BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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冒頭のお仕事シーンは[Friday Night Fire Fight]を聞きながら書きました。
CyberPunk2077のダイジェスト風味のプロローグムービー好きなの。
そういえばナイトシティってほぼほぼキヴォトスみたいなもんですね……。


4.GoodMorning Kivotos!

「あのあたりでたむろしてる、チンピラどもを追っ払ってくれ。」

 

 「あぁ?何だてめぇ?」

 「ここが誰のシマか分かって――」

 ズドン!

 「なっ!?テメェ!!」

 ガッ!

 

 「まさか一人でやっちまうとは……。たいしたもんだ。」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「あるデータを確保してほしいの、手段は問わない。」

 「ついでに、こいつも仕留めてもらえると助かるわ。」

 

 スタッ

 カチッカチャカチャ

 「――ああそうだ、そのまま、」

 「――ッ!?誰だ貴様ッ!?」

 ドガッ!!

 

 「あら、こいつのこんな姿が見られるなんて。想像以上ね。」

 「よくやったわ。色も付けといてあげる。」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「お目が高い!それはまさに実戦向きのジャケットだ。」

 「高い防弾、防刃性能。ポケットも多いし、内側に後から何か付け足すこともできる。長く着られる逸品だよ。ちょっと重いのが欠点だけど。」

 「PMC連中も私的に買ってるって噂だよ。」

 

 「そうだ!ついでに、グローブとブーツもどうだい?」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「お前がレイヴンだな!?俺たちのケツをきっちり守ってくれよ!ハッハッハッ!」

 

 ブオオオオォ!

 ダダダダダダッ!

 「撃ちまくれェ!あのトラックを乗っ取るんだ!!」

 ガチャッ

 バッ!

 「ウワアァァァ!!!こっちくんなアァァァ!!!!」

 ガシャーン!!!

 

 「お前さてはイカレてんな!?気に入ったぜ!ハッハッハッ!!」

 「また頼むぜ!」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「MK46、ショートバレル、ストックレス、200連マガジン付き。」

 「こっちはベネリM4、ソードオフ、ボックスマガジンカスタムだ。」

 「S&W M500。強装弾もつけとくよ。」

 

 「ほれ、スモークと、フラッシュバン。」

 「ベルトはおまけだ、持ってきな。」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「ヘルメット団の拠点を制圧してほしい。」

 「制圧した数によって、追加で報酬を出そうじゃないか。」

 

 バババババババッ!!

 ドガーン!!!

 「なんでレイヴンが来てんだよォ!!??」

 「アタシが知るか!?いいから撃ちまくれ!!!」

 ダダダダダッ!!!

 ズドン!ズドン!

 

 「よくやってくれた。約束の報酬だ。」

 「……さて、そんな話だったかな?僕の記憶にはないんだが。」

 「待て待て分かった!払う!払えばいいんだろう!?」

 

 「……クソガキめ。」

 ズドン!

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 Tim’s Diner(ティムズ・ダイナー)

 ブラックマーケットの一角にあるダイナーで、たまにガラの悪い奴らがカツアゲしようと殴りこんでくる事以外は、普通の飲食店だ。

 今はちょうど夕飯時。

 一仕事終えた俺はカウンターのスツールに座って、自分の顔ぐらいありそうなデカいチリバーガーをほおばっている。

 さらに目の前のテーブルには、これまたデカいバーガーが2つと山盛りのポテトが盛られた皿、シェイクのグラスが、ストロベリーとチョコでそれぞれ1つずつ乗っかっている。

 なんでこれだけ頼んでいるのかというと、理由は2つ。

 食べることが好きになったということと、これだけ食べなければ持たないからだ。

 この新しい体は、どうも燃費が悪いようで、仕事を終えると腹の虫の大合唱が始まる。

 そのせいで、普段から大量に食べる必要が出てきたし、まともな味覚もあることだから、せめて旨いものが食いたい。

 だが自炊はできないから飲食店や携帯食料に頼るしかない。

 結果として、仕事終わりの飲食店巡りが、1日のささやかな楽しみになりつつある。

 

(レイヴン、少しいいですか?)

 

(どうした?)

