非常識人 第二十一話 借金くん〜後編
借金くんと後日書類の巻き直しで会うことになった。
震えている。俺は笑いそうになるのを堪えた。
「返済期限の延長じゃねえ。契約の巻き直し。また借用書の記入。それと別にこれも書け。担保は預かっとく」
債務整理の委託書類を巻く。委託料は15万。こちらにも借金の返済と同日の日付が記入してある。
3万の貸し金が18万円になった。
更に頭の弱い悪党から「借金の返済の相談の委託を受けた」という名目で相手の恐喝を責め立てる。
示談交渉という恐喝に対する恐喝が出来る運びとなった。
「お前今から10分演技しろ。俺のいうことにイエスしか許さん。それ以外ゆーたらお前どーなっても知らん」
首を縦に振る。
約束を反故にしたのは借金くん。
当たり前だ。
先方に電話をかける。
あくまで声のトーンは穏やかに。
「お忙しいところ恐れ入ります。私山口というもので、借金くん(仮名)からの友人としてのお願いを受けてお電話差し上げた次第です。今お時間よろしいでしょうか?」
「あ、どうぞ…」
明らかに不審がっている。俺は続けた。
「ありがとうございます。この度ご友人様方であるあなた方お二人から、150万円の借入をした上、そのお金を返済しないという件で借金くんからお話を伺っているのですが…
なぁおら!お前間違ってねーよな!人の金返さんとはどういう神経しとんなこら!」
思いっきり瓶で机を殴る。電話越しでは借金くんが殴られたように相手は勘違いするので効果的だ。
「す、すいません…」
借金くんの声が電話口越しに聞こえるようにする。友人2人が怯える様子が感じられた。俺は応対を急変させる。
「んで、もう枕詞やらはいらんよな?お前ら150を200にして返せやと?なあ。恐喝、脅迫、出資法違反、よー俺のツレにやってくれたやんか。俺が150立て替えちゃるわ。その上で今回の件どう色つけてくれるんな。俺のツレが悪いとはいえよータカリかけてくれたよな。不良の話すっか貴様ら」
勿論立て替える気などない。
あくまで先方の落ち度を責め立てるための方便だ。
敬語を使うのは丁寧だからではない。
揚げ足を取らせない
自分の身を守る
相手の出方次第では豹変することで効果を増す
バカは騙せる
無駄な敵を作らない
喧嘩になっても相手が悪いことにし易い
便利な道具だ。
「ちょっと待ってください…恐喝なんか僕らしてないですよ」
頭の弱い悪党たちが震えた声で言い返してきた。
LINEの履歴、相手の本名と住所。職種。
ありとあらゆる個人情報を揃えている俺に言い逃れは効かない。
結果。
150万あったはずの借金は75万円。
それプラス示談金としてバカにはできない金額が手に入った。
借金くんの母親に電話する。
「もしもし。先日は失礼致しました。
ご友人様がたから恐喝されていた件は解決致しました。
また業務を委託された件につきましての連絡でした。
闇カジノの借金のため、ギャンブルだけが原因ではありませんし公的な証拠はございません。
弁護士と破産管財人を立て、代金計50万で自己破産の手続きを取れるように手配させていただきました。
カードローンに関する返済も不要になります。 7年経てばローンも組めるようになります。
友人様方への返済も義務は消えますが友人なので半分に減額致しました。ご安心ください。」
涙声でありがとうございますの連呼。
借金を減額するといった以上仕事は完遂する。
後日。
借金くんの親から期限通り18万円。
それより早く恐喝くんたちからの口止め料が手元に入った。
自己破産されたら貸した方は元も子もない。
半分返ってきて刑事告訴されなければ最悪の事態は避けられる。
喧嘩になればもっと儲かったが俺としても副収入だ。
借金くんはいま工場の単純作業に精を出している。


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