ミュウの春休み 残酷なまでの格差(女神力)
光輝達に姿を見せた優しい声音の――棒女神様。くねくね、よろよろ。
予想の斜め上にぶっ飛んだお姿だったせいか、光輝はショックを受けて顔を両手で覆ってしまった。他の者達もぽかんっと間抜け面をさらしている。
そう、誰もが、だ。なぜか、カラグラ老まで「な、なぜ、そのようなお姿に……」と激しく狼狽えている。
そんなカラグラ老の声を聞いて、光輝はハッと我を取り戻した。
(いや、待て。そう言えば物凄く衰弱してるって話だった……あれ!? 俺ってもしかしなくても物凄く失礼なことを!?)
第一印象が地に落ちかねない! と血の気が引く。
『勇者様?』
「あ、いや、えっと――そのお姿が予想外で少し驚いてしまいました! 失礼な物言い、お許し下さい!」
思いっきりテンパった挙げ句の必死の謝罪が、無数の巨大な樹の根で作られた地下神殿に木霊する。
僅かな間、沈黙が降りる。その間にモアナ達も我に返って一礼。不快に思わせたかと緊張が走るが……
『申し訳ありません』
返ってきたのは意外にも謝罪返しだった。
『本来の依り代を失って久しく……今の我は著しく力を失っておりますが、しかし、それでも依り代なき我の前に立てば幼子には大きな負担となりましょう』
「あ、もしかして、それで急遽用意してくださったのがその……」
『人の子は人に近しい姿の方が話しやすかろうという思惑もございましたが……却って驚かせてしまったようですね』
カタカタ揺れるカオナ○仮面の棒人間は中々に不気味だ。声音と雰囲気で申し訳なさは伝わってくるが。
「ほ、本来のフォルティーナ様は、それは大変に威厳のあるお姿です」
カラグラ老のフォローが痛い。たぶん、これじゃなかったんだな……とフォルティーナ様も理解したようだ。世俗では主に〝スベった〟〝出オチ〟などとも言うが、あえて口にはすまい。
『本来の姿に戻りましょうか?』
「「「「「ぜひお願いしますっ!!」」」」」
満場一致だった。アウラロッド以外。あと、カラグラ老の声が一番大きかった。切実さを感じるくらい感情がこもっていた。
パァッと純白の輝きが地下神殿に満ちる。棒人間がくたりと力を失い、そのまま地面の根に吸収されるようにして消えていく。
後に残ったのは、ふわりと宙に漂う純白の輝く球体だった。
大きさはバレーボールくらい。このシンプルな輝球がフォルティーナの今のデフォルトの姿らしい。
『幼子よ。我が神威が辛くはないか?』
先程までよりずっと魂に直接響くような声音が伝わってくる。
「ご、ご配慮いただき感謝の念にっ堪えません! 畏敬の念は抱けど、御身を前に辛いなどということは決して!」
クーネが冷や汗を流しながらも懸命に答える。言葉に反して、気を抜くとへたり込んでしまいそうなくらいの神威は感じているらしい。
モアナやスペンサー達ですら、うっすらと冷や汗を浮かべている。
当然だろう。クーネ達にとって大いなる存在との対面であるからというのもあるが、
「きれいなの……まるで小さな銀河みたい」
「ええ、本当に。ただ存在するだけでその場を神域にする清浄な力を感じます」
小さな呟きを交わすミュウと陽晴の言う通り、その輝球は確かに人智を超えた美しさと神威を放っていた。
輝球は、よく見れば極小の輝く粒の集合体らしい。中心に一際強い輝きを放つ核があって、それを中心に星の数ほどの輝く粒が渦巻くように流れている。まさに銀河だ。ならば、それを内包する輝球は小さな宇宙というべきか。
自然と傅きたくなるようなプレッシャーを感じるのに、ずっとここに居たいと思わせる清涼な空気も感じる。
正しく、この木の根でできた神殿は、女神フォルティーナがその存在だけで作り出す神域なのだろう。
「これほどの力を感じるのに、疲弊されているというんですか?」
『恥ずべきことですが、幼子でも耐えられる程度の神威を抑えることもできず、そして、それが限界である状態なのです』
おそらく、この輝球はフォルティーナという存在の〝核〟ともいうべきもので、今はそれが剥き出しの状態なのだろう。人間でいうなら魂だけの姿というべきか。
同時に、陽晴には軽い冷や汗と体の強ばりを与える程度で、ミュウに至っては神クラスの敵に襲われたことがあるせいか、あるいは神クラスの魔王一家の一員であるせいか、少し畏まっている程度であることが、確かに彼女の疲弊具合を示していた。
『それでも負担には違いないでしょう。――幼子よ、堪え難く感じたなら言いなさい。再び、あの人形に宿り――』
「「「ぜひそのままでお願いします!!」」」
