2025/10/22
くまもりNews北海道・東北等のクマの異常出没を受けての緊急声明 人身事故も捕殺も抑えられる対策が急務です
自然保護団体 一般財団法人 日本熊森協会 会員2万人
〒662-0042 兵庫県西宮市分銅町1-4
会長 室谷 悠子(弁護士)
2025年の夏の日本の平均気温は、過去最高を記録した2023年をさらに上まわり、統計開始以来最も暑く、特に北日本では平年差+3.4℃を記録しました。その影響も受けてか、北日本等の寒冷な地域で、山の実りは凶作で、クマが大量出没。集落や住宅地、建物の中にまで連日餌を求めてクマが走り回るという異常事態となっており、痛ましい人身事故も多数発生しています。被害にあわれた方々やそのご家族には心からお見舞い申し上げます。
一方、秋田県では、10月14日現在、クマの捕殺数が1000頭を超えたことが県により発表されています。
2024年度のクマ指定管理鳥獣化や2025年度に導入された緊急銃猟制度等とも相まっての捕殺一辺倒の対処により、今年は、過去最多だった2023年を上回る大量捕殺年となる恐れもあり、自然保護団体として大変憂慮する事態となっています。
クマが奥山から里に生息域を移す、ドーナツ化現象の常態化が進んでいるとみるべき
北海道や東北はそもそもドングリの種類が少なく、凶作年の影響を受けやすい地域ですが、今年は、ドングリ類だけでなく、低標高のクリを除く山中のあらゆる餌が、不足していると推測されます。
今回の大量出没は、単なる自然現象としての凶作年であることのみが原因とは考えられません。クマの本来の生息地である奥山は、戦後の奥山開発や過剰な人工林、ダム、大規模林道等の敷設に加え、2000年以降は、温暖化によるナラ枯れや、昆虫の激減、下層植生の衰退等で急速に豊かさ失っています。その上、近年は、メガソーラーや尾根筋の大規模風力発電建設による広大な森林伐採が行われており、クマたちの生息地を大きく破壊しています。
北海道・東日本では、クマが増え過ぎて山の中がクマでいっぱいになっているとの一部の研究者の説が出回っていますが、私たちは、クマが、生産力の失われた奥山から、人が入らなくなった里山や藪や耕作放棄地が増えた集落周辺に移動してきた結果であり、生息域拡大ではなく、生息域移動によるドーナツ化現象ともいえる事態が起きていると見ています。
東北地方に居住する奥山の状況に詳しい狩猟者やガイド、支部会員らからも、山にクマはおらず、里に移動し、定着しているという情報が相次いでいます。この状態を何とか解消しなければなりません。
今、必要なのは、捕殺ではなく、被害防除、棲み分け対策、奥山でのエサ場の確保です
奥山から里へのクマの生息域移動は、西日本では2000年代から進んでいます。当協会は、近年、「捕殺一辺倒ではクマを絶滅させるまで問題は解決しない、豊かな奥山を再生し、集落においては、追い払いや被害防除を徹底し、野生動物を寄せ付けない集落づくりが不可欠」と訴え続けてきましたが、これまでの政策は捕殺強化をするばかりで、根本解決のための対策は一向に進んでいません。
クマは奥山森林生態系を構成する重要な要素であり、水源の森の多様性を高め、日本の森林の最大獣として、生物間のバランスをコントロールする役割を果たしています。
人身事故防止のためにも、クマと棲みわけて共存するためにも、エサ場の再生、出没防止・防除と棲み分け対策に本気で予算と人員を振りわけることが必要です。
【環境省及び自治体等関係機関への緊急要請】
当協会は、人身事故の低減とクマ捕殺数抑制のために、以下のことを関係機関に緊急要請します。
1,クマの侵入を防ぐ環境整備や追い払い体制のための費用や人員配置に直ちに予算をつけること
集落周辺に米糠などを入れたクマ捕獲罠を大量に設置することで、かえってクマを人里に誘引し、人身事故が起こりやすい状況を作ってしまっています。クマが容易に侵入できない集落環境の整備や追い払いが不可欠です。人身事故を本気で防ごうと思うのであれば、生息頭数調査や罠での捕殺に予算を付けるのではなく、被害防除・棲み分け対策に重点を置いた生態系保全を配慮した対策が必要で予算配分の見直しを強く求めます。クマが何頭いようと、以前のように山におれば問題は起こりません。
また、犬を活用した野生動物の追い払いが有効であるとの実践例もあることから、モデルとなる制度構築のための支援を至急に行うべきです。
2,人身事故防止のため入山規制やクマを見たことのない地域でのクマ対応の呼びかけを
これ以上の人身事故が起きないように、今年はキノコ採りや渓流釣り、登山などの入山、里山等で自生するクリやクルミなどの採取は、可能な限り控えるよう、入山規制を呼び掛けてください。また今年は、これまでクマが出たことのない地域にもクマがどんどん出て来ているため、人身事故を防ぐための注意喚起を徹底させてください。
3、急がれる奥山天然林再生と凶作年に備えたエサ場の確保
環境省や都道府県は、推定不可能なクマの生息数推定に多大の予算を付けるのではなく、山の中の餌資源を調査し、石川県小松市が実施しているような餌場の森再生事業を進めるべきです。温暖化の影響は今後も続くと予想されることから、凶作年に餌となるクリやクルミ中心のクマを山に留めるための植樹も実施すべきです。
東北、北海道は、今年は極端なエサ不足であることから、人身事故の恐れのない場所にあるカキやクリなどにクマが来ることは許容する等の、クマの窮状に応じた配慮も、集落侵入防止のためには必要です。
4、大量捕殺となっている都道府県は今年度のクマ狩猟を禁止すべき
すでに例年を超える大量捕殺となっている都道府県で、これ以上の過剰捕殺が起きないよう、今年度のクマ狩猟を禁止してください。
5、森林を破壊する再生可能エネルギー開発は直ちにストップを
東北や北海道では、メガソーラーや大規模風力発電施設がクマたちの生息する広大な森林を伐採し山肌を削って造られており、今後も、次々と開発が進む計画になっています。このままでは、日本文明を支えてきた水源の森でもあるクマ等の野生動物たちの生息地が、回復不可能なまでに破壊されてしまいます。国が、早急に法規制をかけるべきです。
近年の奥山の急速な劣化は、森に入り、その変遷を見続けてきた者には明白な事実です。クマ問題解決のためには、奥山の荒廃状況を調べ、市民に正しく伝えていくことが不可欠です。
人身事故防止のため駆除が必要な場合があることは否定しませんが、クマを人里に近づけているのは、クマたちの生息地を破壊し続けてきた私たち人間社会であるという視点に立つことが必要です。私たちは生きものたちがつくる豊かな森の恩恵を受けて生存していることを忘れず、他生物の生命にも配慮した共存の努力を続けていくことが重要です。親子グマや若年のクマまで、出没しただけで罠にかけて全て捕殺という対応は、倫理上からも教育上からも再考すべきです。
以上
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