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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅤ
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トータス旅行記59 負けイベなんて認めない!

21時にもう一本投稿します。正真正銘、最後のトータス旅行記です。

年越しのお供になれば嬉しいです。それでは良いお年を!




 黒一色の中型クルーザー。


 巨大球体空間の中心にぽつんと鎮座する潜水艇は、そう表現して問題のないフォルムであった。


 普通にフロント部分には窓があって、船内も見える。舵輪もあれば座席もあり、普通の構造だ。当然ながら無人である。


 船体には無数の魔法陣が刻まれていて、その構成を読み取る限りだいたいが攻撃魔法。戦闘目的で建造されたものであることは明白だった。


 まさに、魔装潜闘艇とでも呼称すべき姿。


 だが、それ以上に特異な点が目に付く。


「潜水艇を作るのに、そもそも水に触れないって発想はなかったな……」


 ハジメがちょっぴり渋い声音で呟く。


 そう、ハジメの潜水艇とは決定的に異なる部分が、メルジーネの魔装潜闘艇にはあったのだ。


 うっすらと輝く空気の膜が船全体を卵状に包み込んでおり、そもそも海水に触れていないのである。その状態で()()()()()()()のだ。


 愁が、息子のフェルニルを思い浮かべながら指をさす。


「あれ、潜水艇というか……普通に空も飛べるんじゃないか? 水空両用、的な?」

「……まぁ、そうだな」


 今度は表情も渋いハジメさん。制作者は間違いなくオスカー・オルクスなのだろうが、なんとなく発想力で負けたような気がしないでもなかったのだ。


 心情を察してか、鷲三や霧乃が口の端に笑みを浮かべる。


「人が濡れずに水中活動するために作られたのが潜水系の乗り物だ。その乗り物自体を濡らさないという発想は、潜水艦が普通に認知されている地球の人間ではなかなか思い至らないだろう」

「きっと、普通の船が前提にあって、そのまま水中にも行けないかと発想したんじゃないかしら? それなら、船自体を密閉構造にするより魔法で水を寄せ付けなければいい……というのは、ファンタジー世界らしい発想じゃない?」

「まぁ、そうですね」


 表情にまで渋さが出るクリエイターハジメさん。


 創作者がオスカー・オルクスであることは自明のこと。故に、同じ創造者として発想力を見せつけられたようで対抗心が燃え上がってしまったようだ。


 実は、彼のオリジナルではなく、魔剣イグニスや魔喰大鎌エグゼスと同時代に作られた魔装巨大戦艦――当時の解放者の動く本拠地――を参考にしただけなのだが……


 そんなことは知るよしもないので。


「フッ、いいだろう、オスカー。後世の錬成師に対する挑戦と受け取った」

「! いけない、ハジメの悪癖が!」


 ユエが船内の一人一人に重力魔法を施したのと、


「どちらの作品が上か勝負だ!」


 ハジメが潜水艇を急発進させたのは同時だった。


 挑戦者はこっち! とか、誰も挑戦なんてしてない! とかツッコミを入れる隙もない。


 攻略の証を使用せず急迫すれば、当然、魔装潜闘艇とて本来の役割を果たすべく反応する。


 浸水を防ぐ結界の輝きが一気に強まり、直後、激流が尾を引いた。海中にありながら海中にないという特性のおかげか、一瞬のうちに時速五十キロ近い速度に達する。


 みるみるうちに迫ってくる魔装潜闘艇との正面切ってのチキンレースに、次々と「ちょぉーーーっとぉ!?」「待て待て待てぇっ」と悲鳴じみた制止の声が上がるが、クリエイター魂に火がついたハジメさんは、もちろん止まらない! いつものように!


 口元には不敵な笑みが、瞳は熱意でぎらりっ。先程までのシアのよう! 人のことは言えない!


