を広げて訴える。
心の中では、今日が自分の夢に一歩近づく特別な日だという確信が燃え盛っていた。
母さんの声には、呆れと優しさが混ざっていた。
母さんの声を遮って、手のひらをもぞもぞさせながら考え込む。
目の前の大切な理由が、どうしても思い出せない。
胸の奥に、もやもやとした不思議な感覚が広がる。
母さんの声に、自分のど忘れの重大さを改めて突きつけられる。
呆れている母さんの前でオレはバッと胸を張る。
母さんの呆れた声に、今度は逆に心の奥で安心するような感覚が芽生える。
拳を握り直す。
胸の奥で、夢に向かう熱がうねるように湧き上がってくる。
その言葉を大きな声で叫んだ瞬間、スマホが白くピカッと光った。
部屋の中に、一瞬鋭い光が差し込む。
目を細め、スマホの画面を見る。
胸の奥に、なぜか小さな違和感が残る。
ワクワクと同時に、どこか得体の知れない予感が背筋を走る。
母さんの声に返事をしながら、スマホを手に取り画面を確認する。
それにオレがヒーローを目指し始めたのは、なんでだったんだっけ……何か、大切なことを忘れているような……
胸の奥で、ぼんやりとした不安が広がる。
今日という日への高揚と混ざり合って、妙に胸がざわつく。
ふと目の前に表示された曲のタイトルが目に入る。
スマホに触れた瞬間——ピカッ!
光が視界を覆い尽くす。
部屋全体が眩しい白い光に包まれ、現実と幻想の境界がふわりと揺れる。
——シャラララララララン!
澄み切った音色が弾けるように広がった瞬間、
部屋全体がまばゆい光に包まれた。
何もかもが光に飲み込まれ、シンタの姿は光に溶けていった。
ー???ー
煌びやかな照明に包まれたショーステージ。
天井には青と赤の幕が幾重にも垂れ下がり、
星形のライトがまるで夜空の星のように輝いている。
舞台中央には大きなモニターが設置され、鮮やかな模様を映し出していた。
シンタはゆっくりと目を開け、目の前の光景に言葉を失った。
ついさっきまで自分は部屋にいたはずだ。
音楽を再生した——ただそれだけだったはずなのに、
気がつけばこんな場所に立っている。
あまりに唐突すぎる変化に、彼の思考は追いつかなかった。
現実味を欠いた鮮やかさと、不思議な既視感。
どこか懐かしい気持ちすら胸に広がって、シンタは戸惑いを隠せなかった。
それにしても、ずいぶん変わった大道具やら小道具があるな。
一体、どんなショーで使うんだ?
……それに、なんでかこのステージ、妙に懐かしい気持ちに……
——その時。
弾けるような明るい声が、舞台袖から響いた。
慌てて声のする方を振り向いたシンタの目に飛び込んできたのは、
鮮やかな衣装に身を包んだ少女だった。
猫耳のような飾り?をつけ、両腕を大きく振りながら彼に笑いかけている。
シンタが呟くと、今度はもう一つの声が舞台に重なった。
そこに立っていたのは、気品ある王子様の様な衣装を纏った青年。
青い髪が照明に反射して、柔らかく輝いている。
あれはどう見ても……
必死にそう言い聞かせるが、自分がいつ眠ったのかすら覚えていない。
混乱する彼に、ミクが満面の笑みで告げた。
問い詰めるシンタに、カイトが優しい眼差しを向けた。
驚くミクの声がステージに響く。
胸を張るシンタ。だが、カイトは少し困ったような顔をしている。
誇らしげに語るシンタに、ミクは困ったように眉を下げた。
問いかけるシンタに、ミクは満面の笑みを浮かべて両手を振った。
元気に弾ける声とともに、シンタの姿は光に溶けていく。
そして、数秒も経たないうちに自分の姿は光に包まれ消えていった。
ーシンタの部屋ー
——気づけば、シンタは自分の部屋に戻って来ていた。
窓から差し込む朝の光が、赤いベッドカバーの上に柔らかく広がっている。
まだほんのりと眠気の残る頭で、シンタはぼんやりと天井を見つめていた。
ゆっくりと上体を起こすと、いつもの見慣れた部屋が目に映った。
本棚には雑然と並ぶ本、勉強するときにはほとんど使わない机、
床の上には開きっぱなしの本が無造作に転がっていた。
何も変わらない日常の光景なのに、胸の奥に妙な違和感が残っていた。
夢と現実の境界がまだ曖昧で、思考がまとまらない。
さっきまで確かに自分は、あの眩しいステージに立っていた気がする。
煌めくライト、豪華な装飾、そして——あの元気な声と優しい声。
呟いた瞬間、階下から甲高い声が響いた。
慌てて返事をしながら、シンタはベッドから飛び起きた。
窓の外を覗けば、もう太陽は高く昇り始めていた。
時計を見なくても、約束の時間が迫っていることは容易にわかる。
声を張り上げながら、急いで階段を下る。
けれども頭の片隅では、まだあの夢の余韻が離れなかった。
あのステージで感じた懐かしさ…そして、ミクとカイトの言葉。
背中を押すような声が、現実へとシンタを引き戻す。
とにかくあのことは置いておいて、今はとにかくオーディションに向かうことにした。
ーフェニックスワンダーランドー
青空の下、色とりどりの風船が舞い、きらめく噴水が涼しげな音を奏でる。
観覧車のゴンドラは、まるで空に浮かぶ宝石のように光を反射し、
メリーゴーランドの馬たちは今日も楽しげに回り続けていた。
カラフルな列車が頭上を走り抜け、軽快な音楽がどこからともなく響いてくる。
そんな夢のような舞台へと息を切らしながらも、
シンタはどこか余裕を感じさせる笑みを浮かべていた。
胸を張り、声を弾ませる。
その声は広場に、その自信に満ちた響きがよく通った。
まぶしい太陽の光が、その瞳に力強さを宿す。
噴水の飛沫が風に乗って頬をかすめても、気持ちは揺るがない。
声高らかに宣言すると、彼は勢いよく前へと歩き出す。
色とりどりの旗が風に踊り、遊園地全体が彼を歓迎するかのようにきらめいていた。
『『『『ワンダーランズ×ショウタイム』』』』
Q.なんかオリジナル要素混じってない???
A.そうでもしないとストーリーが成り立たないんです()
はい…なんか…オリジナル要素がいつの間にか混じってました☆((
とりあえずオリジナル要素も時々はありますが…オリジナルの部分は考察するなり煮るなり焼くなりしてください!!
そして文章の書き方も視点ごとに変えようと思ったのですが…段々とニーゴの時と同じようになって行ったのは気にしないでください((
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!