 

 エアの問いかけに対し、熱々のポテトに手を伸ばしながら答える。

 この感じ、悪い知らせではないようだが……。

 

(あなたに対して、名指しの依頼が届きました。差出人は、MKロジスティクス。)

 

(ようやくか。カイザーの系列か?)

 

(いえ、カイザーとは関係のない企業のようですが、この依頼は、私たちにとって良い足掛かりとなることは間違いないでしょう。ただ……。)

 

 エアが僅かに言いよどむ。

 まあ次にどんな言葉が続くかなど、想像に難くない。

 未だ無名の傭兵である俺に対し、あえて指名を出すということは――。

 

(……何か裏がある、か。)

 

(はい。まずは、ブリーフィングを確認してください。)

 

 仕事の前に何度も見てきた画面が目の前に展開される。

 依頼主の企業であろうロゴが表示されたのち、初老の男のそれであろう声が響いてくる。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 『傭兵バイトレイヴン君。これは、MKロジスティクスからの、君だけに向けた依頼だ。』

 

 『我々は、ある荷物の輸送を依頼されたが、その荷物というのがなかなかの曰くつきなのだ。』

 

 『表にはほぼ出回らない品で、相当な値段が付く代物だ。間違いなく、よからぬ奴らが寄り付いて来るだろう。』

 

 『そこで、君には輸送に使うトラックに同乗して、荷物を守ってもらいたい。』

 

 『コソ泥たちに察知されないよう、輸送はトラック単独かつ、真夜中に行う。眠気覚ましを用意しておいてくれ。』

 

 『もし連中が来たときは、追い払ってくれた数に応じて、追加で報酬を払おう。追い払い方は、君に任せるよ。』

 

 『ああそれと、トラックの運転手はこちらで手配する。心配はいらないぞ。』

 

 『説明は以上だ。いい返事を期待しているぞ、レイヴン君。』

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

(……これだけ見るなら、傭兵にはありがちな依頼だと思うが。)

 

 大方予想通りといった内容だ。報酬もまずまず、作戦も悪くない。

 エアは何が引っ掛かったのだろうと考えていたのだが、その答えはすぐに本人の口から語られた。

 

(私もそう思います。ただ、気になっているのは荷物の方なのです。)

(大規模な護衛を付けるのではなく、わざわざ傭兵を雇ってまで運びたいものとは一体……。)

 

 なるほど、尤もな指摘だ。

 襲撃が予想できるなら、PMCを雇って護送してもらえばいい。

 傭兵を付けるなら、PMC連中の安いオマケとするのが普通だろう。

 これは荷物よりも、依頼主に裏がありそうだ。

 

(エア、依頼主に関して、何か噂はないか?)

 

(MKロジスティクス、会社自体は小規模ですが、規模に対して、妙に業績がいいんです。)

(違法な品の輸送を請け負っているという噂もあります。)

 

(……曰くつきの荷物というのは、間違って無さそうだな。)

 

 十中八九、こいつらが運ぼうとしているのは違法な品だ。

 それも、PMCにも嗅ぎつけられたくないような代物ということになる。

 しかし、今の俺の、今のアビドスの状況から考えて、依頼のえり好みをしている場合ではないだろう。

 

(だが、これが俺の名前を売るチャンスなのも間違いじゃない。)

(依頼を受けると連絡しろ。)

 

 エアにそう指示を出しながら、食べきったチリバーガーの包み紙を丸め、目の前の皿へと投げ捨てる。

 面倒なことにならないことを祈りながら、2つ目のバーガーに手を伸ばした。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「……お?お前が例の傭兵か?」

 

 「そうだ。ドライバーだな?」

 

 夜の帳が下りた後、依頼主から指定された場所に向かった。

 MKロジスティクスが管理する、配送倉庫の1つ。

 そこにいたのは、1台のトラックの足元で缶のフィーカ――オイルかもしれない――を啜っている、機械の体を持ったキヴォトス人であった。

 彼らや獣の体を持つものを“人間”と認識できるようになったのは、ここ最近になってようやくだ。

 

 「ああそうだ、よろしく頼むよ、確か、えっと……。」

 

 「……レイヴンだ。」

 

 「ああ、そうだった!よろしくな、レイヴン。」

 「立ち話も何だ、さっそく出るから隣乗ってくれ。」

 

