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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅥ
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ミュウの春休み お祭り騒ぎ(闘争)の最終日

※注意!! 本日は、二話投稿しています。

一つ前の話『残酷なまでの格差(女神力)』をまだお読みでない方は先にそちらをどうぞ!



『同胞が転変した神剣を握ることで、勇者様は本来の力を使えるはずです』

「あ、はい。どうもありがとうございます」


 チラチラ視線を飛ばす光輝。アウラロッドさんが死んだ目で虚空を眺めている。ヤバそうだ。いろんな意味で。


「あの、融合って……アウラの人格とかは大丈夫なんでしょうか?」

『大丈夫です。問題ありません』


 不安しかない……と光輝は思ったが、視界の端に、精神的回復を図るため、まだ隠し持っていたらしいエナドリを豪快に飲んでいるアウラロッドが映ったので問題ないと判断した。


「それで、フォルティーナ様。さっきの――」

『分かっております。シンクレアに感染種の危機が迫っていないか、ですね』


 加護を与えながらも調べてくれていたのだろう。光輝の問いで緊張感を取り戻したモアナやクーネ達に、答えは直ぐに返された。


『ご安心を。近海を含め感染種の気配は確認できません』

「そうですか……良かった……」


 安堵の吐息が次々と漏れ出す。


『ただ、海の中までとなると……広大かつ元より海棲の感染種で溢れています。紛れていると感知し難いので、引き続きシンクレア近海は警戒しましょう』

「え? 海棲の感染種で溢れてる?」

『はい。陸では活動できぬ種なので脅威ではありませんが、瘴気は海の生き物にも及びますので』


 基本的にはずっと沖合の深い海に棲息しており、大した深さのないシンクレアの大陸近海にはあまり寄りつかないらしい。


 とはいえ、遥か海の向こうからやってきた者達からすれば、まさに命がけの航海だったはずで。


「そういうことね。だから暗き者は海を嫌ったんだわ。本能的に避けずにはいられなかったのね」


 ひょんなことからまた一つ疑問が解けつつ、なんにせよシンクレアに問題はない――


『良き国だ。どの町も活気に溢れている』


 フォルティーナ様の独り言だった。思わず出た呟きらしい。


 力を少し取り戻した結果だろう。どうやら遠隔で視覚情報を得ることも可能なようで、明確に意識が覚醒している今こそ、ようやくしっかりと世界の裏側の営みを見ることができているのだろう。


 嬉しそうで、感慨深そうで、光輝達の方がほっこりしてしまうような穏やかな表情を浮かべている。


 その時までは。


『おや? 我を称える声が多いな。この町は。信仰にも似た気配を感じる……』


 真っ先に気が付いたのはミュウだった。「あっ」と声を上げるや否や、


「め、女神様! 見ない方がいいと思いますっ!」

『ん? 何を――人々が集まって我を崇めている? あれは……肖像画、か?』


 光輝達の口からも「あっ」と声が漏れた。特に、クーネがぶわっと冷や汗を噴き出す。


『よく見えないが、我の名を呼ぶ以上は我の? いやしかし、かつての依り代の姿が星の裏側まで伝わっているはずは……いや、本当に誰だ?』


 描かれている人物が少し見えたらしい。フォルティーナ様がぽかんっとしていらっしゃる。


 おそらく集会所かどこかに飾られた例の絵画を、町の人々が偶像崇拝的に崇めているところを見てしまったのだろう。つまり、たぶん、町で最も出来のよい絵画を。


 確かにフォルティーナからすれば、本当に誰ぇ? である。


「フォ、フォ、フォフォルティーナ様! 申し訳ありません! あれは人違いなのです!」

『人違い……』


 口が回らなくて変な笑い声みたいな呼び方をしながら、クーネが土下座する勢いで前に出た。必死の弁明が始まる。


「その恩恵力の貯蔵庫を作り、シンクレア救済に多大な貢献をしてくださった方の奥様なのです! あの町は、その奥様に直接救われましたので、そのぉ……」

『その?』

「あの方のあまりの美しさに、女神様に違いないと勘違いをぉ……」

『あまりの美しさに……』


 なんとなく町の絵画を凝視しているっぽい女神様。もっとよく見たいと思っているようなので、ミュウがそっと自分の宝物庫から例の絵画を取り出し掲げた。お土産とあって素晴らしく出来のいいやつを。


 フォルティーナの視線が釘付けだ!


『これが……我?』

「違います! というか、魔王様に殺されかねないので帰ったら直ぐに回収します! 全部! そうですっ、せっかくなので今のフォルティーナ様が本当のお姿だと伝えて――」

『この美の化身のような存在が認知された後に?』


 フォルティーナの視線が光輝に向いた。まるで助けを求めるかのような眼差し。


「だ、大丈夫ですよ。十分にお綺麗ですから……」


 一応言っておくと、この世界のかつての勇者も十分に美人である。女神が姿を借りるのも頷けるくらいに魅力的だ。


 だがしかし、その女神自身が〝美の化身〟と認めてしまうほど、大人版ユエ様のレベルが高すぎて。


『この者の姿を模倣すれば……』

「それだけは絶対にダメです。断固阻止します。魔神と化したあいつと、貴女を守るために死闘を繰り広げることになる」


 光輝の一切譲る気のない宣言。希望を失ったフォルティーナが、しなしなしなしなぁ~と縮んでいく。元の輝球へ。


 そして、一言。


『……ハードルが高い、です』


 アウラロッドがすっごいニマニマしていた。引きこもりたい? 引きこもりたいよね? がっかりされたくないものねぇ! 分かるぅ、その気持ち、すっごい分かるぅ~~! ちょっと殺意が湧いていたけどぉ、今ならメガトモになれるかもぉ? みたいな顔だ。殴りたい。


