「書けるタイピング」とは何か:言語化タイピング概論
タイピングには種類があります。
作文とか競技とかそういう目的のことではなく、仕組みの違いがあります。
僕はそれを仮説として立て、仮説に基づいてメビウス式を設計し、「書けるタイピング」、つまり作文に適したタイピングを身に着けることに成功しました。
……とかなんとか言ってると我ながら怪しさがすごいですが、安心してください、ここからもっと怪しくなります。
いやね、やってみたら大したこっちゃないんですよマジで!
なんだけど、前提として揃える条件が超厳しいのと、なんでそれが必要なのかってのが脳みその話で、しかも膨大な量になっちゃうんで……部分部分はなにから何まで怪しいと思う!
でも全部聞いたらなーほーねってなると思うよ。多分。
ちなみに、この記事は概論だから、細かいとこ盛大に省略してるよ。
言語化タイピング
「書けるタイピング」のことを、本シリーズでは言語化タイピングと呼ぶことにします。
言語化タイピングは、
脳が疲れない
文章の内容に集中できる
自然と言葉が出てくる
別に難しい技術とかではない
そんな夢のようなタイピングです! ドーン!
まあこの夢が叶ったって、いきなり生産量が二倍になったり、傑作が書けたりはしないですけどね。……いや、1.5倍くらいは出てるか……?
で、習得そのものは別に難しくないんですけど、前提条件を揃えるのは正直、超大変なので、書くことにガチな人、ライターや小説家を目指してるとか、論文とか大量に書く必要があるとかじゃないと、あんまり積極的にはおすすめしません。
もちろん、興味があるなら誰でもやってみていただきたい。それきっかけで書くことに興味出たりしたら最高ですね。生成AIに負けるな!!!
言語化タイピングの仕組み
言語化タイピングをもうちょっと詳しく言うと、「思い浮かんだことを、手が勝手にタイピングで言語化する」状態のことです。
いやーーすごい、こう書くと怪しさ爆発! でもこれ、「できる」という人、僕の狭い交友関係でも数人知ってますよ。
「ある」ことは間違いないんです。問題はそれが、長く苦しい鍛錬の果て、タイピングを極めし者AKUMAにしか辿り着けない境地なのかということ。
全然そんなことないです。フツーのこと。だって、手書きで書き方をゴチャゴチャ考えないでしょう?
喋るのは「音声による言語化」。
手書きは「ペンによる言語化」。
なら「タイピングによる言語化」もある。それだけです。
たったそれだけのことが、キーボードを相手にするとあまりにも難しい……ように思える。それはつまり、使っているキーボードが言語化に向いていないからです。
キーボードの条件を詳しく述べる前に、言語化タイピングの条件をもう少し整理しましょう。大きく分けて二つあります。
運指を意識しないこと
内声をコピーしないこと
この二つは表裏一体といえる部分もあるのですが、それでも別々のことなので、分けて説明します。
運指を意識しない
まず前提の前提として、キーボードをガン見しながらタイピングするようでは、意識せずにいることなどできません。
よって、全てブラインドタッチ(タッチタイピング)が前提の話になります。
(ちなみに、キーボード見ながらタイピングを指す言葉は日本ではあまり使われていませんが、英語ではルックタイピングと呼ぶそうです。ルックタイピング、ダメ、絶対。)
その上で、ある程度タイピングへの慣れが必要になります。どのキーを押せば「あ」になるのかいちいち悩むようでは、それを意識せずにいることは困難です。
入力したい文字に対してどのキーを押せばいいのかを覚え、迷わずに押せるようになったとしましょう。それだけでは、「運指を意識しない」にはなりません。根本的には違うことだとさえいえます。
どういうことか。まず、キーボードではどのキーをどの指で取るべきかが決まっています。これを標準運指といいます。指ごとの担当図を引用してみます。
え? 塗れてないとこが多すぎ? そうだよ。
右小指がバカみたいに多い? バカだよ。
横がだだっ広いのになんで真ん中に寄せてんのかって? しょうがねえだろアルファベットが真ん中集まってんだから!!
