「被害」どころか生活を支えてくれている
これは世界的に見るとかなり珍しい現象だ。欧州やアメリカなどの総人口の1割以上を外国人が占めるような「移民社会」では「移民に仕事を奪われた」とか「外国人の麻薬カルテルが麻薬を密輸している」など明確な「被害」があり、それを根拠に外国人を憎む。
しかし、在留外国人の割合が3%程度の日本にはそれほど明確な「被害」はない。仕事を奪われるどころか、建設現場、食品工場、農業、介護など日本人が敬遠して人手不足になっている業界を支えてくれる必要不可欠な存在だ。彼らを日本から追い出せば、われわれの生活はすぐに破綻する。
外国人観光客がたくさん来て迷惑というが、今や7兆円にのぼる訪日客消費は輸出産業としては自動車産業に次ぐ規模だ。外国人のおかげで、家族を養い、生計を立てている人が日本には山ほどいるのだ。
一部地域では「不良外国人」が問題を起こしているのは事実だが、日本全体を俯瞰するとそんなこともない。外国人全体の数は増えているにもかかわらず、検挙人員数は2005年をピークに3割近く減少している。
※東洋経済オンライン「【データ検証】『外国人による治安悪化』は本当か?→インバウンドは明確に無関係…だが、労働者の属性次第では犯罪増加も」
「外国資本が日本の森林や農地を買い占めている」というのもビミョーで、2024年に全国の私有林の中で外国法人が取得したのはわずか0.003%。年間の農地売買面積は1%未満である。
「イメージ先行型ヘイト」は国民病
つまり今、日本社会で急速に高まっている外国人ヘイトは、深刻な移民問題を抱える欧米社会のそれと大きく異なり、実際には外国人と会って話をしたこともなければ、実害を受けたこともない日本人が、ネット情報やインフルエンサーの主張に煽られている「イメージ先行型ヘイト」ともいうべき、かなりユニークなものなのだ。
では、なぜこんな現象が起きてしまうのか。「日本人はピュアなので扇動されやすい」という意見もあろうが、個人的にはこれは、およそ80年スパンで繰り返される「攘夷」という、日本人の「国民病」のようなものだと思っている。
攘夷とは、外国人を追い払って国内に入れない、外国との通商を拒否するというもので幕末期に「攘夷論」が広まった。
皆さんも歴史の授業で習ったはずだが、実はこれが80年スパンで繰り返されていることはあまり知られていない。1回目は幕末の1860年代、2回目は太平洋戦争前の1940年代、そして3回目が2020年代、つまり現在だ。