実装石の日常 捨て実装
その元・愛護派は日も昇らないうちに双葉児童公園に蓋のない小さなダンボールを持ち込んだ。
人目を避けて持ち込んだそれの中では、着飾った仔実装がすやすや眠っている。
飼い主の若い男性は、公園で野良を見かけるうち、ついペットショップで飼い実装を飼ったのだ。
飼い始めは面白かった、ボールを転がして遊べるし、テチテチ騒ぐ姿は愛らしい。
ある日、仕事に疲れて帰って来たとき、無邪気にじゃれ付く飼い実装に、彼は怒りを覚えた。八つ当たりと言っていい。
彼の仕事が円滑に運ばないことと、飼い実装がじゃれて来たのに因果関係はないのだから。
しかし、一旦気になると、何もかもが気になる。少し餌が遅れただけでテチテチ泣くし、トイレの始末は欠かせない。
遊ばなければ、近寄ってきて構って欲しいとよってくる。
どれもペットを飼えば当たり前のことなのだが、彼はそうした心構えができていなかった。
「じゃあな、メロン」
ダンボールを野良に餌付けしていた公園に置いたのは、彼なりの良心がなせることだった。
……保健所に連れて行くのはさすがに後味が悪いし、その辺に捨てれば数日でくたばるだろう。そうだ、あの児童公園なら餌もたっぷりだし、飼い実装ならすぐ拾ってくれるだろう。
彼はその児童公園で野良に餌付けすることを覚えたのだ。他にも、いわゆる愛護派が大勢やってきては野良に餌付けする。なにしろ、餌をもって行けばデスデス騒いで必死にアピールしてくる。虚栄心を満足させてくれる、これほどの存在は無い。あるいは仔連れであったりすれば愛嬌もある。
一時、公園は餌付けする愛護派で活況を呈した。
それがいつごろからか、彼らはいなくなった。
餌付けによって激増した野良は、愛護派がやってくると殺到した。アピールどころではない、足にしがみ付き、騒ぎ立て、餌をばら撒けば取っ組み合いの奪い合い。興ざめも甚だしい。
もっとも、そこまで数を増やしたのは愛護派の餌付けなのだが、彼らはそうした自覚はもてなかった。
感想と言えば
……最近の実装は行儀が悪くなった、寒くなってきたし、行くのも億劫だな
そうして、実装フードをゴミ捨て場に捨てた。一部は回収されたが、そうでない場合ゴミ捨て場に来ていた野良実装同士で、まさしく殺し合いの奪い合いである。荒らされたゴミ捨て場に近隣住民が怒らないはずが無い。
見逃されていたゴミ捨て場の餌探しができないよう、ネットで覆われやがてフェンスでかこまれた。
そして、公園を訪れる数少ない愛護派にエゴむき出しで殺到する野良たち。
季節は秋から冬になろうとしているころ。
公園は過酷さを増していた。
「テチュ?」
寒さを覚えてメロンは目を覚ました。覚醒してくるといつもの水槽ではなく、おもちゃを入れていたダンボールの中。
……寝ぼけてダンボールに入ったテチュ?
