(CNN) パリのルーブル美術館が開館して30分後、すでに数百人の来館者を迎え入れていたころ、黄色の作業ベストを着た強盗犯らがトラックのはしごを使い、仏王家の宝飾品を展示した2階の「アポロン・ギャラリー」のバルコニーに上った。
金属加工用の電動工具で窓をこじ開け、わずか4分で室内に入ると、ナポレオン時代の宝飾品を展示した二つのケースを切断し、9点を奪って再びはしご伝いに逃げた。
この事件は映画のような筋書きだけでなく、強盗犯らの新たな傾向をはっきり示す一例となった。文化施設を襲う目当ては必ずしも名画ではなく、分解して高価な部品をむしり取ったり、溶かし出したりできる工芸品になってきた。
独ドレスデンの歴史ある博物館「緑の丸天井」で2019年に起きた事件も同じだ。強盗犯はおので窓を破り、ガラスケースを割るという大胆な手口で、ダイヤをちりばめたザクセン王国の宝飾品21点、少なくとも1億1300万ユーロ(現在のレートで約200億円)相当を盗み出した。
この事件では数年後に5人の男が有罪となり、宝飾品の多くは回収されたが、一部は今も見つかっていない。調べに対して5人は全員、なくなった宝飾品のありかを知らないと述べた。
独ドレスデンの歴史ある博物館「緑の丸天井」内部。19年に起きた強盗事件で損傷した=2020年4月19日
国際博物館会議(ICOM)の博物館セキュリティー国際委員会を率いるレミギウシュ・プラス事務局長は、「この5~7年で確実に、素材が盗まれるという方向への変化が進んでいる」と説明する。同委員会の専門家らは欧州各地の美術館セクターに向け、セキュリティー上の脅威や施設を守る最善策についての情報を流し続けている。
プラス氏によると、文化的価値を目的に芸術作品を盗む犯行は下火になってきた。ピカソやモンドリアン、クーニングの名画は数年後、あるいは数十年後になって、どこかの建物の地下や、なんということもない寝室のドアの後ろで見つかることもある。だが専門家らによれば、宝石や硬貨、金属は永遠に、しかも素早く消えてしまう恐れがある。
美術犯罪史を研究する著作家で大学教授のローラ・エバンス氏はこう語る。「私の悲観的な見解として、ルーブルの宝飾品はほぼ確実にもう分解され、部品を抜き取られている」
ナポレオンがマリー・ルイーズ皇后に贈ったネックレスとイヤリング/Maeva Destombes/Hans Lucas/AFP/Getty Images
事件についてCNNが話を聞いたほかの専門家も、エバンス氏と同様の見方を示した。「強盗団らは恐らく、宝飾品そのものの歴史的、文化的、情緒的な意義に興味などなく、たたき切って形や大きさを変えることをなんとも思わないだろう。宝飾品を分解すればすぐに換金できるが、例えばモネの名画を盗んだら一目でそれと分かってしまい、換金は非常に難しい」
プラス氏は、美術館が銀行のように警備の厳しい建物と比べ、「比較的脆弱(ぜいじゃく)な標的」だと指摘する。美術館は警備体制と、収蔵品を見て味わう自由との間でバランスを取る必要がある。「美術館が開いている時は実際に、中へ入って現物を目の前で見ることができる」と、同氏は指摘する。
手口の変化
米ボストンにあるイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館では1990年にレンブラントの名画「ガラリアの海の嵐」が盗まれた/Boston Globe/Boston Globe/Getty Images
ルーブル美術館の強盗は詳細が判明するにつれ、計画の巧妙さがはっきりしてきた。周到に準備されていた緑の丸天井の事件と同様、ルーブルの事件は「軍隊式の精度で実行された文化テロ」だと、エバンス氏は言う。
ルーブルに駆け付けた警察は、いくつかの証拠を発見した。トラックの横に捨てられていたのは電動工具2丁とガスバーナー、ガソリン、手袋、トランシーバー、毛布。その近くで目を引いたのが、ナポレオン3世の妻ウジェニー皇后の王冠だ。ヤマハのオートバイ「TMAX(ティーマックス)」でセーヌ川沿いに逃走した強盗団らが、現場に落として行った。
