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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅥ
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星霊界編 これはギルティ!



 予想外の状況を目の当たりにしたハジメ達は、急いでダリアを追うことに。


 とはいえ、追跡に羅針盤を使う必要はなかった。


「うっはぁ、派手にやってるね~」


 薙ぎ倒された木々や枝葉、抉れた地面という即席の獣道が行き先を教えてくれるからだ。


 そのうえ先程から轟音や地響き、咆哮の位置が遠ざからない。三百メートルほど先から断続的に響いてくる。おそらく移動をやめたのだろう。


 それらを見聞きしながら思わずといった様子で奈々が感想を零し、リリアーナが一部の破壊痕に目を細める。


「ところどころ焼失したような痕跡がありますね? 規模から見て……巨獣か飛竜のどちらかに火を使う能力が……?」

「そんなの絶対にリオレウ○さんの方に決まってるの!」

「リオ、え? なんです? ミュウちゃん?」


 そう遠い場所ではないので、普通に駆け足で追うハジメ達。ユエが全員に昇華魔法をかけて身体能力を上げているので中々の速度だ。


 もちろん、ミュウとレミアはハジメが両腕を椅子代わりに抱っこ状態である。


 肉体の使徒化処置で素の身体能力も上がっているレミアだが、同じく処置を受けた雫達も含めて、その主目的・効果は〝肉体耐久度の向上〟と〝回復能力の向上〟、そして〝不老〟だ。


 戦闘や運動の()()が向上するわけでも、即座に身につくわけでもない。オリジナルの使徒の体に憑依し、その肉体に蓄積された経験をトレースして体得した香織とは違うのだ。


 レミアに対し、極めて足場の悪い樹海の中を他の者達と同じレベルで走れというのは少し無茶ぶりなので、こうして抱えているわけである。


 ……愛子もちょっと足元が怪しい(しかも、ちょっとレミアを羨ましそうに見ているっぽい)が、そこはティオがさりげなくフォローしているようだ。


 当のレミアは娘と同じように抱っこされて、凄く恥ずかしそうだが。


 頬を赤らめて、ハジメの首筋に腕を回しぴっとり寄り添う姿は大変かわいらしい。なので、正義である。


 なんてことを、内心で思っているのがバレたのか、レミアが「あなたったら!」みたいなふくれっ面で頬を抓ってくる。更に相好が崩れるハジメさん。


 ご近所でも、最近更に仲睦まじくなったと大変評判で、よく奥様方にからかわれていたりする。


「ご主人様よ! イチャつくのは構わんが見えてきたのじゃ!」

「どうします、ハジメさん! このまま助太刀しますか?」


 目の良いティオとシアが樹海の奥で繰り広げられている戦いの一部を捉えたようだ。


「さて、助太刀が必要かどうか……倒す以外に目的があったら、俺達は邪魔者になるしなぁ」

「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないかもしれないわよ?」

「大丈夫だよ、雫ちゃん! 生き返らせればいいんだから!」


 任せて! とガッツポーズする香織の風船のように軽い死生観に優花が呆れ顔を向ける。


「そんなドラゴン○ールの世界観じゃあるまいし。死なないに越したことはないでしょ」


 珍しくも某漫画に例えてツッコミを入れる優花。地球の人達が割と頻繁に虐殺されたり滅ぼされかけたりするも、なんだかんだ復活する世界観と、胸熱な激闘に次ぐ激闘で情緒をめちゃくちゃにされたのは、つい最近のこと。