「現代兵器とのハイブリッドなめんなっ。ロートルめ!」

「うぉいっ、ハジメくぅん!? 君はいったい何をしてるんだい!?」

「ダメだよ、お父さん! ライセン大迷宮でも見たでしょ!? MADモードのハジメ君は簡単には止まらないよぉ!」

「愛ちゃん先生――」

「もうやってますけど全然効いてませんっ」

「そんなところで耐性を発揮しないでほしいんですがっ」

「違うのじゃ、リリィよ。愛子の鎮魂は効いておる! ただ鎮めた先からパッションが溢れ出して追いついていないだけじゃ!」

「なん、ですって!?」


 わざわざ操縦席に座り、高笑いしながら魚雷を撃ちまくるハジメ。神代の魔法すら凌駕する情熱と聞いて、リリアーナや愛子だけでなく白崎家や八重樫家の皆さんも「嘘でしょ……」みたいな顔になっている。


「……ごめんなさい、皆さん。こうなったハジメは物理的に止めるほかないので」


 サメのペイントをされた魚雷数十発を正面に、しかし、魔装潜闘艇は避ける素振りも見せず魔法陣の一つを輝かせた。途端に、砲撃の如き渦巻く激流が前方に放たれ魚雷の進路がめちゃくちゃにずらされてしまう。


 もう目と鼻の先まで迫っている魔装潜闘艇に、「衝突する!?」と青ざめる智一達。


 そんな緊迫した状況のはずなのに、


「……楽しそうですし、しばらく見守ってあげてください」


 困った人ですよね? でも、たまに子供っぽいところが可愛いんです。と言ってそうな困り顔と慈しみの表情が絶妙に混じり合った微笑を浮かべるユエさん。


「「言ってる場合じゃなくない!?」」


 薫子と昭子からツッコミが入る。こんな状況であまあまな態度を見せられても! と、若干イラッとした感じが表情に出ちゃってる。このバカップルめ! と言いたげに。


「ぶ、ぶつかるっ」


 智一が咄嗟に薫子さんを庇うように抱き締めるが、その瞬間、「チィッ」という舌打ちと共に、ハジメの潜水艇はバレルロールのような軌道で衝突を回避した。


 一瞬で横の窓を通り過ぎていく魔装潜闘艇に、あちこちからほっと息が漏れる。


「あら、凄いわね? 今、確実にひっくり返ったのに普通に立っていられるわ。ユエちゃんかしら?」

「……はい、お義母様。でも、この船自体にも乗員に対する重力制御は働いているので、私はあくまで補助ですけど」

「当然だ! 危険はないから是非ともゆっくり見学してくれ!」

「だからって、あんたねぇ……」

「義母様、どうします? いつものようにバックドロップしますか?」

「いつもバックドロップで止められるようなことをしているのか、ハジメ君!?」


 智一さんがギョッとした表情でツッコミを入れるがスルーされる。


 なお、薫子さんは先程までの動揺が嘘のようにニッコニコだ。状況は変わっていないのに。たぶん、智一さんに抱き締められたままだからだろう。


 流石は香織のお母さん。愛は全てを些事にする。このバカップルめ! と昭子さんが強烈なジト目を送っている……


 キィイイイイイイッという魔力駆動機関がうなりを上げ、まるで戦闘機のような動きで旋回する潜水艇と、再びフロント水晶越しに視界に入る魔装潜闘艇。


 だが、体にはまるで負荷がかかっておらず、体勢を崩すような慣性すらも感じず、まるで凪の海をゆっくりと遊覧しているかのような感覚しかないので、智一達もリリアーナ達も次第に落ち着きを取り戻してきた。


「うぅおおおっ、すごいなぁっ。水中のせいか、まるで宇宙戦争でもしてるみたいじゃないか!」

「燃えるよなぁっ、父さん!」

「いいわ、シアちゃん。せっかくだしやらせてあげましょう!」

「あ、はい。義母様もノリノリですね……」

「あ、あらあら……さ、流石はハジメさんのご両親、いえ、南雲家ですね……」

「パパ、そこなの! やってやれなのぉ!」

「レミアよ。お主の娘も完全にそっち側のようじゃぞ?」

「……」


 八重樫家ですら開戦時には表情を強ばらせていたのに、実は最初から瞳をキラキラさせていた愁お父さん。そして、それを微笑すら浮かべて受け入れている菫お母さん。


 これだから南雲家は……というか、菫さんとユエちゃんの各々の旦那を見つめる表情がそっくり……と、昭子達も溜息混じりに状況を受け入れる。呆れを通り越して諦めの境地に至ったらしい。