ありのままの君が好き! みたいな子供達の本音が綺麗にハモった。女神の言葉に被せるという不敬に思い至らないくらい前のめりのお願いだった。
フォルティーナ様、ちょっと口ごもる。そんなにダメだったのか、あの即席の依り代……と思っているかどうかはさておき。
「ご挨拶が遅くなり申し訳ありません、フォルティーナ様。改めまして、勇者の天之河光輝と申します。お会いできて嬉しく思います」
光輝が代表してクーネ達のことも紹介していく。クーネ達が感極まったように謁見の栄誉を賜ったことへの感謝を口にしていくと、フォルティーナもまた、そんな一人一人に嬉しさの滲む声音で律儀に言葉を返していく。
この世界の創世からの女神に名を呼ばれるという望外の名誉に、狂喜乱舞したい気持ちを必死に抑えている様子のモアナやクーネ達。
ただ、勇者である光輝や元女神であるアウラロッドに対するのと、クーネ達に対するのとでは明確に口調が違っていて、愛し子達への気遣いはあれど立場の線引きもまた明確な女神なのだと察することができた。
そんなフォルティーナの言葉遣いの区別に気を良くしたアウラロッドが、「まぁ? 私とモアナでは立場が違いますから?」みたいなマウントを視線で取りつつ一歩前に。
「私達、仲良くなれそうですね。お近づきの印にこれでも――」
まだ隠し持っていたらしいエナドリを笑顔で差し出そうとするので、光輝が〝無念有想〟の境地で刹那のうちに奪取した。
守護らねば! フォルティーナ様がエナドリ依存症女神にならぬよう守護らねば! という一心で。
「な、何をするのですか、光輝様!」
「それはこっちのセリフだよ。そもそもフォルティーナ様はこのお姿なんだから、お飲みにはなれないだろ」
「それは……木の根にかけるとか! 吸収する感じで!」
「この世界の要にエナドリ吸わせようとするな! ああもうっ、友達に飢えてるのは分かってるけど、今は重要な時間なんだ! モアナ!」
「了解よ! さぁ、この駄女神! 大人しく光輝のお話が終わるまで待ってなさい!」
モアナに羽交い締めにされてイヤイヤッと駄々をこねるアウラロッドと、それに呆れる光輝達。
そんなやり取りを見てか、輝球がゆらゆらと揺れる。
『異界の女神と勇者様は随分と気安いご関係なのですね。良きことです』
微笑ましそうな声音だ。落ち着いていて動じた様子もなし。女神の威厳は崩れない。素晴らしい。
また、表情が分からなくとも声音だけで感情が伝わってくる。否、声音というよりダイレクトに感情が伝わってくるというべきか。
元とはいえ同格の女神相手に気安い態度を取り過ぎたかと、光輝は少しバツが悪そうに弁解した。
「い、いえ、気安いというかなんというか……彼女は既に女神の地位を降りていますし、今はただの仲間というか家族みたいなものといいますか……」
『察しております。彼女の身に何かがあったのですね。勇者様はそれを助けようとなさっている』
だから、女神が自分の世界を離れて勇者に同行しているに違いない。と、アウラロッドのことを心底心配するような雰囲気で推測するフォルティーナ様。優しい。
だが、残念ながら大ハズレだ。
「あ、いえ、違います。単に五千年くらい不眠不休で女神したからいい加減に引退したいと言って、別の人に女神を代わってもらっただけです」
『……? 申し訳ありません、勇者様。少し意味が……』
分からないらしい。なので、光輝は簡潔に妖精界での出来事を説明した。世界樹の枝葉復活計画の核となる出来事でもあるから、いずれにしろ説明は必要だったのでちょうどいい。
で、事の顛末を聞いたフォルティーナ様はというと、
『……? 申し訳ありません、勇者様。少し意味が……』
やっぱり分からなかったらしい。
もちろん、妖精界での出来事は理解したのだ。それどころか、なんとなく光輝達の来訪の目的も察した。けれど、どうしても一点だけ理解できなかったのだ。
『愛しき己の世界のために在ることの、いったい何が苦痛なのでしょうか?』
「……」
当然ながら嫌みでもなんでもなく、ただただ不思議そうな声音が響く。光輝は答えを持ち合わせていないので、自然とアウラロッドへ視線を向けた。他の者達もだ。
注目を浴びたアラウロッドもまた、不思議なことを聞かれたといった様子で「え……?」と声を漏らして輝球を凝視した。
「あの、でも、だって……頑張ったんですよ? 五千年も不眠不休で」
『? 頑張る、とは?』
ああ、と光輝達は思った。これ、あれだ。根本的に在り方が違うやつだ、と。まさに、人と神の違いだ。
なんとなくアウラロッドも察したのだろう。メガトモ候補が自分とは決定的に違う生き物だと。でも、ミトメタクナァイ!!