 全員の視線が光輝に向く。早くなんとかして、勇者様の役目でしょ! みたいな目だ。ハードルたっかぁと白眼を剥きそうになる光輝。


 必死に頭を回転させて、「そうだ!」と思いつく。もっと落ち着いてから聞こうと思っていたことを、半ばやけくそ気味に尋ねる。話題を逸らすのにちょうどいいから。


「フォルティーナ様! お聞きしたいことが!」

『申し訳ありません、勇者様。彼女に匹敵する美しき存在を他には知りません……』

「そうじゃなくて――世界の構造について聞かせてもらえませんか?」

『世界の構造、ですか?』

「はい。根源の世界に関する話です。九つの世界の根本、世界樹と全ての答えがあるという大いなる記録庫の話など、世界の全貌に繋がる話を――」

『なぜ知っている』


 刹那、空気が一変した。ビリリッと肌を刺すようなプレッシャーが光輝達を襲う。


 敵意とまではいかない。だが、明らかに拒絶と警戒の気配が、強烈な神威となって光輝達を圧迫していた。常に丁寧な言葉遣いだった光輝相手に口調が変わったのも、その警戒の強さを示しているようだ。


 子供達へ視線を向ける光輝。クーネはへたり込んでいる。陽晴も震えが止まらないようだ。ミュウも険しい表情だが、二人の手を握って支える余裕はある。


 むしろ、モアナやスペンサー達の方が苦しそうだった。カラグラ老は神威の意味が分からず困惑しているようだ。


 何はともあれ、光輝は誠実に対応すべきと気を引き締めた。


 気を引き締めて、


「アウラが話しました」

「光輝様!?」


 あっさりアウラロッドを売った。だってしょうがない。女神相手に嘘なんて吐けない。これが真実だもの。


 フォルティーナの視線が、とうとう「こいつダメかもしれない」から「こいつダメな奴だ」という蔑みの目に。


『人の子が知るべきではないことだ。なぜ、話した』


 こっちも口調が変わった。時間の問題だったろうが。


 同胞故か、遠慮容赦なしの神威がアウラロッドに降りかかる。アウラロッドは、まるでお母さんに叱られた子供みたいにあうあうと涙目で震えると、女の子座りになって、


「だってェ、世界を救ってくれるみたいだったから、本当は話したくなかったけど……もう疲れちゃってて、全然頭が働かなくてェ……」


 なぜだろう。すっごくイラッとするというか、ふてぶてしさを感じるというか、ともかくそんな感じの言い訳を口にしたのだった。


 実際、疲れ果てていたのは事実で、だから魔王の交渉術という名の口車と脅しにあっさり屈してしまったのも嘘ではない。


 もういっそ清々しいほど女神らしくない有様に、フォルティーナは逆に毒気が抜かれてしまったらしい。


 再び、この世界の勇者の姿になると、これ見よがしに、ものっっっすごく深い溜息を吐きつつ神威を収めた。


「フォルティーナ様、貴女が絶対に教えられないというのなら、これ以上は聞きません。半分くらいは好奇心ですから」

『……正直ですね』

「誓って、貴女に嘘は吐きません。ですから、俺達が世界樹の枝葉を全て復活させて、世界をあるべき姿に戻したいと思っていることも、その一助になればと、あるいは無知のせいで禁忌を侵さないようにするため世界の知識を欲していることも、悪用するつもりは決してないということも、合わせて信じていただきたいです」

『……』


 じっと光輝の言葉を吟味するように押し黙っているフォルティーナ。


 と、言葉を尽くしてる間に、自分の言葉から先程フォルティーナの説明の中に感じた引っかかりの正体に、光輝は思い至った。


「ああ、そうだ。さっきのフォルティーナ様の説明。おかしいなって思ったんです」

『……何か?』

「この世界への侵入を拒絶する結界――それってつまり、貴女は知っていたってことですよね? 少なくとも〝厄災〟がこの世界のどこかで生まれた存在ではなく、外からやってきた存在だって」

『……』

「加えて、勇者である俺はともかく、どうして南雲達は自力の転移で俺を助けに来られたのかって点も疑問です」

『……』

「たぶん、定義があるんだ。貴女が拒絶したい侵入者の定義が。だから、それに当てはまらない南雲達は結界に拒まれなかった」


 あの瘴気を発する何か。それに類する存在こそがフォルティーナが拒む〝侵入者〟だとすれば、正体不明というのは納得し難い。ある程度は理解があるはずだ。少なくとも、その存在だけを拒める結界を作れる程度には。


 という光輝の推測は、暗に認められることになった。


『そうだったとして、それが何か?』

「まさに、知識が一助となる例だと思います。〝厄災〟がどういう存在なのか、世界を巡る中で同じようなことがあった時、対応しやすい。誰かの力になれるかもしれないし、危険を予め避けることもできるかもしれません」


 どこぞの扇動家みたいに口は上手くないけれど、自分にしては頑張った説得じゃないかな? と、これでダメなら無理を言うのはやめようと、光輝は満足げに肩から力を抜いた。


 その判断をフォルティーナに委ねた姿勢が、逆に彼女の判断の天秤を傾けさせたらしい。一拍おいて、またも深い溜息を吐く。


『良いでしょう』


 確かに、自力で世界間渡航可能で世界樹の枝葉にも干渉可能な者達が、その知識に乏しいというのは逆に怖い。何より、既にアウラロッドから多くを聞いていて、その上で今代の勇者の在り方を見れば……と神の威厳をまといながら頷くフォルティーナ。