 その間にも攻防は当然ながら続いている。


 魔装潜闘艇から、今度はレーザービームが飛んできた。もちろん、水中である。レーザーが使い物になるわけない。つまり、そう見える光属性の砲撃魔法だ。


「あまいっ。マグマに悪食にと二度もぶっ壊されたんだ。防御面は折り紙付きだぞ!」


 正面に円錐状のシールドが出現。光の砲撃魔法が拡散するように弾かれる。お返しとばかりに甲板と底部の両方から凄まじい数の魚雷が射出された。


「自動追尾型だ。しかも空間破砕弾頭だぞ! 凌げるものなら凌いでみなっにぃーーっ!?」


 凌がれた。魔装潜闘艇の前方に〝ゲート〟が出現し、全方位空間破砕魚雷が殺到する寸前で空間跳躍回避してしまったのだ。


 これには見学モードに入っていた他の者達もびっくり。


「なっ、後ろか!?」


 魔力反応を感知して、ハジメは確認もせずに備え付けの重力石を全開起動した。下方へ叩き付けるような凄まじいが圧力が生み出され、潜水艇が瞬く間に深度を下げる。


 その頭上に閃光が広がった。雷撃だ。


「……ねぇ、ティオ。思うのだけど、クリアさせる気なくないかしら?」


 雫が引き攣り顔でティオの考察を聴きたがった。


 ハジメの「俺のケツを取るとはやるっ。だが、転移が専売特許と思ったら大間違いだぞ!」とか、愁&菫の「水中ドッグファイトとかロマンあるなぁ!」という盛り上がりや、ミュウの「パパ! 変形は!? 変形機能はないの!?」という興奮した様子に苦笑しつつ、ティオは「ふむ……」と腕を組んだ。


 確かに、これはあんまりだ。


 今も、ハジメが転移で後ろを取り返す直前にばら撒いた機雷群に突っ込んでいながら、魔装潜闘艇には多少の損壊が見られるだけで健在なのだ。


 なお、この機雷も改良済みで、いや本当に何を想定して作り直したんだとツッコミを入れたいところだが、ともかく、遙かにバージョンアップしており、空間歪曲で対象を捻り壊す特別製だ。


 それに多少の損壊で耐えきる船体とは、いったいなんの冗談だろう。属性魔法では通じないことが証明されてしまっている。


 故に、香織もまた引き攣り顔で指摘した。


「ハジメ君みたいな人がいなかったら、本来は結界とかを使って、どうにか水中でも活動できるようにしているってレベルだよ? 無理だよ。こんなの、それこそアーティファクト級の潜水艇がないと試練にもならないよ」

「……ん~、確かに。水中だと有効な魔法も限られるし、そもそも相手が速すぎて当たらないと思う。勝負にならない」

「そうじゃな……グリューエンを攻略の前提としていることを考えれば、もしや空間魔法を習熟してから、という考えはどうじゃ?」

「空間爆砕で破壊するか、空間固定で捕まえるか……あるいは、転移で逃げ延びろ、ということかしら?」


 そんな考察をしている間にも、ハジメからは「ふはっ、ふははははっ。どうした、オスカー! お前の機体はそんなものか!?」というハイでご機嫌な声と、智一さんの「おいっ、南雲愁! 君の息子、何かヤバい薬でも飲んだんじゃないのか!?」という心配まじりの問いと、「大丈夫だ、問題ない! 南雲家の(さが)だ!」という問題しかなさそうな返しが響く。


 と、その時だった。


「みゅ? 今、何か見えたの!」


 ミュウが唐突に、そんなことを言って窓に張り付いた。目まぐるしく位置が変わる激闘中だ。一瞬で視界から外れてしまったが、次に方向が変わった時には他の者達も気が付いた。