豪華な金の王冠には、ダイヤ1354個とエメラルド56個がちりばめられている。検察によると、王冠は事件で損傷した。
強盗が侵入に使ったリフトのそばで捜査する警察=19日/Dimitar Dilkoff/AFP/Getty Images
プラス氏は、強盗犯が強力な工具で建物に侵入し、ますます大胆に獲物を「持ち逃げ」するようになっていると懸念を示す。今回は驚いたことに、すでに大勢の来館者がいる白昼の犯行だった。
美術館の強盗事件は閉館後に起きることのほうが多い。その場合、居合わせた人々が巻き込まれる危険性は小さい。エバンス氏はまれなケースとして、1972年に米ウスター美術館で2人組が警備員を撃ち、絵画4点を持ち去った事件を挙げた。絵画はその後、回収された。だがルーブルの事件が起きたことで、同氏は危険が深刻化しているとの不安をますます募らせている。
「状況の進み方を考えると、同じような事件がまた起きるのは時間の問題だろう。それが本当に心配だ」
捜査が始まった
仏全土で捜索が続くなか、事件には多くの疑問が投げかけられている。どうしてこんな犯行が可能だったのか、強盗団は何者か。フランスの施設は狙いやすいとみられているようだが、それはなぜだろうか。
ルーブルの事件より前、9月にはパリの国立自然史博物館で金塊約60万ユーロ(約1億円)相当、仏中部リモージュの博物館で中国の磁器950万ユーロ相当が盗まれていた。
CNNの国家安全保障上級アナリスト、ジュリエット・カイエム氏は「フランスの捜査官は現段階で、頻度や大胆さ、手口の類似性からみて、これらの事件が関連しているとの想定で動いているはず」と語る。
プラス氏も一連の事件について、関連性があるか、あるいはほかの強盗がうまくいったのを見て模倣した可能性があるとの見方を示す。仏上院の中道派議員、ナタリー・グレ氏は20日、CNNとのインタビューで、ルーブルの事件は恐らく組織犯罪絡みだと述べた。19年の緑の丸天井の事件で有罪となった5人は、ベルリンを中心に活動するドイツで最も強力な犯罪組織のひとつ、レンモ氏族に所属していた。
強盗団が侵入に使ったとされる窓/Kiran Ridley/Getty Images
ルーブルの捜査は仏当局が主導するが、国際的な要素があると疑われる場合、国際刑事警察機構(インターポール)内の文化遺産犯罪班という専門チームが参加する可能性もある。インターポールはX(旧ツイッター)上で、ナポレオン時代の王冠を盗難美術品、工芸品のデータベースに加えたことを確認した。
フランスのダルマナン法相は、国内で最も由緒ある施設のひとつであるルーブルの恥ずべきセキュリティー上の欠陥が、この事件によってさらされたととらえている。同氏は仏ラジオ局、フランス・アンテルに「フランスの全国民は、自分たちが強盗に遭ったように感じている」と語った。
「さまざまな疑問点がある。例えば、窓の安全が確保されていなかったこと、高所作業用のクレーンが公道にあったこと。確かなのは、私たちが落第したということだ」
エバンス氏は、事件の詳細には面白いスリラーのような興味をそそられる人も多いだろうとしたうえで、国民が抱いている深い喪失感を忘れてはならないと強調した。
「皆さんには、事件やそのやり口をめぐるセンセーショナルな騒ぎの先に目を向けてほしい」「フランスという国の文化遺産と歴史に、実は穴があいていたのだ」と、エバンス氏は訴えている。
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原文タイトル:Museum heists have changed. Why the Louvre robbery is a worrying escalation(抄訳)