BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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今回はガッツリ戦闘回なので地の文多めです。
読みづらかったらユルシテ……。


8.マーケットガード襲撃

『マーケットガードの待機所を確認、合図があるまで待機します。』

 

 近くの建物の屋上から待機所を監視する。

 数は10人。歩兵が5、標準オートマタが3、盾を持っている大型のオートマタが2。

 当然だが、全員気が抜けている。これから何が起きるのかも知らずに。

 レイヴンの右手には、道中絡んできた不良生徒が持っていた無反動砲が握られている。

 

 『”分かった、こっちももうすぐ準備が終わるよ。”』

 

 『気を付けてくださいね、レイヴンさん。厳しそうだったらすぐに逃げてください。』

 

 「分かってる、無理はしない。」

 

 『”……作戦開始!レイヴン、お願い!”』

 

 『分かりました。レイヴン、交戦開始。』

 

 先生からの合図だ、俺も仕事を始めよう。

 こいつの詳しい使い方は知らないが、引き金を引いて弾が出るならどうとでもなる。

 無反動砲を肩に担いで片手で構え、照準を待機所に合わせる。

 呼吸を抑え、引き金を絞り、そして引く。

 轟音と僅かな衝撃と共に、砲弾が待機所に向けて叩きつけられる。

 

 「うぉあぁ!!何だぁ!?」

 

 「敵襲か!?迎撃準備!」

 

 壁の一部を吹き飛ばしたことで、ガード達がぞろぞろと外に出てくる。

 陣形を組んで守りを固め、こちらを探しているようだ。

 奴ら、動きは存外悪くない。初動は素早く、迷いがない。

 何処かのPMCが訓練を付けているのかもしれんな。

 

 そんなことを考えつつ、無反動砲を捨て、両手に銃を構えて建物から直接降りる。

 僅かな時間空中に浮かんだ後、着地。

 衝撃と共に地面に小さなヒビが入る。

 大体20mは落下したはずだが、足に感じる僅かな痛み以外は全く問題ない。

 この体が特別頑強なのか、キヴォトス人が皆こうなのかは判断しかねるところだ。

 

 既にマーキングによって奴らの位置は把握している。

 ゆっくりと立ち上がり、呼吸を整える。

 奴らに対し平行に走り出し、建物の影を利用して、陣形の死角に回り込んでいく。

 いっそ、陣形の内側に飛び込んでしまおうか。

 

 建物を1つ挟んで接敵するというところで、建物同士の空間を利用することにした。

 壁に向かって大きく跳躍、体を反転させながら両足で壁に接地、もう反対の壁に向けて再び跳躍する。

 いわゆる壁ジャンプだ。

 壁を三往復したところで、ガード側の建物の屋根が見えた。

 その屋根を飛び越えるように、壁を一層強く蹴り上げる。

 1回転しながら屋根を越えた直後、真下に陣形を組んだガード達を目視した。

 どうやら道路を見張れるよう、背中合わせに陣形を組んでいるようだ。

 

 高さは、また20mといったところか。

 僅かな時間空中に留まったのち、落下。

 地面に向けて加速しながら、陣形の両サイドに向けてLMGとショットガンを乱射する。

 銃声に反応しこちらに視線が集中するが、もう遅い。

 LMGによって2人、ショットガンで1人を屠る。

 落下の勢いそのままに踏みつけることで、オートマタ1体が鉄クズとなった。

 呼吸を整えながら、ゆっくりと立ち上がる。

 残りは6、その全ての銃口がこちらに向いている。

 さて、派手に行こうか。

 

 「こいつがやったのか……っ!やっちまえ!!」

 

 その言葉と共に、一斉に弾幕が張られる。

 既に倒れた同僚を撃ちたくないのか、随分と薄い弾幕だが。

 弾幕に構わず盾持ちに向かって一気に接近する。

 前に居る1人が殴りかかってくるが、当たる直前で飛び上がることで回避する。

 飛び上がった勢いのまま、構えた盾の上半分に両足で衝突。

 衝撃で盾の上側が沈み込んだところで、再び跳躍。

 宙返りしつつ無防備な上空から、両手を向けて撃ち下ろす。

 装甲が存在しない首筋に撃ち込まれたことで、大型オートマタがものの数秒で鉄クズと化す。

 

 「おいコイツ、レイヴンじゃねえか!!」

 