しかし蓋のないそれから曙の空が見える。回りは寒々とした公園。
「……テチャアァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
飛び上がって回りを見渡すが、来たこともない公園だ。メロンはテチテチ一騒ぎすると
「ご主人様!ご主人様はどこテチ!」
近頃は疎遠になったご主人様だが、彼女にとっては親同然である。餌をくれ、あらゆる庇護を与えてくれる。
「テチャアアアアア!!!!ご主人様はどこテチーーーーーー!!!!!」
やや落ち着くと、彼女も事態を把握した。
「なぜだか分からないけど、おうちの外にいるテチ。でもそのうちご主人様が来てくれるテチィ」
午前6時。寒空の下、彼女はこの上も無く楽観的だった。彼女の生涯でこれほど生命の危機にさらされた事はないのだが、経験が無い故に深刻さを把握できない。せいぜい、
「お腹減ったテチ」
という程度だ。ダンボールの中はタオルが二枚あるだけで餌は無い。
寒さを凌げるよう、男は配慮したのだが餌は
……どうせ愛護派にすぐもらえるだろうとこちらも楽観していたのだ。
この公園ではすでに10日以上、愛護派の餌付けはないのだが。
メロンはタオルにくるまって外の世界を眺める。
「テ?」
遠めに親仔が行進していく。親に仔が9匹。窮乏した姿で公園を脱していくのだがメロンは
「お友達がいるテチ」
と呟いただけだ。公園のあまりの餌不足で、危険を承知で他所へ脱出する野良まで現れたのだ。
午前7時。公園の入り口から成体の実装が何かを持って入ってくる。
ゴミ捨て場へ餌の調達にいった野良たちである。幸運にもこの日はネットが外れており、人間もいなかったので少なくない収穫があった。もしも収穫が無ければ、メロンが朝食だったろう。
「こんにちはテチ」
無用心に自分を食ったかもしれない相手に挨拶するメロン。野良は注意深くメロンを見ると
「ププププ、捨てられたデスゥ」
と遠慮が無い。その言葉がメロンに浸透するまで数秒。
「テ、テ、テ、テ、テチャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
両手を振り上げておこるメロン。
「ご主人様が私を捨てるわけないテチャア!ひどいこと言わないでテチャア!」
「プププ、公園で1匹にされてほかになにかわるわけないデスゥ。不細工で馬鹿なお前は捨てられたデスゥ」
メロンはご主人様の愛と自分の存在を否定され、生まれて初めての怒りに達した。
「テチャアァァァーーーーーーー!謝るテチャア!嘘ついたら駄目テチャァ!」
……とはいえ、行儀のいい飼い実装では憤懣を言葉にするのが精一杯で、暴力を振るうなどとんでもない。
もっとも仔実装の彼女が手を上げても、成体の、しかも野良にかなうわけもないが。
プププと笑っていると他の野良たちが帰ってくる。
「こいつは捨てられたデスゥ」
「違うテチャァ!違うって言ってるテチャア!!!」
「捨てられたデスーーー」
「不細工で馬鹿そうデスー」
寄ってくる実装はいづれも彼女を馬鹿にした。
苦しい、命がけの日常を送っている彼女らは少しでも侮蔑できる対象があれば容赦ない。
それによって、少しでもゴミをあさるプライドを慰めるとでもいうように。
餌があるという余裕が、返って残忍な嘲笑をさせる。複数から嘲笑され、初めての経験に激高するメロン。
それが面白くてなお更笑う野良たち。餌を持ち帰るため何匹か離れても、他の帰りの野良が加わる。
ダンボールを囲んで、テチャテチャ泣いて抗議するメロンを笑う。
たっぷり楽しんで最後の野良が帰るとき、メロンはタオルの中に突っ伏して泣いていた。
「……ご主人様、早く来てテチィ。ここはひどいところテチィ」
やっと午前8時になろうとしていた。
騒いだせいか、空腹を強く感じ始めた。ちょうど、近くを成体の野良が通りかかる。
「テチャア……お姉さん、お願いテチャア、食べ物を分けて欲しいテチャア」
飼い実装の思考では 実装石=お友達 の図式だ。
さっき痛い目にあったばかりでもそれは変わらない。
声をかけられたほうは胡散臭そうにメロンに近寄り、プププ、と笑い出す。
「何がおかしいテチ」
少し怒るメロンに、野良実装は離れた方角を指す。そこには野良実装が地面に倒れていた。