『信じましょう、勇者様を。そして勇者様の信じる者達を』

「ありがとうございます!!」


 ガバッと勢いよく頭を下げる光輝に少し苦笑を漏らし、しかし、フォルティーナは直ぐに厳しい表情となった。


『ただし、聞かせるのは勇者様とアウラロッドだけです』


 アウラロッドだけ呼び捨てになっている点はスルーしつつ。


『誰に、どれだけ伝えるか、その判断はお任せします。この決断自体が、我が信頼の証と思っていただけますよう』

「はい。肝に銘じます」


 光輝が肩越しに振り返って視線を巡らせる。クーネ達から頷きが返り、同時に光輝とアウラロッド以外が純白の輝きに包まれた。


「俺とアウラは、恵樹とフォルティーナ様を回復させながらお話を聞くよ。結構時間がかかると思うけど……」

「お任せを、勇者殿。グラスナーデが歓待いたします。いずれにしろ、新たな巫女の誕生でもありますから、お祭り騒ぎになるでしょうし」


 カラグラ老が女神復活の目処が立ったことに少し興奮した様子を見せつつも、深々と一礼して客人のもてなしを約束する。


「ふふ、そうらしいわ。先に交流を楽しませてもらうわよ、光輝」

「旅行最後の祭りなの! 光輝お兄さん、お仕事しっかりね! なの!」

「いろいろ気になりますが……ええ、陽が落ちる頃にはミーちゃんもヒーちゃんも帰ってしまうのですから、クーネはお先に楽しませてもらいます!」

「一時はどうなるかと思いましたが、ふふっ、万事とはいかずとも良き結果になりそうで安心しました」


 モアナもミュウ達も異論はないようで。


 光輝がフォルティーナに向き直り軽く頷けば、フォルティーナは淡い笑みを浮かべて頷き返した。


 直後、純白の輝きが神殿を満たして、光輝とアウラロッド以外の者達は神域から地上へと戻ったのだった。















 グラスナーデの町が、かつてない賑わいを見せていた。


 町の中心に絶え間なく楽器の音と歌声が響き、人々が好き勝手に踊り合い、一方では貴重な家畜がさばかれ大盤振る舞いされている。


「ぬへぇ~、疲れましたぁ~」

「クーちゃん、お疲れ様なの。ささ、一杯どうぞなの」

「大人気でしたね。ささ、こちらのフルーツもどうぞ」


 巫女様専用席にて、ある意味、両手に花で接待を受けているのはクーネだ。言葉通り、ちょっとお疲れ気味だ。


 ミュウ達が地上に出て、そろそろ二時間と少しが経った頃合いか。西の空が僅かに赤みを帯び始めている。もう二~三時間もすれば夜のベールが降りてくるだろう。


 王族姉妹が加護を賜り、小さな女王に至っては新たな巫女となって眷属まで授けられたと聞き、更には恵樹が復活することまでカラグラ老から声高に伝えられたグラスナーデの人々の狂喜乱舞ぶりと言ったら。


 僅か一時間で宴の用意がされ、後は食えや踊れやの大騒ぎ。


 準備の間も、宴の間も、クーネのところへは挨拶と祝福に訪れる人が引っ切りなし。


 シンクレアの領主達相手ならここまで疲れなかっただろう。挨拶を受けるのは慣れているから。


 しかし、閉ざされた死の世界で、この時を何代も重ねて待ち続けた人々の、いわゆるクソデカ感情は凄まじくて……


 期待に応えんと、女王としてだけでなく女神の使徒とも言える巫女としての言動をアドリブで必死に心がけた結果が、今のぐったりクーネだった。


 ミュウにはそっと口元へ飲み物をあてがわれ、こくこく。唇の端についた雫もハンカチでふきふきしてもらい、陽晴にはあ~んをしてもらう。


「これが……幸せ?」


 とかなんとか思わず零してしまう程度には、だいぶお疲れ気味だ。


 昨日からほとんど寝ておらず、ずっと怒濤の展開である。どれだけ覚悟ガン決まりであろうと、体はまだまだ幼いのだ。当然だろう。


 それを見て、今はモアナやスペンサー達がお祭りの主役を引き受けてくれている。ほとんどシスコンの妹自慢しか聞こえてこないが、人々も巫女の話を聞けるのは嬉しいようで、Win-Winの盛り上がりを見せている。


――大丈夫?


「ん? ふふっ。ええ、クーネは大丈夫ですよ~。ありがとう、ニュンちゃん♪」


 肩に乗った半樹半人の美少女。フォルティーナの眷属にして、巫女に与えられた神器でもある彼女の名前はニュンに決まった。


 ミュウのオタク知識からである。見た目がドリアードっぽいので、関係のあるギリシャ神話に登場する樹の精霊の名から取ったのだ。響きが可愛いと満場一致だった。


 なお、なぜそんな存在をミュウが知っていたかと言えば、もちろん、パパの部屋にファンタジーな魔物図鑑とか、萌える神話解説本なんかがたっくさんあるからだ。


 ちなみに、あくまで自然の化身であるため天恵術〝共感〟を持つクーネにしか言葉は聞こえない。……なんか名前を決める時にミュウだけ普通に意思疎通していた気がするが、何事にも原則と例外はあるからして。


「光輝お兄さんとアウラお姉さん、間に合うかな?」


 一応、刻限に帰ろうと思えば帰ることはできる。フェアリーキーは、きちんとミュウにも手渡されているから。


 とはいえ、伝言だけ残して帰ってしまうのも不義理な気がする。だが、逆に帰りの時間を無視して待ったら、魔王パパの理不尽が勇者に炸裂しかねない。


「女神様の復活は優先すべきことですし、お父様に通信で状況を伝えてもいいかもしれませんね」

「みゅ! 時間になっても戻ってこなかったらそうするの」


 なんて、自分を挟んで帰りの話をするミュウと陽晴に、クーネのプチハーレム状態で浮かれていた表情が一瞬で曇った。


「帰っちゃうんですね……もう。…………また遊びに来てくださいね!」


 見るからに落ち込み、あからさまな作り笑顔を浮かべるクーネに、ミュウと陽晴は顔を見合わせた。一拍、優しい微笑を二人揃って浮かべる。


「もちろんなの。っていうか、今度はクーちゃんが来るの。日本にも、トータスにも! オタク文化にどっぷり沼らせてあげるから覚悟するといいの!」

「それに帰っても通信機でお話できます。これからクーちゃんは大仕事が待っていそうですけど、お構いなしに連絡いたしますからね? ふふ、どうか面倒と思わず構ってくださいな」

「ミーちゃん、ヒーちゃん……はい、はいっ! クーネはさぼりの達人ですから! いつでも連絡してください! お仕事だってさくっと終わらせて、絶対にそっちへ行きますから! 有能の女王とはクーネのことですよ!」