 学業に家の手伝い、時折魔法少女ユウカちゃんしたりと忙しい優花だが、実は結構前からコツコツとサブカル方面の知識を取り入れているのだ。


 なぜか? そんなことは聞くだけ野暮というものだ。もちろん、本人も誰にも言ってない。密かな趣味ということにしている。


 旅行中だから油断したのだろうか? ポロッと出てしまったようだ。


 香織センサーが反応した。ぐりんっと顔だけ振り向いてくる。こわ――ユエもだった。ぐりんっと顔だけ振り返った。こわいっ。優花は全力でぐりんっと顔を逸らした。


 ハジメと目が合う~。


 ……幼い頃、父に強要されて履修を開始。気が付けば庭でひたすら練習していた〝かめは○波〟。父親と繰り返した〝フュージ○ン〟、そして突き指の痛み……


 思い出は山盛り、世界も認める名作中の名作をハジメが愛していないわけもなく。


 そんな作品を今まで漫画のまの字も出さなかった仲間がさらりと出したのだ。それは嬉しいに決まっているわけで。


 意外そうな表情は一瞬。直後には、サムズアップの代わりと言わんばかりに、ハジメは純粋な少年の如き破顔を見せた。


 直視してしまった優花は「んんっ」と変な声を漏らして顔を伏せた。で、つまずいた。危うく顔面からダイブしかけて、妙に生温い微笑みを浮かべている香織に支えられる……


 そんな一連のやりとりに呆れ顔になりつつも(のぼる)が折衷案を出し、妙子が補足する。


「そんじゃあ、いつでも飛び出せるように近場で身を潜めて様子見するのはどうよ?」

「認識阻害は必要かも。モンスターの感覚は鋭いって定番だし」


 ひとまずそれでいいか? とハジメが視線で問えば、シアもこくりと頷いた。戸惑いがまだ残っているので、ダリアの〝今〟を少し観察したい気持ちもあるのだろう。


「ユエ。あの崖上、いけそうか?」

「……ん、任せて。みんな触れ合って」


 立ち止まったユエが、抱っこされているミュウのほっぺに触れるついでにムニムニしようとして――


 間違えてレミアのほっぺをムニムニさすさすしてしまい、レミアをますます赤面させつつ指示を飛ばした。


 ユエに言われた通り、隣り合う者同士あるいは前後で触れ合う。間接的にでもユエに繋がるように。


 ハジメの背後で淳史が一番近くにいた優花に片手を差し出すのと同時に、優花がわざわざ数歩踏み込んでハジメの背中に触れて、お互いに「あ」と気まずそうにしているのはご愛敬。


 奈々が同情半分笑い半分の表情で優花の肩に片手を置きつつ、もう片方の手で宙ぶらりんになった淳史の手を握ってあげる。


 直後、全員の視界が切り替わった。ユエの〝ゲート〟を用いない瞬時転移〝天在〟だ。


 狙い通り、ハジメ達は崖上に転移した。


 揃って下を覗き込めば、百メートルほど下の開けた場所で激闘が繰り広げられている。


「うっはぁ、まんまリアルモンハ○じゃねぇか!」

「りゅ、龍くん、テンション高いね。まぁ、お家でもよく遊んでるもんね、あのゲーム」


 轟音、咆哮、そして怒声と雄叫び。


 赤みがかった鱗のドラゴンが大暴れしている。それに対し、巨大な種々の武器を操る戦士らしき男達が怯むことなく立ち向かっていた。


 よく見れば、大きな犬っぽい生き物も装備を身につけていて、それで縦横無尽に攻撃したり、相棒の戦士をサポートしている。


 少し離れた場所では白の体毛とエメラルドグリーン色の鱗を持つ巨獣が大木の根元でぶっ倒れてもがいている。目を回しているようで直ぐに立ち上がれない様子だ。


 大木の一部が放射状に砕けている様子からすると激突でもしたのか。


 と、その瞬間、飛び上がったドラゴンの目の前に何かが飛来した。


 ハジメ達の優れた目が拳大のカブトムシに似た虫を確認する――刹那、強烈な光が瞬いた。


――グァ!?


「「ぐぁ!? 目がっ、目がぁっ」」

「いや、距離あるし、そこまで眩しくないでしょ」


 妙子の冷静なツッコミなんて知らない。淳史と昇の反応はノリという名の義務なのだ。


 テンション高めの男子は脇に置いといて、ドラゴンが地響きと共に地面に落ちた。戦士達が待ってましたと言わんばかりに飛びかかる。


 見た目はヒャッハーなくせに、その動きは確かに〝武〟を感じさせる洗練されたものだ。


「あ、ダリアさん!」


 巨獣の比較的に近くに、戦場には似つかわしくないメイドさんが佇んでいた。


 ダリアだ。エリックと同じ王家の血筋を示す金髪金眼、気品のある美貌はそのまま。約五年の月日が経っても全然変わっていない。否、むしろ、その美貌には磨きがかかっているのでは? と思うほど。