よく見ればひどく腐敗までしている、あれでは飢えた野良実装でも食べられないだろう。
「他石に餌をやる馬鹿なんていないデス、餓死するのがいっぱいいるデスゥ」
「テエ?餌がなければ実装フードを食べればいいテチャッ」
野良がメロンの顔をぶつ。
「デスゥ!お前ら飼い実装が遊んでいる間、私たちは駆けずり回って食っているデス。
くれてやるものなんてないデス。
もっとも、お前も捨てられて立派な野良デス、
餌もとれず飢え死にすればいいデス、デプププププ」
嘲笑。ぶたれたショックでメロンは声も出ない。ふと、野良はメロンがくるまっているタオルに目をつける。
集団で笑っていた野良たちは、久しぶりの愉快な出来事でうっかり気づかなかったらしい。
「捨て実装にはもったいないタオルデスゥ。私が華麗にもらってやるから感謝するデスー」
「テチャア!何するテチィィ!」
嫌がるメロンから腕づくで引き剥がす。野良実装は生まれて初めて清潔なタオルを手に入れて、満面の笑みだ。
寒さが増す中、これほど貴重なものはない。
「寒いテチャァ、返して、返してテチィ」
体が冷え始め、凍えるメロンだが野良は追い討ちをかけて笑う。
「どうせお前は凍死するデスー。無駄になる前にもらってやったデス、感謝するデスゥ」
勝手な言い分にテチャ、とメロンが涙声をあげる。余計、野良はうれしそうだ、メロンを叩いてから楽しそうに家路に着く。
……テチャァ、テチャァ
午前10時。空は雲に覆われ、雪こそ降らないものの空気は冷たい。摂氏7度で服一枚のメロンはただ震えているだけだ。
通りかかるのは野良実装だけ。もしも、人間が通りかかれば救われたかもしれないが、前述したとおりの惨状では公園に近寄る
人間はまれである。せいぜい、近道として使う人間がいる程度だ。
メロンはあいわらず野良がいれば助けを求めた。
餌が欲しい、のどが渇いた、寒くてしょうがない。
いづれも嘲笑で報われ、メロンは深く傷ついた。彼女の世界観は優しいご主人様、優しいお友達という簡単な関係しかない。
生存を賭け餌を奪い合い、隙あらば蹴落としあう野良の生態など想像すらできない。
彼女を育てたブリーダーの元では、行儀のいいおとなしい仲間しかいなかったのだ。
寒さに震えていると、また野良実装がやってきた。
今度のは頭巾の代わりにスカーフをかぶっている。
「大丈夫デスゥ?」
メロンを心配するような素振りに、彼女は泣いてすがる。
「テェェェェェェン、ご主人様とはぐれたテチ、目が覚めたらここだったテチ!お腹減ったテチ、寒いテチ!」
今までの不安が爆発したメロンを、スカーフ実装はしばらく眺めてから、近場の木々の下に向かう。両手いっぱいの枯葉をダンボールに入れ、
「これで少し暖かいデス。でもこのダンボールでは雨が降ったら寒くて死んでしまうデス。
そうなる前にどこかに逃げるデスゥ」
スカーフ実装はこの仔が死ぬのを確信していた。野良でさえ親を失えば仔は死ぬ。間違いなく死ぬ。
ましてや、公園の厳しさを知らない捨て仔では1日生き延びられれば幸運だろう。
だが、捨て仔をつれて帰る余裕はスカーフ実装にもない。飢えたわが仔がいるのだ、今日は運よく餌があったが、無ければこの仔を潰して持ち帰ったかも知れない。
「ここにいないとご主人様が来たとき困るテチ」
言いながら枯葉のベッドに興味津々のメロン。スカーフは黙って2往復し小さなダンボールを枯葉で満たす。
「ご主人様が来るといいねデス」
そう言ってスカーフ実装は別れた。
「ありがとうテチィ」
メロンは長い間手を振っている。振り返ってスカーフ実装は悩んだ。
飼い主が訪れることがないと告げるべきか。ああやって捨てられダンボールで朽ちていく捨て仔は何十と見てきた。
しかし、真実を告げても事態は好転しないし、絶望が深まるだけだ。
「寒くなくなってきたテチ」
メロンは寒さをいくばくか凌げるようになると、便意を催した。
「トイレ……トイレがないテチィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
トイレで用を足せるかどうかは飼い実装にとって最重要と言える。飼い主やブリーダー、親実装がしつけるのも、
