非常識人 第三十二話 ムショ2
「大麻は薬物じゃ無い植物。それ書け」
完全黙秘なんかしない。
実刑はほぼ確定している。
こちらの言い分は山ほどあった。
「一緒にいたあいつらとはどう言う関係?」
「知らん!あそこでたまたま初めて会った」
「どこから買ったの?」
「言ってもいいけど報復きたらどうすんの?仕返しに来た時に守ってくれるなら言いますよ」
逮捕歴は前歴含め警察のデータベースに全て記憶されている。俺は南大沢署、警視庁、調布署、逗子署に逮捕されている。
警察もバカじゃ無い。正直に言うはずのないことは分かった上で事務的に調書を作っていく。揺さぶりも何も無い。
そもそもが大麻の単純所持だ。
大した事件ではない。
淡々と進む。
面会では「車の回収」名目で、マリファナを横流ししていた先輩に警察づてで連絡。
今持ってるネタは捨てろ、と言う合図。
全く詳しくないワンピース三冊と下着。洋服の差し入れを受けた。ありがたい。
逮捕から3日後。
3人部屋に移された。
「あれ?どっかで見たことあるね」
「もしかしてあいつのツレ?」
類は友を呼ぶ。友達の友達と同じ部屋になった。
もう1人は50歳過ぎの懲役太郎。
陽気なシャブ中のおじさんだ。
さながら修学旅行のような雰囲気に変わった。
回し読みする実話ナックルズ。
交換するお菓子。
B'zがラジオで流れる。
「ウルトラソウル」の部分を3人でHey!まで大声で叫ぶ。
「いまどこの部屋だ!!」
温厚な親父も流石に怒る。
俺達は笑いを堪える。
一部屋一部屋に聞きに回る。
俺らの部屋にも来た。
「お前らか?」
「え?そんなことしてませんよ!」
友達の友達がとぼけつつキレ返す。役者だ。
「やっぱ留置は楽しいですね」
「んー楽しむ場所じゃないんだけどね」
別の親父と世間話。
警察に染まりきっていない二十代のオヤジは世間話に付き合ってくれる。
ただ部屋がうるさい。目をつけられていた。
友達の友達が保釈で出て行った瞬間。
ついに俺らの部屋は解体された。
小指のないシャブ中。
1日中同じ話。
向精神薬について延々と語ってくる元本職と2人きり。
サイレースを朝昼晩飲んでよれている。
いわゆるビンボーヤクザ。
お菓子を買う金も持っていない。
2人部屋で俺だけがお菓子を食べるのも気まづい。
毎回恵んでいた。
「はあ、早く拘置所行きたい。こいつうぜえ」
逮捕されて45日後。
留置場での取り調べはとうに終わっている。
8月上旬。
福岡拘置所に俺は移送された。


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