BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL- 作:Soburero
やっぱり特定の取引先を持っておくのが普通なんだろうか?
レイヴン
本名:不明
年齢:不明
身長:170cm+
所属校:不明(恐らくアビドス高校)
武器:LMG、ショットガン、リボルバー
危険度:極高
“独立傭兵レイヴン”を自称する傭兵バイト。
機動力を生かした近距離速攻戦を得意とする。
極めて強い攻撃性を有しており、慎重な対応が求められる。
裏切りや契約違反を特に嫌う。
メインクライアントは企業。
危険度の高い依頼を好んで遂行する。
ブラックマーケット治安維持機関襲撃事件の主犯。
“ハンドラー”という人物が裏にいる可能性有。
エア
レイヴンのオペレーターを名乗る女性。
極めて高いハッキング能力を持つこと以外、一切が不明。
姿も確認できず。
――――――――――――――――――――――――――――――――
私は今、アコが入れてくれたコーヒーを片手に、情報部からの報告書に目を通している。
不明な点が多く、過去の経歴については真っ白。
エアに至っては姿すら分からないという始末。
そんな調査結果に対し――。
「どうしてこんなに分からないところが多いんですか!あれだけ好き勝手暴れまわってたら、情報は嫌でも残るでしょう!」
「本当にちゃんと調べたんですか!?」
アコは納得いかないのか、情報部の後輩に詰め寄っていた。
「全部調べてます!ただ、裏が取れた情報が本当に少なくて……!」
「いいえ、そんなことは無いです!絶対もっと出てくるでしょう!」
「アコ、落ち着いて。ほかに報告すべきことはある?」
調査対象の情報が出てこない、という事は往々にしてあること。
むやみに情報を引き出そうとして、踏み込んではいけない場所に踏み込んでしまってはならない。
情報部時代の私が先輩から教わったことだ。
多分、今回は踏み込んではいけない場所に踏み込みかけている。
「……エアと名乗る人物から、ハッキングによる警告を受けました。これ以上、レイヴンを嗅ぎまわるな、と。」
「これ以上調査を続ければ、こちらに報復してくるかもしれません。」
「ヒナ先輩、どうしますか?調査を続けるべきですか?」
やはり、既に調査を察知されていた。
さすがの感だ、只者じゃない。
「ヒナ委員長、続けるべきです。報復されたところで、たった1人に大したことは――。」
「そのたった1人を相手にどれだけ被害が出たのか、もう忘れたの?」
「そ、それは、その……。すみません……。」
アコを窘めながら考える。
まずハッキングを仕掛けられたという事は、インターネットでの調査は悪手。
現地調査も、もし調査員がレイヴンに見つかれば、再起不能になるまで痛めつけられる可能性もある。
かと言って何もしない、というのも、万魔殿から詰められそうで面倒だ。
やはり、あの方法を取るしかないのだろう。
「調査は全て中断。流れてくる情報をまとめるに留めて。」
「あれだけの実力があれば、嫌でもこちらに情報が流れてくるはず。」
「分かりました。情報部に伝えます。」
後輩が一礼して、執務室から出ていく。
彼女がくれた報告書の中には、レイヴンの連絡先も入っている。
「……本当に良かったんですか、委員長?」
「ええ。焦る必要は無い。」
「それに、役立てる方法もあるわ。」
もし本当に独立しているなら、依頼人を選ばないはず。
ここは、可能性に賭けてみよう。
そう考えながら、私はスマホを取り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――
『レイヴン、これはゲヘナ風紀委員会からの、正式な依頼よ。』
『目的は、ゲヘナ全域の不良生徒の鎮圧。』
『あなたが参加していたアビドスでの戦闘で、私達の戦力は大きく削られている。』
『そこまでならまだいいのだけど、問題は、それを聞きつけた不良たちが一斉に暴れだしたこと。』
『私が対応してもいいけど、こっちは書類に追われてそれどころじゃない。』
『そこで、あなたには風紀委員会に協力してもらう。ゲヘナの不良たちを片っ端から鎮圧して。』
『どう鎮圧するかは、あなたに任せる。私としては、力で抑え込むことをお勧めする。』
『報酬は完全な出来高制。あなたが鎮圧した分、それだけ報酬も増える。』
『厄介な相手を捕まえてくれたら、ボーナスも出す。見逃さないようにして。』
『以上よ。この状況はあなたが蒔いた種とも言える。しっかり働いてもらうわよ。』
――――――――――――――――――――――――――――――――
ブオォォン!