 寂しさと嬉しさでちょっぴり目尻に涙の雫を溜めながら、握り締められている左右の手を胸元に掻き抱くクーネ。ミュウと陽晴の手の温もりが伝わってくる。


 ちょうどタイミングよく給仕をしに来たお姉さんが、寄り添っておでこをくっつけ合うようにして笑い合う少女達を見て固まった。


「そうか、こういうのもあるのね……」


 新世界の扉を開いたらしいお姉さん。とっても良い笑顔を浮かべた後、そのまま膝からくずおれた。あまりに尊い光景に足腰が立たなくなったらしい。


 お姉さんほどではないにしろ、他の者達もなんとなく少女達の友情空間に侵し難いものを感じたらしい。


 再び楽しそうにおしゃべりに興じ始めたミュウ達の邪魔をせぬよう、遠巻きに微笑ましそうに眺めるだけで近付こうとする者はいなかった。


 そうして、そのまま帰りの時間まで旅行最後の時間を共有――



 できないのが、きっとそれぞれの世界でも特別な少女達の運命力というやつなのかもしれない。



 きゃあっと悲鳴が上がった。歓声ではない。陽気な笑い声の響く町の雰囲気を切り裂くような危機感に満ちた叫び。


 誰もがハッと視線を転じる。方角は港の方。


 そこに、


「え?……しょう、き?」


 誰かの呟きがやけに明瞭に響いた。あり得ないことに、けれど確かに、黒い霧がそこにあった。


 赤ん坊くらいの大きさの瘴気の塊が浮かんでいる。まるで町の中心に集まっている人々を観察でもしているようだった。


 一瞬の停滞。思考の空白。


 直後、瘴気の塊は動いた。翼が広がる。四肢と長首が生え、は虫類の頭部が形成された。


 それは、黒い小型の竜だった。


 顎門が開かれ、翼も一打ち。


 目の前の獲物――最初に悲鳴を上げた年配の女性へと襲いかかる! あまりに突然の出来事で女性は当然、カラグラ老さえ術が間に合わない。


 あわや、女性の喉笛が食い千切られるかと思われた――その刹那。


 パァンッと乾いた破裂音が。その音に掻き消されたが、小さな「ひょわっ!?」という悲鳴も。


 瘴気の黒竜――今朝、交戦した影竜に酷似した感染種が弾け飛び霧散した。


 惹き寄せられるように人々の視線が炸裂音の方へ向く。


「効果が薄い」


 どんなぁーを両手で構えるミュウがいた。片膝立ちの凜とした姿勢で、右腕を伸ばし、左腕は緩く曲げて銃を支えている。綺麗な射撃体勢だ。普段の天真爛漫さが嘘のように鋭い目つきである。


 女性を助けるため、咄嗟に抜き撃ちしたらしい。驚いたクーネがこてんっと後ろにひっくり返っている。


「カラグラお爺さん!」

「感謝します」


 頭部が弾けても、瘴気に転変できる能力が同じなら復活する。そんなミュウの予測は正しかったようで、瞬く間に復元されていく小型影竜。


 だが、再び行動に移ることは叶わなかった。一瞬の時間稼ぎは女性を窮地から救い出すに十分だった。


 カラグラ老の恩恵術が間に合う。超局所的な火炎旋風が瘴気を巻き込むようにして燃やし尽くしてしまった。


 近くの青年が素早く女性を助け起こして退避してくる。


 ミュウのファインプレーでどうにか犠牲者は出なかった。だが、胸を撫で下ろすのも束の間、由々しき事態に場が騒然となる。


「静まれぃ!!!」


 カラグラ老の一喝が轟く。頬をぶっ叩かれるような気迫が伝わってくる。


「単独行動厳禁! 警戒態勢を取れ! 全方位索敵を密にせよ!」


 流石は何千年も生き残ってきた町の者達だ。あり得ない事態から我を取り戻せば行動は早かった。


 だが、どうやら敵の動きはもっと早かったらしい。


(おきな)! 東! 飛行種の群れ!」

「数は!」

「か、数は……」

「……どうした! 早く報告せよ!」

「す、推定……千っ。いや、もっといる! 距離三百! とんでもない速度だ! まっすぐこっちに向かってくる! 隠蔽が効いてない!」

「なんだと……」


 さしものカラグラ老もこれには度肝を抜かれたらしい。


 確かに感染種が同種で群れを作ることは珍しくない。しかし、この規模の群れが一斉に動くというのは珍しい。しかも、隠蔽されているはずのグラスナーデを迷わず目指しているとなると、群れの大移動に偶然にもかち合ったということも考えられない。


「カラグラお爺さん!」

「! ミュウ殿!?」


 いつの間にか、ミュウが高い樹の上に登っていた。衣装まで変っている。多くの装備を身につけた上半身に、ホットパンツとショートブーツ。戦闘用衣装だ。ワンレンズタイプのサングラスをつけた顔を東へと向けている。


「奥に大きな黒い竜がいるの! ミュウ達が今朝戦って倒したはずの奴!」

「黒い竜? 先程の小型のものは……」

「ごめんなさいなの! たぶん、あいつの瘴気の欠片が船に付いていたんだと思うの! 黒い竜の瘴気になれる能力からすると、たぶん、本当は本体が別にいて分体の位置を感知できるんだと思う!」


 早口でまくし立てられた情報は、推測を多分に含むもの。しかし、状況証拠からすれば信憑性は高い。でなければ、どうやってこの町の隠蔽を破れるというのか。


 モアナ達の顔色が悪くなる。自分達が町に危機を招いてしまったと。


「謝る必要はありません! 貴女方より遥かに感染種を知りながら、気が付かなかった我等の浮かれ具合こそ間抜けというもの! それに、この程度の危機、私の祖父は笑って対応していました。問題などございません!」


 よく通る声が町中に響き渡る。わざわざ風の恩恵術で拡声したらしいそれは、きっとグラスナーデの人々にこそ聞かせたい言葉だったのだろう。


 彼等からしても千体を超える襲撃を凌ぐのは容易ではない。犠牲なしには不可能な数字だ。個体の能力次第ではもっと出るだろう。カラグラ老の祖父の話は本当だが、それとて三百体にも及ばない程度だった。