「今のって……壁が光ってたよね?」

「夕焼けのような輝きでしたね? 確かメイルさんの魔力光でしたか?」


 香織とリリアーナが顔を見合わせる。間違いなく、入ってきた場所の正面に当たる一番奥の壁に鮮やかな夕焼けのような輝きが生まれていた。


 最後の決戦時に空に走った七色の光の一つ、メイル・メルジーネの魔力光と確かに同じ輝きだ。


「パパ! パパ! 奥の壁なの! 何かあるの!」

「あん? 奥の壁?」


 襲来する数多の魚雷群に対し、魔装潜闘艇はハリネズミの如き全方位への砲撃で凌ぎ、それによって一時的に空間全体が明るくなった。


 そのタイミングで、ハジメはミュウの指さす方向へ船体を宙返りさせた。


 そうして正面に見えたのは、壁に掘られた巨大なメルジーネの紋章と、その紋章の半分が夕焼け色の魔力光で埋まっている光景。


「あ、今、少し光っている部分が増えましたよ!」


 指摘した愛子の隣で、合点がいったと手をポンッと叩くティオ。


「なるほど。おそらく時間経過じゃな」

「……なんだと?」


 なぜか、いの一番に反応するハジメさん。


 直後、潜水艇の周囲一帯が凍てつき始めたので、急いで転移回避する。氷結攻撃の仕返しに同じく氷結魚雷を返しつつ、爆発と同時に周囲の空間を固定する機雷もばらまいておく。


「たとえ空間魔法を十全に使いこなそうと、この世界の者が水中であれに勝つのは、やはりあまりに酷じゃ。もちろん、複数の神代魔法を持っていたり、ご主人様のように生成魔法に破格の才能があれば別じゃが……」

「……ん。つまり、たとえ倒せなくても――」

「うむ。あのメルジーネの紋章が全て輝くまで耐えてみせよ。というのが試練の意図するところであろうな」

「いや、それでも十分に鬼畜難度ですよ? 私みたいな物理特化タイプだと完全に詰んでますし」

「つまり、それだけじゃダメということね。ちゃんと魔法も使えるようになるか、そういう仲間もいないといけないのよ」


 自分も近接戦闘特化型なので、思わず苦笑してしまう雫。香織が人差し指で顎先をとんとんしつつ付け加える。


「後は、水中のような〝圧倒的に不利な場所〟でも、せめて生き残るくらいはできないとダメだよって、そう言いたいのかもしれないね?」

「ある意味、ライセン大迷宮とは真逆ということですね」


 見学してきたライセン大迷宮を思い出す愛子。確かに、あの大迷宮もラストガーディアンであるミレディゴーレム以外、絶対に倒さないと先に進めない敵というのはいなかった。


 大迷宮は容赦がない。それは、ここまでの見学で十分に分からされたこと。


 けれど、とリリアーナが神妙な表情で呟く。


「〝神を打倒する力〟と同じくらい、いえ、もしかしたらそれ以上に、ミレディさん達は〝生き残る力〟を遺したかったのかもしれませんね」


 たとえ神を倒せず、その暴威に襲われても。


 その時代の誰かが大切な人と共に生き延び、また未来の誰かに繋げられるように。


 深読みかもしれない。


 だが、解放者という組織が、ミレディ達七人と、組織の者達が必死に守り抜いた一部の子供達を除いて全滅したのは皆の知るところ。


 ライセン大迷宮で見た、ふざけていながらも確かな慈愛と儚さを感じさせた幻影のミレディの表情を想うと……


 あながち、間違いではない気がした。


 誰もが神妙な、改めて黙祷でも捧げているかのように雰囲気になる――


「すると何か!? タイムリミット付きのバトルってことか!? 光が満ちる速度的に……あと二分もねぇな。チィッ! ただでさえ頑丈だってのに! へっ、まぁいい。難度は高い方が攻略のしがいがあるってもんだ!」

「「ハジメ、流石に空気を読みなさい」」


 珍しくも両親から常識的な説教が入った。ハジメさん、「え? なんだって?」を発動する。このロマンに支配されたオタク野郎、処置なしである。


 シアちゃん、両手の指と首の骨をパキパキと鳴らしながらステンバーイ!