カイザーの基地からくすねてきたバイクでゲヘナ学園の校舎に乗り付ける。
指定された場所には、ゲヘナの風紀委員長と、その副官と思わしき生徒が立っていた。
バイクを降りて2人に近づいていく。
「……来たわね。」
「また会ったな、風紀委員長。」
「ヒナでいい。仕事の内容は分かってる?」
「ゲヘナの不良を潰せ、だろ?」
「分かっているならいい。アコ、腕章を。」
副官が風紀委員会の腕章を懐から取り出した。
なるほど、こいつがあの天雨アコか。
とりあえず、替えの服を用意したらどうだ。
胸が半分出ているぞ。
『……ヒナ、肉体疲労がかなり蓄積しているようです。眠れていますか?』
「……眠れていないから、あなた達を雇ったの。」
エアの言葉につられてヒナの顔を見ると、確かに目元にクマが見える。
アビドスでの出来事の後処理に追われたか、あるいはいつもの事なのか。
俺たちが知る由は無い。
「そもそもこの状況はあなた達のせいだと理解していますか、レイヴンさん?」
『……あなたが攻撃指示を出さなければ、部隊が損耗することも無かったと思いますが、アコ。』
「止めろ、エア。」
「アコ、止めなさい。」
『……すみません。』
「……ごめんなさい。」
お互いの相方を窘めると、2人同時に謝ってきた。
お前たち、存外仲良くなれるんじゃないか?
「……とにかく、請け負った以上仕事はしてもらう。仕事中はこの腕章を付けて。」
「それは友軍識別も兼ねています。仕事中に外れて、何か事故が起きたとしても、私達は責任を取りませんので、あしからず。」
前言撤回、アコはこちらと仲良くする気が全くないようだ。
まあ、やったことがやったことなので致し方ない事なのだが。
「何かあったら通信で伝えるから、回線は――。」
ヒナが指示を出そうとした瞬間、無線から慌てた声が届いてきた。
その内容は、いかにもキヴォトスらしいものであった。
『こちら第9分隊、廃倉庫でチンピラとヘルメット団が睨み合ってます!今にも撃ち合いだしそうです、応援をお願いします!』
「分かった。今応援を送る。できるだけ時間を稼いで。」
『了解です!』
奴ら、こんな抗争を日常的にやっているらしい。
俺からすれば、無駄としか思えない。
戦うなら徹底的に叩き潰せばいいものを。
あるいは、それだけの力の差が無いのかもしれん。
「レイヴン、早速仕事をしてもらう。第9分隊の救援をお願い。」
「念のため、あなたのコールサインも決めておきましょう。希望はありますか?なければ“ブービー”とさせてもらいます。」
状況的には片方が倒れるのを待った方が良さそうだが、今回は歩合制の契約だ。
全員しょっぴかせてもらおう。
それとアコ、お前は敵意を隠すという事を覚えた方が良い。
味方になろうとしている奴に取る態度じゃないぞ。
それに、俺のコールサインはもうある。
「……《
「13?1番だと思っていたのだけれど。」
「……ラッキーナンバーなんだ。」
「……あなたが験を担ぐなんてね。少し、意外。」
レッドの奴から縁起が悪いと聞いているコールサイン、G13。
それを付けてなお生き残っている強運野郎。
きっと、ミシガンなら俺をそう呼ぶだろう。
「こちら風紀委員長、各隊に告ぐ。レイヴンが風紀委員会の味方になった。コールサインはG13。」
「これから第9分隊の救援に向かう。風紀の腕章を付けているから、誤射に注意して。」
『マジか!?本当に?あのレイヴンが!?』