 明確な違いと言えば、以前はバレッタでアップにまとめていた長い髪が、今はボブカットになっているくらいか。今の躍動的な雰囲気と合わさって、とてもよく似合っていた。


 そんなダリアは、厳しい表情で左腕を真っ直ぐに飛竜の方へ突き出している。


 その腕には他の男達同様にボウガンのような装備が付けられていた。そこから、先程の閃光を放つ昆虫――昆虫(?)を飛ばしたようだ。


「パパ! やっぱり閃光弾なの!? 閃光弾を使ったの!?」

(むし)をそのまま使ってるっぽかったけど、かもな!」


 ミュウが興奮で頬を真っ赤にしながら指をさす。パパも童心に返ったようにお目々がキラキラ。


 ダリアが左腕に何かを再装填しつつ声を張り上げる。


「ワルド! 早く尻尾を切ってくださいまし! 役目ですよ!」


 龍太郎、淳史、昇、そしてハジメとミュウが「んん~~っ」と感じ入ったように何度も頷く。


「すんませんっ、里長(さとおさ)! ハチミツください! 体力がやべぇ!!」

「調合の余裕はありませんっ。わたくしのを!」


 スキンヘッド&眉なしの大男が、大斧を支えにゼェハァッと呼気を荒げながら叫べば、ダリアさんはエプロンの裏側から竹筒のようなものを取り出し投げ渡した。


「「「「んんんぅーーーーっ!」」」」」


 更に感じ入るように唸るハジメ達。


「さっきからどうしたんですか? 確かに強そうなモンスターですが、魔物だって同じようなものですし、精霊獣だって似たようなものじゃ……」

「愛ちゃん、違うんだよ。これは、あれだよ。テーマパークとかで推し作品のアトラクションを体験できたファン――みたいなものなんだよ」


 理解のある奥さん、そして優花より何年も前からサブカルチャーの勉強に余念がなかった香織パイセンが、全てを受け入れる慈母の如き表情で説明してくれる。


 モンハ○はいいぞ~、と、以前に強く勧められたユエ達も生暖かい目でハジメ達を見ていた。


 ちなみに、ユエ達もハジメに付き合ってそこそこやるのだが、作品のファンと言えるほど夢中になったのは結局ミュウだけだったりする。


 どうも、戦っていると苛つくらしい。自分なら一発なのに、こうできるのに……と。リアル強者のジレンマなのか。


 なお、ミュウは双剣使いである。愛用の小太刀〝むぅらまさ&こてつぅ〟でリアルに双剣モーションを再現できたりする。


 何はともあれ、今は目の前の狩り(?)だ。


「雷角獣はわたくしが引き付けます! その間に炎毒竜の討伐を!」

「なっ、里長お一人で!?」

「無茶っすよっ、姫様!」

「ええ、分かっています! しかし、〝縄張り荒らし〟を逃すわけにはいきません! 最悪、生態系にも影響が出ますっ。この二年の調査を無駄にするわけにはっ」


 雷角獣と呼ばれているらしい巨獣がふらつきながらも立ち上がった。


 同時に、ダリアが背中の武器を手に取った。


 雷角獣にしがみついている時には背負っていなかったもの。おそらく、しがみつく前に落として、男達の誰かが回収しておいたのだろう。


 両サイドがカシュンと開いて弧を描く。鉄製らしき大きなそれは――弓だ。腰と背中、二カ所に装備した矢筒から一本を引き抜く。


 矢をつがえる姿は、まるで流水。それほどに滑らかで熟達した動作だった。


 公爵令嬢として鍛えられているだけあってダリアの姿勢は元より美しい。そんな彼女が弓を構えて凜と佇む姿は、著名な画家が描いた一枚の絵のように映えた。


――ォオオオオオオオオオオンッ!!!


 雷角獣が天に咆える。ハジメ達がいる崖上までビリビリと空気が震えて伝わってくる。愛子やリリアーナ、それにレミアが「きゃっ」と思わず耳を塞ぐほどの轟き。


 怒りと興奮、そして獣のプライドが感じられる咆哮だった。


「〝縄張り荒らし〟は、わたくし達が討伐します! 西の長、〝静謐なる雷〟よ! どうか怒りを静め、己の領域にお帰りくださいまし!!」


 対するダリアも負けていない。咆哮の圧力と衝撃に顔をしかめながらも構えは解かず、裂帛の覇気を以て返す。


 それに「小癪な」とでも言っているかのように眼光を返した雷角獣は、次の瞬間、凄まじい踏み込みを見せた。


 刹那のうちにダリアとの距離を消し、一本一本が子供の身長ほどもある巨大な爪を薙ぎ払う。


「ダリアさんっ」


 思わず声が漏れるシア。崖から落ちそうなほど身を乗り出す。


 五年前のダリアは霊法術の名人だった。ただし、それは支援や回復など補助系統に限った話だ。典型的な後衛型である。


 弓を使うこと自体が驚きなのに……と、焦るのも束の間。


 ダリアはするりっと凶爪を避けた。身をかがめながら一回転しつつの、これまた流水の如き動きだった。メイド服のスカートが一切障害とならないような美しくさえある所作だ。


 そのまま淀みなく、片膝立ちで弓を再照準。


 まるで最初からそう決まっていたかのように、最適な場所に雷角獣の頭部が来る。


「シッ!!」


 矢が放たれた。吸い込まれるように頭部に直撃する。刹那、


――グァッ!?