 「いい度胸だ、カラス野郎!!」

 

 着地した直後、敵に向かって急加速。

 ショットガンを2発叩きこんで1人処理しつつ、もう1人の顔面に向けてドロップキック。

 蹴りの勢いがそのまま相手に乗ったことでこちらは急停止。

 蹴られた相手は反対の陣形まで吹き飛ばされていった。

 これで、残りは3人。

 

 「クソッ!やりやがったなこの野郎ォ!!」

 

 「撃ちまくれ!近寄らせるな!!」

 

 間髪入れず再加速、LMGを乱射しながら接近していく。

 多数の銃弾を叩きこまれたことで1人の動きが止まった。

 だが、狙いはそちらではない。

 左にステップして銃弾をかわしつつ接近、勢いを載せて蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされたオートマタは壁に吸い込まれていった。

 再加速しつつLMGを腰のベルトに引っ掛け、空いた右手を握りしめ、胸部へと叩きつける。

 十分な質量と過剰な速度を伴った拳は、7.62mm弾の直撃に耐えると謳うオートマタの正面装甲を、内部部品ごと貫いた。

 右手をわずかに引き戻し、オートマタの内側を掴んで、歩兵に向けて投げ飛ばす。

 避けることは叶わず、鉄塊が直撃。

 

 「ウオオォォーーッッ!!」

 

 それと同時に盾持ちのオートマタがこちらに向かって突進、盾を大きく振りかぶった。

 相手に向かって踏み込むことで攻撃を回避、そのまま後方へと回り込む。

 減速しつつショットガンで両膝の裏側を打ち抜くことで膝を付かせる。

 盾を取りこぼした相手に向かって、ショットガンをベルトに下げながらゆっくりと接近する。

 

 「グ……ッ!クソ……ッ!」

 

 最後の抵抗か、右手に握った銃をこちらに向けるが、銃口が見える前に右手を蹴り飛ばす。

 そして空いた右腕を引っ張りながら頭を踏みつけ下げさせる。

 相手の頭を地面から僅かに浮かせて、渾身のストンプ。

 そのまま何回か踏み付ければ、足と地面の間にあったはずの頭部は、完全に消失した。

 と、微かな物音と呼吸音、さっきオートマタを投げつけたやつが起きていたらしい。

 右手を放して近づいていく。

 そいつは俺から逃げようとしているが、オートマタの残骸が邪魔をしているようだ。

 

 「ま、まって、助けて、お願い……!」

 

 「断る。こちらも仕事なんだ。」

 

 直後、相手の顔面に突き刺さるコンバットブーツ。

 ようやく気絶したようだ。

 不憫なことだ、楽に死ぬ権利すらないとはな。

 

 『……反応消失。待機所の制圧を確認。』

 

 10人がかりでこの程度か、解放戦線の方がまだ歯ごたえがあるぞ。

 

 『敵増援、第一波が接近中。備えてください、レイヴン。』

 

 連中、こちらにしっかり反応したようだな、上々だ。

 さあ、ここからが本番だ。

 

 『待機していた部隊からの応答がありません!全滅した模様!』

 

 『傭兵1人にしてやられるか、使えない連中だ。』

 『レイヴンを潰せ、手加減はするな。』

 

 奴らもやる気になったようだな。

 20人程の増援部隊を派遣したようだ。

 何人来ようと、俺のやることは変わらんがな。

 

 「陣形を組め!奴を近寄らせるなよ!」

 

 部隊構成こそ待機所の連中と変わらんようだが、ミニガン持ちのオートマタが混じっている。

 まずはそいつから仕留めるとしよう。

 

 ベルトからスモークグレネードを取り出し、ピンを抜いて陣形の手前に放り投げる。

 着弾と同時に一帯が煙幕に覆われたところで、すかさずフラッシュバンを取り出し、今度は陣形の内側に向けて投げる。

 フラッシュバンは空中で炸裂、閃光と轟音をまき散らす。

 

 「うあッ!クソ……ッ!」

 

 スキャンによってマーキングを済ませ、銃を取り出し加速する。

 怯んだことで弾幕すら張られていない。このまま一気に仕留めよう。

 

 構えられた盾の直前で跳躍、オートマタの頭上を飛び越しながら、敵集団に向けて適当に掃射。

 歩兵をクッションにして着地しつつ追撃、ぐるぐると回りながら鉛玉をばら撒いていく。

 