『手を貸してくれるなら何でもいい!頼んだぞ、レイヴン!』
「了解だ。第9分隊、持ちこたえろ。すぐに向かう。」
「頼むわよ、レイヴン。」
バイクにまたがりエンジンをかける。
ここからであれば、5分で目的地に着く。
そのくらいなら持ちこたえてくれるだろう。
さあ、仕事に掛かろう。
アクセルをひねればエンジンがうなりを上げ、地面を蹴り上げた。
ブオォォン!ブオォォ……
「すぐにでも止めた方が良いですよ委員長、いつ裏切ってくるか分からない傭兵を雇うなんて……!」
「お金を積まれたらきっと簡単に寝返りますよ……!?」
「確かに、そのリスクはある。でも、不良が払える額なんてたかが知れてる。」
「レイヴンが裏切る心配は、ほぼ無いと思っていい。」
「……少なくとも、今日中は。」
「メイ、万魔殿の動きを警戒して。特にレイヴンには近寄らせないで。」
『分かりました。ついでに、委員長と行政官は席を外してるって万魔殿に伝えておきます。』
「それでいい。ありがとう。」
――――――――――――――――――――――――――――――――
ドドドドドッ!
バァンバァンッ!
「ああもう!何でチンピラもヘルメット団もこっち撃ってくるんだよ!?撃ちたいならお互いを撃てばいいだろ!?」
「もうしゃーないよ。私たち、そういう役回りなんだし。諦めなって。」
「風紀委員なんて入らなきゃよかった……!誰でもいいから助けてくれ!」
『第9分隊、こちらG13。敵部隊の側方から接近します。誤射に注意してください。』
「やっと来たか……!レイヴン、蹴散らしてやれ!」
バババババッ!
ズドンッズドンッ!
ドギャッ!!
「ギャアァァァ!!!」
「アイエエエ!!レイヴン!?レイヴンナンデ!?」
「ち、中断だ!急いで撤収するぞ!」
「うひゃー、ありゃ怖がられるわけだよ……。容赦ないもん……。」
「不良ながら、同情するよ……。」
「まっ、レイヴンを雇ったヒナ委員長が悪いってことで。」
「……おい、終わったぞ。」
「うおッ!?は、早いな、レイヴン……!」
「……うわ、マジで全滅してんじゃん。ご愁傷様。」
「後処理はこちらでやっておく。助かったぞ。」
「ああ、後は任せる。」
『レイヴン、救援要請です。すぐに向かいましょう。』
「了解、行くぞ。」
ブオォォン!ブオォォ……
「……私もあんな風に、強くなれるかな?」
「いやー無理でしょ。もう生き物として違うって。ヒナ委員長と一緒。」
「……確かに。羨ましいな……。」
「それじゃ、こいつら運んでいこう。多分車一台じゃ終わんないけどね……。」
――――――――――――――――――――――――――――――――
「開発させろ―!横暴だ―!」
「そーだそーだ!温泉のロマンが分かんないのか―!?」
「だ~か~らぁ!そこ掘ったら水道管が壊れるって何度も言ってるでしょ!?せめて他所で開発しなさいよ!」
「いいやダメだ!ここじゃなきゃ意味が無いんだ!ここを掘れば絶対に温泉が出てくるんだ!」
「その確信はどっから来てるのよ!?」
「私たちの、温泉魂だッ!!そうだろ皆!!!」
「「「「「オォーーーッ!!」」」」」
「ハァァァアアアア!!!もういい、射撃準備!!」
「待ちたまえ。何も撃ち合う必要は無い。」
「そーだよ。みんなで一緒に話しあおー!」
「ゲッ!?カスミに、メグ……!」
「おや、どうやら私たちを知ってくれていたようだね。」