 ドォンッと爆音が轟いた。(やじり)に何か仕込んでいたのか。それとも鏃自体が特殊なものなのか。直撃と同時に爆発したのだ。


 その衝撃でよろける雷角獣。こめかみの辺りを守っていた鱗が砕けてバラバラと落ちる。


 怒髪天を衝く、そう表現するのが最適な怒りに満ちた眼光を小さな敵対者に向けるが……


「「「「お、おぉ!!」」」」


 龍太郎を筆頭に男子陣が思わず感嘆の声を上げる。


 ダリアが既に三本の矢を同時につがえていたから。否、放っていた。目の覚めるような連撃、そして早撃ちだった。


 雷角獣に回避の余裕はなかった。――全弾命中。そして爆発。今度は首元の鱗が弾け飛び、一本は角に当たって表面を破砕する。


――ガァアアアアアアッ!!


 痛み故か、それともやはり怒りか。咆哮を上げながら長い尾を鞭のように振るう雷角獣。


 だが、ダリアには当たらない。その動きを読んでいたかのように雷角獣が動くより先に距離を取っていたからだ。おまけに、既に次の矢をつがえている。


「「「か、かっこいい……」」」


 ミュウ、優花、そして鈴だった。声には出さずとも、奈々や妙子のキラキラした目を見れば同意見だと分かる。


 ただでさえ、気品溢れる美姫である。そんな彼女が鋭い顔付きで巨大な獣と渡り合い、凜と弓を構える姿は同性からしても息を呑む美しさだ。


「ほほぅ、あっちもやるのぅ。本当に尻尾を落としおった」

「流石は太刀、やはり太刀。あのモヒカン野郎、中々の同士だっ」

「くそぉっ、なんでだ! なんでランス使いはいねぇんだ!」

「スキンヘッドのおっさんのアックスも悪くない! 天職《戦斧士》の俺が保証するぜ!」


 炎毒竜戦の方も見応えは十分だった。ワルドと呼ばれた太刀使いのモヒカン野郎が、見事に棘付きの凶悪な尾を半ばから断ち切ったのだ。


 代わりに毒を食らったのか真っ青な顔で戦線離脱したが、何かを飲みながらサムズアップしているので大丈夫っぽい。


 ランス使いがいないことに龍太郎が悔しそうにし、自身も戦斧を使う昇が歓声を上げている。


――グルォオオオオオオオオオオッ!!


 凄まじい咆哮が轟いた。一時的に炎毒竜戦に目を向けていたハジメ達も頬を叩かれたように視線を戻す。


「「「「「うぉおおおおおおおっ!!」」」」」


 戦士達の雄叫びではない。ハジメ達+ミュウの雄叫びである。興奮最高潮! みたいな雰囲気だ。


 それも仕方ないだろう。雷角獣が輝いていたのだから。


 バリバリと空気が弾けるような音を撒き散らし、青白い電気を身に纏っている。


「ふ、ふつくしい……そして何よりっ、かっこいいぜ……ジンオウ○さんっ」

「あの、ハジメ? もしかして泣いてない?」

「シッ、雫ちゃん。そっとしておこう? ハジメくんの最推しモンスターなんだ……」


 らしい。ミュウが感涙を流すパパに優しい目を向けている。気持ちは分かるの、と言わんばかりに肩をポンポンしてあげている。


 優花が少し引いている様子で言う。


「でも、似てるだけで本物ってわけじゃ……」

「……フッ、ハジメが本物だと思えば本物。優花、そんなんじゃまだまだ嫁仲間とは認めてあげられない」

「南雲至上主義すぎでしょ!っていうか、よ、嫁仲間って……も、もぅ、勝手に――」

「ちょっと皆さん、はしゃぎすぎです! ダリアさん達が激闘中なんですよっ」


 シアに怒られた。割と本気で。それはそうだ。友達が生きるか死ぬかの戦闘中なのだ。


 感動は消せないが、確かに観客ムーブしすぎたと「あ、はい。すんません……」と謝るハジメ達。


 その視線の先に、全方位に放電しながら突進した雷角獣と、およそ普通の人間には不可能なほどの跳躍で回避するダリアがいた。


「い、今のなんですか!?」


 自分と同じ後衛型のはずなのに、それはないだろう! と愛子が思わずツッコミを入れる。


「あれは……蛇? それに大きなハチドリ、ですかね?」


 シアの言葉にティオが頷く。


「そのようじゃな。右腕に巻き付いておる蛇から異常に伸びる舌が放たれた。カメレオンのようにな。それが、ハチドリのように滞空する鳥の足に巻き付いて……いや、粘着かの? 後は高速で収縮させることでダリアの体が超跳躍したように見えたわけじゃな」