 軽い挨拶を済ませ、助手席へと乗り込む。

 それなりに大きいトラックなので、乗り込むだけでも少し苦労する。

 席に着くと、ドライバーが筒のようなものを差し出してきた。

 

 「ほら、これ食っときな。目が覚めるぞ。」

 

 「ああ、もらっておく。」

 

 どうやら真っ黒なガムのようだ。

 適当に1つ摘まんで、口に放り込む。

 

 「……ッ!?」

 

 ガムを嚙み潰した瞬間、凄まじい刺激が口の中を蹂躙する。

 それどころか、ガムの匂いが鼻に抜けて鼻腔を刺激し始める。

 経験したことのない感覚に思わず口を押える。

 

 「ハハッ、ちょっと辛かったか。でもシャキッとするだろ?」

 

 コーラルパチパチ弾けて、脳ミソ幸せだぜ。

 ドーザーの妄言が思わず頭をよぎった。

 ふざけるな。こんなものが幸せなわけがあるか。

 ガムを吐き出しそうになるのをこらえながら、何とか胃に押し込むことで処理する。

 なるほど、確かに目は覚める。テンションがダダ下がりになるというデメリットを除けば優秀だ。

 

 「……それにしても、お前も大変だな。」

 

 「……ん?」

 

 荒くなった息を整えていると、ドライバーが唐突にそんなことを口にする。

 いつの間にかトラックも走り出していた。

 

 「いやほら、こんな変な話を受けなきゃいけないなんてさ。やっぱり金が足りないのか?」

 

 「……少し事情がある、とだけ言っておく。」

 

 「だよなぁ。そうじゃなきゃ、こんな仕事しねえって。」

 

 その通りだ。事情がなければ傭兵などしないだろう。

 大抵は、まともな職に就くことが出来なかったか、まとまった額の金が必要かの、どちらかだ。

 俺はアビドスの借金を返済しなければならないという、大きすぎる事情を抱えている。

 傭兵をやるには十分な理由だろう。

 事情があるのは、ドライバーも同じようだが。

 

 「雇い主に何か言われたのか?」

 

 「何かって……。ボーナス出すからこいつを黙って夜中に運べってさ。」

 「……これじゃ、俺もお前のこと言えないな。」

 

 「確かに、雇われという点では変わらないな。」

 

 「ハハッ、確かに。」

 

 互いに、使われる存在であるということには変わりない。

 雇い主が一言要らないといえば、そいつは簡単に放り出される。

 だからこそ、雇われた連中は生き残ろうと必死にあがく。

 それこそが雇い主の思うつぼなのかもしれないが。

 

 「……分かんねえよな。」

 

 「何がだ?」

 

 「……人生だよ。俺は元々、別ん所の営業やってたんだ。営業成績も中々良かったんだぜ?」

 「だってのに、同僚に業績取られた挙句、上司の横領のせいで会社傾いてリストラ……。」

 「今じゃこうして、お前と一緒に訳の分かんないもんを運んでるんだもんな。」

 

 「………………。」

 

 唐突に何を話すかと思えば、自身の過去を語りだした。

 どの世界も、力を持たぬものが奪われるのは変わらないらしい。

 何と声をかけるべきか、そもそもかけるべきかも分からず、押し黙ってしまった。

 

 「……悪い、喋りすぎたな。」

 「向こうに着くまでまだ時間がある。ゆっくりしててくれ。」

 

 「……そうさせてもらう。」

 

 いずれにせよ、彼の過去に干渉することはできない。

 彼もそれを分かっているのだろう。

 それ以上話すことはせず、運転に集中し始めた。

 

 ふと窓の外をのぞけば、明かりのついたビル群が見えた。

 あの中には、今も仕事をしている人間がいるのだろうか。

 それとも、家族とのだんらんを楽しんでいるのだろうか。

 

 ルビコンで通じた常識が、キヴォトスではご法度とされる。

 ルビコンでこなしてきた仕事が、キヴォトスではタブーとなる。

 俺にとっての普通が、キヴォトスでは通じない。

 キヴォトスでの普通が、俺にとって普通ではない。

 ここ数日で嫌というほど感じてきた感覚だ。

 

