非常識人 第三十五話 ムショ110
AIでは作成できないもの。
それは経験談だ。
刑務所に着いた。
高い塀をくぐる。
「おいお前ら昼飯食え」
冷めた親子丼と味噌汁。
古古米を使用した麦飯も食べ慣れている。
身体検査。シャワー。健康診断を済ませた後の修行期間。
考査工場に入った。
「おい!お前人と話す時目合わせねえのか!」
初対面のオヤジの第一声がこれだ。
70過ぎのお爺さんが怒号を浴びる。
「すんません…すんません…」
「すんませんじゃねえよ!返事はハイ!それだけ!」
「ここは刑務所だぞ!」
年老いた受刑者はどうしても反応が遅い。
事あるごとに揚げ足を取られる。
90度に上下手を振っての行進。
必ず左足から前に出す。
私語脇見講談禁止。
冊子!と言われたら刑務所内のルールを書いた冊子を開く。
冊子納め!と言われたらすぐに定位置に戻す。
座る時は背筋を伸ばし踵を揃える。
「はい!皆さんちゃんと動きを合わせましょうねー」
オヤジの犬。衛生係の人間だ。
小さな事を何でもチンコロをする。
眼鏡をかけて賢そうな顔をしているが詐欺で5年半の刑を受けたドグサレ犯罪者。
だがここでは優等生。
要はみんなからの嫌われ者だ。
「ミニオヤジ」と呼んで陰口を言っていた。
「きついですねー考査」
「まあ後10日の我慢ですよ。朝がくれば夜が来ての繰り返しです」
「最近日記書き始めました」
お互いに敬語。
束の間の休み時間が心の癒し。
あとは19時から21時の自由チャンネル。
好きな番組を選択することにも「自由」を名付けやがる。
人気番組だったのはモニタリングだった。
スキマスイッチが変装して奏を歌う。
涙が出た。
過酷な環境では涙腺が脆くなる。
優里のドライフラワー
あいみょんのマリーゴールド
宇多田ヒカルのFirst Love
心に響いた。
辛い考査期間を終えた俺は工場の発表を受けた。
「110番!内掃工場へ配属を決定する」
金線が言う。
内掃とは刑務所内の掃除をする工場。
俗に言う経理工場の一部だ。
ご飯の量もA食。1番多い。
言い忘れていた。
刑務所での番号は110番。
オヤジにもいじられた。
皮肉な話だ。


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