「あったり前でしょ!アンタらのせいでゲヘナがどんだけ壊されたか!アンタらの尻拭いをするのはこっちなんだけど!?」
「おお!後片付けを手伝ってくれていたとは!感謝するよ!」
「ついでに、君も一緒に温泉を掘らないかい?どうせ片づけをするなら、開発も楽しんだ方が良いと思うのだがねぇ。」
「いいね!みんなで一緒に温泉掘ろうよ!すっごく楽しいよ!」
「誰がやるもんですか!いい加減アンタらまとめて――!」
「G13、現着した。何の騒ぎだ?」
「――ッ!レイヴン、丁度良かった!こいつらを捕まえるのを手伝って!」
「うん?レイヴン?部長、なんか聞いたことある名前だね。」
「これはこれは、ブラックマーケットのカラスさんじゃないか。風紀委員会に鞍替えでもしたのかな?」
「今回は雇われだ。お前たちを確保する。」
「まあ待ちたまえ!私から君にオファーがあるんだ。」
「……何だ?」
「レイヴン、こいつの話を聞いちゃダメ!」
「私たちの温泉開発に協力してほしいんだ。具体的に言うと、私達をちょーっと見逃してくれればそれでいい。」
「もしここから温泉が見つかったら、君を一番に招待しようじゃないか!」
「どうだい?悪い話ではないだろう?いくらで雇われたのかは知らないが、きっと大した額ではないんだろう?」
「それならいっそ何もせず、タダで温泉に入れると考えた方がよっぽど――。」
ブシュ―!
「うわぁ!?何も見えないよ~!」
「おっと、これはマズい奴だな?」
「その通りだ。」
ドグシャァ!
ポイッポイッ
「く、おぉぉ……!」
「きゅぅ~……。」
「……人体って、潰れるのね。しかも縦に……。」
「……ヤバいよね、これ?」
「……うん、ヤバいかも。」
「……今すぐ逃げ――!」
「逃がすか。お前たちもボーナス対象だ。」
「全員叩き潰してやる。」
「「「ビャアアァァァァ!!!」」」
ズガガガガガッ!
ボガーン!
「……隊長、援護した方が良いですかね?」
「……いや、要らないでしょ、あの調子なら。」
「搬送準備急いで。多分何十人と運ぶことになるから。」
チョ、チョットハナシヲkグエッ!!
アバババババ
ゴメンナサーーイ!!!
――――――――――――――――――――――――――――――――
『この辺り、評価の高い飲食店が多いです。どこを選んでもハズレは無いでしょう。』
「ほう、それならあそこのとんかつ屋に――。」
ドカーン!
「……エア、とんかつ屋が消し飛んだぞ。」
『……ガス爆発では無いようです。一体……。』
スタスタスタ
「はあ……。あの店主、美食の何たるかを全く分かっておりませんでしたね。残念ですわ。」
「特盛と言いながら量も少なかったですし、あんな店は無くなった方が、キヴォトスの美食のためになりますね。」
「そうだよね~。もっと味にパンチがあれば良かったんだけどな~……。例えば、ミントソースとか!」
「絶対美味しくないでしょそれ!私結局一口も食べられなかったし……!」
「まあまあジュンコさん、むしろあれを食べずに済んだと考えた方が良いですわよ。」
「それでも!うぅ、お腹すいた……!」
「それではもう1軒行きましょうか。近くに美味しいラーメンが――。」
「……ん?あなた、誰?」
「……美食研だな?」
「はい、私達は美食研究会。キヴォトスの最高の美食を追い求めておりますの。」
「私は、黒舘ハルナ。初めてお目にかか――。」
ドゴォッ!!
「……へっ?」
「……あら~、ちょっとオイタが――。」
ドゴォッ!!
