BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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キヴォトスの傭兵事情ってよく分かんないんですよね……。
やっぱり特定の取引先を持っておくのが普通なんだろうか?


10.風紀委員会救援

レイヴン

 本名:不明

 年齢:不明

 身長:170cm+

 所属校:不明(恐らくアビドス高校)

 武器:LMG、ショットガン、リボルバー

 危険度:極高

 

 “独立傭兵レイヴン”を自称する傭兵バイト。

 機動力を生かした近距離速攻戦を得意とする。

 極めて強い攻撃性を有しており、慎重な対応が求められる。

 裏切りや契約違反を特に嫌う。

 メインクライアントは企業。

 危険度の高い依頼を好んで遂行する。

 ブラックマーケット治安維持機関襲撃事件の主犯。

 “ハンドラー”という人物が裏にいる可能性有。

 

エア

 レイヴンのオペレーターを名乗る女性。

 極めて高いハッキング能力を持つこと以外、一切が不明。

 姿も確認できず。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 私は今、アコが入れてくれたコーヒーを片手に、情報部からの報告書に目を通している。

 不明な点が多く、過去の経歴については真っ白。

 エアに至っては姿すら分からないという始末。

 そんな調査結果に対し――。

 

 「どうしてこんなに分からないところが多いんですか!あれだけ好き勝手暴れまわってたら、情報は嫌でも残るでしょう!」

 「本当にちゃんと調べたんですか!?」

 

 アコは納得いかないのか、情報部の後輩に詰め寄っていた。

 

 「全部調べてます!ただ、裏が取れた情報が本当に少なくて……!」

 

 「いいえ、そんなことは無いです!絶対もっと出てくるでしょう!」

 

 「アコ、落ち着いて。ほかに報告すべきことはある?」

 

 調査対象の情報が出てこない、という事は往々にしてあること。

 むやみに情報を引き出そうとして、踏み込んではいけない場所に踏み込んでしまってはならない。

 情報部時代の私が先輩から教わったことだ。

 多分、今回は踏み込んではいけない場所に踏み込みかけている。

 

 「……エアと名乗る人物から、ハッキングによる警告を受けました。これ以上、レイヴンを嗅ぎまわるな、と。」

 「これ以上調査を続ければ、こちらに報復してくるかもしれません。」

 「ヒナ先輩、どうしますか?調査を続けるべきですか?」

 

 やはり、既に調査を察知されていた。

 さすがの感だ、只者じゃない。

 

 「ヒナ委員長、続けるべきです。報復されたところで、たった1人に大したことは――。」

 

 「そのたった1人を相手にどれだけ被害が出たのか、もう忘れたの?」

 

 「そ、それは、その……。すみません……。」

 

 アコを窘めながら考える。

 まずハッキングを仕掛けられたという事は、インターネットでの調査は悪手。

 現地調査も、もし調査員がレイヴンに見つかれば、再起不能になるまで痛めつけられる可能性もある。

 かと言って何もしない、というのも、万魔殿から詰められそうで面倒だ。

 やはり、あの方法を取るしかないのだろう。

 

 「調査は全て中断。流れてくる情報をまとめるに留めて。」

 「あれだけの実力があれば、嫌でもこちらに情報が流れてくるはず。」

 

 「分かりました。情報部に伝えます。」

 

 後輩が一礼して、執務室から出ていく。

 彼女がくれた報告書の中には、レイヴンの連絡先も入っている。

 

 「……本当に良かったんですか、委員長?」

 

 「ええ。焦る必要は無い。」

 「それに、役立てる方法もあるわ。」

 

 もし本当に独立しているなら、依頼人を選ばないはず。

 ここは、可能性に賭けてみよう。

 そう考えながら、私はスマホを取り出した。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 『レイヴン、これはゲヘナ風紀委員会からの、正式な依頼よ。』

 

 『目的は、ゲヘナ全域の不良生徒の鎮圧。』

 

 『あなたが参加していたアビドスでの戦闘で、私達の戦力は大きく削られている。』

 

 『そこまでならまだいいのだけど、問題は、それを聞きつけた不良たちが一斉に暴れだしたこと。』

 

 『私が対応してもいいけど、こっちは書類に追われてそれどころじゃない。』

 

 『そこで、あなたには風紀委員会に協力してもらう。ゲヘナの不良たちを片っ端から鎮圧して。』

 

 『どう鎮圧するかは、あなたに任せる。私としては、力で抑え込むことをお勧めする。』

 

 『報酬は完全な出来高制。あなたが鎮圧した分、それだけ報酬も増える。』

 

 『厄介な相手を捕まえてくれたら、ボーナスも出す。見逃さないようにして。』

 

 『以上よ。この状況はあなたが蒔いた種とも言える。しっかり働いてもらうわよ。』

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ブオォォン!