「め、女神だって幸せを願っていいはずです!」
『しかり。女神の幸せとは永久に己が世界を見守ること。そのために必要なことを、世界の命運が尽きるその時まで行うこと。そうでございましょう?』
説くわけでも諭すでもなく、生物は呼吸をしますね? みたいな当たり前を確認する響き。見えない刃がアウラロッドのガラスのハートに突き刺さる。
「……そう……かもしれません……」
「「アウラ!?」」
チョロすぎる! と内心でツッコミを入れる光輝達。
あっさり説得(フォルティーナにそのつもりは皆無)されそうになっている元女神様の瞳孔がガン開きだ。間違っていたのは、私? とかなんとかブツブツ呟いている。カラグラ老が病んだ元女神の様子に一歩後退った。
だが、そんなアウラロッドに容赦なく追撃(?)が。
『我も資質ある存在ならば神座を譲ることは可能です。ですがそれは、己の存在が消えてなくなるまで、力の一滴まで世界のために使った後のこと。そうでございましょう?』
「は、はい……」
『全ては愛故。この責務を、己が世界の生きとし生けるもの達を愛さない神などいない』
「お、お仕事、ダイスキィ……」
『この世界が生まれ、我が女神となった時より幾星霜。何万年、何十万年経とうとも、この愛が消えることはない。我の同胞。貴女もまた同じであると、我は信じています。己の世界を離れなければならない現状、さぞかしお辛いことでしょう。我が力になれるなら、どうか遠慮なく』
「ありがとうございます! たった五千年で血迷ってすみませんでした! 私は信頼に応えます! 神生百万年! 女神業万歳!!」
「「アウラ! もういいから!!」」
ふへっ、ふへへへっ、根性なしですみません! 目が覚めました! 今すぐ帰って働きます! みたいなことをガン決まりの目で、頭をカックンカックン揺らしながら、万歳までして呟くアウラロッド。
女神としての意識の違いというか、格の違いというか、なんかいろいろ違いすぎる思想をぶっ込まれて、また病んだらしい。
取り敢えず、陽晴渾身の鎮静の術! ミュウ全力の抱擁とナデナデ!
『我が同胞。我は今、極限まで疲弊しています。話をするために覚醒しましたが、おそらく日暮れまでは持たないでしょう。そうなれば再び休眠状態に入らねばならず、仮に今、大型の感染種に襲われれば自力ではどうすることもできません』
これだけ神威を発していても、カラグラ老が一人で片付けた大型感染種相手に敗北必定だというフォルティーナ。
こうして流暢に話せているのも、相当無理をしている結果のようだ。
とはいえ、それはそれだ。光輝達は嫌な予感に表情を引き攣らせる。
その予感は的中した。フォルティーナ様の善意が炸裂する。
『もし我が力尽きましたら、貴女の世界が代理の神で無事に管理できている間だけでも、この世界の神座を引き継いではもらえませんか?』
「先輩の頼みとあらば返答は一つ! はいっ、よろこん――」
「言わせないのぉ!!」
「言わせませんっ!!」
ミュウが全身でアウラロッドの顔面を包み込む。ぷにっとしたお腹で口元を塞がれ言葉が止まり、陽晴の術で意識が軽く酩酊する。
グッジョブ&ナイスコンビネーション! と子供達を内心で絶賛しつつ、光輝は話題を逸らす、というか元に戻しにかかった。
「フォルティーナ様。大方お察しでしょうが、自分達はこの世界の大樹を復活させるために来ました」
言外に、貴女は復活できるのでアウラロッドを社畜に戻す必要はありませんと告げる光輝。
「しかしその前に、多くの疑問があります」
この世界の大樹――恵樹と呼んでいることを告げつつ、その復活に伴いデメリットや懸念はあるか。という本来の質問に加えて、感染種や暗き者のこと、シルトレーテ王国が今になって襲われた理由、なぜ世界がここまで砂漠化するまで勇者を呼ばなかったのか、シンクレア王国に助力できなかったのは何故か等々、道中に積もり積もった質問をぶつける光輝。
それらを大人しく最後まで聞いて、少しの緊張感が戻って来た空気の中、フォルティーナは重々しい声音を響かせた。
『まずは感謝を。方法は存じませんが、要――恵樹を復活させる手段があるというのなら願ってもないことです』
しかし、と続けるフォルティーナ。やはりデメリットはあるらしい。
『弊害はございます。不用意な復活は致命的な滅びに繋がりかねません』
「それは……やはり、感染種のことですか?」
輝球が一瞬の光を放った。肯定の意だろう。予想はできたことだ。感染種もまた恩恵力を糧にしているのだから。
「……彼等を滅ぼす必要があると仰るんですか?」
『段階的で問題はありませんが、最終的にはそうしなければなりません』
断固とした口調だった。例外も異論も認めないという強い意志が宿っていた。
光輝とて暗き者との共存の可能性を今更強弁するつもりはない。けれど、人間と相容れずとも、暗き者はこの世界に生きる意志ある存在だ。
