非常識人 第五十話 びーぼーい
世代や環境によってもヒップホップとの出会いは人それぞれだと思う。
どうしようもなくやんちゃでヒップホップカルチャーに出会い更生の道に進んだ者
逆にヒップホップカルチャーから薬物や遊びを覚え道を踏み外した者
学校の文化祭やサークルなどで楽しんでいた者
部屋で1人レコードやCDをひたすら漁っていた者
海外で生まれ育ち、当たり前にカルチャーを受け入れた者
フリースタイルダンジョンからラップを始めた者
本当に人それぞれ多種多様だ。
主観だが、いわゆる世間で言うオタクとヤンキーが混在したものがビーボーイだと感じる。
俺の場合はそのどれにも当てはまなかった。
最初の出会いは忘れもしない。
10歳の頃。ミュージックステーションで見たリップスライムのPESだ。
歌っていた曲はGALAXYだったと思う。
上下オーバーサイズの服。
軽快なダンスとフロー。
不良っぽくてオシャレな見た目。
何より人を食ったようなパフォーマンス。
CDTVでも、夜桜中継と称し、酒を飲みながら桜の木の下でライブをしていた姿も覚えている。
当時吃音で、喋らなくても食べていける職業。つまり小説家などの物書きを目指していた俺は雷に打たれたような感覚に陥った。
「何喋ってんのか分からんけど超かっこいい」
転校はしていたものの、小学四年生まで同じクラスでやんちゃだった友達ともよくリップスライムの話題になった。
「あいつらかっこいいよね!」
俺らの世代の上の所謂ヤンキーカルチャーといえばリーゼントに長ラン。その姿でパチンコ屋に行く先輩達しかいなかった。
ダサい。
それが当時の俺らの正直な感想だった。
いくら片道2時間半ほどかかるとはいえ、夏休みなど長期休みになると当然の如く小学四年生まで過ごした地元に遊びに戻る。
中学一年の頃は皆ビーボーイファッションになっていた。
36inchのダボダボのパンツ。
NYやLAのニューエラ。
GALFYの上下。
皆ガキなので金なんて無い。
ゲームセンターにてリーゼント姿の高校生を中学生の俺らが囲みカツアゲしたお金で全て揃えていた。
ビーボーイがゴリゴリのヤンキーをボコボコにする。 NEW ERAの通りまさに新時代だった。
カラオケでは楽園ベイベーを歌う。
兄がいる友達はKICK THE CAN CREWなどが好きだった。
ヒップホップカルチャーにすっかり魅せられた俺は、吃音を死に物狂いで克服した。
お陰で喋ることが出来るようになった。
高校に上がってから熱は更に高まり、リリックもどきを書き始め、数少ないヒップホップ好きの先輩達と色々な音楽を近所のCD屋でレンタルをして探った。
ZEEBRA、キングギドラ、マイクロフォンペイジャー、餓鬼レンジャー、般若、etc..。
先輩がライムスターのMummy-Dの大ファンで、ライムスターを半強制的に毎日聴かされていたので正直に言うともうお腹いっぱいだ。
俺はTWIGY氏が好きだった。
だが小学生の時の憧れは変わらない。
何を聴いてもリップスライムに勝る感動を覚えることはなかった。
実はメンバー同士が不仲だったという話を聞いた時はショックを受けた。
いまだに俺の憧れるラッパーはPESだ。


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