 「ブヘッ!?」

 

 「ギッッ!!」

 

 勢いそのままミニガン持ちのオートマタに接近、銃をベルトに引っ掛けながら歩兵を踏み台にして跳躍、頭を掴んだらそのまま背中に回り込む。

 背中に張り付いたら、右手であごを、左手で肩を掴んで、力任せに引きちぎる。

 ギシギシとフレームが軋む音、ブチブチとケーブルが千切れていく音と共に、ついに頭部が引き抜かれた。

 首からバチバチと火花を飛ばしながら、オートマタは前へと倒れこんだ。

 

 連中もさすがに視界を取り戻してきたのか、多数の銃口がこちらに向き始めた。

 急いでミニガンをむしり取り、集団に向けて掃射する。

 

 「ギャアアァァ!!!」

 

 「グオォォァ!!」

 

 鉛の雨と共に次々と倒れていくマーケットガード。

 これで粗方殲滅できたようだ。

 が、ミニガンが弾切れ、カラカラと空回りし始めた。

 こうなったらこいつはただの重りだ。

 機関部の後ろを手の平に載せ、砲丸投げの要領でぶん投げる。

 砲弾と化したミニガンはオートマタに直撃、胸部を貫いたミニガンと共に鉄クズとなった。

 

 残りは2人、うち1人は加速しながらLMGを叩きこんで処理。

 最後の一人に向かって飛びかかり、そのまま踏みつける。

 そして無防備となった頭に向けて、散弾を2発。

 これで第一波は全滅だ。

 

 『状況を報告しろ!どうした、聞こえんのか!?』

 

 『ダメです、増援部隊、全滅しました……。』

 

 『1分足らずだぞ!?腕の一本でも持っていけばいいものを……!役立たず共が!』

 『……ゴリアテを出せ!』

 

 『本気ですか!?たった1人にゴリアテを!?』

 

 『構わん!この際奴を仕留められればそれでいい!』

 

 ゴリアテ、二足歩行の人型無人兵器だったか。

 なりふり構っていられなくなったようだな、いい兆候だ。

 そうだ、無人兵器なら――。

 

 「……エア、新しいおもちゃが欲しくないか?」

 

 『……プレゼントですね、嬉しいです、レイヴン。』

 

 エアは俺がやりたいことを察してくれたらしい。

 すぐにゴリアテの設計図面が視界に映し出される。

 

 『ゴリアテのセンサーは正面中央の頭部に集中しています。そこに強い衝撃を与えて、システムをダウンさせてください。』

 『その隙に私がシステムに侵入して、ゴリアテの制御を奪います。』

 

 「了解だ。頼んだぞ、エア。」

 

 『……敵増援、第二波、来ます!』

 

 多数の人間の足音の中に、重機特有の重い駆動音。

 本当にゴリアテを出してきたようだな。

 集団に対しゆっくりと向き直る。

 まずはフラッシュバンで動きを――。

 

 警告、狙撃、前方。

 アラート音に対し反射的に横にステップする。

 その直後、銃弾がレイヴンの影を貫いた。

 弾が飛んできたであろう方向を見れば、建物の屋上にキラリと光る何か。

 さすがに狙撃手を展開してきたようだ。

 手持ちの武器で対処するには距離が遠すぎる。

 何より、動き回っていればそうそう当たるものではない。

 まずは、ゴリアテの対処に集中しよう。

 

 敵集団にフラッシュバンを投擲、強烈な閃光が視界を塞ぐ。

 弾幕が薄くなった隙に加速、建物の壁に向けて跳躍し、壁を駆けることで上を取りつつゴリアテに接近する。

 建物の壁がなくなる直前で再び跳躍、敵陣中央に向けてスモークグレネードを投げつつLMGを乱射。

 着地と同時に煙幕が展開されたことで、連中はこちらを見失ったようだ。

 

 「クソッ、どこ行った!?」

 

 だが、ゴリアテはそうではない。

 両腕に取り付けられたガトリングがこちらを狙い、ハチの巣にしようと鉛玉をばら撒いてくる。

 だが俺の近くに友軍が居るため、まだ弾幕は薄い。

 勝負を仕掛けるなら今だ。

 