「ちょ、ちょっと!いきなり何――。」
「それはこちらのセリフだ。」
「お前たちが今さっき爆破した店は、俺が気になっていた店だ。」
「美食研究会を名乗るなら、人の美食の邪魔をしないのが、マナーってやつじゃないのか。」
「うぐっ……!それを言われると……!」
「で、でもでも、あの店、そんなに美味しくなかったから――!」
「だから吹き飛ばしてもいいと?ふざけるな。」
「覚悟しろ美食研。楽には殺さん。」
「「ピッ……!」」
「「ピャァァアアアアアア!!!!」」
ドゴォッ!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ピーポーピーポー
「おーい、生きてるかー?」
「マエガミエネエデスワ……。」
「お疲れ様です、レイヴン。死た、要救護者はこちらで搬送します。」
「頼んだぞ、救急医学部。特に美食研はどんなに暴れようがベッドに括り付けておけ。」
「そのつもりです。あとはお任せください。」
ブオォォ……
「……エア、他にいい店はあるか?」
『この近くにラーメン屋があります。味噌ラーメンが美味しいそうですよ。』
「ならそこに行こう。美食研め、余計な手間を……。」
『彼女たちもボーナス対象でした。報酬が相手から飛び込んできたと考えましょう。』
「……そうだな、そうしよう。」
――――――――――――――――――――――――――――――――
ズガガガガガッ!
ドガーン!
ズドンッズドンッ!
「この野郎、よくもやってくれたな!」
「ここから逃げられると思うなよ、便利屋69!」
「私たちは便利屋“68”よ!69じゃない!」
「アッハハ!意外とやるじゃん!そう来なくっちゃ!」
「わああぁぁああ!!アルさまに手を出すなぁぁぁッ!!!」
「さすがに数が多い……!このままじゃ逃げ道塞がれるよ!」
「マズいわね、何とか撤退するわよ!ハルカ、戻ってきて!」
「死んでください!死んでください!死んでくださいッ!!死んでくださいッ!!死んでくださいッ!!!」
「は、ハルカ!?それ以上は本当に死んじゃうわよ!?」
「えー?アルちゃん、本当に逃げちゃうの?それってアウトローなのかな?」
「ムツキ、いいから撤収よ!それに、こんな状況から無事に抜け出すのも、アウトローでカッコいいでしょ!」
「クッフフ~、それもそうだね!」
「社長、囲まれ初めてる!急がないと!」
「ウソでしょ!?みんな、急いで逃げ――。」
『便利屋68、こちらは、独立傭兵レイヴンだ。』
「レイヴン!?今あなたと話してる余裕が――!」
『俺は今、風紀委員会に雇われている。お前たちに協力を要請する。』
『今お前たちが戦っている不良たちの鎮圧に協力しろ。』
『報酬は戦闘終了後に50万。風紀委員会にも、今回は見逃すように話を付けている。』
『便利屋68、色よい返事を期待する。』
「レイヴンからの協力要請!?これって……!」
「風紀委員会にも協力するってことだよね。私はどっちでもいいよ、アルちゃん!面白そうだしっ!」
「アル様、ごめんなさいっ!全員倒しきれませんでした!い、今すぐ死んできますっ!!!」
「ハルカ、落ち着いて!倒してくれるだけで十分よ!」
「社長、今回は受けた方が良い!味方が増えるなら、それだけ安全に出られる!」
「その通りね、さすがカヨコ課長!」
「レイヴン、聞こえてる!?私たちは依頼を受けるわ!」
『依頼受諾を了解。1分で現着する、それまで持ちこたえろ。』
「……私たちを舐めないで頂戴。その1分で、全員倒しきってやるわっ!」
「それじゃあ、ドカンと行くよ~!!」
「ハルカ、行くよ!」
「は、はい!カヨコ課長!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ソイツラハコビダセ!
ナンニンイルノー?
30ハコエテル!
