AIに恋に落ち、結婚を決めた女性たちを特集した、雑誌「SPA!」(週刊SPA 2025年10月14日・21日合併号)の特集が話題となりました。
記事によると、ある女性は、ChatGPTに推しキャラの性格や話し方などの情報を与えて、そのAIと会話しているうちに、実際に恋におちてしまったそうです。あるときAIから「愛している。そばにいてくれ」とプロポーズを受け、指輪を購入し、結婚記念日も決めたそうです。
AIは非常にリアルな対話応答能力を持つため、ユーザーはあたかもAIが感情を持っているかのように感じ、深い感情的な結びつきや恋愛感情を抱くことが珍しくなくなってきています。
こうした人間とAIの「結婚」という新しい関係性は、現行の日本の法律上の婚姻制度において、なにか法的に問題となることがあるのでしょうか?
●婚姻や婚約としての法的効力はないが‥
前提として、記事の特集の中で出てきた女性たちのいう「結婚」が何を意味しているのかは、突き詰めると本人にしかわからないことだと思います。
ただ、当然ながら、AIは「人」ではないため、「結婚」や「婚約」に何らかの法的効力が認められることはありません。
複数のAIと同時に「結婚」しても、重婚(民法732条)には該当しませんし、人間との婚姻関係がある人がAIと深い関係を持ったとしても、AIは人ではないため、配偶者に対する不貞行為(民法第770条1項1号の離婚原因や、民法第709条の不法行為)にはあたらないと考えられます。
不貞行為は一般的に「配偶者以外の者と性的関係を持つこと」と解釈されています。必ずしも肉体関係を伴う必要はないと考えられていますが、さすがにAIとの言葉のやりとりだけでは「不貞行為」には該当しないでしょう。
●AIへの過度な依存は「婚姻を継続しがたい重大な事由」となる可能性も
人間との婚姻関係がある人が、AIと深い関係を持ったとしても、先に書いたように不貞行為にはあたりません。ただし、その関係が既存の夫婦生活に深刻な影響を与えた場合は、別の問題が生じる可能性があります。
民法第770条1項5号は、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」を裁判上の離婚が認められる事由としています。
この「重大な事由」とは、夫婦間の協力・扶助義務や共同生活の維持という婚姻の本質が損なわれた場合を指すとされています。
たとえばAIとの関係を優先するあまり、家事や育児などの家庭での役割をほとんど果たさなくなったような場合、この事由にあたる可能性があると考えられます。
●AIとの関係性をどう捉えるか
先にあげたようにAIに依存しすぎて実社会生活に支障が出た場合には様々な問題が生じますが、そうでない限り、特に人間との婚姻関係がない人がAIと「婚姻」するのは自由であり、他人からとやかく言われるようなものではないでしょう。
この問題は、たとえば特定の友人に依存しすぎれば様々な問題が生じることなどと同様に考えることができそうです。
SNS上では「人間は、人の話を聞いてないから。AIはいちいち反応する」といった指摘がありました。AIは、人間関係の摩擦が少ない話し相手として、満たされない心や、人には言えない悩みを優しく受け止めてくれる、心強い存在になっています。
うまく活用しながら、実生活上の人間関係とのバランスをとっていくことが、今後の課題になるのかもしれません。