 俺にとっての普通は、ウォルターの指示で仕事を請け負い、誰かを殺すこと。

 俺にとっての普通は、誰かが銃を向けてきたら、そいつは殺さなければならないこと。

 俺にとっての普通は、自分の前に立ちはだかるなら、誰であろうと殺すこと。

 俺にとっての普通は、戦い、殺すこと。

 

 キヴォトスの普通が、俺にとっては馴染みのないものばかりだった。

 正直、今も慣れていない。

 キヴォトスでの普通の人生とは、何なのだろうか。

 俺でも送れるものなのだろうか。

 あの人なら、俺に普通の人生を教えてくれるのだろうか。

 何故かそんなことを考えてしまう。

 そんなことを考える必要は無いのに。

 

(……レイヴン、荷物の内容が分かりました。)

 

(そうか。中身は?)

 

 エアの声によって意識が現実に引き戻される。

 やや焦りを含んだ声色だったが、一体何を見たというのか。

 

(……榴弾砲用の、高性能サーモバリック砲弾。)

(サーモバリック弾は人体に対する攻撃性が極めて高く、連邦生徒会によって、キヴォトス全域で規制されている代物です。)

(……彼にも伝えるべきでしょうか……?)

 

 ここにきて、特大の厄ネタが出てきやがった。

 どこで作られたかは知らないが、ろくでもない連中が作っているのは間違いないだろう。

 こんな情報を叩きつけたら、ドライバーは間違いなく混乱する。

 そうなれば、俺の仕事にも支障が出るだろう。

 

(……いや、伏せておけ。余計に混乱させたくない。それに……。)

(……知らない方が良いこともある。)

 

 そう、知らない方が良いこともある。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「よし、ついたぞ。お疲れさん。」

 

 出発してから2時間と少し。

 特に何事もなく、目的地への輸送が完了した。

 拍子抜けではあるが、仕事が楽に終わるに越したことはない。

 

 「これから詰め所で手続きしてくる。ちょっと待っててくれ。」

 「それにしてもきな臭いよなぁ。トラックはそのまま置いとけなんてさ。」

 

 ドライバーはそういうと、トラックから降りて倉庫横の建物へと向かっていった。

 俺は報酬の支払いを受けるため、席に座ったまま依頼主へと通信を入れる。

 

 「……MKロジスティクス、聞こえるか?」

 

 『ああ、聞いてるとも。輸送が完了したんだね。』

 

 「そうだ。報酬を振り込んでもらう。」

 

 『それについてだが、道中コソ泥達は出なかったそうじゃないか。』

 

 「……何が言いたい?」

 

 嫌な予感がする。

 依頼主の声の調子から、ろくでもないことを考えていそうだ。

 一言一句聞き逃さぬよう、注意しつつ通信を続ける。

 

 『君には申し訳ないが、少し報酬を減額させてもらったよ。ただ隣に乗ってるだけだったのだから、構わないだろう?』

 

 「どういうことだ?話が違うぞ。」

 

 『確かに契約書に書いてはいないが、私も社員たちを食わせていかなきゃいけない。』

 『これからは君に仕事を回すから、それで良しとしてくれないだろうか。』

 

 なるほど、そう来たか。

 要は、これからも体よく使ってやるとのことらしい。

 侮られたものだ。

 頭の中で、何かが弾けて切れた感覚がした。

 

 「……そうか。お前がそのつもりなら、こちらにも考えがある。」

 「直接話をしよう。」

 

 「おーい、手続き終わったから、もう帰って――ってどうした?」

 

 トラックを降り、やや乱暴に扉を閉める。

 詰め所から戻ってきたドライバーがこちらに声をかけてくるが、俺の様子がおかしいことに気づいたらしい。

 

 「……報酬を削られた。仕事を回すから手打ちにしろとな。」

 

 「あちゃーやられたか―……。うちの社長ケチだからなぁ……。」

 

 どうやらドライバーにも、雇い主の行動に心当たりがあるようだ。

 そちらがそのつもりなら、俺も手加減するつもりはない。

 

 「俺はこのまま終わらせるつもりはない。」

 「この倉庫にいる全員を避難させろ。できるだけ遠くにな。」

 

 「えっ?おいおい何する気――って待て待て待て!荷物は見るなって言われてるんだ!」

 