 ミュウやハジメ達が「まさか環境生物を使ってる!?」「あたかも翔蟲アクションのように!?」「ワールドとライズ両方取りかよ!」「ダリアお姉さんったら、とんだ欲張りさんなの!」とオーバーリアクションする。


 シアに怒られても、やっぱりテンションが上がるのは止められない。


 その間にもダリアは空中で矢を放ち、見事な受け身を取って着地するや否や追撃の矢も矢継ぎ早に放つ。


 体勢を立て直そうとした雷角獣の軸足を狙った連撃は、見事に転倒という結果を導いた。


 好機と見てか、ダリアは深呼吸をした。背筋をピンッと伸ばし、弓矢を掲げる。まるで、弓道の所作の如く。


「あ、ちょっ、後ろ後ろ!」


 と焦った声を出したのは香織だ。気持ちは他の者達も変わらない。なぜなら、ダリアの背後に液体を腹に抱えた蜂モドキが迫っていたから。


「いえ、たぶん大丈夫です」


 と返したのはシア。一番焦りそうなのに、ウサミミをピクピク反応させながらも、冷静にドンナーを抜きかけたハジメを制止する。


 野球ボールくらいの大きさの蜜蜂モドキがダリアの肩口を刺したように見えた。同時に、弓を持つ手の小指が――よく見れば指輪をはめているようだ――がタップされ、リズミカルに金属音を鳴らす。


 直後、グググッと力強く引き絞られる弓。ダリアの口元が真一文字に引き結ばれる。強く歯を食いしばっているようだ。僅かに震える腕と合わせて、渾身の力を込めていることが傍目にも伝わってくる。


 よく見れば、矢自体も今までのより太く重そうだ。


 限界まで起き上がった直後の雷角獣へ、その矢が放たれた。


 案の定、それは今までの比ではない豪速の一撃だった。ガァンッと金属同士が衝突したような轟音が鳴り響く。


「「「部位破壊キターーーーッ!!」」」


 龍太郎、淳史、昇が叫ぶ。その通り、雷角獣の角の一本が半ばから折れて吹き飛んでいた。


「あれ、意匠じゃなくて生き物だったのか!」

「パパ! 何が見えてるの!」

「ダリアの弓だ。持ち手の部分に蜘蛛が張り付いてる。おそらく、あいつが弦の張力を調整してるんだろう」

「あ、もしかして小指のタップで合図を送ったのかしら?」


 ハジメと雫の推測は的を射ていた。愛子が「あの蜜蜂っぽいのは、もしかしてドーピングですか?」と言えば、香織が「表現がちょっとあれだけど、一時的に膂力を上げる感じかな?」と同意する。


 角が折れたせいか帯電状態が解除された雷角獣だが、その戦意に衰えはなく。むしろ、より苛烈になった。もはや、その眼に炎毒竜など微塵も映ってはいない。


 ダリアをただの障害ではなく、明確に敵と定めたかのようだ。


 凄まじい猛攻が襲い来る。


 ダリアはそれを、卓越した体術と弓術、あらゆる生物の助けを借りながら凌ぎに凌いでいく。


 常に最適位置に移動し続ける大きなハチドリモドキと伸縮する粘着舌を持つ蛇の組み合わせで、あたかもアンカーワイヤーを使ったアクションの如く回避、回避、回避。


 それでも間に合わない場合、あるいは動きを読まれて着地狩りをされそうな時は、唐突に草むらから飛び出したハリネズミのような小動物が全身の針を震わせ、凄まじい高音を発することで雷角獣を怯ませたり。


「ア○ルーさん!? ア○ルーさんなの!?」

「あ、あらあらっ、ミュウ! ちょっと落ち着きなさい! ほら、落ちちゃうわっ」


 レミアママに後ろから羽交い締めにされるほど身を乗り出して興奮するミュウの言葉通り、服は着ていないが幾つかの装備を身につけたネコっぽい生き物が絶妙なタイミングで雷角獣の意識を逸らしたり。