まずはトイレ。トイレを覚えられない仔は処分されるほどだ。実装の排泄物の悪臭もさることながら、これによって飼い実装たる自覚をする面もあるのだ。
だからこそ、お漏らしなど許されない。ご主人様が前にいるかどうかの問題ではない。
総排泄穴をパンツ越しに押さえながら右往左往のメロン。しかし、限界が来た。涙を浮かべるほど堪えたが。
ブリブリと音がする。
苦痛から解放される喜びと、しつけを破ったことから、メロンは脱力してしゃがみ込んだ。
パンツの中身が漏れて臭い。
「……テェェェェン、テェェェェェン」
ご主人様ごめんなさい、メロンは言いつけを破りました。
両手で顔を押さえながら泣き出した。彼女を廃棄した飼い主のために。
午後1時。
もらした糞が臭う上に冷たくなって体を冷やす。そしてまたもらす。
せめてパンツを脱げばいいのだが、漏らしたショックでそこまで考えられないらしい。
「……お腹減ったテチ」
育ち盛りで絶食は厳しい。昨日の晩、なぜかたくさん実装フードが盛られたがどうしてなのか分からなかった。
今でもわからない。彼女に飼い主の良心の呵責など斟酌できないのだから。
ただ実装フードが食べたい。食べ飽きた味だがこれほど渇望するとは思えなかった。
もっともいくら望んでも、彼女はもう二度とフードを口にできない。
パンツからこぼれた糞を、ようやく枯葉でぬぐう事を思いついたメロン、いくらかでもきれいにしようとする。
……公園のお友達は糞を食べているとご主人様が言っていたテチ
メロンの元・飼い主は優越感に満ちた態度でかつて言ったものだ。
「俺が餌をやらないと、あいつら自分の糞を食ってるんだぜ」
ひょっとして食べられるのではないか。
環境の激変や飢えで意識がもうろうとし始めた彼女は、思い切って枯葉に乗った自分の糞を口に運ぶ。
一瞬後、すさまじい嘔吐。野良の実装なら追い詰められれば糞を食うものの、それさえ最終手段だ。
飼い実装にとって糞はどこまで行っても糞である。胃がせりあがるほどの嘔吐をメロンはダンボールの中でしてしまい、糞と吐しゃ物で枯葉はぐちゃぐちゃになってしまった。
大量に吐き出したものの、口の中の異臭は消えない、まだ汚れていない枯葉で口の中を拭こうとするがうまくいかない。
「お腹減った……テチ」
異臭漂うダンボールの中で呟いた。
午後3時ごろ。疲れてただ横たわっていたメロンだが、どこからか実装の声がする。
身を起こして見ると、仔実装がテッチテッチ言いながら走ってくる。
後ろからは薄汚れた禿裸が、口からよだれをたらしつつよろめきながら追いかけてくる。
禿裸は相当弱っているようだ、そうでなければ仔実装など瞬く間に捕まってしまう。
どうしたものか、と眺めていると3匹のうち1匹が転ぶ。
「テヒャ!」
転んだ仔に、禿裸がおいつく。走る2匹がダンボールのそばを駆け抜けていく。
「お姉ちゃん、4女ちゃんが転んだテチ!」
「あきらめるテチ!あきらめるしかないテチ!」
メロンが目を転じると、起き上がろうとする仔実装を見下ろす禿裸。
「久々の餌デスゥあまり動くなデスー!」
「テヤァ!やめてテチ!来ないでテチ!ママ!お姉ちゃんー!」
胴体をつかんで持ち上げると、ばたばた暴れる仔実装の頭をグチャ、とかじる禿裸。
「デチャァァァァッ!」
目から血涙、口から血、さらにパンコンとあやゆる体液を垂れ流す仔実装。暴れて脳しょうが数滴地面に落ちる。
「お姉ちゃん、助けてテチャァァァ!!!!!!!」
「お前は見捨てられたデスゥ、あとは食べられるだけデス」
「テチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
飢えた禿裸はじつにうまそうに、柔らかな頭蓋骨を兎口で食いちぎっていく。
わめき散らしていた仔実装もいつしか手足を痙攣させるだけとなり、最後は血痕を残して完全に食い尽くされた。
「うまかったデスゥ、じつにうまかったデス、こないだ食べた仔実装のミンチなみにうまかったデスー」
禿裸は返り血に染まり笑みを浮かべている。
メロンは思わずダンボールの中で身を伏せた。
……共食いしたテチ……なんで食べちゃうテチ……お友達を食べちゃったテチ?……私も食べられちゃうテチ!?
……テチャアアアアアアアア
……ご主人様、早く、早く迎えに来て下さいテチィ!