 最後のフラッシュバンをゴリアテの顔面目掛けて投擲、1度跳ね返ったのち、炸裂した。

 カメラがダウンしたことで安全装置が働き射撃が止まる。

 敵部隊をすり抜けながら煙幕から脱出、そのまま一気にゴリアテ目掛けて突撃する。

 射程に入る直前でゴリアテのカメラが復旧し、こちらを打ち抜かんとガトリングを向けようとした。

 だが、こちらの方が1歩早い。

 

 鉛玉が吐き出される前に飛び上がり、ゴリアテの正面に取りつく。

 そのまま主砲の下までよじ登り、拳を握って頭を何度も殴りつける。

 異常を察知したゴリアテがこちらを振りほどこうと暴れ始めた。

 煙幕が切れたことで、他の連中も俺を打ち落とそうと銃を向けている。

 だがゴリアテが暴れまわっていることでろくに射線に入らないようで、飛んでくる銃弾は僅か。

 もう2、3発殴りつければ――。

 

 ≪Warning! System Malfunction!≫

 

 「エア、やれ!」

 

 異常を起こしたゴリアテが機能を停止する。

 あとは、エアのハッキングが終わるまで守り抜くだけだ。

 

 最後のスモークグレネードを使って敵集団の前方に煙幕を張る。

 ゴリアテから飛び降りて煙幕の中に飛び込む。

 そして、煙幕の中から見えている敵を片っ端から撃っていく。

 もちろん弾幕が張られるが、多少の被弾は気にせず攻撃を続ける。

 煙幕が銃弾によって薄くなってきたら脱出し、近くにいた奴を蹴り飛ばす。

 そして、歩兵を踏み台に跳躍、無防備な上から撃ち下ろしていく。

 狙撃はアラートに従いステップで回避していく。

 

 ≪MainSystem Rebooted.≫

 

 マーケットガードの相手をしてから30秒ほど、ゴリアテが復旧した。

 

 「……は、ハハハハッ!これで終わりだ、レイヴン!」

 

 敵兵を蹴り飛ばしながら後退、ゴリアテの近くで待機する。

 ゴリアテは立ち上がったと思ったら旋回を初め、やがて停止。

 主砲を展開して射撃姿勢を取ったのち、轟音が弾けた。

 狙っていたのは、狙撃手が配置されていた建物であった。

 制御しているのは、もちろん――。

 

 「お待たせしました、レイヴン。また、あなたと一緒に戦えます。」

 

 「無理はするなよ。ACとは違うからな。」

 

 「もちろんです。さあ、レイヴン。」

 

 ゴリアテがマーケットガードに対してゆっくりと振り返る。

 唖然とする者、絶望の表情を浮かべる者、逃げ出す準備を始める者。

 マーケットガードの反応は様々だ。

 まあ、どんな反応を返そうと、結末は変わらない。

 

 「手早く片づけましょう。」

 

 連中が動き出す前に、エアが主砲を叩きこんだ。

 歩兵は衝撃で吹き飛び、オートマタはバラバラになってはじけ飛ぶ。

 生き残りもガトリングの掃射によって次々倒されていく。

 俺もエアの横で撃ち漏らしを片づけていく。

 そうしているうちに、第二波の僅かな生き残りは逃げ出したようで、俺たち以外に動くものは居なくなっていた。

 

 『”レイヴン、こっちは無事に終わったよ。”』

 

 『マーケットガードがそちらに集中しています!早めに逃げてください!』

 

 先生たちからの通信だ。あいつらもうまく行ったらしい。

 これ以上の長居は無用だろう。

 

 『分かりました。では私たちも――。』

 

 直後、後ろから聞こえる無数の足音とエンジン音。

 第三波が到着したようだ。

 連中を見てみれば、大量の歩兵隊に戦車まで引っ張ってきている。

 よほど俺を仕留めたいらしい。

 

 『……もう少し遊んでから合流します。』

 

 そんなに遊びたいなら、付き合ってやろうじゃないか。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 結局あの後、マーケットガードは、第五波まで付き合ってようやく撤退を選択した。

 結果として俺が壊したのは、歩兵が多数と、装甲車と戦車が合わせて十数台、ゴリアテも追加で何機か壊している。

 ヘリも出ていたが、そっちはエアが叩き落していた。

 