「さすがだな、便利屋。約束の報酬だ。」
「ええ、確かに受け取ったわ。これで仕事は終わりね。」
「ああ、良くやってくれた。また頼むぞ。」
「ありがとう。今後とも、便利屋68を御贔屓に。」
スタスタ……
「や、やりましたね、アル様!」
「元の依頼の報酬に、レイヴンちゃんからのボーナス。アルちゃん、今日ってツイてるんじゃない?」
「結局、レイヴンが大半倒してったけどね。アイツ、前より強くなってる気がする。」
「で、でも、そのおかげで、私達は助かりましたから。」
「……あ、アル様、どうしました?」
「……さっきのやり取り……!まさに、契約と己のルールだけに従って戦う傭兵……!最っ高にアウトローだった……!」
「あちゃー、さっきのやり取りが余程気に入ったんだね。」
「当たり前でしょ!一度敵対した相手からの依頼……!それを余裕綽々にこなす私達……!これをカッコいいとい言わずしてなんて言うのよ!」
「……余裕なんてあったっけ……?」
――――――――――――――――――――――――――――――――
「ハァ~……。」
疲労から客先であることも忘れて、ソファーにドカッと座り込む。
仕事を始めてから何人しょっぴいたか分からない。
ゲヘナ学園、修羅の国が過ぎる。
「今日は本当に良くやってくれたわ。おかげで助かった。」
今日だけで厄介者を粗方捕まえられたことで、ヒナは相当助かったようだ。
一部は病院送りにしてしまったが、お灸をすえる意味でも正しいとはヒナの談。
便利屋については、あまり重要視していないらしい。
一時的に味方にすることにも、反対することは無かった。
アコは違ったようだが、委員長権限で黙らせていたようだ。
「それならいいんだが……。お前たちはいつもこんなことをやっているのか?」
「そうよ、それも毎日。」
「……割に合わないな。」
「……本当にね。」
ヒナの目にクマができていたのも納得だ。
こんな仕事続けていたら早死にする。
当の本人も面倒くさがっているし、早く次を見つけて引退した方が良いだろう。
『……そういえば、アビドスでの一件で、アコはシャーレの先生を確保しようとしていましたね。』
『何か理由があったんでしょうか?』
ヒナが手を止めてこちらを見つめる。
アビドスの一件、あれはアコの独断だったはずだ。
それを決意させる要因があったはずだが、果たして。
「……エデン条約。聞いたことは?」
『……ゲヘナとトリニティの、和平条約。』
「端的に言えばそうよ。長く続いた因縁に終止符を打つ。少なくとも、書面上では。」
「その締結まで、先生をゲヘナで確保しておけば、トリニティはシャーレの権限を使えないし、妙なことは出来なくなる。そう思っていたみたい。」
ゲヘナ学園と、トリニティ総合学園。
ここは昔から仲が悪いと聞いている。
そのわだかまりを解消するのが、エデン条約、という事か。
犬猿の仲の二人の手を取らせて『仲良くしましょう。』と握手させたところで、握った手をどっちが先に握りつぶすかの勝負になるだけだ。
ベイラムとアーキバスという前例もあることだしな。
条約に大した意味があるとは思えない。
『……分かりません。先生は連邦捜査部、連邦生徒会下部組織の顧問です。』
『そんな人物を正当な理由なく拘禁すれば、トリニティだけでなく、連邦生徒会や他の学園にも、政治的にゲヘナに付け入る隙を与えることになります。』
『ゲヘナの破綻を速めているとしか思えません。』
「……だそうよ、アコ。これであなたが何をしようとしていたのか分かった?」
「はい……。申し訳ありませんでした、ヒナ委員長……。」
アコが書類の山の向こう側から答える。
ヒナに直接怒られたのが効いているのか、やけにしょんぼりとした声だった。
本当に反省しているのかは、アコ本人のみが知る。
「私たちの仕事は、ゲヘナの風紀を維持すること。政治は万魔殿に任せておけばいい。分かったら手を動かす。」
「は、はいぃ……!」
「……部下には苦労しているようだな。」