 

 カイザーの基地からくすねてきたバイクでゲヘナ学園の校舎に乗り付ける。

 指定された場所には、ゲヘナの風紀委員長と、その副官と思わしき生徒が立っていた。

 バイクを降りて2人に近づいていく。

 

 「……来たわね。」

 

 「また会ったな、風紀委員長。」

 

 「ヒナでいい。仕事の内容は分かってる?」

 

 「ゲヘナの不良を潰せ、だろ?」

 

 「分かっているならいい。アコ、腕章を。」

 

 副官が風紀委員会の腕章を懐から取り出した。

 なるほど、こいつがあの天雨アコか。

 とりあえず、替えの服を用意したらどうだ。

 胸が半分出ているぞ。

 

 『……ヒナ、肉体疲労がかなり蓄積しているようです。眠れていますか?』

 

 「……眠れていないから、あなた達を雇ったの。」

 

 エアの言葉につられてヒナの顔を見ると、確かに目元にクマが見える。

 アビドスでの出来事の後処理に追われたか、あるいはいつもの事なのか。

 俺たちが知る由は無い。

 

 「そもそもこの状況はあなた達のせいだと理解していますか、レイヴンさん?」

 

 『……あなたが攻撃指示を出さなければ、部隊が損耗することも無かったと思いますが、アコ。』

 

 「止めろ、エア。」

 「アコ、止めなさい。」

 

 『……すみません。』

 「……ごめんなさい。」

 

 お互いの相方を窘めると、2人同時に謝ってきた。

 お前たち、存外仲良くなれるんじゃないか?

 

 「……とにかく、請け負った以上仕事はしてもらう。仕事中はこの腕章を付けて。」

 

 「それは友軍識別も兼ねています。仕事中に外れて、何か事故が起きたとしても、私達は責任を取りませんので、あしからず。」

 

 前言撤回、アコはこちらと仲良くする気が全くないようだ。

 まあ、やったことがやったことなので致し方ない事なのだが。

 

 「何かあったら通信で伝えるから、回線は――。」

 

 ヒナが指示を出そうとした瞬間、無線から慌てた声が届いてきた。

 その内容は、いかにもキヴォトスらしいものであった。

 

 『こちら第9分隊、廃倉庫でチンピラとヘルメット団が睨み合ってます!今にも撃ち合いだしそうです、応援をお願いします!』

 

 「分かった。今応援を送る。できるだけ時間を稼いで。」

 

 『了解です!』

 

 奴ら、こんな抗争を日常的にやっているらしい。

 俺からすれば、無駄としか思えない。

 戦うなら徹底的に叩き潰せばいいものを。

 あるいは、それだけの力の差が無いのかもしれん。

 

 「レイヴン、早速仕事をしてもらう。第9分隊の救援をお願い。」

 

 「念のため、あなたのコールサインも決めておきましょう。希望はありますか?なければ“ブービー”とさせてもらいます。」

 

 状況的には片方が倒れるのを待った方が良さそうだが、今回は歩合制の契約だ。

 全員しょっぴかせてもらおう。

 それとアコ、お前は敵意を隠すという事を覚えた方が良い。

 味方になろうとしている奴に取る態度じゃないぞ。

 それに、俺のコールサインはもうある。

 

 「……《G(ガンズ)13》で頼む。」

 

 「13?1番だと思っていたのだけれど。」

 

 「……ラッキーナンバーなんだ。」

 

 「……あなたが験を担ぐなんてね。少し、意外。」

 

 レッドの奴から縁起が悪いと聞いているコールサイン、G13。

 それを付けてなお生き残っている強運野郎。

 きっと、ミシガンなら俺をそう呼ぶだろう。

 

 「こちら風紀委員長、各隊に告ぐ。レイヴンが風紀委員会の味方になった。コールサインはG13。」

 「これから第9分隊の救援に向かう。風紀の腕章を付けているから、誤射に注意して。」

 