とりあえず、よくあるキーボードのホームポジションに手を置いてみましょうか。
普通、ここを中心にしてタイピングするわけですが、超よく使うキーであるエンターとパックスペースが、手を動かさずに取るにはかなり厳しい位置にあります。
方向キーは完全に無理ですね。ノートパソコン系でも無理。当然テンキーなんかムリムリムリ!
このへんを打って、またホームポジションに戻ることは、「手首をこのくらい曲げて小指をこのくらい伸ばしたあたり」のような指感だけでは困難です。
相当慣れた人じゃなければ、なんとなーくキーボードの地図を思い浮かべ、「地図の中のあのへん」を狙って打つはず。
つまり、運指を意識しています。よくないね。
部屋やデスクの整理整頓にたとえてみましょうか。なにか取りたいものがあるとき、どこになにがあるか把握して取りに行く人(地図)と、手の届くところに置いといて感覚で取る人(指感)がいますよね?
部屋が汚い人、言語化タイピングに向いてる可能性ありますよ。それはわりと本気でそう思う。僕も汚いし。
キーボードや、キーの位置関係を意識せず、指の感覚で取る。いわば指感ブラインドタッチ……つーか、それができるキーボードが、運指を意識しない条件の一つ。
では、なんかいい感じにキーのまとまったキーボードを使うとしましょう。これもまだ十分ではありません。
例えば、ローマ字で「むり」と打つとしましょう。分解すると「muri」。キーボード上で番号振るとこうなりますね。
最初の問題は、mとuが両方とも右手人差し指で取りたいキーであり、しかも、間に一行挟んでいるということです。
これを右手人差し指で順番に取ると、時間がかかります。これを短縮するため、慣れてくるとガッと掌を開くような運動を、あらかじめ準備しておくようになったりします。
あるいは、手っ取り早くuを中指で取ってしまうという方法もあります。競技タイピングではこれを最適化運指といいます。ただしそのためには、もっと大きく手を動かす必要があります。
で、次のrは左手だからいいものの、その次は本来中指で取りたいi。じゃあ薬指で取る? じゃあ「むりよ」の場合は? mからyまで人差し指移動する? oは小指?
……というような問題に瞬時に答えていくのが競技タイピングであるわけですが、それは普通無理なので、標準運指が大事なわけですね。
しかしそれはそれで、指は決まってても手全体を動かしていく必要がある。手を動かすには、できるだけ先を見て予定を組む必要がある。
僕の理解では、これが運指組み立てと呼ばれるものです。本シリーズではその意味で使います。
つまり、「運指組み立てをしない」がもう一つの条件。
で、この二つについては、そんなんひたすら反復練習すれば無意識でできるようになるって意見もあるんですけど、それはまた別稿に譲ります。
ここでは、最初からやらんほうがラクに決まってんだろ、とだけ。
内声をコピーしない
はい、タイピング詳しくない方はここでなんじゃそらですね。一個ずついきましょう。
内声(インナーボイス)とは、「心の声」のことです。出やすい人とそうでない人がいて、例えば本を黙読するとき脳内で声がするという人もいますし、しないという人もいます。
ここでいうコピーとは、すでにある文章をそのまんま打つことです。
なにかお手本があってタイピングで写すのと同じように、自分が考え、内声が読み上げた文章を、そのまんま打つということ。
内声で言語化したあと、それをタイピングで写し取っているわけですから、当然「タイピングによる言語化」ではないですね。
大抵の人の作文タイピングは、内声コピーだと思います。普段内声がない人でも。
これ、なにがよくないのかわかりにくいと思うんですけど、考えると打つが分離してるんですよね。
だから、打ってる間は実は考えてなくて、打ち終わらないと次を考えられない状態です。
