第5回「山上君が悪魔になるはずがない」苦しんで落ちていった同級生を見て

聞き手・阿部峻介

 安倍晋三元首相銃撃事件で殺人などの罪に問われた山上徹也被告(45)の裁判が28日、奈良地裁で始まります。高校時代の同級生はかつての等身大の山上被告を思い浮かべ、背景に踏み込んでほしいと語ります。

起きてはならない事件はどこかで止められたのか、何が必要だったのか。それを考えていくため、まもなく始まる裁判を前に、事件を見つめる人たちに聞きました。

 ――接点を教えてください。

 同じクラスになったときに席が近くて、話すようになりました。彼は一匹おおかみのタイプ。ぱっと浮かぶのは、休み時間に教室の机に伏してよく寝ていた姿です。履物は当時スリッパで、歩き方のくせか、ベタベタと歩いていたのも思い出します。

 でも話しかけるとニコッとしてくれる。自分にだけじゃなくて、誰にでも優しくて、しゃべり方も敬語。校舎の外でばったり会うとはにかみながら「おお、○○じゃないっすか」という感じでした。

 ――打ち込んでいたことは。

 応援団の部活動には打ち込んでいました。グラウンドに入ってすぐのところで練習していて、一年中、学校の外まで叫び声が聞こえていた。人が上に乗った状態で腹筋とかして、すごい気合が入ってました。

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高校時代の山上徹也被告。阪神甲子園球場で野球部の応援もした=関係者提供(画像の一部を加工しています)

 シャイで目立つのが嫌いで、クラスではあまり発言もせえへん。卒業アルバムの集合写真では絶対に端っこのほう。顔が認識できるギリギリのところにいる。そんな山上君がなんで応援団をやってるんだろうと、当時から疑問でした。

 「なんで?」と聞いたら、照れながら「男らしくて、かっこいいじゃないですか」と。でもやっぱりその、何か打ち込むものがほしかった、過酷な人生に負けまいとしてたんかなと、いまになって思います。

 ――相談を受けたことは。

 母親の宗教のことで悩んで、そういう集まりに行ったこともあるということは、後で知りました。学校でその様子は見せなかったけど、教室で机に伏してたのは、思い悩んでいたということなんでしょう。

 ただ人に迷惑かけるのが大嫌いな人だから、聞いても答えなかったかもしれません。「一人でいるの好きなん?」と尋ねたときも、照れ笑いしながら「うーん……そうっすね!」という感じでしたから。

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山上徹也被告=2022年7月10日、奈良市

 ――事件をどう受け止めていますか。

 事件の直後は、ぜんぜん結びつかなかった。あの彼が本当に人を殺すのか。20年以上たって悪魔になるはずがないと。

 家族が亡くなって、銃を作り始めて、撃つ練習をして。あんなに純粋で優しかった彼が、どうしてここまで行ってしまったんだろうというのは、想像もつかない。

 本当に撃ってしまうときは、どんな心境だったんだろう。ニュースの映像とかを見るかぎり、ぜんぜん緊張していないように見えました。彼のなかでは「正しいことをしている」と思っていたのかもしれません。

 人をあやめることはもちろん許されません。でも、自分にも責任があったと感じています。

 ――どういうことでしょうか。

 ほかの宗教団体の信者の子も知り合いにいて、勧誘もされた。面倒だなあとは思うけど、それだけ。宗教のことだから触れちゃいけない、見ないようにしようとしていました。

 でも実は、こんなに身近な友だちが苦しんでいた。周りがそういう態度だから、声を上げられなかったんじゃないか。自分の人生さえよければいいと、見て見ぬふりをしていたのは罪だと思いました。

 そのときに彼個人の問題ではなく、社会の問題にフォーカスしていたら、何かが違ったのかもしれない。何か話してたら、彼が銃を撃つことはなかったかもしれないと思います。

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高校時代の山上徹也被告=関係者提供(画像の一部を加工しています)

 ――事件がご自身にもたらした変化は、何かありますか。

 自分も就職氷河期でかなり苦労しましたが、いまは好きな仕事をしてる。それは、たまたま親の援助とかもあったからで、山上君は家庭環境もあって、悪い方向に行ってしまった。

 自分は運がよかっただけだと、そういうことをたびたび考えるようになりました。

 ――裁判では教団の問題にどこまで踏み込むかをめぐって、検察と弁護団に大きな隔たりがあります。どのような審理を望みますか。

 検察が「元総理大臣をいきなり殺す危険な人物には重い刑を」と考え、やったことにフォーカスしようとするのは理解できます。

 でもそれで終わりにして、彼のバックグラウンドを見ないとすれば、まさに今までの日本の悪いふるまいだと思います。

 殺人を犯したから、危険な銃を作ったからだけじゃない。純粋だった彼が、20年かかって苦しんでここまで落ちていった。その葛藤もきちんと勘案していただきたい。

 そこに踏み込まなかったら、政治や権力が社会の問題に見て見ぬふりをする、という悪いくせはいつまでも変わらない。

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2025年10月25日6時0分 投稿
    【視点】

    子どもとはいえ家庭の事情がわかりはじめる。自分の家庭の事情を見せないようにするとともに、他者の家庭の事情に触れないようにする。そして、大人になる。そのことがもたらす事態への気づきもまた、「個人の問題として(誰かが)我慢してきたことが、社会の問題として捉えられる」きっかけになる。 過去の自分を振り返って考えるべき課題が見えてくる。そんな記事だ。

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    雨宮処凛
    (作家・反貧困活動家)
    2025年10月26日16時42分 投稿
    【視点】

    彼のバックグラウンドを見てほしいという最後の部分、まさに私もこの裁判に期待するところです。 同時に、「宗教のことだから触れちゃいけない、見ないようにしようとしていました」という同級生の言葉に、「自分も同じだった」と思いました。 20代の頃、自殺系、自傷系サイトのオフ会などで、私も宗教二世で自殺願望を持つ人々と出会っていました。 今思えば完全な宗教虐待の被害者でしたが、当事者が「逃げる」しか解決策はないのだと当時の私は思っていました。 あの事件の後、どれほどの宗教二世が「信教の自由」の前で誰も何もしてくれないことに絶望していたかを知り、愕然としました。 記事の中の、「人に迷惑をかけるのが大嫌いな人だから、聞いても答えなかったかもしれません」という言葉が印象深いです。 すでに高校生の時点で同級生にそう思わせるほどの諦念を、山上被告はまとっていたのでしょう。

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安倍晋三元首相銃撃事件

安倍晋三元首相銃撃事件

2022年7月8日、奈良市で選挙演説中の安倍晋三元首相が銃撃され、死亡しました。殺人や銃刀法違反などの罪で起訴された山上徹也被告の裁判員裁判の初公判が、10月28日に開かれます。山上被告の母親らが証人として出廷します。関連ニュースをまとめてお伝えします。[もっと見る]

連載深流Ⅵ 安倍氏銃撃 裁判前夜(全8回)

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