「さぁ、こちらへ! 再び神殿へ参りましょう。巫女殿と共に避難を!」


 カラグラ老の言葉に異論や不満を示す者は、少なくとも見える範囲にはいなかった。グラスナーデの人々は、きっといつだって危機と滅亡を隣人に生きてきたのだろう。一時の驚愕が過ぎ去れば、誰もが覚悟の決まった顔付きで動いている。


 だが、そんな覚悟を嘲笑うかのように追撃の凶報が届いた。


「南から別種混合の群れ! 同じくらいいます! たぶん大移動に惹かれたんだ!!」


 それを聞いた途端、真っ先に動いたのはモアナだ。


「お姉ちゃん!?」

「先にBD号へ行くわ! 操船は未熟でも固定砲台として迎撃だけならできる! 南側を食い止めるわ! スペンサー! クーネ達を護衛して後から来なさい! 操舵室が一番安全よ!」

「承知!」


 天恵術〝加護〟を自分にかけ身体能力を強化。今までの比ではない速度で港の方へ走り去っていく。


 ミュウが樹の上から飛び降りて着地すると同時に、クーネの端末に通信が入った。


『クーネ! 状況はフォルティーナ様から聞いた! 早くBD号に、いや、念のためシンクレアに転移で避難するんだ!』

「え、でも、光輝様は?」

『……実は、今の群れ以外にも誘引された別の群れが後方から迫ってるらしい。けど心配ない。フォルティーナ様に手立てがある。あと少し回復すれば、また大半の力を使ってしまうけど、戦場全体にもう一枚、隠蔽の結界を展開しつつ大半をどうにかできるそうだ』


 そうすれば、大きな力を使っても、ここでの戦いを遠方の感染種に察知されないまま凌げるという。


『カラグラさん、そこにいますね』

「はい、勇者殿」

『モアナがBD号を起動してるはず。協力してどうにか三十分、耐えてください。力が漏れないようにしつつ、必要なレベルまで回復するのに俺達も集中しないといけません』

「承知しました」


 凄い剣幕で指示を出す光輝に、クーネは咄嗟に言葉を返せず、しかし、確かな意志を以てミュウを見た。シンクレアへのゲートを開くキーは、ミュウが持っているから。


 クーネの目には拒絶があった。女王で、そして巫女でもある自分が背を向けて逃げるなどできないと。


 姉も光輝も、〝逃げろ〟〝守られろ〟と言う。


 大切に想うが故と分かってはいる。戦士ではない自分が戦場にいたとて邪魔にしかならないことも重々承知だ。


 でも、けれど……


「任せろなの」


 わがままでさえあるクーネの気持ちを、目の前の友人は不敵な笑みを以て肯定した。


「光輝お兄さん、ごめんなさいだけど言う通りにはできないの」

『え?』


 そう言うや否や、クーネと陽晴の手を取って走り出すミュウ。意表を突かれたカラグラ老とスペンサー達が慌てて追いかける。


「ミーちゃん、どこへ!?」

「クーちゃんの望むところへ!」


 なんて言いつつ、ミュウは何事か呟いた。途端に、ショートブーツが真紅の光をうっすらと纏い、軽く地面を蹴るや否や、手を繋いだクーネや陽晴も一緒にふわりと大ジャンプ。重力魔法が付与されたブーツの機能だ。


 着地先は救護所の屋根上だった。宝物庫から狙撃銃〝しゅらぁーげぇん〟を取り出しながら、陽晴に言葉をかけるミュウ。


「ごめんなさい、ヒナちゃん、巻き込むの。どうしても嫌なら送る――」

「それ以上は言わせません。わたくしも、ここで背を向けることは矜持に反しますので」

「みゅ! ヒナちゃんならそう言うと思ったの。クーちゃんも戦闘用の恩恵術は使えるでしょ? 一緒に、前線を抜けてきた敵から守ろうなの。動けないシルトレーテの人達を」

「ふ、二人共……」


 クーネの気持ちを汲んで、自分達にもできることをやろうと言うミュウと陽晴に、クーネは胸の奥がキュッと締め付けられるような心持ちになった。


 もちろん、大反対するのは光輝だ。


『ダ、ダメだダメだ! 俺が傍にいないのにミュウちゃん達だけで戦うなんて絶対ダメ! これは遊びじゃないんだぞ! 相手は容赦なく殺しにかかってくる! 実戦なんだ!』

「分かってるの」

「分かっております」


 命がけの実戦なら、それも世界の命運をかけたような実戦なら経験済みの少女二人。光輝は一瞬、言葉に詰まった。確かに……分かってるよなぁ、と。


 その隙に、ミュウが言う。狙撃銃〝しゅらぁーげぇん〟の銃身からスタンドを伸ばして屋根に固定し、赤く塗られた弾丸を給弾口(チャンバー)に装填。


「光輝お兄さん、心配ないの。前も言ったけど、ゲートの準備はしておくし、いざとなればクーちゃんを担いででも逃げるの。万が一の時はパパにも連絡を取る。いつだってユエお姉ちゃん達が駆けつけてくれるんだから、そもそもこの戦場に心配なんてないの」

『そういう問題じゃない! そもそも子供が戦うなんて――』

「子供だって、逃げることで大切な何かを失うことはあるの」


 大切な人の命だけではない。矜持、信頼、未来のための何か……


 一般的な〝普通〟とは縁遠い人生を余儀なくされている、この三人娘に関しては特に。


 スコープを覗き、教えられた通りにゆっくりと呼吸する。拡大された景色の中、影竜と目が合った気がした。


 吐いて、息を止める。


「外しはしない」


 あれほど訓練したのだからと。パパの信頼を勝ち取ったのだから、と――引き金を引く。


 轟音と同時に真紅の光を纏う弾丸が飛翔した。一キロメートルを切るところまで迫っていた群れの先陣を擦り抜けるようにして中程へ。


――!!?