(突き詰めると「内声そのものが遅すぎ」とかもあるけど、それは本記事の趣旨とは関係ない)
ほなとっとと打ち終わったらええやんけ~~っていうと、それだと総思考時間は増えたとしても、細切れの時間になってるわけですよ。
細切れ6時間睡眠は、まとめて6時間睡眠の代わりにならないでしょ。
特に、長文になればなるほど違いが効いてくると思います。
長文を書くにはある程度全体像を把握する必要があり、思考が途切れるとその全体像が「広げ直し」になるからです。
つまり、内声をコピーしないとは、打ちながらも考える、考えつつ打つということを指しています。
で、そこで運指を考えるようじゃ内容を考えられてないよね、ということです。
キーボード配列の前提条件
では、ここまで整理してきたような状態を成立させるには、実際なにがあればいいのか。
練習方法とかは別にして、キーボードの条件を確認しましょう。
キー配列って言葉がありますが、これが指す内容は多岐にわたります。大まかには、物理配列と論理配列があります。
物理配列とは、キーの実体がどのように並んでいるか、どう配置されているかを指す言葉です。
テンキーレスとか60%とかはこれ。
ロウスタッガードとかカラムスタッガードとかもこれ。
一体とか分割とかエルゴノミクスとかはもっと大きい括りだけど……まあいいやまとめちゃえ。
論理配列とは、それぞれの物理キーにどんな役割が与えられているかを指します。
JIS配列とかUS配列とかはこれ。
qwertyとかdvorakとか大西配列とかもこれ。
ローマ字とかJISかなとか薙刀式とかメビウス式とかは……微妙なんだけどもうここにまとめちゃう。
いわゆる新配列というのは、新しい論理配列のことです。
物理配列にも論理配列にも標準があります。言語化タイピングが難しく思える最大の要因は、標準配列が言語化タイピングに適していないことです。
じゃあ標準以外でどういうのがいいのかっつーと、以下のようになります。
物理配列
すべてのキーに自然と指が届く
キーが多すぎない
配置が手とその動きに合っている
姿勢がつらすぎない
論理配列
指が飛びまくらない
1かな=1打に近い(かな入力系)
言葉の感じと運指の感じが合っている
要するに、「かなり小さい合理的レイアウトの分割キーボード」+「使い手の言語感覚に合うかな入力」ってことですね。
ぜんぜん要せてねーよって、蒼天航路の劉備みたくなるとこあると思うんですけど、ここ深堀りすると長くなりすぎるのでいったん省きます。過去記事読んでいただくとだいたい分かるとは思う。
(本当はキーキャップとキースイッチもけっこう重要ですが、これも省きます。)
僕が使っているのはRhymestone×メビウス式です。
練習法
しない。作文だけをやる。終わり!
……というのはさすがに乱暴なので、もうちょっと詳しくやります。
とはいえ、「書く練習なんだから書く」というのは基本です。
内容はどうでもいいから大量に書く。とにかく書く。書いて書いて書きまくる。……ができるところまで、どうやって辿り着くのか。
配列を覚える
具体的にはあとでメビウス式練習メニューとしてまとめるつもりなので、概要だけ。
標準配列から別の配列に変える場合、特に論理配列については、キーの配置を覚える必要があります。
しかしこれは、配列表を暗記することを意味しません。なぜなら、配列表を思い出して、目的のキーを狙い撃つのは、タイピングを意識しているからです。
なんなら僕は、メビウス式を作って使っているのに、配列表をろくすっぽ覚えていません。
キーボード見てこのキー何?ってやると、(無刻印なので)…………おっおお?ってなる。
じゃあどうやって打つねんつーと、言葉の単位で覚えるんですね。
「あ」を打って「る」を打って「ある」ではなくて、
「ある」を続けて打つ。
その「指感」を「ある」と結びつけて覚える。
あれあれあれ「あ」どこだっけ、えーと「ある」がこうだからココ!