 『マジか!?本当に?あのレイヴンが!?』

 

 『手を貸してくれるなら何でもいい!頼んだぞ、レイヴン!』

 

 「了解だ。第9分隊、持ちこたえろ。すぐに向かう。」

 

 「頼むわよ、レイヴン。」

 

 バイクにまたがりエンジンをかける。

 ここからであれば、5分で目的地に着く。

 そのくらいなら持ちこたえてくれるだろう。

 さあ、仕事に掛かろう。

 アクセルをひねればエンジンがうなりを上げ、地面を蹴り上げた。

 

 ブオォォン!ブオォォ……

 

 「すぐにでも止めた方が良いですよ委員長、いつ裏切ってくるか分からない傭兵を雇うなんて……!」

 「お金を積まれたらきっと簡単に寝返りますよ……!?」

 

 「確かに、そのリスクはある。でも、不良が払える額なんてたかが知れてる。」

 「レイヴンが裏切る心配は、ほぼ無いと思っていい。」

 「……少なくとも、今日中は。」

 「メイ、万魔殿の動きを警戒して。特にレイヴンには近寄らせないで。」

 

 『分かりました。ついでに、委員長と行政官は席を外してるって万魔殿に伝えておきます。』

 

 「それでいい。ありがとう。」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ドドドドドッ!

 バァンバァンッ!

 

 「ああもう!何でチンピラもヘルメット団もこっち撃ってくるんだよ!?撃ちたいならお互いを撃てばいいだろ!?」

 

 「もうしゃーないよ。私たち、そういう役回りなんだし。諦めなって。」

 

 「風紀委員なんて入らなきゃよかった……!誰でもいいから助けてくれ!」

 

 『第9分隊、こちらG13。敵部隊の側方から接近します。誤射に注意してください。』

 

 「やっと来たか……!レイヴン、蹴散らしてやれ!」

 

 バババババッ!

 ズドンッズドンッ!

 ドギャッ!!

 

 「ギャアァァァ!!!」

 

 「アイエエエ!!レイヴン!?レイヴンナンデ!?」

 

 「ち、中断だ!急いで撤収するぞ!」

 

 「うひゃー、ありゃ怖がられるわけだよ……。容赦ないもん……。」

 

 「不良ながら、同情するよ……。」

 

 「まっ、レイヴンを雇ったヒナ委員長が悪いってことで。」

 

 「……おい、終わったぞ。」

 

 「うおッ!?は、早いな、レイヴン……!」

 

 「……うわ、マジで全滅してんじゃん。ご愁傷様。」

 

 「後処理はこちらでやっておく。助かったぞ。」

 

 「ああ、後は任せる。」

 

 『レイヴン、救援要請です。すぐに向かいましょう。』

 

 「了解、行くぞ。」

 

 ブオォォン!ブオォォ……

 

 「……私もあんな風に、強くなれるかな?」

 

 「いやー無理でしょ。もう生き物として違うって。ヒナ委員長と一緒。」

 

 「……確かに。羨ましいな……。」

 

 「それじゃ、こいつら運んでいこう。多分車一台じゃ終わんないけどね……。」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「開発させろ―!横暴だ―!」

 

 「そーだそーだ!温泉のロマンが分かんないのか―!?」

 

 「だ~か~らぁ!そこ掘ったら水道管が壊れるって何度も言ってるでしょ!?せめて他所で開発しなさいよ!」

 

 「いいやダメだ!ここじゃなきゃ意味が無いんだ!ここを掘れば絶対に温泉が出てくるんだ!」

 

 「その確信はどっから来てるのよ!?」

 

 「私たちの、温泉魂だッ!!そうだろ皆!!!」

 

 「「「「「オォーーーッ!!」」」」」

 

 「ハァァァアアアア!!!もういい、射撃準備!!」

 

 「待ちたまえ。何も撃ち合う必要は無い。」

 

 「そーだよ。みんなで一緒に話しあおー!」

 

 「ゲッ!?カスミに、メグ……!」

 

 「おや、どうやら私たちを知ってくれていたようだね。」

 

 「あったり前でしょ!アンタらのせいでゲヘナがどんだけ壊されたか!アンタらの尻拭いをするのはこっちなんだけど!?」

 