 どこからともなく飛んできたダンゴムシに羽が生えたような虫がダリアの周囲で粉塵を噴出するや、その姿が保護色になって著しく見えにくくなったり。


 睡眠ガスだろうか。僅かな間とはいえ雷角獣の意識を朦朧(もうろう)とさせるガスを噴出するミミズのような生き物が土中から飛び出したり。


「……偶然、じゃないですよね?」


 リリアーナが困惑気味に呟く。あまりにダリアに都合の良い生き物達の行動だ。無理もない。森の生き物が自らダリアに協力しているようにしか見えない。


「たぶん、舌を鳴らす(クリッカー)音や口笛で操ってますね」


 ウサミミは今日もすこぶる快調だ。地獄ウサミミイヤー(シア命名)は、戦場の轟音が鼓膜を乱打する最中でも僅かな音を聞き逃さない。


「ダリアが鳴らしてるのか?」

「はい。バリエーションがいっぱいあるっぽいですけど、ずっと鳴らしてます」

「なるほどのぅ。しかし、霊術が失われた今、操るという表現はいささか不適切な気がするのじゃ。これは言わば――」

「……ん。〝芸〟と一緒。ワンコにおすわりやお手を教えるようなもの」


 ユエの声音に正真正銘の感心が滲んでいた。


 いったい、どれほどの根気と労力をかけて仕込んだのだろう。ハチドリモドキや蛇、ネコはともかく、虫に芸を仕込むなど聞いたこともない。


「ま、まさに環境生物使いなの!」

「ある意味、鈴の上位互換じゃねぇかっ」

「龍くん?」


 確かに、鈴はインセクトクイーンなんて呼ばれちゃったりもするくらい、虫系の魔物を使役するので、ある意味同士と言えるだろう。


 だが、神代魔法で従属させる鈴と、地道に芸を仕込むダリアでは、当然、難易度は桁違いなわけで。


 確かに、ある意味では上位互換かもしれない。ダリアは普通に虫系以外も使役できているし。


 とはいえ、面と向かって他の女を〝上位互換〟というのはいただけない。鈴の機嫌が急降下した。冷めた目で龍太郎を一瞥した後、無言で視線を逸らす。


「あ、ち、違うぞ、鈴! 今のはだな――」


 割と本気でオコな時の反応だと理解している龍太郎が慌てて弁解を試みるが、その前に、


「あ、まずいかもですっ」


 シアが叫んだ。と、同時に止める間もなく崖下へ身を躍らせた。


「お、おい、シア!」

「……む? もしかしなくても〝未来視〟使ってた?」


 どうやら、そうだったらしい。


 雷角獣を、あらゆる手段を駆使して足止めするダリア。見事な戦いぶりだ。


 だが、あくまで〝足止め〟だ。一人で倒せそうな気配は、今のところないと言わざるを得ない。彼女自身が一人で相手をするのは〝無茶〟と認めていたように。


 それほどに雷角獣の動きに衰えがないのだ。残った角も帯電を再開し始めている。


 逆に、ダリアは息が上がり始めていた。時折、竹筒から何かを飲んだり、別の色の蜜蜂を呼んで刺してもらったりして、おそらく回復もしているのだろうが……


 やはり、ゲーム世界と現実は違う。


 ダメージが数値で算出され、HPを削りきれば死ぬゲームのモンスターとは違うのだ。ダリアでは決定力が足りない。そして、一撃でも食らえば即死してしまう。


 その事実は、十分程度の戦いでも体力と精神を削るには十二分なのだろう。


 ダリアの限界は、そう遠くない。


 事実、その瞬間は来た。なくなっていく余裕が意識を集中させすぎた。目の前のことだけに。


「里長ぁっ!!」

「っ!!?」


 特大の炎塊がダリアに迫った。満身創痍となった炎毒竜が、むちゃくちゃに放った一発だ。射線を被せないよう動いていた男達の努力を嘲笑うような偶然の一撃。


 回避を――


 ダリアには視界が色褪せたように見えた。迫る炎塊。水中にでもいるみたいにノロマな自分の体。


 そして、視界の端に映る雷角獣の角が一際大きな輝きを帯びる様。


 知っている。あれは指向性の雷撃を放つ前兆だと。


 逃げ場が…………ない。


 引き延ばされた意識の中で、それを確信したダリアは、せめてと弓を盾にしつつ身を縮めようとして。


 刹那、聞いた。その声を。可憐でありながら雄々しく、誰よりも憧れた勇者の声を。


「シャオラァアアアアアアアアアッ!!」


 頭上から降り注ぐ裂帛の気合いが込められた声と、衝撃波。


 それが、冗談みたいに炎塊と雷撃をまとめて押し潰した。ダリアの数メートル手前の地面が轟音と共に陥没する。


 傍目にはユエの重力魔法だ。それを、戦槌を振って発生させた衝撃波のみでやってのける化け物ぶり。シア流重力魔法(物理)といったところか?


