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アナウンサー赤平大「発達障害と子育てを考える」

医療・健康・介護のコラム

不登校になった発達障害の子どもの逃げ場所は? 生きづらさが低年齢化 頼みのフリースクールは人材難と予算難 

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フリースクールの5分類

 私自身、息子が小学校低学年の頃、私の目の前で息子がいじめ被害を受けるシーンを何度も目撃しました。その手法は、言葉を選ばずに言えば「 狡猾(こうかつ) 」でした。この頃の経験はつらい記憶なので詳細は遠慮させていただきますが、当時はいじめから逃げるため本気で転校を考え、東京や関東圏の公立・私立・フリースクールを調べ、あちこちの体験授業に息子と足を運びました。

 検討の結果、有力候補はフリースクールと私は判断しました。

 石井さんによると、フリースクールは大きく五つに分類されるそうです。
① 子どもの心のケアに特化した居場所タイプ。通う日数は子どもに合わせて柔軟に調整可能で不登校の子どもも多い。
② 「シュタイナー」「モンテッソーリ」など先進的教育を掲げるオルタナティブスクール。
③ 学習の遅れをサポートし個別指導もあるインターネットスクールタイプ。
④ 通信制高校が「初等部」「中等部」を運営するタイプ。
⑤ 行政が運営する教育支援センター。利用料はかかりませんが校区をまたげないことや、年齢制限がある場合も。

フリースクールが抱える構造的課題

 当時、私は「息子の逃げ場所」の基準として、一般的な学校の教育より「スタッフ(教員)に発達障害の高い知見がある。息子の得意な部分を伸ばしてくれる少人数の居場所」を最優先にしていました。

 結論から言うと、この条件に完璧に合致する場所はありませんでした。

 まず「スタッフに発達障害の高い知見がある」が、フリースクールの構造的に難しいのです。理由は、人材難と予算難です。

 発達障害と診断される人口が増加する中、そもそも発達障害の高い知見があるスタッフ(教員)が相対的に少なく、小中学校の特別支援学級でも人材不足で苦労しています。

 加えてフリースクールのビジネスモデル上、スタッフへの賃金が高くないことがあります。 文科省によると、フリースクールの入会金平均は5万3000円、月謝平均は3万3000円です。 この金額は、私立学校に通わせるよりはるかに安い水準です。 実質無料の公立学校では税金が投入されており、その児童生徒一人当たりの金額は月額7万~10万円ほど。

 つまり、大雑把な試算になりますが、フリースクールは公立学校の半分以下の予算規模で運営されています。この状況では、フリースクールに発達障害の高い知見のある人材が来ることは困難で、内部で育成する余裕も生まれません。 現に、4分の1のフリースクールは赤字経営で公的な支援も少ないため、多くは10年ほどで運営を終えています。

 次に「息子の得意な部分を伸ばしてくれる」に関して、理数系に特化して学びを深められるフリースクールなど、少ないながらいくつかの候補がありました。ところが、実際に体験授業を受けた都心部のあるフリースクールは、近年「あの当時の方針は失敗でした」と、方向性を大幅に修正して現在は運営しています。理数系が得意な発達障害の子どもの教育に特化していたのですが、うまくいかなかったそうです。

 この点に関して、発達障害やギフテッド教育に関する専門家の宮尾益知医学博士は 著書 の中で「ギフテッド児は興味のあることしかやらず、完璧主義で失敗を恐れるケースが多い」「苦手なことにトライして試行錯誤しないと知識が成熟しない」「その結果、小学生時代に高知能でもその後伸びない子が多い」と指摘しています。大切なことは、義務教育の間は仲間と幅広い教科を学習することとも言っています。

 息子へのいじめは、私の見る限り小学校中学年頃から減少しました。息子自身は学校に楽しく通っていたこともあり、最終的に転校しない決断をして卒業の日を迎えました。もし当時、いじめ被害が増幅して息子の心身に深刻なダメージがあったら、果たしてどこに逃げればよかったのか。

 石井さんは、発達障害と中学受験の失敗がトリガーで、中学校へ通うことが困難になり不登校となりました。その後、フリースクールへ通い出して人生が大幅に好転したそうです。

AIも活用し、失敗の確率を下げる

 発達障害の特性によって、合うフリースクール、合わないフリースクールがあると思います。正解は、実際に行ってみて経験しなければわかりません。しかし、事前に調べることで「ここは絶対に行かない方がいい」という失敗を回避することはできます。

 大学院でMBAを学んだ際、教授陣からは「MBAを学んだからといって、出世するとも起業で成功するとも限らない。ただ、失敗の確率を下げることは可能」と言われました。これが、私がビジネスの知見を子育てに応用している理由です。子育てはビジネス以上に失敗したくありません。

 今はAIが答えを出す時代。効率的な探し方ができる、すなわち失敗しにくい良い時代です。実社会は単純な成功と失敗の二元論ではなく、中間のグレーゾーンが多くあります。このグレーにもきっと100種類はあるでしょう。AIが100種類を20種類くらいに絞ってくれるでしょうから、あとは自分の息子にとっての正解のグレーを見つけるだけ。

 そのために私は毎日、勉強して、息子の様子を細やかに確認して、一方通行な愛情を大量に投下。万が一の事態でも「大丈夫だよ」と息子に言える父親であるため、MECEな子育てを全力投球しています。(赤平大 アナウンサー)

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赤平 大(あかひら・まさる)

 元テレビ東京アナウンサー。現在はフリーアナとしてWOWOW「エキサイトマッチ」「ラグビーシックスネーションズ」、ジェイ・スポーツ「フィギュアスケート」、NTTドコモLemino BOXING「井上尚弥世界戦」など実況、各種番組ナレーターを担当。

 2015年から千代田区立麹町中学校でアドバイザーとして学校改革をサポート。2022年から横浜創英中学・高等学校講師。2024年から代々木アニメーション学院講師。発達障害学習支援シニアサポーターなどの資格を持つ。早稲田大学ビジネススクール(MBA)2017年卒優秀修了生。

 発達障害と高IQの息子の子育てをきっかけに発達障害動画メディア「インクルボックス」運営。

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