 「おお!後片付けを手伝ってくれていたとは!感謝するよ!」

 「ついでに、君も一緒に温泉を掘らないかい?どうせ片づけをするなら、開発も楽しんだ方が良いと思うのだがねぇ。」

 

 「いいね!みんなで一緒に温泉掘ろうよ!すっごく楽しいよ!」

 

 「誰がやるもんですか!いい加減アンタらまとめて――!」

 

 「G13、現着した。何の騒ぎだ?」

 

 「――ッ!レイヴン、丁度良かった!こいつらを捕まえるのを手伝って!」

 

 「うん?レイヴン?部長、なんか聞いたことある名前だね。」

 

 「これはこれは、ブラックマーケットのカラスさんじゃないか。風紀委員会に鞍替えでもしたのかな?」

 

 「今回は雇われだ。お前たちを確保する。」

 

 「まあ待ちたまえ!私から君にオファーがあるんだ。」

 

 「……何だ?」

 

 「レイヴン、こいつの話を聞いちゃダメ!」

 

 「私たちの温泉開発に協力してほしいんだ。具体的に言うと、私達をちょーっと見逃してくれればそれでいい。」

 「もしここから温泉が見つかったら、君を一番に招待しようじゃないか!」

 「どうだい?悪い話ではないだろう?いくらで雇われたのかは知らないが、きっと大した額ではないんだろう?」

 「それならいっそ何もせず、タダで温泉に入れると考えた方がよっぽど――。」

 

 ブシュ―!

 

 「うわぁ!?何も見えないよ~!」

 

 「おっと、これはマズい奴だな?」

 

 「その通りだ。」

 

 ドグシャァ!

 

 ポイッポイッ

 

 「く、おぉぉ……!」

 

 「きゅぅ~……。」

 

 「……人体って、潰れるのね。しかも縦に……。」

 

 「……ヤバいよね、これ?」

 

 「……うん、ヤバいかも。」

 

 「……今すぐ逃げ――!」

 

 「逃がすか。お前たちもボーナス対象だ。」

 「全員叩き潰してやる。」

 

 「「「ビャアアァァァァ!!!」」」

 

 ズガガガガガッ!

 ボガーン!

 

 「……隊長、援護した方が良いですかね?」

 

 「……いや、要らないでしょ、あの調子なら。」

 「搬送準備急いで。多分何十人と運ぶことになるから。」

 

 チョ、チョットハナシヲkグエッ!!

 アバババババ

 ゴメンナサーーイ!!!

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 『この辺り、評価の高い飲食店が多いです。どこを選んでもハズレは無いでしょう。』

 

 「ほう、それならあそこのとんかつ屋に――。」

 

 ドカーン!

 

 「……エア、とんかつ屋が消し飛んだぞ。」

 

 『……ガス爆発では無いようです。一体……。』

 

 スタスタスタ

 

 「はあ……。あの店主、美食の何たるかを全く分かっておりませんでしたね。残念ですわ。」

 

 「特盛と言いながら量も少なかったですし、あんな店は無くなった方が、キヴォトスの美食のためになりますね。」

 

 「そうだよね~。もっと味にパンチがあれば良かったんだけどな~……。例えば、ミントソースとか!」

 

 「絶対美味しくないでしょそれ!私結局一口も食べられなかったし……!」

 

 「まあまあジュンコさん、むしろあれを食べずに済んだと考えた方が良いですわよ。」

 

 「それでも!うぅ、お腹すいた……!」

 

 「それではもう1軒行きましょうか。近くに美味しいラーメンが――。」

 

 「……ん?あなた、誰?」

 

 「……美食研だな?」

 

 「はい、私達は美食研究会。キヴォトスの最高の美食を追い求めておりますの。」

 「私は、黒舘ハルナ。初めてお目にかか――。」

 

 ドゴォッ!!

 

 「……へっ?」

 

 「……あら~、ちょっとオイタが――。」

 

 ドゴォッ!!

 

 「ちょ、ちょっと!いきなり何――。」

 

 「それはこちらのセリフだ。」

 「お前たちが今さっき爆破した店は、俺が気になっていた店だ。」

 「美食研究会を名乗るなら、人の美食の邪魔をしないのが、マナーってやつじゃないのか。」

 

 「うぐっ……!それを言われると……!」

 

 「で、でもでも、あの店、そんなに美味しくなかったから――!」

 

 「だから吹き飛ばしてもいいと?ふざけるな。」

 「覚悟しろ美食研。楽には殺さん。」

 

 「「ピッ……!」」

 

 「「ピャァァアアアアアア!!!!」」

 

 ドゴォッ!!