 声にならぬ悲鳴が上がった気がした。影竜が消える。空に出現した火炎の津波の向こう側へ。


 最上級の広範囲炎属性魔法〝劫火浪〟を封じた特殊弾だ。分体なら重力球による吸引は警戒しているかと思い、逆の拡散型を撃ったのだが正解だったらしい。


 加えて見事に直撃だ。体内から劫火が溢れ出し、逃げる間もなく空間を炎が埋め尽くしたのだ。周囲の群れをも巻き込んで。これは堪らないだろう。


 前線からざわめきが響いてきた。救護所の前に追いついたカラグラ老やスペンサー達が足を止めて唖然とした面持ちで東の空を見ている。


「光輝お兄さん、実を言うとミュウ、サバを読んでます」

『いきなり何!?』

「ミュウ、本当は七歳になりました!」

『どういうこと!? いや、このタイミングでカミングアウトすることぉ!?』


 することなのだ。光輝を納得させる、とある秘密の暴露――の前提として。


「あのね、怒らないでほしいのですが」

『言うこと聞いてくれなくて、もう既に怒ってるけどなんだい!』

「パパは、最初から光輝お兄さんを護衛としてはまったくちっとも信頼していません!」

「エッ!?」


 と驚きの声を上げたのはクーネだ。旅行の経緯を聞いていたので、魔王一家が来ていない理由も知っている。


『それは、あいつも俺を嫌ってるから――』

「そうじゃなくて」


 次弾装填。次は黄色の弾丸。


 やはり重力砲弾を警戒していたのか、群れの端に分体を紛れさせていたらしい影竜が、一気にスケールダウンしているものの再び復元する。それに合わせて――狙撃。


 今度は空に蜘蛛の巣状の雷が迸った。さっきのと合わせて小型種が百体は地に落ちる。当然のように直撃を受けた影竜はまたも悲鳴を上げて霧散。


 前線に到達するまでに、できる限り削るつもりで直ぐさま次弾装填。


「パパは光輝お兄さんを理解してるの。大切な人より、その他の大勢を選ぶ光輝お兄さんほど、いざという時の護衛として信頼できない奴はいないって」

「あっ」

『……うぐぅ』


 声を上げたのはやっぱりクーネ。姉の命と後方領地の人々を天秤にかけて後者を取った時のことを思い出したのだろう。確かに、光輝はそういう人だ。だから、勇者なのだ。


 なるほど。確かに、勇者ほど唯一無二の誰かを預けるに相応しくない者はいない。


 もちろん、光輝は死力を尽くすだろう。ミュウ達を守るためなら命だって投げ出すに違いない。だが、それでも、選択を迫られたら……誰よりも自分を憎みながら大勢を選ぶに違いない。自分でも、きっとそうするだろうと思ってしまうから反論もない。


「だから、付き添いとして都合が良かったのは本当だけど……パパ達を煩わせずにミュウが旅行に行く本当の条件は別にあったの」


 群れの後方に隠れた元のサイズの三分の一もなくなった影竜を見つけ出し、「四百メートルなんて目と鼻の先。――これで決める」と三度目の狙撃。


 なんとなく緊急回避時の影竜の動きを理解していたのか、僅かに逸れて放たれた弾丸は、回避行動を取った影竜に吸い込まれるようにして直撃した。


 まるで煙幕みたいに白煙が一気に広がる。瘴気も、周囲の小型も更に五十体近くがまとめて石化し地上へ落ちていく。


 同時に、南側でもBD号から怒濤の砲撃が放たれ、爆炎や砂塵と共に大型感染種が宙を舞う光景が見えた。


 それらが、ようやく客人の先制攻撃だと理解した最前線からドッと歓声が上がる。


 ふぅと一息。


「自分の身は自分で守れる強さを持て」


 それが、ミュウが家族なしで異世界へ旅行するための条件。合格ラインは非常に厳しかった。


「アワークリスタルの遅滞空間で、一年以上みっちりと訓練したの。合格を貰えるまで。訓練ゲームで、何度エンドウに殺されて、殺し返したかもう覚えてないの」

「なぜそこで遠藤様が!? 殺し合いとは!?」


 初耳の陽晴ちゃんが激しく動揺している。かつてユエと香織が事故って入り込んでしまった、魂魄魔法を利用したアーティファクト版完全没入型VR訓練ゲームの存在を知らないのだから無理もない。


 何はともあれ、だ。


「パパは言ってくれたの。――ミュウは実力で俺を認めさせた。自分の望みを押し通した。それが本当に望むことなら、これからも自分で選んで、決めていいって」


 だから、友達の逃げたくないという気持ちを応援したい、この町の人達の助けになってあげたいという己の望みのために、決めたのだ。


「野郎共ぉ! パーティーの時間なの!!」


 宝物庫が再び光る。


 直後、救護所の屋根の上に七色の噴煙がバァンッと噴き上がった。香ばしいポーズを決める多脚の悪魔共――大罪戦隊デモンレンジャーッ!!


「るーちゃんとべるちゃんとまーちゃんは護衛について! さーちゃん、皆と一緒に東の前線へ! ぶちかませなの!!」


 ヒィーーーーハァーーーーッ!! なんてテンションの高い叫びが木霊した。多脚ゴーレム七体のうち、三体がそれぞれ屋根の端に、残り四体が屋根から飛び降りてカラグラ老達の前へ着地。


 驚きのあまり超速バックステップで距離を取るカラグラ老へ、状況を理解しているらしいさーちゃんことサタンさんが片手を差し出す。


 なんとなく、「乗っていくかい? 楽しい楽しい前線行きだ」と言っているような気がしないでもない。


 とはいえ、もう時間がないのは事実。


 影竜の姿は見当たらずとも、小型翼竜どもは我こそ一番に食らいつくと言わんばかりに進撃してくる。


 前線にカラグラ老がいるのといないのとでは大違いだろう。


「行ってくださいっ、カラグラ様! クーネは、クーネはここで戦います! 友国の女王として、女神の巫女として!」


 ミュウの言葉を聞いてか、動揺を収め凜と言い放つクーネに、カラグラ老は何かを見たようだ。目を細め、大切な命令を賜ったかのような神妙な顔付きとなり、


「御意」


 そう一言だけ返して、さーちゃんの背に飛び乗った。ブースターを噴かせてあっという間に前線へ飛んでいく姿を見送る。


『ああもうっ、南雲へのお土産話は良い感じに伝えてくれ! それと、少しでも危機感を覚えたら、とにかく一旦逃げる! あくまで時間稼ぎだからね! 絶対に無理しないこと!』