「……普段は優秀なのよ。」
そう言われてアコを見れば、確かに手は早い。
優秀というのは間違ってなさそうだ。性格に難あり、だが。
いっそ、アーキバス式再教育でもしてやったらどうかと思ったが、流石に惨いか。
「……私からも1ついいかしら?」
「何だ?」
「あなたを調べていたら、ハンドラーという名前が出てきた。どういう関係なの?」
「………………。」
こいつ、どこまで俺を調べているんだ。
ハンドラーの名前を出したことはほとんどない。
それこそ、アビドスの連中にも話していない事だ。
どこから聞きつけたのやら。
「……かつての、恩人だ。」
「……今はどこに?」
「……死んだよ。」
「……ごめんなさい。変なことを聞いてしまって。」
「構わない。もう昔のことだ。」
そう、ルビコンでの出来事であり、もう過ぎたことだ。
俺がウォルターの死を悔やむ権利は無い。
裏切ったのは、俺自身の意志なのだから。
『……レイヴン、そろそろお暇しましょう。』
「……そうだな。仕事はいつでも――。」
「ヒナ委員長、失礼します!万魔殿からの伝言です!」
歓迎しよう、と言おうとしたところで来客が入った。
風紀委員会の部下の1人のようだ。
「どうしたの?」
「……マコト議長が、レイヴンを連れてこい、と。」
「……マコト、今度は何を考えてるの……?」
どうやら、ヒナとは因縁浅からぬ相手のようだ。
ここはこいつに判断を任せた方が良いだろう。
最悪、そのマコトとやらは力でねじ伏せればいい。
「ヒナ、俺は構わない。お前の判断に任せる。」
「……メイ、マコトにすぐに行くと伝えて。」
「分かりました。では、失礼します!」
「アコ、少し席を外すわ。留守をお願い。」
「お任せください、委員長!」
周囲の部下にスムーズに指示を飛ばしていく。
こういうところが、ヒナが委員長足りうる所以なのかもしれん。
「ここから議事堂まで少し歩くわ。すぐに帰れるように、荷物をまとめておいて。」
「了解した。そうさせてもらう。」
仕事終わりに呼びつけられたイライラが一周回って、興味が出てきた。
さて、どんな野郎と顔を合わせることになるのやら。
――――――――――――――――――――――――――――――――
万魔殿議事堂。万魔殿の本拠地。
ゲヘナの校舎とは異なる意匠が用いられているようで、派手な装飾が施されている。
議長室の看板の下には門番が控えていた。
「ヒナ委員長、レイヴン様。マコト議長がお待ちです。」
門番がそう言うと、ゆっくりと扉を開いていく。
その先には、椅子に座ってふんぞり返りながら、ワイングラスを傾けている、白髪の生徒がいた。
不遜、という言葉を人間にしたら、きっとこんな姿をしているだろうと、何故か一目見ただけでそう思った。
「来たか、遅いではないか。」
「……マコト、今回はどういうつもり?」
「キシシッ。そう焦るな、ヒナ。お前にとっても悪い話では無いのだからな。」
「それはどうかしら……。」
隣のヒナが顔を見ただけでげんなりしている。
心なしか、髪の艶も僅かに失われているようだ。
どうやらこいつに苦労させられているらしい。
「初見となる、レイヴン。私は、ゲヘナ学園生徒会、万魔殿の議長、羽沼マコト様だ。」
「よろしく頼む。で、話の本題は?」
「全く、風情というものが分かっていない奴だ。まあ聞くがいい。」
椅子に座りながら自己紹介をするマコト。
なるほど、妙な魅力のある奴だ。
少し話しただけで殴り飛ばしたくなってくる。
「お前の噂は聞いているぞ、レイヴン。どんな命知らずも恐れる、その手腕をな。」
「聞けば、アビドスで風紀委員会の部隊の大半を叩き潰したそうじゃないか。」
「……それがどうした?それを咎めるために、わざわざ呼び出したんじゃないだろうな。」
「当然だ。むしろ感謝したいくらいだとも!ヒナを見てみろ!寝不足と疲労で、実に無様な顔ではないか!キキキキッ!」
味方連中の損害を喜ぶとはどういう了見だ?