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ピーポーピーポー

 

 「おーい、生きてるかー?」

 

 「マエガミエネエデスワ……。」

 

 「お疲れ様です、レイヴン。死た、要救護者はこちらで搬送します。」

 

 「頼んだぞ、救急医学部。特に美食研はどんなに暴れようがベッドに括り付けておけ。」

 

 「そのつもりです。あとはお任せください。」

 

 ブオォォ……

 

 「……エア、他にいい店はあるか?」

 

 『この近くにラーメン屋があります。味噌ラーメンが美味しいそうですよ。』

 

 「ならそこに行こう。美食研め、余計な手間を……。」

 

 『彼女たちもボーナス対象でした。報酬が相手から飛び込んできたと考えましょう。』

 

 「……そうだな、そうしよう。」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ズガガガガガッ!

 ドガーン!

 ズドンッズドンッ!

 

 「この野郎、よくもやってくれたな!」

 

 「ここから逃げられると思うなよ、便利屋69!」

 

 「私たちは便利屋“68”よ!69じゃない!」

 

 「アッハハ!意外とやるじゃん!そう来なくっちゃ!」

 

 「わああぁぁああ!!アルさまに手を出すなぁぁぁッ!!!」

 

 「さすがに数が多い……!このままじゃ逃げ道塞がれるよ!」

 

 「マズいわね、何とか撤退するわよ!ハルカ、戻ってきて!」

 

 「死んでください!死んでください!死んでくださいッ!!死んでくださいッ!!死んでくださいッ!!!」

 

 「は、ハルカ!?それ以上は本当に死んじゃうわよ!?」

 

 「えー?アルちゃん、本当に逃げちゃうの?それってアウトローなのかな?」

 

 「ムツキ、いいから撤収よ!それに、こんな状況から無事に抜け出すのも、アウトローでカッコいいでしょ!」

 

 「クッフフ~、それもそうだね!」

 

 「社長、囲まれ初めてる!急がないと!」

 

 「ウソでしょ!?みんな、急いで逃げ――。」

 

 『便利屋68、こちらは、独立傭兵レイヴンだ。』

 

 「レイヴン!?今あなたと話してる余裕が――!」

 

 『俺は今、風紀委員会に雇われている。お前たちに協力を要請する。』

 『今お前たちが戦っている不良たちの鎮圧に協力しろ。』

 『報酬は戦闘終了後に50万。風紀委員会にも、今回は見逃すように話を付けている。』

 『便利屋68、色よい返事を期待する。』

 

 「レイヴンからの協力要請!?これって……!」

 

 「風紀委員会にも協力するってことだよね。私はどっちでもいいよ、アルちゃん!面白そうだしっ!」

 

 「アル様、ごめんなさいっ!全員倒しきれませんでした!い、今すぐ死んできますっ!!!」

 

 「ハルカ、落ち着いて!倒してくれるだけで十分よ!」

 

 「社長、今回は受けた方が良い!味方が増えるなら、それだけ安全に出られる!」

 

 「その通りね、さすがカヨコ課長!」

 「レイヴン、聞こえてる!?私たちは依頼を受けるわ!」

 

 『依頼受諾を了解。1分で現着する、それまで持ちこたえろ。』

 

 「……私たちを舐めないで頂戴。その1分で、全員倒しきってやるわっ!」

 

 「それじゃあ、ドカンと行くよ~!!」

 

 「ハルカ、行くよ!」

 

 「は、はい!カヨコ課長!!」

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ソイツラハコビダセ!

 ナンニンイルノー?

 30ハコエテル!

