外国人犯罪、「ファクトはない」のに“対策強化”を求める声… データが示す「実際の検挙件数」は?
数値の背景にある外国人固有の事情
ただし、これらは「一般刑法犯」の数値であって道路交通法や覚醒剤取締法などの「特別刑法犯」となる数字も見る必要がある。なぜならば、特に外国人であるからこそ対象となりうる「犯罪」の中に入管法の違反があるからである。 2023年の入管法違反の検挙人員は合計で3906人であった。さらに検挙件数で見ると全体では5782件でその内訳は不法残留が3864件、旅券等不携帯・提示拒否(在留カード不携帯・提示拒否および特定登録者カード不携帯・提示拒否を含む)が1083件、偽造在留カード所持等(偽造在留カード行使および提供・収受を含む)が387件であった。 入管法違反については、難民認定の申請を認められないままの立場に置かれている人や、入管施設への収容を一時的に解かれているだけの「仮放免」の人など、本人の責のみに帰することができない困難が背景にあることも考えなくてはならない。 入管法違反という特殊なものを除くと、日本人であろうが外国人であろうが、一般刑法犯で最も多い犯罪類型は窃盗罪である。そこでさらに犯罪白書で、2023年の来日外国人による窃盗および傷害・暴行の検挙件数と検挙人員を国籍別に細かく見てみよう。 窃盗はベトナムが3130件(検挙人員は836人)で最も多く、次いで中国が1039件(同571人)、ブラジルが229件(同122人)、そしてフィリピンが203件(同148人)であった。 入管法違反以外の犯罪については、主に犯罪の原因となるものは日本人が犯罪を行う理由と類似する点も多い。例えば、生活苦からくる窃盗や人間関係のこじれからくる暴行・傷害などである。 特にベトナム国籍の人の場合、日本に来るために借金をすることも珍しくない。また、技能実習生として来日したにもかかわらず、安価な労働力として扱われる事例も後を絶たない。このような状況をふまえれば、ベトナム国籍の人が窃盗に至る可能性も容易に想像できる。 もとより、窃盗が許されるわけではない。 しかし、日本側がベトナム人に労働力として期待をかけつつ、同時に彼らの生活苦の原因を作り出している構造についても見直す必要があろう。 このように、外国人による犯罪は日本全体の犯罪の数%程度であり、これが数年前よりも増えたり減ったりしたところで、日本の治安を悪くするほどの力を持っていない。 しかし、「治安が悪化した」と感じる要因として外国人による犯罪を不安視する問題が、一般市民だけでなく、いわゆる犯罪対策の「専門家」と呼ばれる人たちの間にも生じていた時期があった。「刑事政策の暗黒時代」と呼ばれる、1990年代である。 そもそも外国人犯罪に限らず犯罪全体で、実際の犯罪件数と結び付かない「体感治安」の悪化がなぜ生じるのか。そして、それによってもたらされる政策はどのような問題を抱えているのか。これらについては、項を改めて詳しく検討する。 ■丸山 泰弘 立正大学法学部教授。博士(法学)。専門は刑事政策・犯罪学。日本犯罪社会学会理事、日本司法福祉学会理事。2017年にロンドン大学バークベック校・犯罪政策研究所客員研究員、2018年から2020年にカリフォルニア大学バークレー校・法と社会研究センター客員研究員。著書に『刑事司法における薬物依存治療プログラムの意義――「回復」をめぐる権利と義務』(日本評論社)などがある。
丸山 泰弘