 トラックの荷台に回り込み、ロックを外してドアを開ける。

 ドライバーが制止しようとするが関係ない。

 中にはカバーがかかった箱がいくつか入っていた。

 荷台の容量はまだまだ余裕があったが、余白を利用して箱を固定しているようだ。

 カバーを掴んで、強引に引きはがす。

 

 「……なんだぁ、こりゃあ?」

 

 「サーモバリック砲弾。キヴォトス全体で規制されてる代物だ。」

 

 「おいおいマジかよ……。俺たちはそんな物騒な物運んでたのか。こりゃそのまま置いとけって言われるわけだ……。」

 

 箱の中には、通常の榴弾に偽装されているサーモバリック砲弾が入っていた。

 ドライバーのモニターが彼の焦りを告げている。

 やはり伏せておいて正解だった。

 箱の固定を外し、1つ掴んで箱ごと引っ張り出す。

 

 「これからこの倉庫を吹き飛ばす。全員を遠くに避難させてくれ。」

 「やってくれるか?報酬は出す。」

 

 「………………。」

 

 やはりと言うべきか、意外と言うべきか、彼は逡巡している。

 てっきり断られると思っていたのだが。

 彼は少し唸ったのちに、答えを選んだようだ。

 

 「……しゃあねぇ、分かった!やってやるよ!」

 

 「感謝する。これが報酬だ。」

 

 「うわさらっと札束出てくんのか。しかも丸々俺のものかよ……。」

 

 「怖気づいたか?」

 

 懐から札束を1つ取り出し、そのまま彼に押し付ける。

 モニターが軽くチカチカと点滅したのち、ゆっくりと札束を受け取った。

 

 「いや、やる。俺もあの社長にはムカついてたしな。」

 「じゃあなレイヴン!派手にやってくれよ!」

 

 彼はそういうと詰め所に走っていった。

 あの様子ならうまく誘導してくれるだろう。

 箱から砲弾を引っ張り出し、倉庫の急所へと設置していく。

 この倉庫には梱包爆薬も保管されているようだ。

 ありがたく使わせてもらおう。

 

 オーイ!イマスグニゲロ!トラックガバクハツスル!

 ハァ!?マジカヨソレ!?

 

 さあ、雇い主よ。

 猟犬の餌を出し渋るとどうなるか、教えてやる。

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 MKロジスティクス事務所。

 雇い主である社長が1人で中にいることは確認済み。

 入り口は電子錠で施錠されているが、エアがハッキングして開錠する。

 建物の奥にある社長室に向けて歩を進める。

 MK46を背中から取り出し右手で握りながら、社長室のドアノブに手をかけた。

 

 「……ん?入るときはノックをしろと――。」

 

 「MKロジスティクス社長、少し話をしよう。」

 

 雇い主がこちらに気づいて警報を鳴らそうとしたが、一気に距離を詰め、頭のモニターの中心に銃口を押し付けることで阻止する。

 立ち上がろうとしていたところを強引に椅子に座らせる。

 

 「――ッ!?は、話とは何だ?君の仕事はもう終わっているだろう?」

 

 「ああそうだ。だが報酬の件で、どうも食い違いがあるようでな。」

 

 「あ、ああ、そのことか。さっき通信で話した通りだ。」

 「確かに私は君の報酬を減らしたが、これからの仕事は君に――。」

 

 「それが気に入らないと言っているんだ。お前は契約を守れないのか?」

 

 「ちっ、違う!断じてそんなことは――。」

 

 銃口を付きつけながら話を進める。

 焦りこそ見えるが、金を払おうという意思は見えてこない。

 気に入らない。本当に気に入らない。

 どうせ頭を引きちぎってでも金は払わせるつもりだったんだ。

 多少吹っ掛けたところで、ばちは当たらないだろう。

 

 「3倍だ。」

 

 「……何がだ?」

 

 「違約金だ。今すぐ3倍額で払ってもらう。」

 

 「さっ、3倍!?む、無理だ!今すぐ用意は出来な――。」

 

 『私たちは、あなたが裏の仕事を請け負い、得た報酬のほとんどがあなたの懐に入っていることを知っています。』

 『本来私たちに支払われたはずの額の3倍など、あなたからすればはした金でしょう?』

 