 

 「さすがだな、便利屋。約束の報酬だ。」

 

 「ええ、確かに受け取ったわ。これで仕事は終わりね。」

 

 「ああ、良くやってくれた。また頼むぞ。」

 

 「ありがとう。今後とも、便利屋68を御贔屓に。」

 

 スタスタ……

 

 「や、やりましたね、アル様!」

 

 「元の依頼の報酬に、レイヴンちゃんからのボーナス。アルちゃん、今日ってツイてるんじゃない?」

 

 「結局、レイヴンが大半倒してったけどね。アイツ、前より強くなってる気がする。」

 

 「で、でも、そのおかげで、私達は助かりましたから。」

 「……あ、アル様、どうしました?」

 

 「……さっきのやり取り……!まさに、契約と己のルールだけに従って戦う傭兵……!最っ高にアウトローだった……!」

 

 「あちゃー、さっきのやり取りが余程気に入ったんだね。」

 

 「当たり前でしょ!一度敵対した相手からの依頼……!それを余裕綽々にこなす私達……!これをカッコいいとい言わずしてなんて言うのよ!」

 

 「……余裕なんてあったっけ……?」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「ハァ~……。」

 

 疲労から客先であることも忘れて、ソファーにドカッと座り込む。

 仕事を始めてから何人しょっぴいたか分からない。

 ゲヘナ学園、修羅の国が過ぎる。

 

 「今日は本当に良くやってくれたわ。おかげで助かった。」

 

 今日だけで厄介者を粗方捕まえられたことで、ヒナは相当助かったようだ。

 一部は病院送りにしてしまったが、お灸をすえる意味でも正しいとはヒナの談。

 便利屋については、あまり重要視していないらしい。

 一時的に味方にすることにも、反対することは無かった。

 アコは違ったようだが、委員長権限で黙らせていたようだ。

 

 「それならいいんだが……。お前たちはいつもこんなことをやっているのか?」

 

 「そうよ、それも毎日。」

 

 「……割に合わないな。」

 

 「……本当にね。」

 

 ヒナの目にクマができていたのも納得だ。

 こんな仕事続けていたら早死にする。

 当の本人も面倒くさがっているし、早く次を見つけて引退した方が良いだろう。

 

 『……そういえば、アビドスでの一件で、アコはシャーレの先生を確保しようとしていましたね。』

 『何か理由があったんでしょうか?』

 

 ヒナが手を止めてこちらを見つめる。

 アビドスの一件、あれはアコの独断だったはずだ。

 それを決意させる要因があったはずだが、果たして。

 

 「……エデン条約。聞いたことは?」

 

 『……ゲヘナとトリニティの、和平条約。』

 

 「端的に言えばそうよ。長く続いた因縁に終止符を打つ。少なくとも、書面上では。」

 「その締結まで、先生をゲヘナで確保しておけば、トリニティはシャーレの権限を使えないし、妙なことは出来なくなる。そう思っていたみたい。」

 

 ゲヘナ学園と、トリニティ総合学園。

 ここは昔から仲が悪いと聞いている。

 そのわだかまりを解消するのが、エデン条約、という事か。

 犬猿の仲の二人の手を取らせて『仲良くしましょう。』と握手させたところで、握った手をどっちが先に握りつぶすかの勝負になるだけだ。

 ベイラムとアーキバスという前例もあることだしな。

 条約に大した意味があるとは思えない。

 

 『……分かりません。先生は連邦捜査部、連邦生徒会下部組織の顧問です。』

 『そんな人物を正当な理由なく拘禁すれば、トリニティだけでなく、連邦生徒会や他の学園にも、政治的にゲヘナに付け入る隙を与えることになります。』

 『ゲヘナの破綻を速めているとしか思えません。』

 

 「……だそうよ、アコ。これであなたが何をしようとしていたのか分かった?」

 

 「はい……。申し訳ありませんでした、ヒナ委員長……。」

 

 アコが書類の山の向こう側から答える。

 ヒナに直接怒られたのが効いているのか、やけにしょんぼりとした声だった。

 本当に反省しているのかは、アコ本人のみが知る。

 

 「私たちの仕事は、ゲヘナの風紀を維持すること。政治は万魔殿に任せておけばいい。分かったら手を動かす。」

 

 「は、はいぃ……!」

 

 「……部下には苦労しているようだな。」

 

 「……普段は優秀なのよ。」

 

 そう言われてアコを見れば、確かに手は早い。

 優秀というのは間違ってなさそうだ。性格に難あり、だが。

 いっそ、アーキバス式再教育でもしてやったらどうかと思ったが、流石に惨いか。

 

 「……私からも1ついいかしら?」

 

 「何だ?」

 

 「あなたを調べていたら、ハンドラーという名前が出てきた。どういう関係なの?」

 