これでよし。マジです。これでいきましょう。「あ」を狙ってはダメです。
そうやって、「言葉だけ」で全キーを塗り潰していきましょう。
よく使う言葉を選んでいきましょう。単語全体ではなく、「られ」「れる」などもよろしい。あ、「しい」もいいですね。
よく使う言葉は打ちやすい運指でもあるべきで、そうなっていないのは、言語化タイピングに適さない配列です。
塗り終われば、それで、とりあえず打てるようにはなります。
スピードトレーニング
しない。終わり。
これは半分以上マジです。少なくとも、スピードを意識したトレーニングは不要です。
「急ぐ」こと自体、タイピングへの意識そのものだからです。
いくらなんでも使い物にならないくらいギクシャクするという段階なら、さっきの言葉練習を「なめらかさ」を重視して行いましょう。
まとめて打つ。一息で打つ。力まず自然に。力まないと打てないくらいスイッチが重いなら、軽いのに変えたほうがいいです。
「使い物」の合格点は、下げられるだけ下げていきましょう。
最初はどーでもいいものを書きゃいいんです。Xでもブログでもただのメモ帳でも、推し語りでも観察日記でもダンナの愚痴でもなんでもよろしい。
そういうのが本当になんにも思いつかないとか、自分の文章はスラスラで書けないとイヤとかなら……まあ、コピーでもいいでしょう。
ただし「見ながら」はなし。
歌詞とか、水兵リーベとか、思い出せるものを打っていきましょう。「自分の脳内から出てきたもの」を打つことです。
ここに効率はありません。近道はありません。愚直に書くのみ……っていうと大変そうですけど、気を抜いて書けるもん書いてりゃいいんだから、書きたい人にとっては遠回りどころか、居りゃーいいみたいな話でしょ。
ちなみに、僕が8月初頭にここで書いてたかな入力概論シリーズみたいなやつは、それです。
考え尽くしたけど文章にしてなかったものを、メビウス式の練習も兼ねてあらためて書いただけ。
つまり、一週間くらいで終わってます。「新配列は一週間で習得できる」。あとはいつもどおり小説書いてツイッターやってました。
まあこれはちょっと盛ってて、論理配列は絶対作者補正あるんですよ。覚える前に知ってんだもん。でも、倍もやれば使い物にはなるんじゃない?
で、それがどのくらいの使い物だったかといいますと……ここはさすがに数字あったほうがいいですかね。
メビウス式で最初に書いた小説の記録を見ると、初日時速954.51字でまあまあ落としたあと(なお一時間半)、次の日には時速1493.10字で「イマイチな日はこんなもん」くらい(なお二時間)。
そこから慣れない配列への疲れもあって上がったり下がったり。
一週間後には時速2168.03字と、従来(フタワフタバ)と比較してもかなり高い数字を出してました。
総執筆時間16時間32分。運動記憶の定着には寝る回数も重要でしょうが、「普段通り使える」までならこんなもの。
実戦
そこから二ヶ月くらいでこうなりました。
(いまは専業で書いてるので、アフター5だとどのくらい違うかはわかんない)
僕の場合、「できたーーー!」はなくて、ほんほんなかなか調子ええやんけって書き続けてたら「…………あれ? できとる……」でしたね。
産みの苦しみはなかった。普通にやってたらなんかできてた。
本当に誰でもできるの?
前提条件さえ揃えば自転車レベルで。と考えています。
いうて、前提条件がマジでさすがにキツすぎて、あんまフツーじゃねえサンプルしかいないんですけども。「書く」の総訓練時間とか。
板書だけじゃなくてノート自分で作ってた系の人は早いんじゃないかな、多分。あとは当然手書きで小説とか論文とか書いてた人。でも今どきあんまいないよね。
言語化タイピング以外でタイピングやりこんだ人ほど苦しむ……のが理屈だけど、僕はできたからなあ。あんま疑いを持ってなかったからだろうか。
まあとにかく、これは究極、タイピングができるかどうかじゃなく、作文ができるかどうかなんですよ。
作文ができない人ならできないし、できる人ならできると思う。だってやってること、一般的な作文タイピングからタイピング抜いただけだもん。
概論おわり
これがだいたい全体像です。補足が必要な部分が大量にあるので、それはおいおい書いていきます。
特に、「指感ブラインドタッチ」と、あとそもそも言語化ってなんだよあたりは、概念としてわかんねーよの人が相当いると思うので、詳しくやります。
僕の中では完全に、新配列運動は言語化タイピングに包括されました。元々そうっちゃそう。
新配列よりも言語化タイピングを紹介したい気持ちが強いというか……いや、言語化タイピングが難しすぎる配列が標準でマジヤバイので、結局新配列も要るよなとはなるのですが。



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