 その間にも、追尾型魚雷群を回避しようとして、ハジメの意図通りに誘導された魔装潜闘艇が空間固定機雷群に突っ込んだ。


 直ぐにレジストしていくので完全には止まらないが、それでも大幅に足止めを食らったことに変わりはなく。


 そこへ空間破砕魚雷が殺到した。


 これは流石に堪えたようだ。空間の牢獄と破壊の嵐から脱した時には、遂に浸水防止結界が崩壊。魔装潜闘艇は船内まで海水に満たされ、その足は大幅に鈍り、砲撃用魔法陣も半壊状態。転移用の魔法陣にもダメージが入ったのか。空間の歪曲が微かに起こるだけで〝ゲート〟は開かない。


「ヒャッハー!! 止めだぜぇ!」

「ひゃっはーなの! やっちまえぇなのぉ!」

「こら、ミュウ! パパの真似なんてしちゃいけません!」


 レミアママの説教に、「え? なんだって? なの」と返すミュウ。レミアママが珍しくもパパの頬を思いっきりつねるが、水中ドッグファイトというゲームに夢中のパパはまるで堪えていない。


 シアちゃん、シャドーバックドロップに入りま~す! キレてるキレてる! おそろしくしなやかな背筋!


 最後の抵抗とばかりに、岩肌ギリギリを進み、周囲の海水をめちゃくちゃに乱しながら残った砲門から攻撃を放ち続ける魔装潜闘艇。


 紋章の輝き的に、試合終了まで残り十数秒。


「ギリギリ! だが……もらったぁーーーっ!!」


 転移で正面へ。新装備、空間切断刃を底部からヒレのように突き出した潜水艇が、最大速度のまま魔装潜闘艇と交差した。


 急旋回し、フロント水晶越しに動き魔装潜闘艇の後ろ姿を見る。


 慣性に従ってゆるりと少しだけ進み、直後、魔装潜闘艇は真っ二つに断たれた。


「勝利ぃいいいいいいい!!!」

「うりぃいいいいいい!! なのぉーーっ!!」


 操縦席に座ったまま両手万歳スタイルでガッツポーズするハジメと、その傍らで先程のシアそっくりな勝利のポーズを取るミュウ。


 何はともあれ、激闘を制したことに変わりはなく、それを認めるかのように輝く紋章の壁がゴゴゴッと四分割に開いていく光景を見て、最初に愁と菫が、それから他の者達も苦笑しつつ拍手を送る――


「あ、パパ……」


 ミュウを抱き上げようとしたパパは、娘のぽかんっとした表情に動きを止め、その視線を辿った。


「あ……」


 たぶん、みんな同じ表情をしている。


 だって、ボロボロなうえにダメ押しで真っ二つにされた魔装潜闘艇が夕焼け色の輝きを帯びたと思ったら、次の瞬間、何事なかったみたいに復元したから。


 マジで一瞬である。こう、パシンッと両手を合わせるような気軽さで船体が一人でにくっつき、破損部分も結界も元に戻ったのだ。


 ハジメの表情がすんっとなると同時に、魔装潜闘艇がその場で旋回して船首をこちらに向ける。


 そうして、挨拶でもしているみたいに一瞬強く輝くと、そのまま後方に〝ゲート〟を出現させた。なんだか、物凄く軽い雰囲気で「お疲れっした~~っ」とか言ってそう。


「ふむ。どうやら打倒は最初から無理だったようじゃな。ゲーム風に言うなら、あ~、イベント戦、負けイベ、というやつだったかの?」

「ティオちゃん、それ今は言っちゃダメよ……」

「ハジメはな、そういうイベント戦があまり好きじゃない。ムービーだけならいいんだが……実際に戦えるのに負け確定なんてモヤる!って、初期のフィールドで虚無顔になりながらもレベルをカンストさせてまで勝てないか試さないと気が済まない子なんだ」


 そうして、一通り試した後にやっぱり勝てないと理解してようやく、「うん、まぁ、こういうストーリーだもんな。うん」と楽しむ方向へシフトできるのである。


 実に面倒。っていう表情を隠しきれない智一達。


 とにもかくにも、だ。


「それはないだろ!? 勝敗はきっちりつけろ! 直るにしても、せめて俺達が進んだ後にやれよ! このモヤる気持ちはどうしたら――あっ、待て! 帰るな! コラッ待てっつってんだろうがぁーーっ!!」