「だが、倒してしまっても構わんのだろう?」

『なんか不吉な気がするからやめて。どうせネタだろ? まったくっ、ほんとにあの魔王にしてこの娘ありだよ!!』


 いい加減に光輝の方も集中したかったのだろう。雑な返しを最後に通信は切れた。


「そういうわけで」


 前線の攻撃が始まった。様々な恩恵術が空へ花火の如く上がり、次々と翼竜を撃ち落としていく。


 砂塵が舞い上がって防壁となり、あるいは絡みついて強引に地上へ引きずり落とし、砂を固めた円錐が地対空砲撃となって乱撃される。町の防衛機能も動き出したようだ。


「エガリたん、いるんでしょ?」

「いつからお気づきに? お嬢様」


 ミュウの背後から滲み出るようにして三対六枚の妖精羽を展開した美貌の妖精エガリさんが出現した。


「パパが切り札的な護衛をつけないはずがない! そういう意味でもミュウに危険は皆無!!」

「なんという慧眼! 流石はお嬢様! よっ、魔王の愛娘!」

「よせやい! 照れるの!」

「では、わたくしめも改めまして挨拶を! 超絶可憐清楚系天才美少女ようせ――」

「エガリたんは南側をお願い! モアナお姉さんを手伝ってあげてほしいの! クーちゃん、ヒナちゃん、背中合わせで戦うの!」


 無視された超絶(略)妖精エガリちゃんは、それでもしっかりとミレディポーズ――左手を腰に、右手は横ピースで目元に添えてウインク! 片足はキュッと上げて!――をしてから素直に南側へ飛んで行った。


 いざとなれば残像が発生するほどの超速飛行で戻ってこられるので、前線で数を減らす方が護衛になると踏んだのだろう。大罪戦隊もいるし、と。


「では、わたくしも。……藤原陽晴の名と血のもとに命じます。おいでなさい、我が前鬼――夜々之緋月」


 呪符を一枚。瞑目して厳かに契約の言霊を響かせれば、


「おやまぁ、流石は陽晴。行く先々で闘争が満ち満ちていんすぇ。もしやわっちへの贈り物でありんしょうか♪」


 大江山の酒呑童子。最強の鬼が降臨した。一度は映像越しに見たことがあるクーネやスペンサー達だが、それでも直ぐ近くに顕現した魔性の美に息を呑んでいる。


「お遊びではありませんよ、緋月。貴女も南側をお願いします」

「護衛は……なるほど、結構。ふふ、中々歯ごたえがありそうでありんすねぇ♪」

「ほ、ほどほどにですよ、緋月! 建物と人間、船は壊さないで――」


 ご機嫌で南の最前線へ突貫した緋色さん。踏み込みの衝撃で救護所の屋根が砕けた。下の方から「アッ、イタイ!」なんて声が聞こえてくる。誰か目覚めたのかもしれない。


 大丈夫ですかぁ~と声をかけつつも、管狐を解放して護衛とし、更には呪符を撒いて一息に十体の〝式〟まで作り出し、建物の周辺を固めさせた。


「ええっと、スペンサー! 近づいてくる地上の敵がいたらお願いしますね!」

「陛下はどうなされるんです! お側で我々が護衛を――」

「いえ、たぶん、クーネも戦力になれます。この子が教えてくれるから」


 その時、ついに前線を抜けた翼竜が数体、南からも高速で地を這うイグアナのような感染種が数十体、救護所内の瘴気と弱った人間に引き寄せられてか真っ直ぐに向かってきた。


 クーネが肩に手を伸ばす。ニュンが愛しそうに飛び乗った。直後、純白の光を放ちながら転変。恵樹から生まれた杖――恵杖(けいじょう)とでも呼ぶべきか――が、クーネの手に収まる。


 ニュンの導きに従い、いつものように《再生》を行使する。杖に芽が出て、瞬く間に花が咲く。そこから何十と種が零れ落ち、


「祈願する――風よ」


 それだけで発動した風の恩恵術が種を建物の周囲に蒔いた。


 そうして、


「旅行のフィナーレには――」

「悪くはございませんね」

「あははっ、二人共、肝が据わりすぎです! クーネの友達はやばい子揃いです!」


 不敵に、上品に、楽しげに、笑い合って。


 ライフル弾が次々と遠距離の敵を撃ち抜き、中距離に迫った敵には真言による浄化の白炎や意識惑乱の呪いが襲いかかり、近距離まで近づけば突如地面から飛び出した強大な植物が蔓で絡め取り、あるいは養分を吸い取るようにして絶命させる。


 奇しくも別世界に生まれながらも出会い友情を育んだ少女達は、かつてハジメと光輝と浩介が妖精界の天樹を守るために背中合わせで戦った時のように、互いを守りながら敵を一切寄せ付けず。


