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接遇への拒絶反応の正体

少し前にこんなポストが多く拡散された。

こんなもの医療者側からすれば常識なのだが、まだまだ一般の方々には知られていないのだろう。

「医療もサービス業だろ!」と主張する人たちが”洗練された接遇”を求める人々。

一方で、「”接遇の良し悪し”なんかは命のかかった現場では極めて些細な問題だ!」と考える医者達。

両者のギャップは永遠に埋まることがない。

今日は、医療の現場における「接遇」について思うことを綴っていこうと思う。

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まず、接遇について、僕は正直「まじでくだらねぇな」と思っている。

それは「腕で黙らせればいいから」みたいなブラックジャックよろしくのかっこいい理由からではない。

”接遇”そのものが独立因子で問題になることはほぼ無いからだ。

というか、接遇を一生懸命やったところで一定数存在するヤバい奴に遭遇する事実からは避けられないから、と言ったほうがいいだろう。

トラブル発生率の高い救急外来や当直帯におこる問題の多くが、患者特性による貰い事故だ。

絶対に失敗しないドクターXであろうとmonter patientのクレームからは逃れられない。

現場では誰が対応しても「うわ〜これはしょうがないね。お疲れさん。」というケースが病院には山ほど存在するのである。

こればっかりは避けられないし、その現実こそが長期的に医者を蝕む要因でもある。

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僕の昔の上司のA先生は少し前に訴訟に巻き込まれた。

温厚な人柄で、患者にも医療者にも優しい人だ。

皆がやりたがらないような仕事を引き受け、還暦近い中でも受け持ち患者は診療科内で1番多い。

僕も若手の頃お世話になったが、昭和のドクターにも関わらず循環器には珍しく「怖い」というイメージが全くない良い上司だった。

患者さんからも慕われており、いつも外来枠は予定人数を遥かに超過していた。

そんなA先生は、ある日避けられない合併症を契機にトラブルに巻き込まれた。

よくある話で、患者とは良好な関係だったが、会ったこともないその家族が…という奴だ。

A先生はひどく憔悴していた。

法曹界では「訴えられた=罪ではない」などと呑気な意見が主流らしいが、アホほど忙しい外来病棟手術の最中に精神的ストレスと時間消費を伴う訴訟対応をこなすことがどれだけの負担か。

役職につけば当然ながら時間外手当などは存在せず、ただただ無給で時間を消耗するだけだ。

例えば、この悲劇は、その”接遇”とやらで避けられた?

見たことも会ったこともない人間が突然、

「あなたのことを恨んでいます。訴えますから。」

と乗り込んでくる現場にその”接遇”とやらはどれだけの力を発揮してくれるのだろうか?

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保険診療において、特に勤務医で働く以上過度な接遇には全く意味がない。

異常なほどそこに熱心な医者がいるとすれば、先のポスト同様、何らかの裏があるだろう。

そうでもない限り、保険診療のシステムの中で過剰なオモテナシは気が触れているとしか思えない。

臨床における医者の仕事は病気という不幸をマイナスからゼロに近づける仕事だ。

誰しもが病気に掛からないことが幸せだ。

患者が合併症なく経過し「便りがないのはいい知らせ」になることが理想なのだ。

これが小料理屋であれば週に3回顔を出してくれる常連客は大歓迎であろう。

病院の場合、週に3回も来院されればそれは地獄そのものだ。

医者は困っている症状に適切な意見を与えるプロフェッショナルであるべきで、都合よくいつでも何でも言うことを聞いてくれる外道に甘んじてはならない。

逆に言えば、後者のような生き方をしたのであれば接遇が必須になる。

「あぁお薬ですね、いいですよ。あれも出しましょう。」
「検査希望ですね。何にしましょうか?MRIも撮っちゃいましょうかね!」

こんな医療ビジネスには接遇は欠かせない。

そこには医者としての専門性も主体性もない。

言われたことをそのまま右から左にポチポチとオーダーするだけだ。

「医者は患者の接遇の心を持って、ありとあらゆる要望を聞くべきである」


というならば、医者の仕事なんて馬鹿馬鹿しくてやってられない。

医療業界における、過度な接遇の強要はマナーでも嗜みでもない。


ただの「罰」だ

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専門を持ってプロフェッショナルとしての仕事をするため、医者は専従でトレーニングを積んでいる。

学生時代のお勉強はおまけのようなものだが、医者として現場に出てからは時間外労働✖️高負荷トレーニングで、急峻に成長することを強制される。

昨今はパワハラやら働き方改革やらで影を潜めているが、一般社会とは少々毛色の違うトレーニング方法で早期の自立を可能にしていたのだ。


その過程を経て、多くの医者たちが「専門性」というものを身につけ、それに則った医療を提供することが可能になっている。

ところが、その「接遇」とやらはその辺りの内実を加味することなく、表層的な”満足感”を評価軸とするものだ。

培ってきたものとは全く関連性のない指標で評価され、それを強要される。

もはやそれは罰以外の何でもないだろう。

サービス料や指名料でもあれば、多少なりとも話は変わるだろうが、現代の保険診療ではそれは実現不可能だ。

自身で価格を設定できず、それゆえに安価で高品質が保たれている現代の医療現場で過度な接遇を求めることは、「接遇の強要という罰」を与えているのと同一だ。

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最近読んだ名著「奴隷の躾け方」にこんな記載があった。


奴隷の頭の中には「食事、仕事、罰」の3つしかない。


眩暈がするほどの衝撃的なフレーズだ。

そしてこの言葉には限界環境で働く勤務医の姿を想起せざるを得ない。

食うことで精一杯の給料。
暴力的な業務量で一切の可処分時間がない仕事漬けの生活。
そして、「接遇の強要」という罰。

これらが揃った現代で、勤務医は古代ローマ時代の奴隷と何がどう違うというのだろうか?

この問いに対する明確な答えを僕は持っていない。

「足枷がついてないから」とか「鞭でシバかれないから」とか、その程度の差異しか見出すことができず、本質的には同等だ。


僕自身が抱く、「接遇への嫌悪感」は、奴隷化への拒絶反応からくるものなのかもしれない。

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「奴隷の躾け方」曰く、奴隷は30歳前後で解放され、「解放奴隷」となることが一般的であったようだ。

一方現代では再雇用で給料を減らしながらも病院に引き続き雇われる高齢の医者も増えている。

まともなポストは空くことがなく、病院自体が赤字倒産の危機に瀕して現代で、”売り手市場”と強気でいられる医者はどのくらいいるだろうか?

追い込まれていけば、食うために”接遇という罰”を受け入れざるを得ないこともあるだろう。


30歳で解放どころか、60過ぎて奴隷にジョインする未来だ。


そこから先の接遇のなんてものは、奴隷として生き易いか否か程度の差しか産まない。





医者は良い仕事だと思う。

「あの先生、感じが良かったね」と思われることは素直に嬉しい。


ただ、足りない何かを補うように、”接遇”で綱渡りをしていく生き様は、現代の奴隷そのものだ。

この先の未来で、医者が脱奴隷を獲得するための猶予は決して長くない。

すでに匙を投げてしまった人も多い。僕だってもう若くはない。


それでもやはり思う。


奴隷を無条件で受け入れるには、人生はあまりに長すぎる、と。








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