「あ、あ……」


 ぺたんっと腰を抜かすダリア。もちろん、恐怖のせいではない。


 夢見ていた〝いつか〟が、目の前に〝今〟降り立ったという心理的衝撃と歓喜故に。


 スタッとヴィレ・ドリュッケンを肩に担いだ状態でヒーロー着地を決めたシアが、ゆっくりと立ち上がって肩越しに振り返る。


 そして、


「お待たせしました、ダリアさん!」


 ニッと笑みを浮べた。


 ハジメ達は思った。特にミュウと男子陣は凄く思った。


((((か、完璧だ……完璧なヒーローの登場シーンだ!!!))))


 と、めちゃくちゃ興奮しながら。ダリアさんが最高にヒロインしてる!


「……くっ、あの女。私に断りもなくヒロインしてっ。でも、シア……かっこいいっ」

「ユエがハンカチを噛んでキーッしてる……」

「ハッ!? つまり、ユエさんが悪役令嬢で、ダリアさんが真のヒロインだった!?」


 ドン引きの香織と、今後の展開を妄想してお目々キラキラのリリアーナは置いといて。


「……シア、様?」

「はい、ダリアさん。私ですよ! お久しぶりです!」

「……」


 空気を求める魚みたいに口をパクパクッさせるだけで二の句が継げない様子のダリア。あまりにも唐突かつ劇的な再会に動揺しまくっているようだ。


 これには戦士の男達もびっくり。突然、知らないウサミミ少女が天から降ってきて、モンスターの攻撃を叩き潰したのだから。唖然呆然と固まってしまうのも無理はない。


 もちろん、モンスター達にとって、そんなことは関係ないので。


 咆哮が二つ。


 己の必殺が潰された。その事実が我慢ならないというかのように、再び同じ技を放ってくる二体のモンスター。標的は当然、ダリア――否、この場合はシアだろう。


「むっ、失礼しますよ、ダリアさん!」

「ふわぁ? ふわぁ!? い、いいい、いけませんっ、シア様! そんな再会していきなりだなんて! 嬉しいですけど段階というものがっ」


 ダリアをお姫様だっこし一気にその場を離脱するシア。爆音と雷鳴が、一瞬前までいた場所を中心に轟く。


 恐るべき破壊力だ。地面の一部がガラス化している。


 そして、ダリアさんは顔を真っ赤にしてなんか言ってる。先程までの凜とした美姫の姿はどこにいったのか。シアの腕の中でこれでもかと縮こまっている。


「……なにあの反応」

「ユエ、こえぇから真顔でこっち見ないでくれ」

「ハイライト! ハイライトが消えてるよ、ユエ! 灯して!」


 ダリアを指さすユエさん。真顔だ。めちゃくちゃ真顔だ。


 ハジメは「たぶん、劇的な再会すぎてちょっと混乱してるだけだって」と引き攣り顔でなだめ、香織は香織で、瞳の光を取り戻せ! 暗黒面に落ちるぞ! 的な雰囲気で訴えている。