 「………………。」

 

 こいつ、どこまで俺を調べているんだ。

 ハンドラーの名前を出したことはほとんどない。

 それこそ、アビドスの連中にも話していない事だ。

 どこから聞きつけたのやら。

 

 「……かつての、恩人だ。」

 

 「……今はどこに?」

 

 「……死んだよ。」

 

 「……ごめんなさい。変なことを聞いてしまって。」

 

 「構わない。もう昔のことだ。」

 

 そう、ルビコンでの出来事であり、もう過ぎたことだ。

 俺がウォルターの死を悔やむ権利は無い。

 裏切ったのは、俺自身の意志なのだから。

 

 『……レイヴン、そろそろお暇しましょう。』

 

 「……そうだな。仕事はいつでも――。」

 

 「ヒナ委員長、失礼します!万魔殿からの伝言です!」

 

 歓迎しよう、と言おうとしたところで来客が入った。

 風紀委員会の部下の1人のようだ。

 万魔殿(パンデモニウム・ソサエティ)と言っていたが、何処の組織だ?

 

 「どうしたの?」

 

 「……マコト議長が、レイヴンを連れてこい、と。」

 

 「……マコト、今度は何を考えてるの……?」

 

 どうやら、ヒナとは因縁浅からぬ相手のようだ。

 ここはこいつに判断を任せた方が良いだろう。

 最悪、そのマコトとやらは力でねじ伏せればいい。

 

 「ヒナ、俺は構わない。お前の判断に任せる。」

 

 「……メイ、マコトにすぐに行くと伝えて。」

 

 「分かりました。では、失礼します!」

 

 「アコ、少し席を外すわ。留守をお願い。」

 

 「お任せください、委員長!」

 

 周囲の部下にスムーズに指示を飛ばしていく。

 こういうところが、ヒナが委員長足りうる所以なのかもしれん。

 

 「ここから議事堂まで少し歩くわ。すぐに帰れるように、荷物をまとめておいて。」

 

 「了解した。そうさせてもらう。」

 

 仕事終わりに呼びつけられたイライラが一周回って、興味が出てきた。

 さて、どんな野郎と顔を合わせることになるのやら。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 万魔殿議事堂。万魔殿の本拠地。

 ゲヘナの校舎とは異なる意匠が用いられているようで、派手な装飾が施されている。

 議長室の看板の下には門番が控えていた。

 

 「ヒナ委員長、レイヴン様。マコト議長がお待ちです。」

 

 門番がそう言うと、ゆっくりと扉を開いていく。

 その先には、椅子に座ってふんぞり返りながら、ワイングラスを傾けている、白髪の生徒がいた。

 不遜、という言葉を人間にしたら、きっとこんな姿をしているだろうと、何故か一目見ただけでそう思った。

 

 「来たか、遅いではないか。」

 

 「……マコト、今回はどういうつもり?」

 

 「キシシッ。そう焦るな、ヒナ。お前にとっても悪い話では無いのだからな。」

 

 「それはどうかしら……。」

 

 隣のヒナが顔を見ただけでげんなりしている。

 心なしか、髪の艶も僅かに失われているようだ。

 どうやらこいつに苦労させられているらしい。

 

 「初見となる、レイヴン。私は、ゲヘナ学園生徒会、万魔殿の議長、羽沼マコト様だ。」

 

 「よろしく頼む。で、話の本題は?」

 

 「全く、風情というものが分かっていない奴だ。まあ聞くがいい。」

 

 椅子に座りながら自己紹介をするマコト。

 なるほど、妙な魅力のある奴だ。

 少し話しただけで殴り飛ばしたくなってくる。

 

 「お前の噂は聞いているぞ、レイヴン。どんな命知らずも恐れる、その手腕をな。」

 「聞けば、アビドスで風紀委員会の部隊の大半を叩き潰したそうじゃないか。」

 

 「……それがどうした?それを咎めるために、わざわざ呼び出したんじゃないだろうな。」

 

 「当然だ。むしろ感謝したいくらいだとも!ヒナを見てみろ!寝不足と疲労で、実に無様な顔ではないか!キキキキッ!」

 

 味方連中の損害を喜ぶとはどういう了見だ?