 まあ、こちらもそれなりの代償は払った。

 武器はリボルバーを含めてすべて弾切れ。

 LMGとショットガンに至っては殴打するために振り回したので全損。

 俺自身も何発かもらったことで軽く負傷しているし、あれだけ相手取るとさすがに疲れるものだ。

 エアが乗っ取ったゴリアテも大破している。まあこっちはなんてことはないが。

 

 だがその甲斐あってか、強盗作戦は離脱までクリーンに成功。

 “独立傭兵レイヴン”の名前も、無事に大きく拡散された。

 完璧にこちらの思惑通りに事が進んでいる。

 仕事がここまでうまくいったのは、ルビコンでのそれを含めて考えても初めてではないだろうか。

 

 マーケットガードのその後については……。

 まあ、語るまでも無いだろう。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 動き回って腹が減っていたので、道中で山盛りのたこ焼きを摘まみながら合流地点に向かう。

 指定された場所にたどり着くと、覆面水着団を名乗るアビドス達と、便利屋68の社長、陸八魔アルが話し込んでいた。

 ………………いや何故?

 

 「あっ、レイヴンちゃんじゃーん!やっほー!」

 

 「ん?アンタか、どうも。」

 

 「こ、こんにちはっ!」

 

 「……なぜお前たちがここに?」

 

 「いやー、滞納してたお金払ったら、レイヴンちゃんがくれたお金が無くなっちゃったんだよね。」

 

 「そ。それで、アル社長が銀行から融資を受けようとしてたんだけど……。」

 

 「……覆面水着団が、その銀行に乗り込んだというわけか。」

 

 カヨコが頷くことで答える。

 こんな偶然があるものなのか。

 というか、札束2つ分の滞納金を抱えてたのか。

 奴が必死になってデカい仕事を受けていたのも頷ける。

 

 「……それで、アルはどうしたんだ?」

 

 「……アビドスの“アウトローっぷり”に感銘を受けちゃったんだ。」

 

 「クフフ~。アルちゃんホントに面白いよね。」

 

 「で、でも、そこがアル様の良いところですっ!」

 

 「褒めてるのかそれ?」

 

 視線を感じてふとアビドス達に目を向けると、こちらに向かって手を振っている。

 それに対し、俺は親指を立てて答えた。

 それを見ていたアルが俺たちの関係を大体察したようで、キラキラした目をこちらにも向けてくる。

 やめろ、そんな目で俺を見るな。確実に面倒なことになるだろう。

 

 「レイヴン!あなたもしかして、覆面水着団に雇われていたの!?」

 

 「……ああ、そうだ。」

 

 「やっぱり!あのレイヴンすら駒として使う、冷酷無慈悲なアウトロー達……ッ!最っ高にカッコイイ……!」

 

 こいつの感性はどうなっているんだ。

 学生服に妙な覆面を被った強盗団、しかも名前は覆面水着団。

 これが、カッコイイだと?

 まるで理解できない。

 そもそも、アウトローの言葉の意味が違う気がする。

 

 (……エア、こいつの言っている“アウトロー”の意味、分かるか?)

 

 (……すみません、レイヴン。私もちょっと、分かりません……。)

 

 「それじゃあこの辺で!アディオ~ス☆」

 

 「行こう、夕日に向かって!」

 

 「夕日、まだですけど……。」

 

 そう言うと、覆面水着団、もといアビドス達はブラックマーケットから去っていった。

 その背中を、アルがじっと見つめて一言。

 

 「我が道の如く魔境を……。覆面水着団、必ずなって見せるわ。あなた達のような、最高のアウトローに!」

 

 そう言っている時点でアウトローには向いていない、という言葉をグッと飲み込んだ。

 子供の憧れをわざわざ奪う必要は無いだろう。

 

 それと、銀行員が勝手に詰めた札束が入ったカバンだが、そのまま便利屋に渡すことにした。

 先生からの許可も貰っている。

 最初こそ渋ったが、“ボス”からの心付けだと伝えると、快く受け取ってくれた。

 

 発信機が取り付けられた偽札が、カバンに入っていることに気づくことなく、便利屋達は受け取った。

 さらば便利屋68、お前たちのことは忘れない。




いかんな、便利屋達がオチに便利すぎる。
ごめんよアルちゃん……。

次回
猟犬の狩場
罠があるなら、食い破ればいい……。


次回も気長にお待ちくださいませ……。
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