非常識人 第五十八話 断捨離八
現代は忙し無い。
スマートフォンはその便利さ故に多くの人間を弱く愚鈍に仕立て上げた。
他愛もない会話から重要事項の伝達まで、全て画面タップ一つで片付く。
匿名性のあるアプリ上では「A=B」と言う考え方を持つ人間と、「A=C」と言う考えの人間同士が不毛な議論を延々と繰り返す。
その際に見つめているのは相手の目ではなくスマートフォン。
しかも画面をタップしている時間は1人。
どんな人間も主観的になる。
その状態で互いが互いに歩み寄った答えを出す事など出来るはずが無い。
俯瞰して見れば簡単に分かる事だ。
多様性が声高に叫ばれる昨今。
自らのワガママや主張を通す際の言い訳としての多様性は受け容れても、その代わりとして自らと相入れない人間を認めなければいけない、と言う代償からは彼らは目を背ける。
現実の世界であれば顔も突き合わす事のない種類の人同士。
スマートフォン上では平気で交差する。
コミュニケーションの基本は「会う」事だ。
対面し、会話して初めて相手の人間性に触れる。
色んな人と接する事で感情の機微にも敏感になる。
言葉一つで人が傷付くことも傷つきながら学ぶ。
スマートフォンはあくまでも「会う」事の補完作業を行う為のツールだ。
SNS上のフォロワーを俺は友人とは呼ばない。
俺は会いに行った。
地下一階の行き慣れたクラブ。
テキトーに思いついた出演者のゲストで入る。
エントランスを潜るとすぐに抱きしめられた。
「なんでいんの?おかえりー!」
ステージ上で握手。
どんな大物ゲストが来る大箱よりも、人が温かい小箱のイベントが好きだ。
裏に回ってバッツをほぐす。
「今ペーパーかなんか誰か持っとる?」
「あ、あるよ!」
スウィッシャーのグレープを渡される。
パンパンに一本巻くか、ほどほどを2本作るべきかをその時にいる人の人数から考える。
6人いたので2本にした。
吸い切って数少ない同い年のDJの友人とクラブを出る。
その後朝7時過ぎまで八王子のバーで会話。
3年ぶりの合流にも関わらず、昨日も遊んでいたかのように2人で飲み明かした。
「あー酔ったわーんじゃまた!」
「おーまた!」
次に会う約束はしない。
全てがタイミングだ。
また会うことがわかっていれば良い。
昨日の内に都心に予約したホテルまで俺は電車で向かった。


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