ならば、むしろフォルティーナの方からそのような言葉が出る可能性も考えてはいたのだ。そして、それを願われて、しかも具体的な方策があったなら、きっと自分は尽力するだろうと。
しかし、フォルティーナの声音には微塵も迷いがなかった。むしろ、憎しみか悔恨かは分からないが負の感情が含まれているようにさえ感じた。
「……感染種とはいったいなんなのですか?」
『心優しき異界の勇者様。救世の礼と誠意に基づき、貴方様の疑問にお答えしましょう。それがたとえ、我の恥ずべき失態を明らかにするとしても』
曰く、今より五千年以上前に、それは突然、この星に現れたのだという。
瘴気を無限に生み出す何か。姿や形を表現しようにも目撃の度に変化しているため定かではないおぞましい存在。
フォルティーナと当時の人々は、それを〝厄災〟と呼んだ。
この大陸の端に居座った〝厄災〟の瘴気は、瞬く間に当時存在した周辺国家や動植物を呑み込み、生きとし生けるものを狂気と闘争本能だけの怪物に変えてしまった。
瘴気に侵された生き物と健常な生き物の闘争が始まり、直接的に殺されずとも戦場にいるだけで瘴気は蔓延し、新たな怪物が生まれていく。
ねずみ算式に増えていく怪物を見て、〝感染種〟という名称が付けられた。
由々しき事態だ。フォルティーナも手をこまねいていたわけではない。各国の王に神託を授け、有能な戦士や巫女には加護を、眷属たる特別な獣も戦列に加え、人類軍の旗頭となる者――勇者も選出し、自ら彼女(勇者は女性だった)の武器に宿って力となった。
一進一退の攻防が続き、多大な犠牲を払って、しかし最後には討伐に成功。
まさに、この世界における神話の決戦だった。
『問題は、その後だったのです』
「その後?」
『はい。我は恥ずべき失態を犯したのです。判断を致命的に間違えた……』
「どういうことですか?」
『救いたいと、思ってしまったのです。愛しき子等を、まだ救えると思ってしまったのです』
懺悔のようだった。震える声音に神の威厳はなく、聞く者の胸にさえも痛みを与えるような強すぎる悔恨が伝わってきた。
『厄災との戦いで、我は著しく疲弊しました。一時の眠りにつき、回復に専念しなければならぬほどに』
だから、神託を授けたのだ。己が回復すれば瘴気に侵された者達も元に戻せるはずだと。それまで勇者のもと団結し耐えよと。
女神の御心に勇者率いる戦士団は寄り添った。彼等もまた、変わり果てた仲間や動物達の快復を祈ってやまなかったから。
けれど、フォルティーナは命じるべきだったのだ。一体たりとて残すなと。早急に全ての感染種を駆逐せよと。
『感染種は進化してしまったのです』
「進化……そうか、自ら繁殖できるようになった!」
沈黙の肯定が返った。思い出すのはクーネとモアナが話してくれたこと。暗き者達が自らの瘴気から次代を生み出した目撃談。
〝厄災〟という瘴気を無限に供給してくれる存在がいなくなり、多くの人と動物は勇者の庇護下にある。
ならば、自ら勢力を拡大し、勇者の手が回らぬ方々に侵攻するほかない。
それが生物の本能故だったのか、知恵ある者の指示だったのかは分からない。だが、感染種同士で新たな命を生み出すことに成功したのは事実。
〝厄災〟から直接感染した種は保有瘴気量が凄まじかったこともあり、第二世代以降の感染種の数は爆発的に増大した。
気が付いた時には既に手遅れだった。
元より、〝厄災〟との戦いで人類連合軍は半壊状態。
勇者も〝厄災〟を葬った時に置き土産とばかりに瘴気に感染させられ、死にはしないものの恵樹の加護が及ぶ範囲で瘴気を抑え込まねば周囲を害してしまう体に。
当然、緊急事態だと強引に起こされたフォルティーナも、言うまでもなく疲弊を残す状態だ。
『敗北は必定。そう判断せざるを得なかった我は……決断しました。この大陸に全ての感染種を誘引し大陸ごと封印することを』
「全て、ですか?」
『そのはずでした……』
いつの日か、フォルティーナが完全復活した時に今度こそ駆逐できるように。
今のオアシスの創造と恵樹沈下という隠蔽の準備をし、眠りにつくフォルティーナを守るため死の大陸に残る者――勇者率いる守護者千人、彼等を支える者千人が選出され。
閉ざされる大陸の外で力を蓄えるため、残りの全ての人々が脱出するという計画の最中。
「裏切り者が出たのです。人間の中に」
初めて聞く、吐き捨てるような言葉。カラグラ老からだった。
「初代の伝書に記されております。当時、代を重ねる中で生まれていた変異種の一派が、人間を捕らえ脱出の手引きをさせたのだと」
言外に、現状はフォルティーナのせいではない。愚かな人間の自業自得なのだと憎悪さえ感じさせる形相で語るカラグラ老。
冷徹な老人が不意打ち気味に見せた煮え滾る感情に、光輝達は思わず気圧された。
「それが……私達が戦ってきた暗き者の祖先、というわけね」
