文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

社会

社会

姉・兄は遊び相手ではなく世話する対象、「いい子」で頑張りうつ病に…将来は親の介護も「正直つらい」

  • LINE

[ケアラーの風景]きょうだい<2>

周囲の期待 過度に意識

飼い猫をかわいがる男性(左)と兄

 障害や病気がある兄弟姉妹を持つ人を「きょうだい」「きょうだい児」という。関東地方に住む大学院生の男性(24)には、姉(34)と兄(28)がいる。2人は自閉症で、重度の知的障害もある。幼い頃から2人を気遣い、悩みや不安をため込んで生きてきた男性は、うつ病を発症した。

 「ずっと我慢していたんですね」。2020年8月、男性はカウンセラーに掛けられた言葉に、「そうだったのか」と思った。心身の不調は、同年入学した大学の授業がコロナ禍でオンラインに切り替わるなど、新生活の環境変化の影響だと思っていたが、違った。大きな要因は、自分の家族だった。

 男性は3人きょうだいの末っ子として生まれた。父親(60代)は仕事が忙しくて家にいないことが多く、主に母親(同)が育児や家事を担っていた。

 姉と兄は、面倒を見てくれたり遊んでくれたりする相手ではなく、「ケア」をしなければいけない対象だった。姉はしゃがみ込んで通りがかりの人をじっと見る癖があり、兄は独り言の声も、身ぶり手ぶりも大きい。周囲の好奇の目にさらされたり、ばかにされたりするのを見るのはつらく、常にトラブルが起きないように見守っていた。家の中でも、同じ話を繰り返す兄を母が叱りつけないように、兄のそばにいて落ち着かせる役を担った。 学校で問題を起こしたことは一度もない。どの教科、どの活動にも真面目に取り組み、成績も上位だった。「周りの期待を過度に感じていた。誰に言われたわけではないが、自分は、きちんとしていなければいけないと思っていた」

必要以上の頑張り

 20年夏、体の異変を感じ、心療内科を受診した。自宅からアルバイト先に向かって車を運転中、ドキドキと 動悸どうき がした。アルバイトを休んで帰宅した後、歩けないほどの気持ち悪さに襲われた。コロナ禍で心身の不調をきたす人も多いと聞いていたため、心療内科を訪ねると、うつ病と診断され、カウンセリングが始まった。

 「ごきょうだいと一緒にいる時間は長かった?」

 「小さい頃は常に」

 「一緒にいるときの気持ちは?」

 「恥ずかしくて、周囲の目が気になった」

 生い立ちや時々の心情を振り返るうちに、自身の境遇や、ずっと心の奥底に閉じ込めていた思いに気づかされていった。

 誰にも甘えなかった自分。手のかからない「いい子」だった自分。そうあるために、無意識のうちに不安や心の傷を隠し、必要以上に頑張り続けてきた。話し終えて、カウンセラーが理解と共感を示す言葉を掛けてくれたとき、すとんと胸に落ちた。

 「姉や兄に障害がなければ違った人生だったかもしれない」。そして、「この体調の悪さを何とかしてくれ」と叫びたい気持ちに駆られた。

将来やはり不安

 男性は今、「きょうだい」である子どもたちを支えるボランティア活動に携わっている。体を使った遊びや菓子作りなどの楽しい時間を通して、子どもたちの心をサポートしている。

 「自分のように手のかからない『いい子』も、深い悩みを抱えているかもしれない。そういう視点を持って、子どもたちと関わりたい」と意欲を見せる。

 家族を巡る不安は今も消えない。「親は『心配しなくていい』と言うが、将来、姉と兄、親の介護も一人で背負っていかなければならないと考えると、正直つらい」

 「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会」が2019年、「きょうだい」に心を病んだ経験の有無を尋ねたところ、41%が「ある」と答えた。「消えてしまいたいと思いながら生きてきた」「両親に心配をかけたくないので、親は病気のことを知らない」などの記述があった。

  • LINE

社会の一覧を見る

最新記事