 魔装潜闘艇さんは、厄介なクレーマーをさくっと無視して〝ゲート〟の向こう側へと消えていった。


「まだだっ。羅針盤で転移先を割り出して再戦だ。復元能力を前提に、それすらも超えて――」

「義母様、ユエさん、OKです?」

「「OK!」」

「それでは、ハジメさん!」

「あ? なんだ、シア。今ちょっと忙し――」

「ふんぬぅーーーっ!!」


 艦橋に、痛そうな後頭部痛打の音が響き渡った。


 芸術的なバックドロップを視界に入れながら、レミアママがミュウに何やら耳打ちする。ミュウの表情がすんっとなった。


 そして、


「何事も熱中しすぎるのはよくないの! 言葉遣いも気をつけないといけません! さぁ、みんな、先へ進みましょうなの!」


 レミアママの「うふふっ」という笑っていなそうな笑顔を背に、物わかりの良い子になって、パパの代わりに音頭を取ったのだった。















 それから。


 巨大な紋章の奥へ進んだ一行は、直ぐに海中から脱することができた。来た時と同じで、門の向こうは直ぐに水の壁と綺麗に整備された通路となっていたのだ。


 ハジメも我を取り戻し、暴走の謝罪をしつつ進むことしばし。


 現れたのはY字路だった。ハジメが羅針盤で先を確認する。


「香織の予想通りだな。左に行けば俺と香織が流れ着いた船の墓場で、右に行けばユエ達の話にあった廃都市らしい。魔法陣で転移するみたいだな」


 当然、どちらから行く? という話になる。


 雫が、香織からよく聞かされていた話を思い出すように天井を仰いだ。


「確か、大規模な幻の世界に引き込まれるのよね? どちらも」

「うん、そうだよ。私とハジメ君は大昔の海戦に巻き込まれたんだ……いきなり大海原の船の上にいてびっくりしたよ」

「こちらは都市戦じゃったのぅ。例に漏れず種族間戦争じゃよ。遙か過去に存在した国の末期を再現したようじゃな」

「厄介でしたよねぇ。幻なのに人にも物にもダメージを与えてきて、なのに、こちらの物理攻撃は完全無効なんですよ? 私は魔力を纏わせたり、魔力衝撃波があったので戦えましたけど」

「それは……嫌ね。黒刀を持っていても、当時の私じゃきつそうだわ」


 さて、では先に海戦を見るか、都市戦を見るか……


 と親達が顔を見合わせたところで、その思考にユエがストップをかけた。


「……提案なのだけど、幻想の試練はスルーすべきだと思う」

「あら、ユエちゃん。どうして? 話に聞く限り異世界に、いえ、過去の世界に紛れ込むような体験ができるんでしょう?」

「今のユエちゃん達でも苦戦するような試練なのかい?」


 菫と愁が首を傾げる。他の親達やリリアーナ、それに愛子やミュウ達も同じだ。


 だが、実際に試練を経験したハジメ達は、ユエの言わんとするところが分かったのだろう。納得の表情でユエの提案を肯定した。


「……うん。私もあれは見なくていい……ううん、見るべきではないと思う」

「そうだな。好奇心で見るものじゃない。あれは、人を狂気に染める悪夢だ」

「そういう試練だと、分かってはいるんですけどね……今、思い出しても胸糞が悪くなります」

「そうじゃな。ユエですら吐き気を催しておったと言えば、義母上殿達もどれだけ悲惨な幻か、少しは想像できるのではないかのぅ」

「それは……」


 菫が言葉に詰まる。経験者四人が、世界最強クラスの実力を持ち、数多の修羅場を潜り抜けてきた者達が、揃って見るべきではないと言う。


「……誰もが狂って、命を踏み躙って、滅びるまで戦い続ける。無垢な子供達が残酷な結末を迎える。そんな光景、試練でないなら見るべきじゃない。……普通に生きる人が見てはいけない光景」