何百年、何千年とかけて勢力を増やし、島々や他の大陸を蹂躙し、やがて世界の裏側まで到達したのだろう。バッタやイナゴの群れが穀倉地帯を食い荒らしては次へ移動していく蝗害のように。
きっと、その過程で思考能力や彼等なりの社会性も進化していったに違いない。狂的な闘争心だけはそのままに、それどころか支配欲へと醸成しながら。
『我は感染種の誘引と三重の結界で極限まで疲弊しました。そこからは結界の維持に多くの意識を割きながらの休眠となり、遅々とした回復に身を任せたのです』
カラグラ老の糾弾には言及せず、むしろ彼を気遣うような雰囲気を見せながらもフォルティーナは続きを口にする。
「三重の結界?」
『はい、勇者様。この世界への侵入を拒絶する結界、感染種を大陸に封じる結界、そしてグラスナーデと世界の要を守る隠蔽の結界です』
「せ、世界を丸ごと守る結界……」
それは女神と言えど衰弱するはずだと息を呑む光輝達。アウラロッドを確認の意図でチラリと見れば、それがどれだけ力を使うことか示すようにコクコクと激しく頷いている。
しかも、だ。休眠中も半覚醒状態で結界の維持に力と意識を割き続けるという、まさに神の御業を一瞬も途切れることなく継続していて……
それは中々回復できないはずだ。
加えて、世界の裏側まで知覚して、致命的な滅びに至らぬよう時折神託や導きを与えていたのなら、それがほとんど無意識で行われる女神としての本能的な行動に過ぎなかったとしても、もはや休んでいないのと同じだろう。
神託が酷く断片的だったのも頷ける話だ。
納得しつつ、しかし一瞬、結界の説明で引っかかる部分があって、光輝は「んん?」と違和感の正体に思考を回しかけるが――
『長き時の中、覚醒できた時も幾度かありました。しかし、新たな勇者を選出することは、いつも叶いませんでした。勇者はいつの時代も常に一人故。異界に存在する時は己の世界で選出することはできず、召喚には多大な力が必要となります』
次ぐフォルティーナの言葉にぶん殴られたような衝撃を覚えて、それどころではなくなってしまった。
『ようやく勇者召喚を行えるほど力が回復し、貴方様を送った。それが事の経緯です。……シルトレーテ王国が感染種に襲撃されたのは、それが原因でもあります』
「……え?」
封じられていたはずの大型感染種が、なぜ今になってシルトレーテ王国を襲えたのか。光輝の質問に対する答えだ。
元よりギリギリの状態であるフォルティーナが、異世界を繋げるような莫大な力を使えばどうなるか。
大陸の結界に綻びが出てもおかしくはないということだ。完全に消えたわけではないが、偶然、綻びの近くにいた感染種が運良く脱出するくらいはできたのだ。
「俺の…せい?」
「違います」
意外にも断固たる否定をしたのは、こうなることを予測していたらしいアウラロッドだった。道中、光輝へ何か言いたげな表情をしていたのは、あの時点で察したからなのだろう。
「光輝様を呼ばねば、シンクレアは間もなく滅んでいたのです。これは仕方のないこと。それでも責任の所在をというのなら、それは結界を維持しきれなかった女神にこそあります」
『……同胞が正しい。勇者様、全ての責は我にあります』
ミュウと陽晴がちょっと心臓に悪そうにしている。「女神モードになるならそう言ってほしいの。近くでやられるとドキドキしちゃう。ティオお姉ちゃんじゃないんだから」「いつもこうしていれば本当に素敵ですのに……」とかなんとか。
それはさておき。
「なんでも自分の責任と思うところ、光輝の悪いところよ」
「モアナ……そう、だね。アウラもありがとう」
「ふふんっ、腐っても元女神ですからね!」
「取り敢えず自分で腐ってるって言うのはやめようか」
なんてドヤ顔しているアウラロッドのおかげか、少し張り詰めていた空気が緩む。
「あの、脱走した感染種はシルトレーテを襲ったやつだけしょうか?」
『申し訳ありません。シルトレーテの者達を転移で避難させた際に大きく力を消費しました。探知は難しい状態です。繋がりのある勇者様を起点にすれば周辺の状況を把握するくらいは可能ですが……』
「そうですか……いずれにしろ、恵樹を再生しないとままならない感じですね」
おおよそ知りたいことは知れた。他の皆はどうだろうと、勇者と女神の会話を邪魔しないよう控えていたモアナやクーネに視線を巡らせる光輝。
二人も、今すぐ知りたいことはひとまずないようだ。こくりと頷きが返る。
なら、やはり今直ぐ知るべきことはシンクレアの危機の有無だろう。
「フォルティーナ様、疑問への回答ありがとうございました。他にも聞きたいことはありますが、貴女の状態を思えば、ひとまず恵樹の再生を図るべきかと思います。改めて、懸念を教えてくれますか?」
『はい、勇者様』
大きな懸念は二つ。
一つ、言わずもがな感染種の襲撃だ。復活の際に力が広く伝播してしまった場合、大陸中の感染種に襲撃されかねない。
二つ、一気に全快状態になった場合、ギリギリの状態で維持していた三重結界をコントロールし切れず再び揺らぐか、最悪弾け飛ぶ可能性がある。