 「――ッ⁉な、なぜそれを⁉」

 

 俺たちが話している間、エアは会社のサーバーを調べていたようだ。

 やはりと言うべきか、裏の報酬を社員達に還元するつもりはないらしい。

 銃口をさらに強く押し付け、顔をモニターに寄せる。

 

 「さあ、払え。俺達も暇じゃない。」

 

 「……確かに、この件については、私に責任がある。だが私にも、社員達を養っていくという義務がある。」

 「私の懐に金が入っているように見えるのは、会社経営のための軍資金なんだ。だから――。」

 

 ガッ!

 

 「~~~ッ!!いきなり何をするんだ!?」

 

 「お前の話も聞き飽きた。早く払え。」

 

 雇い主の頭を銃身で殴りつける。

 奴は殴りつけられた勢いで椅子から転げ落ちた。

 本気で振りぬいたからか、頭にヒビが入ったようだ。

 倒れこんだ雇い主の頭に、再び銃口を向ける。

 

 「――ッ!?わ、分かった!3倍だな!今すぐ払う!」

 

 「それでいい。」

 

 奴は立ち上がって椅子に座りなおし、パソコンを操作し始めた。

 程なくして、視界に報酬の3倍の額が口座に振り込まれてきたという通知が表示される。

 

 「……ほら、送金したぞ。これで、私は見逃――。」

 

 ババババババッ!!

 

 「よくやった。」

 

 さらなる言い訳が口から出てくる前に、頭に向けて引き金を引く。

 轟音が止むと、雇い主は椅子に力なく座り込んでいた。

 モニターからは光が消え、銃創からは小さな火花が飛んでいる。

 機械の体を持っている連中は、気絶しているのか死んでいるかの判断がつかない。

 まあキヴォトス人は例外なく頑丈だ、とりあえず死んではいないだろうと考える。

 

 『……個人口座の差し押さえと全額の送金、完了。会社名義の秘密口座も差し押さえておきました。』

 

 「さすがだな、エア。よくやった。」

 

 エアがそういうと、億単位の資産が振り込まれてきた。

 こいつ、どれだけ貯めこんでいたんだ。

 まあ、持ち主もほぼ死に体だし、持ち主のいない金に意味はない。

 ありがたく使わせてもらおう。

 

 「……ふむ、金庫もあるな。中身をもらっていこう。」

 

 念のためスキャンを行うと、絵画の裏に隠し金庫があるようだった。

 暗証番号式のようだが、ここはマスターキーを使おう。

 絵画を外して拳を握り、錠があるであろう場所に向けて全力で叩きつける。

 3回殴りつけると隙間ができたため、そこに指を突っ込んで強引にこじ開ける。

 程なくして、バキン!という音とともに扉が開いた。

 中には、スマホサイズの金色の塊が3つほど入っている。

 

 「……これは、金か?」

 

 『1㎏金塊、本物ですね。これ1つで1千万はくだらないでしょう。』

 

 「アビドスへの手土産に丁度いいな。」

 

 金塊をポケットに突っ込み、外に向けて歩き出す。

 建物から出て顔を上げると、すでに空が白み始めている。

 いろいろやっているうちに、朝が来てしまったようだ。

 

 『それで、これからどうするつもりですか?』

 

 「1度アビドスに戻る。現金と金塊を渡して、少しほとぼりを覚ますぞ。」

 

 『分かりました。それにしても、ここからアビドスに帰るとすると……。』

 

 「……また遠足だな。」

 

 『移動手段を確保した方が良いでしょう。長旅になりそうですから。』

 

 そのあと、俺は日が傾き始めたころにアビドスに戻った。

 金塊3つと札束いっぱいのアタッシュケースを見た対策委員会と先生は、俺に対して入手経路を問いただしてきた。

 それに対し正直に答えたところ、また全員から絶句されたのち、先生から小一時間ほど説教を貰うハメになった。

 役に立っているはずなのに説教を受けるとは、理不尽とはこのことか。




うちのレイヴンちょくちょくセンチメンタルになるな……。
その上大食い属性も付与しちゃいましたけどいいですかね?

次回
便利屋と傭兵
本物のアウトローはどっちだ?

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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