言い知れぬ恐怖で、ただ震えるしかないメロン。飼い主から共食いをする野良実装の存在を聞かされたことはあるものの、おとぎ話にしか思えなかった。まさか、目の前で生きたまま食べられてしまう光景が焼きつき、歯を鳴らせて震える。
悲鳴が出そうになるのをなんとか手を噛んでこらえる。
「まだ仔実装がいたような気がしたデスゥ」
キョロキョロ回りを見渡す禿裸だが、2匹の仔実装はもう見えないし、他は変わらないいつもの公園の風景である。
小さな蓋もないダンボールは気にも留めず、禿裸は姿を消した。
午後4時ごろ。
恐怖にさいなまれながら、メロンが恐る恐る顔を出すと禿裸は見当たらない。
しかし相変わらず捜し求める飼い主の姿もなく、テチャア、と涙目で鳴いた。
「どうかしたデスゥ?」
「テヒャア!」
声を上げると背後に、成体の実装が1匹。
「こんなところにいると危ないデス、おうちに帰るデスゥ」
優しげな口調に、テチテチとメロンは今までの経緯を話し始めた。
「そうだったデス、大変だったデスゥ。でもここにいると危ないデス、飢えた禿裸がいるデスゥ、この前は悪いニンゲンに仔実装が踏み潰されて死んじゃったデスゥ。よければ私のおうちに来ないデス?
仔が1匹しかいないから、私の留守中は寂しがってるデスゥ。とっても優しい仔だから大丈夫デスゥ」
突然の申し出にメロンは迷った、このまま飼い主を待つか、それとも好意に甘えて面倒を見てもらうか。
地面に残る血痕が目に付く。冷たい風がふき、糞と吐しゃ物で汚れた体が冷える。
「じゃあ行くデスゥ」
やや強引とも言えるが、野良実装はメロンをダンボールから持ち上げると、手を繋いで歩き出した。
「メロンちゃんがニンゲンに詳しいなら、仔も私もいろいろお話を聞きたいデスゥ」
握ってくる手がやや強いが力強くも感じられる。
「テェェ、私でよければお話するテチィ」
ようやく公園の仲間とお友達になれた、とこの状況でもメロンはどこかで喜んでいた。
ついたダンボールは公園の端にあり、風雨にさらされ傷みが激しい。
飼い実装のメロンはちょっと驚いたが、行儀がいいので口には出さず招かれるまま、中に入る。
とたんに、すさまじい悪臭が鼻を突いてきた。排泄物と腐敗した悪臭がダンボールの中に立ち込めていた。
暗い中ではあるが中央に影があり、例の仔かと思い、吐き気を催しながら
「お邪魔しますテチ」
と頭を下げるメロン。しかし陰は何も言わない。暗さに目が慣れてくると、陰の正体が分かった。
緑の糞の固まりが鎮座しているのだ。
「テチ?ウンチテチ?おばさん、仔はどこテチ?」
「何言っているデスゥ、そこにいるデスー」
と野良は糞に寄り添うをそれをためらわず、なでる。
「お留守番偉いデスゥ。ご褒美にみかんの皮をあげるデス。デ、ママはいいデス、十分食べたデス」
みかんの皮を、糞の中に押し込んでいる野良。ふざけているのではない、笑みを浮かべてまるで親仔の団欒だ。
「今日はお前にお友達を連れてきたデスゥ、飼い実装のメロンちゃんデス、前からママもお前も聞きたかったことを聞けるデス」
「おばちゃん、ウンチテチ、それ……」
「どこがウンチデスーーーーー!!」
温和な表情から一変、大音声。
「うちの優しい仔をウンチ呼ばわりとはお前のほうが糞蟲デスゥーーーーー!!!」
襲い掛かってきそうな剣幕に、メロンは腰を抜かした。こびり付いた汚れで床は腐りかけ、拍子でやぶれそうだ。
野良は糞のほうに向き直ると、やさしい顔に戻っていた。
「……急に大きな声を出してごめんなさいデスゥ、何々、……デス」
糞が話しかけてくるように、うなづく野良。優しい顔のまま、座り込んだメロンのそばに来る。
「うちの仔がニンゲンのことで聞きたがっていることがあるデスゥ。私も聞きたいことデスゥ」
かすかにうなづくのが精一杯のメロン。
「……なんでニンゲンはうちの仔を踏み殺したデスゥ?」
「デ?」
「だ・か・ら、どうしてニンゲンはうちの仔を踏み殺したデス?うちの仔はなにもしてないデス、やさしい子デス、髪を洗った帰りになんで踏み殺すデスゥ?」
「おばちゃん……」