つまり、だ。慎重に力をコントロールしつつ、密かに復活するのが望ましいとのこと。
最小限の力をやりくりすること数千年だ。女神と言えど、全盛期の力をいきなり取り戻すことに不安があるということらしい。
『後は、復活後の感染種殲滅において戦力不足が懸念されますが……』
大型種で数十万体、小型も合わせれば数千万体は存在するだろう。加えて繁殖手段を持つ以上、数が減れば本能的に増やそうとするはずだ。
全快したフォルティーナでも、その数を一気呵成に打倒はできない。いたちごっこになればじり貧となり疲弊を強いられる。
連携して、効率的かつ確実に倒すにはやはり、かつての勇者の戦士団と同じく戦力が必要だ。
どこか期待する声音に、光輝は苦笑しつつも頷いた。
「もちろん、共に戦います。殲滅力と移動力に優れた魔王謹製兵器もありますしね」
『ありがとうございます、勇者様』
すかさずクーネからもシンクレア戦士団の参戦が提案され、望んでいた戦技交流の場も設けられることに。感染種の撲滅が成れば、あるいは余裕ができた時点で暗き者への殲滅戦にも援軍が送られることになった。
「ひとまず、俺の召喚が可能だった時くらいまで力を戻せるか試してみたいと思います。よろしいですか?」
『それくらいであれば』
了承を得て、輝球に手をかざす光輝。鞘に入ったままの聖剣が補助するように淡い輝きを漏らす。
始まる詠唱。純白の光が溢れる。フォルティーナの輝きと同化してしまいそうだ。
そうして、
「――〝絶象〟」
「えっ!?」
驚きの声を上げたのはミュウ。当然だ。今、光輝が口にした魔法名は紛れもなく再生魔法だったのだから。
フォルティーナの輝きが強まる。次の瞬間、眩い光が地下神殿を満たした。直ぐに収まった輝きの後には、どこか凜々しい真っ白な印象の女性が立っていた。
全てが光でできた人型だ。ショートヘアで、高身長。長めのポンチョのような上着にゆったりとしたズボンを履いているのは分かるが、布ではない。あくまで形だけ真似ている。
「フォルティーナ様、ですか?」
『はい、勇者様。力が少し戻ったので、やはり人型の方が話しやすいかと思い姿を変えてみました。かつての、我が勇者の姿を借りております』
「この世界の勇者は女性だったのか……」
『はい、貴方様に似て、とても優しい子でした。ありがとうございます、勇者様。まさか時に干渉する力をお持ちとは』
「そう! そこなの!」
恐れ多くも会話に割って入ってしまったのはミュウだ。ビシッと光輝を指さしている。アーティファクトを使った様子もなく再生魔法を使った光輝に、思わず口を出してしまったらしい。
「なんで光輝お兄さんが再生魔法を使えるの!?」
「そ、そういえばそうよね? 大迷宮、だったかしら? それを攻略する必要があるって前に話してなかった? いずれ挑戦したいとも。でも、私もアウラもずっと光輝といて、大迷宮に行った覚えはないのだけど」
「あ、うん。実は……解放者達の〝神代魔法継承の魔法〟を改造することで、大迷宮攻略なしに神代魔法を習得させられないかっていう研究を、南雲の奴がしていたんだけど」
それで? と首を傾げるモアナとミュウに、光輝は遠い目になって言った。
「枝葉復活に再生魔法は必須だからね。……ちょうどいいって、理論段階のそれを俺に試したんだ」
「「人体実験!?」」
モアナが目を剥き、ミュウさえも「パパ、いくら嫌いな光輝お兄さん相手だからってそれは……」とちょっと引き気味。
実際、凄まじい頭痛に襲われて打ち上げられた魚みたいにビッタンビッタンしたり、うっかりポックリ逝って蘇生されたり、ひたすらデュフフフッと笑う廃人になったり、トータス召喚直後の光輝に戻ったり、そのせいでぶん殴られたり、流石にキレて地下工房が半壊するほどのマジ喧嘩をハジメとしたりなどなど、とても大変な目にあったのだ。
光輝自身、自力で再生魔法が使えるのは望むところだったので耐えたが、二度とハジメの実験には付き合わないと固く誓ったのは言うまでもない。
なお、他の神代魔法はまだ習得していない。再生魔法だけで精根尽き果てたのだ。これから改良されていけば、もっと容易に他者へ習得させることはできるだろうが。
曖昧な表情で虚空を眺める光輝に、アウラロッドもまた青い顔になって心配――ではなく詰め寄った。
「やっぱり魔王様の実験に巻き込まれているでありませんか! それも時間干渉に関わる実験に! あえて聞きますが、過去に行ってイケナイことしてませんか!?」
「してないよ! 過去に行ってもないし!」
まさか〝タイムトリップして子作り疑惑〟が、ここに来て再浮上するとは。被検体になったのは事実なので、アウラロッドとモアナの目には疑いが色濃く宿っている。
ごほんっと咳払いを一つ。強引に話の筋を戻す。
「流石に再生魔法だけで数千年を遡るのは厳しいので……」