 それはそれとして、華麗に回避&着地したシアsideでは。


「ダリアさん、もしかしたら必要ないかもですけど――」

「ダリアにはいつだってシア様が必要でございますっ」


 相変わらず癖は健在の模様。両手をグーにして強く訴えてくるダリアさんの様子に、シアは懐かしそうに目を細めて、くすりと笑う。


 ダリアさん、ますます赤面。照れくさそうにもじもじ。……もう、彼女の目に雷角獣は映ってなさそう。


「それじゃあ助太刀しますね。両方とも倒してしまっていいですか?」

「あ、いえ! 炎毒竜――あちらの飛竜だけお願いいたします! 獣の方は可能ならば無力化を!」

「お任せあれ、でっす!!」


 シアが応えると同時に雷角獣が跳躍した。一足飛びでシアに強襲をかけてくる。


 わけが分からないまでも我を取り戻した戦士の男達が、炎毒竜の相手をするか、それともシアの援護をすべきか一瞬、判断に迷う様子を見せるが……


 当然ながら、この戦場の勝者は既に決まっている。


「伏せ!!」


 味方への警告でないことは、刹那のうちに理解させられた。


 飛びかかってきた雷角獣に、シアもまた跳び上がりながらヴィレ・ドリュッケンを振り上げる。


 それは完璧なアッパーカットだった。昇○拳ならぬ昇龍槌と表現してもいいかもしれない。


 凶悪な牙の並ぶ顎門が強制的に閉じられる。牙の何本かが折れて飛び散ったのが分かった。


 雷角獣は悲鳴を上げる余裕もなかった。打たれた瞬間に意識が飛んだから。


 ぐりんっと白目を剝いて、かつ次の瞬間には、その巨体が冗談みたいに強制連続バク宙する。そのまま地面に激突し、ぐったりと動かなくなる。ダイナミックな〝伏せ〟(強制)だった。


「う、うそ、だろぉ……」

「な、なんじゃありゃ……」

「夢? これは夢か?」


 戦士の男達が再び硬直した。目を見開いて、後ろの炎毒竜さえ一時的に忘れてしまったみたいに。


 本能が警告したのか。そんな無防備な男達には目もくれず、炎毒竜が飛び上がる。


 そして、顎門をがぱりっと開いた。炎塊ではない。正真正銘の〝竜のブレス〟を放つ気なのだ。


「シア様!」

「もちろん視えてます!」


 ブレスが放たれる。灼熱の炎が全てを灰燼にせんと迫る。


 なので、ぽんっと喚び出す赤い大玉。


「生ぬるーーーいっ、ですぅ!!」


 片手で振るわれた戦槌が赤い大玉を打つ。轟音と同時に赤い砲弾と化す大玉。


 直径二メートルの金属球が、貴様の炎など効かぬわ! と言わんばかりに正面からブレスを吹っ飛ばし、そのまま炎毒竜の腹に直撃した。


 だけでは飽き足らず、そのまま背後の大木に叩き付けた。


――ガッ、ァア、ゲぇ


 それが炎毒竜の断末魔の悲鳴だった。


 鎖に繋がれた大玉を引き戻し、そのまま宝物庫に収めるシア。


 ギギギッと軋む音を響かせて大木がへし折れていく。腹を鉄球の形に陥没させた炎毒竜が共に地面へ倒れ込んだ。


 沈黙と静寂が場に漂う。


 男達は唖然と、ダリアは陶然と。


「さて」


 戦槌をぐるんっと一回転させ肩に担ぎ直したシアが、片腕に抱いたままのダリアに輝くような笑顔を向けた。


「改めて、お久しぶりです、ダリアさん。貴女に会いに来ましたよ♪」

「はぅあ!?」


 ダリアは気絶した。なんだかすっごく幸せそうな、天に召されていそうな微笑を浮べて、カクンッと頭が落ちる。


「あれ? ダリアさん? ダリアさぁん!? どうしたんですかっ、ダリアさーーーーーーーんっ!!」


 焦ったシアからの「メディック(かおりさん)! メディーーック(かおりさぁーーん)!」という救援要請が飛んでくる。


 ハジメ達は顔を見合わせた。皆の気持ちを、ミュウが代表して問う。


「ぎるてぃ? おあ、のっとぎるてぃ?」


 もちろん、答えは決まっていた。


「「「「「「ギルティ!!」」」」」」


 人をたらし込むのは勇者の性質なのか。


 なんにせよ、たらしウサギには少々OHANASHIが必要だと、ユエ様はアップを始めたのだった。



いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


モンハンにはまり過ぎてモンハン色に染まった内容になりました、許してください。


※ネタ紹介

・左腕の装備/環境生物/アイルー/翔蟲/閃光弾etc.

 『モンスターハンター』より。左腕の装備はワールドのスリンガーをイメージ、蛇とハチドリモドキはライズの翔蟲から。アイルーは可愛い有能可愛いの三拍子が揃っている完璧な存在(おネコ様は元々完璧な存在だが)。

・昇龍拳

 言わずもがな『ストリートファイター』のリュウ、ケンより。

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― 新着の感想 ―
うん、ギルティ
すげえガチモンハン世界じゃん いってみたぁぁぁい シアさんかっこよすぎるって
[良い点] 読んでてこんなにモンハンしたくなったこと無い [一言] それはそれ、ギルティ
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