 そんな態度を取っていれば、いずれお前を守るものは居なくなるぞ。

 

 「……遺言はそれだけ?」

 

 「落ち着けヒナ。今私はレイヴンと話をしているのだ。お前はおとなしくしてもらおうか。」

 

 「……まあ、いいわ。」

 

 ヒナが握った銃をゆっくりと下ろしていく。

 そのまま撃ってしまえばいいと思ったのはここだけの話だ。

 

 「何、お前に言いたいことは簡単だ、レイヴン。」

 

 そう言うと、マコトは突然立ち上がり、演説を始めた。

 長くなりそうなら、適当な所で蹴り飛ばしてやろう。

 

 「貴様のその力、我ら万魔殿がもらい受ける!」

 「レイヴンよ、貴様は未だ根無し草だ。そろそろ根を下ろしても良い頃合いではないか?」

 「万魔殿のものとなれば、さらなる栄光と富を約束しよう!」

 「具体的には、議長権限を使って、貴様にゲヘナの学籍を与え、万魔殿が保有する寮の中でもトップクラスの部屋を与えよう。もちろん、貴様にピッタリな仕事もな。」

 「貴様が1つ頷くだけで、貴様が想像できないような生活が手に入るのだ!」

 「どうだレイヴン?魅力的な提案ではないか?」

 

 ふむ、悪くない。確かに悪くない条件だ。

 マコトのために仕事をするという一点を除けばな。

 嗚呼ハンドラー、私は貴方が恋しいです。

 

 「……確かにな。ただし、こちらからも条件がある。」

 

 「何だ?何でも言ってみろ。このマコト様が叶えてやろう。」

 

 「契約金を用意しろ。額は……このぐらいだ。」

 

 適当な紙を掴んで金額を書き込んでいく。

 もちろん、ゼロがたくさんついた金額を。

 

 「キキキッ!さすがは傭兵だ。信じるものは金と力――。」

 「……何ぃ!!?」

 

 「50億用意しろ。それでも負けた方だ。」

 

 「何だと!?たった1人にこんなに払えというのか!?」

 

 「そうだ。そもそも、お前はなぜ俺が独立しているのか分かってない。」

 

 そう言い放ちながら、マコトに近づいていく。

 そろそろ堪忍袋の緒も限界だ。

 

 「お、おい。何故胸倉を掴んだ?」

 

 「お前のような連中に使われないためだ。」

 

 「おいレイヴン!?私を窓に押し付けて何をしようというんだレイヴン!?!?」

 

 「俺を抱きこもうとする蛮勇は認めるが――。」

 

 「おいヒナァ!!見ていないで助け――!」

 

 「通らんよ、それはな。」

 

 ガシャーン!

 

 「……いい気味ね。」

 

 さて、ゴミを片づけられたところで頭が冷えて冷静になっていく。

 俺、結構マズいことをしてしまったよな?

 

 「学園のトップを蹴り落としたのはマズかったか?」

 

 「いいえ、むしろ丁度良かった。あなたがやっていなければ、私が撃ってたから。」

 

 「ハッ、大して尊敬されていないようだな。」

 

 「少なくとも私はそうね。マコトはすぐ調子に乗るから、定期的に痛めつけておかないと。」

 「いっそ、次からはあなたに頼もうかしら。」

 

 「そうしてくれ。仕事が増えるなら歓迎だ。」

 

 「そう。それじゃあ、これからよろしく頼むわ、レイヴン。」

 

 「ああ、よろしく頼む。」

 

 ヒナが差し出した手の平をそっと握り、軽く上下させる。

 学園にお得意様が出来たのは何よりだ。

 これからのビジネスも安定していくだろう。

 俺がアビドスを去った後も安心して仕事ができる。

 

 「……ところで、ここの警備はどうした?」

 

 「あなたと私を見て勝負を仕掛けるバカは居ない。安心して。」

 

 「それはそれでどうなんだ……?」

 

 賢明だと褒めるべきか、職務怠慢だと嘆くべきか。

 まあ、さっき蹴り落としたバカが、いずれ言ってくれるだろう。

 

 ちなみに、今回の報酬額だが、風紀委員会の予算1月分だったそうだ。




マコトをTHIS IS SPARTA!!!できたので私は満足です。
ごめんよマコトちゃん。でもね、君オチに便利なんだ。

次回
失ったもの、取り戻したもの
一度生まれたものは、そう簡単には死なない。

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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