無限魔力の供給を受ければ可能だが、それでは異世界間を超えてハジメから魔力を供給してもらわないといけない。
もちろん、必要ならやるのだが光輝に任せると言っておきながら、それではハジメの手間だ。なので、枝葉復活にはもう一手段、用意されている。
光輝は宝物庫を起動して、バランスボールくらいの大きさの正二十面体を取り出した。
『これは……』
フォルティーナが驚愕の声を上げる。凄まじい量の恩恵力が込められていたからだ。
〝永久に巡る手中の星〟と〝素子変換システム〟で作り出した恩恵力を、同じ組み合わせで作り出した恩恵力版巨大神結晶に貯蔵したものだ。
「これから恩恵力を供給します。俺の再生魔法は、この貯蔵結晶の再生自体に使う感じです。起動と供給量の調整はこちらでできるので、フォルティーナ様の懸念も払拭できると思うんですが、どうでしょうか?」
『文句の付けようもありません。これを用意してくださった方にも深く感謝いたします。何かしら礼ができればいいのですが……』
何はともあれ、だ。
異界から勇者を召喚できる程度には力が戻ったフォルティーナは、光輝へ親しみと感謝に満ちた眼差しを、そしてクーネとモアナに慈愛の視線を巡らせた。
『ひとまずは、勇者様への感謝の証と……愛しき子等に祝福を与えましょう』
ひょわっとか、んんっなんて声がクーネとモアナから漏れ出した。
見れば、二人の体の紋様が輝きながら微妙に変化していく。それはカラグラ老の体にあるものと酷似していた。
『天恵術を使える素養があれば、我の加護にも耐えられよう。戦い抜いた女王と、これから戦いに臨む女王に相応しき加護を』
モアナには天恵術〝加護〟の能力増大と、相反する新たな天恵術〝衰退〟を。
クーネには天恵術〝再生〟の能力増大と、それを補助する新たな天恵術〝共感〟を。
誰かを守護する力と、敵を弱体化させる力。
自然を生み出し、その自然と共感して助力を得る力。
新たに刻まれた紋様を通してか、なんとなく与えられた力を理解したモアナとクーネは驚きのあまり呆けてしまった。だが、衝撃的な贈り物はまだあった。
『そして、クーネ・ディ・シェルト・シンクレア。自然を愛し、自然に愛されるお前には、我が巫女の証を授けよう』
「えっ、ま、まだ何か!?」
こらっ、クーネたん不敬よ! 気持ちは分かるけど! みたいなお叱りを姉から小声で受けてかしこまるクーネ。
フォルティーナは微笑ましそうな笑みを浮かべて手を頭上にかざした。木の根で出来た神殿の天井から捻れた杖が生み出されていく。
宝石も何もないごくごくシンプルな杖。長さは七十センチほど。子供のクーネからすると中々の大きさ。
それが宙を漂ってクーネの前に運ばれてくる。フォルティーナを見やるクーネ。頷きだけが返ってくる。
そっと手に取る。ずしりと単なる質量以上の重みを感じた。
『我は理解している。幼き身で世界を元に戻そうと足掻くお前の懸命さを。その愛に溢れる心根を。忘れることなかれ。いつ如何なる時も、我がお前の味方であることを――』
「あ、ありがとうっ、ございます!!」
これまでの努力と覚悟、そして未来への決意を認められてクーネの頬に熱い涙が流れ落ちた。
杖を掻き抱く。愛しそうに頬ずりする。
すると、だ。あれほど重かった杖が急に軽く感じられた。気が付けば輝きを纏い、杖が縮小していく。
「え、ええ? なんですか、これぇ」
『慌てるな、巫女よ。それは我の眷属。〝共感〟があれば良き相談役にも、友にもなろう』
かわいい! と声を上げたのはミュウと陽晴だった。
驚きすぎて固まっているクーネの肩に、杖から変じた小さな生き物が乗っていたから。
「武器の美少女化はお約束! 見た感じドリアードちゃんかな?」
「ク、クーちゃん、もっと傍で見てもよろしいですか?」
「え、ええぇ?」
下半身が樹の根で上半身が葉と花に彩られた純白の長い髪の肩乗り女の子。ミュウの言う通り、ファンタジー定番のドリアード、その美少女化バージョンといった見た目だ。
クーネが肩越しに見る。ドリアードらしき少女は、ふにゃりと笑った。傍目にも、とても親しみのこもった笑顔だ。クーネのことが大好きです、という気持ちがめちゃくちゃ伝わってくる。
「か、かわいい……」
クーネはいろいろ考えるのをやめた。だって、可愛いは正義だとミュウから教わったから。なるほどである。これは確かに正義である。
「ありがとうございますっ、フォルティーナ様! このクーネ・ディ・シェルト・シンクレア! 命尽きるその時まで世界の再生に尽力することを誓います!」
『何よりの言葉である。せっかくだ。その子に名前を与えてやるといい』
満足そうに、そして愛しそうにクーネを見つめるフォルティーナ様。クーネが得たのは、もしかすると加護どころか寵愛かもしれない。
クーネは素直に頷き、早速ミュウと陽晴を交えてドリアードちゃんの名前を考え始めた。
『さて、勇者様。貴方様への礼としては本来、神剣となりて助力するところなのでしょうが――』