 ユエのこれ以上ない真剣な表情は、言葉にできない凄みがあった。本気の警告だと、否応なく伝わった。


 この世には、好奇心や息子達の足跡を見てみたいという程度の気持ちで覗いてはいけない光景があるのだと。


 神が作り出してきた地獄絵図は、常人を容易く狂気の世界へ誘ってしまうのだと。


「もちろん、どうしても見たいなら全力で精神を守るが……はっきり言って、ここはそこまで頑張って見るべきものはないぞ」

「そうなのね。……うん、いいわ。ありがたく忠告を受け取らせてもらうわね」

「ああ、俺もそうしよう」


 菫と愁の判断を皮切りに、智一達も揃って見ないことを選択した。賢明な判断に、そうしてくれると分かっていても、ユエや香織達はホッと胸を撫で下ろした。


「むぅ、ちょっぴり残念だけど、ミュウも我慢するの。でも……それじゃあ、どっちも飛ばして最後のお部屋に行っちゃうの?」


 残念そうにハジメの袖を引っ張るミュウ。ハジメが「そうだなぁ」と横目にユエへ相談の視線を向ける。


「……こっちは直ぐに戦争が始まって、後は私達が都市ごと壊滅させるまでひたすら悲惨な戦争が続いただけ。特に見るべきものはない。だから、船の墓場に行くべきだと思う」

「そうじゃな。話に聞いただけじゃし、妾も興味がある」

「何より! 見ないわけにはいかないシーンがあるはずですしね!」


 シアの視線が香織を捉えた。否、ユエとティオもだ。ニヤニヤしてる。それで気が付いたのか、話を聞いていた雫も「ああ、そういえば……」と少し揶揄う表情で香織を見やった。


「いや、うん、まぁ……そうだね。私、この大迷宮では本当にダメダメで、ハジメ君にもいっぱい情けないところを見せちゃったから、それでも心折れずにいられたのは――」

「……バカオリめ。そんな葛藤はどうでもいい!」

「酷い!?」

「ですです! ハジメさんとの初チッスの場じゃないですかぁ!」

「え、そこ!? いや、確かに大事だけど!」

「自ら奪ったのであろう!? ずっと気になっておったのじゃ! 見・せ・よ! はよ見・せ・よ!」

「香織ぃ!? どういうことだい!? お父さん、そんな話は聞いてないよ!? は、ははははは、はつ、ちちちっだなななんってぇっ」

「智一さん、落ち着いてください。変な鳴き声みたいになってますよ。あと、香織を問い詰めながら俺の襟首を絞めるのはやめてください。ガクガク揺らさないで」


 シアの発言で一気に場から重い雰囲気が霧散した。女性陣の瞳がキラキラと煌めく。


 行き先の結論は決まったようだった。


 ユエが「我に続け! ハジメの唇を騙し取った悪女の所業、今こそ暴かん!」とかなんとか言いながら率先して左の通路に入っていく。


 昭子と霧乃以外、シア達に菫や薫子、レミアまで「おおおお~~~!」とノリノリで駆けていく。


「ユエちゃん! 訂正しなさい! うちの香織はそんな子では……そうっ、ハジメ君が天使の魅力に理性を飛ばして、あ、あんなことやこんなことを――野郎ぉぶっ殺してやるぁああああ!!」

「理性、飛んでますよ、智一さん」


 勝手にいろいろ想像して暴走しかけている智一を、苦笑する虎一が引き離し、そのままずるずると引きずっていく。


 ハジメは愁と鷲三に肩をぽんぽんされながら後に続くのだった。








海底遺跡のユエsideの詳細を楽しみにしてくれていた方々はすみません。実は1月発売予定のコミック版11巻の巻末SSがまさにこの部分でして、ネタバレになってしまうので控えさせていただきました。ご興味があればぜひ!


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― 新着の感想 ―
解放者たちやっぱすごい 打倒できなかった時のこともしっかり考えているの 自分たちが経験してきたことだからかなあ
ここの戦いをエガリさんとノガリさんに見せて実況と解説をさせたい……
[気になる点] ハジメ達主人公補正で、各種神代魔法を入手してきた訳だけと、フリードの様に"この世界"の人達は、グリューエン火山以外、どうすれば・どれだけのスキル、職業があれば・どれだけのアーティファク…
感想一覧
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