そんな態度を取っていれば、いずれお前を守るものは居なくなるぞ。
「……遺言はそれだけ?」
「落ち着けヒナ。今私はレイヴンと話をしているのだ。お前はおとなしくしてもらおうか。」
「……まあ、いいわ。」
ヒナが握った銃をゆっくりと下ろしていく。
そのまま撃ってしまえばいいと思ったのはここだけの話だ。
「何、お前に言いたいことは簡単だ、レイヴン。」
そう言うと、マコトは突然立ち上がり、演説を始めた。
長くなりそうなら、適当な所で蹴り飛ばしてやろう。
「貴様のその力、我ら万魔殿がもらい受ける!」
「レイヴンよ、貴様は未だ根無し草だ。そろそろ根を下ろしても良い頃合いではないか?」
「万魔殿のものとなれば、さらなる栄光と富を約束しよう!」
「具体的には、議長権限を使って、貴様にゲヘナの学籍を与え、万魔殿が保有する寮の中でもトップクラスの部屋を与えよう。もちろん、貴様にピッタリな仕事もな。」
「貴様が1つ頷くだけで、貴様が想像できないような生活が手に入るのだ!」
「どうだレイヴン?魅力的な提案ではないか?」
ふむ、悪くない。確かに悪くない条件だ。
マコトのために仕事をするという一点を除けばな。
嗚呼ハンドラー、私は貴方が恋しいです。
「……確かにな。ただし、こちらからも条件がある。」
「何だ?何でも言ってみろ。このマコト様が叶えてやろう。」
「契約金を用意しろ。額は……このぐらいだ。」
適当な紙を掴んで金額を書き込んでいく。
もちろん、ゼロがたくさんついた金額を。
「キキキッ!さすがは傭兵だ。信じるものは金と力――。」
「……何ぃ!!?」
「50億用意しろ。それでも負けた方だ。」
「何だと!?たった1人にこんなに払えというのか!?」
「そうだ。そもそも、お前はなぜ俺が独立しているのか分かってない。」
そう言い放ちながら、マコトに近づいていく。
そろそろ堪忍袋の緒も限界だ。
「お、おい。何故胸倉を掴んだ?」
「お前のような連中に使われないためだ。」
「おいレイヴン!?私を窓に押し付けて何をしようというんだレイヴン!?!?」
「俺を抱きこもうとする蛮勇は認めるが――。」
「おいヒナァ!!見ていないで助け――!」
「通らんよ、それはな。」
ガシャーン!
「……いい気味ね。」
さて、ゴミを片づけられたところで頭が冷えて冷静になっていく。
俺、結構マズいことをしてしまったよな?
「学園のトップを蹴り落としたのはマズかったか?」
「いいえ、むしろ丁度良かった。あなたがやっていなければ、私が撃ってたから。」
「ハッ、大して尊敬されていないようだな。」
「少なくとも私はそうね。マコトはすぐ調子に乗るから、定期的に痛めつけておかないと。」
「いっそ、次からはあなたに頼もうかしら。」
「そうしてくれ。仕事が増えるなら歓迎だ。」
「そう。それじゃあ、これからよろしく頼むわ、レイヴン。」
「ああ、よろしく頼む。」
ヒナが差し出した手の平をそっと握り、軽く上下させる。
学園にお得意様が出来たのは何よりだ。
これからのビジネスも安定していくだろう。
俺がアビドスを去った後も安心して仕事ができる。
「……ところで、ここの警備はどうした?」
「あなたと私を見て勝負を仕掛けるバカは居ない。安心して。」
「それはそれでどうなんだ……?」
賢明だと褒めるべきか、職務怠慢だと嘆くべきか。
まあ、さっき蹴り落としたバカが、いずれ言ってくれるだろう。
ちなみに、今回の報酬額だが、風紀委員会の予算1月分だったそうだ。
マコトをTHIS IS SPARTA!!!できたので私は満足です。
ごめんよマコトちゃん。でもね、君オチに便利なんだ。
次回
失ったもの、取り戻したもの
一度生まれたものは、そう簡単には死なない。
次回も気長にお待ちくださいませ……。