「剣はもう十分です! 光輝さんは口に咥えて三刀流とかしません――いえ、私が咥えられるならあり?」
「ないよ」
聖剣ちゃんも同意らしい。「私以外の剣なんていらねぇ!」と言いたげに物凄くピカッている。猛抗議だ。
『ふふ、そうだろうと思いましたので』
フォルティーナ様、大人だ。気分を害した様子もなく、あらかじめ予想していたようであっさり引く。
『我が分け身をお供にお連れください』
「分け身、ですか?」
『はい。見たところ、勇者様は本来の力を十分に発揮できておられない様子』
「え? 本来の力?」
首を傾げる光輝に、逆にフォルティーナは不思議そうな表情になった。なぜ、知らないのだろうと、アウラロッドの方をチラリと見る。アウラロッド、小首を傾げる。
『勇者の本来の力とは、全ての世界において、その世界固有のエネルギーに対し必ず有効性を持つ、というものです』
「有効性を持つ?」
『勇者に選ばれた地で、戦わずして相手が弱体化したことはございませんか?』
「……あ」
不意に思い出す。そう言えばそんな能力あったな……と。聖剣の放つ光源に入った相手には少しデバフがかかるのだ。
神域の魔物クラスだと誤差でしかないし、他の世界の相手だとまったく効果がなかったので、いつしか忘れていた能力だ。
『勇者様は神の武具を通すことで、全ての世界の固有エネルギーに干渉し散らすことが可能なのです。それこそが、勇者様が世界を渡り救世主となり得る力の本領』
「そう、だったのか……」
おそらく、アウラロッドが妖魔達に発揮していた絶対的なアドバンテージほどのものではなく、〝どの世界でも必ず力が通じる〟〝効果的である〟という程度のものなのだろう。
もちろん、どの世界の固有エネルギーに対しても決して無効化されない、というだけでも破格の能力だが。
『そちらの聖剣に宿った同胞が覚醒していれば十全に使えたでしょう。……しかし、アウラロッド・レア・レフィート。貴女がいながら、なぜお教えしなかったのですか? 貴女もまた神の剣へと転変するのでは?』
「え、だって、そんな話、聞いてないですし」
『……』
え、そうだったんだ! 光輝様すごい! みたいな顔をしているアウラロッドに、心なしかフォルティーナの眼差しが冷たい気がしないでもない。
たぶん、なんとなく「あ、この同胞、ちょっとあれかも……」と気が付き始めたに違いない。
『ともかく、聖剣の同胞が覚醒するまで我が本領発揮の助力を致しましょう。我が力の真髄は〝恵み〟なれば、勇者様の限界を大幅に上げることも可能です』
「それは……ありがたいです。本当に」
力の底上げと、思いも寄らなかった新たな手札の入手。自然と光輝の頬も綻ぶ。
『では、早々に』
フォルティーナは両手を胸元に添えた。瞑目すると同時に輝きが増し、輝球が一つ生み出される。
それを――
『お受け取りください――同胞よ』
「えぇ?」
勇者の力を十全に引き出すには、神が宿っているか、神自身が転変した神器でなければならない。
で、フォルティーナ自身の神器化は拒否された。聖剣は休眠中である。
なら、答えは一つだ。
「ひぃっ、何をして――アッ!? ダメェ! 入ってこないでぇ! イタッ、痛いですぅ! ヒギィッ!? こ、壊れちゃうーーーーっ!!」
アウラロッドが、それはそれは芸術的なエビ反り状態になった。頭を抱え、ビックンビックン。体の中に入ったフォルティーナの分け身を必死に追い出そうとしている。
取り敢えず、迅速にモアナがクーネの耳を両手で塞ぎつつ、情操教育に悪い元女神に背を向けさせる。同時に、クーネもまたミュウの耳を背後から塞ぎ、ミュウは陽晴の耳を塞いだ。
素晴らしい連携。電車ごっこみたいな隊列だが、それぞれ汚い声を聞いてほしくない相手の心を守らんとした結果だ。
その間も「おほぉっ!!? 奥まできてりゅ~~~っ」なんて声が響いているので大正解な行動だったに違いない。
ちなみに、スペンサー達とカラグラ老は目の前の痴態なんて見えていないかのように世間話をしていた。会話の内容が天気デッキオンリーなのはどうかと思うが、紳士である。
それから、いろんな意味で地獄のような数分が経つと。
『元が樹の化身のようですから上手くいくと推測してはいましたが……良かった。しっかりと融合できましたね』
「貴女には人の心とかないんか?」
ハイライトの消えた目で、足を揃えてくずおれているアウラロッドさん。口調まで変わっている。光輝達は直視できなくて、スッと目を逸らした。
『? 我々は人ではありませんよ?』
さもありなん。神だもの。
本日、二十一時にもう一話更新します。
ミュウの春休み編ラスト『お祭り騒ぎ(闘争)の最終日』、よろしくお願いいたします!
※ネタ紹介
・口に咥えて三刀流
言わずもがな『ワンピース』のゾロより。
・ミトメタクナァイ!
『ガンダムSEED』のハロより。
・人の心とかないんか?
『呪術廻戦』の禪院直哉より。