2025年のノーベル生理学・医学賞に大阪大特任教授の坂口志文氏が、化学賞に京都大特別教授の北川進氏が、それぞれ共同研究者とともに選ばれた。

 日本出身者について、生理学・医学賞では18年の京都大の本庶佑特別教授に続き6人目、化学賞では19年の吉野彰氏以来9人目となる。

 自然科学分野での受賞は21年に物理学賞を受賞した米プリンストン大の真鍋淑郎上席研究員以来である。24年には平和賞を日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が受賞しており、日本の受賞は2年連続だ。

 坂口氏の受賞理由は、過剰な免疫反応を抑える制御性T細胞を発見。これでアレルギーなどの自己免疫疾患、がんといった病気の治療法の開発が進むことが期待され、一部は既に実用化されている。北川氏は、内部にさまざまな物質をため込める「金属有機構造体(MOF)」を開発。温暖化の原因であるCO2を回収したり、空気からエネルギーを取り出したりできることが期待され、一部は既に実用化されている。

 日本としては、なんともうれしい出来事である。ただし、記者会見などの場で、両氏ともに研究に関する不安を隠していない。

 坂口氏は「人気のあるアイデア(研究テーマ)ではなく、研究費を稼ぐことなどに苦労した」と語り、北川氏は「(若手研究者の)研究時間を確保してあげることが重要」と述べている。いずれも、研究費不足が背景にあるのだろう。

 ただし、ものは考えようだ。日本には国防分野でまだ伸び代がある。近年論文数で台頭してきた中国や世界トップレベルの米国は、国防関連の研究開発費が潤沢だ。日本でも、国防関連の研究開発費を増額すれば、科学技術の底上げにもなるとともに、安全保障の観点からも望ましい一石二鳥だ。これは世界の流れでもある。

 そもそも、科学技術は軍事的にも民生的にも使えるものだ。日本学術会議は、軍民デュアルユースの研究を認めないというが、研究段階で縛りを掛けたら科学技術の発展にも支障が出る。ノーベル賞もダイナマイトという軍民デュアルユースからの賜物(たまもの)だ。実用段階で軍事利用をチェックしたらいい。

 日本では、軍民デュアルユースの研究の解禁をてこにして、国防関連の研究開発という宝を大事に育てる必要がある。

(たかはし・よういち=嘉悦大教授)

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