「私のママもニンゲンに殺されたデス、姉妹も殺されたデス、暑い夜のことデス。ひょっとして、暑いから私の家族を殺したデスか?でも今は寒いデスゥ、デプププププププププププ」
急に笑い出す野良実装。
「おばさ」
「何がおかしいデスか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「テヒャァァァァァァァァァァァ!」
般若のような顔になる野良、メロンは固まったまま、パンコンした。
「ニンゲンが殺したデス!飼い実装のお前が答えろデスゥ!!!」
メロンの生きてきたわずかな経験ではとても対応できる相手ではなかった。
「知らないテチャァ、何行ってるか分からないテチャ!」
「しらばっくれるなデスゥ!!!!」
歯をむき出しにして怒り狂う野良実装に、腰を抜かしたままメロンは逃げ出そうとした。
逃げよう。せめてあのダンボールまで逃げよう。ここは怖いことばかり。
私を笑ってタオルを奪って共食いして頭のおかしな実装がいて。
「ご主人様助けてテチーーーーーー」
ご主人様、の言葉に野良は過敏に反応した。
「デヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
メロンを上から殴りつけ、彼女は口から血を吐く。
「デヒャアア!ニンゲンを呼ぶ気デスゥ!また仔を殺す気デス!!!!!そうはさせないデス、うちの仔は二度と殺させないデス!」
人間を連想させるものに対して、彼女は容赦ない。力を込めてメロンを殴る。
「テチャ!テチャァ!ご主人様、殺されるテチャァーーーーー!」
「デヒャアッ!まだニンゲンを呼ぶ気デスかお前はぁーーーーーーーーーー!」
ところ構わず殴り続ける野良に、テチャッテチャッ悲鳴を上げるだけのメロンだった。体格差がありすぎて勝負にならない。
「思い知れデス、ニンゲンめー!」
「テヒャァァァーーー!ご主人様ぁーーーー」
両者の思いはかみ合わない、どちらも人間に翻弄される存在なのだが、それを理解し共感する能力がないのだ。
殴打の嵐でメロンの体は叩きのめされた、手足が折れ曲がり、口から歯が飛んだ。
瀕死の重傷を負わせたメロンの姿に、ようやく野良実装は落ち着きを取り戻した。
「次に私の仔に手を出したらこんなものじゃ済まないデスゥ。ニンゲンと一緒に潰してやるデスゥ。とっとと消えるデス」
ずるずると這ってメロンは悪夢のようなダンボールから逃げようとした。
「ヒャ、テヒャ、ご主人様ぁ……」
か細い悲鳴を野良実装は聞き逃さない。
「デス!!!!!!!!やっぱりニンゲンを呼んでくる気デス!!!!そうはさせないデスゥ!!」
メロンの両足を後ろから両手でつかむと野良はそのまま持ち上げた。逆さで宙ぶらりんにされたメロンはパンコンし、糞が顔までたれた。
「テチャァァァ!許してテチャァ!もういじめないでテチャッ!」
「うちの仔を殺しておいて命乞いデスか!笑わせるなデスゥ!」
野良がつかんだメロンの両足を左右に広げる。
「テチャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
肉が裂けあふれた糞と血が吹き出す。口を限界まであけて絶叫するメロン。
「うちの仔を返せデスーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
そのままメロンの股を一気に引き裂いていく野良。胸まで引き裂かれたメロンはわずかに痙攣する。
メロンを持ち直すと野良はそのまま頭部を口にくわえた。メロンが最後に聞いたのは自分の頭部が噛み潰される音と絶叫だった。
午後5時ごろ、彼女は食い尽くされた。この公園に捨てられてからちょうど12時間ほどでメロンは跡形もなく消え去った。
環境を考えれば、長生きしたほうと言えるだろう。
真っ暗なダンボールの中で、がつがつとメロンを食う野良実装。食い終わるとダンボールの真ん中にある糞の塊にむけて、パンツを下ろして総排出孔を向ける。ぶりぶり、と排泄し、糞をくわえるとパンツをはきなおし、糞の塊をこね回す。
「またお前が大きくなったデスゥ。もっと成長するといいデス、あったかい日が続くころになればお前も大人デスゥ」
END
引用元:実装石虐待保管庫