 当然、大罪戦隊のガトリングやミサイルによる弾幕、管狐の狐火や〝式〟の命を惜しまない猛攻、スペンサー達の鉄壁の守りもあるわけで。


 最前線でも大罪戦隊とエガリ&緋月、そしてBD号が大暴れ。


 ならば、結果は言わずもがな。


 この一度は危機感に満ちた戦場に、敗北などあるはずもなく。


 そうして。


『みな、よく耐えた。これより我が――どういうことぉ?』


 聞いたこともないフォルティーナ様の素っ頓狂な声が響いたのだった。
















「パパぁ! たっだいまぁ!」

「ただいま戻りました」


 ミュウと陽晴が無事に帰還した南雲家にて。


 ミュウはパパの腕の中へダイブ、陽晴はお迎えに来てくれていた浩介に頭を撫でられてもじもじする。


「ミュウ、楽しかったか?」

「最高だったの!」

「陽晴ちゃんも?」

「はいっ、遠藤様!」


 旅行の感想を聞かれた二人は満面の笑みでそう答えた。陰の一切ない、本当に楽しかったのだと分かる素敵な笑顔だった。


 これにはハジメ達もにっこりだ。


 だから、


「あ、そうだったの、パパ」

「うん? なんだ?」

「これ、補充品リストなの。光輝お兄さんから早急に頼むって」

「……補充品? なんでわざわざミュウに持たせたんだ?っていうか、船備え付けの宝物庫には一年はたっぷり飲み食いできるだけの備蓄を入れたはずだが……大盤振る舞いのお祭りでもしたのか?」

「ある意味そうなの。大盤振る舞いのお祭り大フィーバーって感じだったの! 特に最終日が!」


 ちょっと疑問はあるものの、そうかそうかと笑顔でリストを受け取ったハジメは、何気なく内容に目を落として――


 一拍おいて、笑顔のままギギギッとミュウを見下ろした。


「ミュウ、お祭りってどんな?」


 ハジメの様子に小首を傾げるユエ達。陽晴だけ苦笑いしており、浩介がそれに不思議そうな表情をしている中、ミュウは満面の笑みで答えた。


「もちろん、銃弾と術と瘴気が大盤振る舞いの、命をかけた闘争という名のお祭りなの!」


 空気が止まる南雲家。ユエがそっとハジメの手からリストを取り、シアや菫達にも見えるように内容を確認すれば、どこの戦争に参加してきたんだとツッコミを入れずにはいられない弾薬消費量で。


 娘の旅行の内容を想像して、ふっと意識を失いかけるレミアママをティオが慌てて支える。ユエ達も「どうしてこうなった……」「一番イージーな世界だったのでは?」とドン引き顔だ。


「パパ?」


 そっと異世界通信可能なスマホを取り出したハジメは、笑顔のまま電話をかけた。


『も、もしもし――』

「あぁ~まぁ~のぉ~がぁ~わぁ~くぅ~~~~~ん?」

『!!? 人違いです』


 ブチッと切られた。ストンッと表情が抜け落ちるハジメパパ。


「パパぁっ、落ち着いてぇ! これには事情があるの!! ああっ、ゲートが開かれた!?」

「えっ、ミーちゃん!? ヒーちゃん!? どうしてまた!?」

「クーちゃん逃げてぇ! 光輝お兄さんを連れて遠くへ逃げてぇ!!」

「遠藤様ぁ! 魔王様を止めてくださいまし!! せっかく危機を乗り越えたばかりですのに! 魔王降臨ではグラスナーデの方々が哀れすぎますっ!!」

「いや、意味が分からないんだけど!?」


 盛大にドッタンバッタンして、しばし。


 ミュウが早口で大方の事情を伝えると、一応、ある程度は覚悟の上で送り出したこともあって、ハジメは割とあっさり落ち着きを取り戻した。


 そうすれば、自然と話題はお土産話へ。陽晴のものと分けながらお土産も広げ、いかに楽しかったか夢中で語るミュウと陽晴に、南雲家のリビングがほっこりと温かみを帯びていく。


 だが、怒濤のラスト二日と、帰ってきた安堵感はやっぱりあるのだろう。二人の限界は早かった。あっという間に船を漕ぎ出す。


「とりあえず、今日はお開きだな」

「みゅ~」

「ミュウちゃん、また明日、お話しましょうね」

「ヒナちゃん、また明日なの~」


 なんて、今にもコテッと倒れそうなのに、わざわざ抱き締め合ってお別れするミュウと陽晴。


 誰もが「あらぁ~」と堪え切れない笑みを浮かべつつ、浩介が陽晴を連れ帰り、ミュウもレミアが軽くお風呂に入れてベッドヘ。


 愛しそうに頬を撫でる母の手の感触も、ぱたりと閉じた扉の音も、もはや微睡みの極致にあるミュウの意識には上がらず。


「んにゃぁ……明日からは~、小学校の準備してぇ……クーちゃんを招待…………する計画をぉ立ててぇ~………にゅふふっ……まったく、大忙しなの………」


 すとんと意識は落ちた。


 いろいろありすぎた旅行の最後の夜。


 眠りに就いたミュウの表情は、とても満足げで幸せそうだった。





いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


ミュウの春休み、長々とお付き合いいただきありがとうございました!

書いているうちに書きたいことがどんどん増えてこの有様ですが、少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


更新に関してですが、次週はお休みさせていただきます。

実は今回連続投稿したのは9月中にやらなきゃならない私用が溜まっているからでして(汗)。

なので、次回更新は10月7日を予定しています。よろしくお願いいたします!


※ネタ紹介

・もう疲れちゃってて、全然頭が働かなくてェ

『ゼルダ・ティアキン』のコログ構文より。疲れて動けないコログ。最初は可愛いと思っていたのに、いつしか虚無顔でコロ虐するように……あると思います。

・役目でしょ

 『モンハン』の「しっぽきってやくめでしょ」より。

・外しはしない / これで決める

 『AC6』のラスティ兄貴より。いつ如何なる時も格好いい。狙撃時の格好良さは異常。もう本当に兄貴。つまり、かっこいい。

・倒してしまっても構わんのだろう。

 『Fate/stay naight』のアーチャーより。

・あぁ~まぁ~のぉ~がぁ~わぁ~くぅ~~~~~ん?

 『とある』の一方通行が木原くんを呼ぶ時のイメージ。

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― 新着の感想 ―
木原先生より初春と黒子のイメージでした笑
作中世界のシト達や読者も口を揃えてアウラロッドを残念扱いしますが………他所の世界からピンは雑魚キリは神レベルが流れてくるが故に管理が変態な妖精界がオカシイだけです。他の女神を妖精界に連れて逝ったら漏れ…
>あぁ~まぁ~のぉ~がぁ~わぁ~くぅ~~~~~ん? これわ怖いw
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