死刑求刑「長野4人殺害事件」 市議会議長だった父と母は、なぜ「息子の異変」を見過ごしたのか 専門家が指摘していた「特殊な親子関係」
「親だけで解決は不可能」
両親がアパートの部屋に入ろうとすると「ここは盗聴されているから気をつけて」と注意を促し、盗聴を恐れて携帯電話の電源を切っていたと告白。さらに「部屋の隅に監視カメラがある」とも言い、ショックを受けた両親は容疑者を実家に連れ帰り、大学も中退することに。 〈両親は病院の受診を勧めたが、青木容疑者は「俺は正常だ」と拒否した。無理して受診させれば「親子の信頼が切れないか、心配だった」〉と母親は取材に答えている。 「こういったケースでは、親の勧めで受診にまで漕ぎ着けるケースは非常に稀です。自覚のない子供が拒否するのは当たり前で、そのため親の側が“私が相談したいことがあるから、あなたもカウンセリングに一緒に付いてきて”などとワンクッション入れて誘うことが、今ではセオリーになっています。母親が過剰に息子に遠慮する事例も珍しくありませんが、時に衝突を恐れないで接することで、子供が“自分と本気で向き合っている”と感じて事態が好転することもあります」(池内氏) その後、青木容疑者は実家で家族に囲まれて暮らすようになり、仕事も両親が経営していた果樹園やジェラート店の運営に携わるなど、親の庇護下での生活を送ることになる。 「家族間で問題を解決しようとしても非常に難しいのが現実で、外部の専門家の話を聞くことで初めて、適切な対処法が見えてくるケースは多い。これまで数多くの家族から相談を受けてきましたが、本当に子供のためを思った時、親が能動的な行動を取らず、受け身のままでいることはあり得ません。子供の抱える問題を親だけで解決することは不可能であると知るのが、親子問題を正常化する最初のステップとなります」(池内氏) 外聞を気にして、問題を先送りにするのが「最悪の対処法」とされるが、今回の事件で親子関係が影を落とした可能性はあるのか。捜査と並行して、こちらの解明も待たれる。
*** この9月になって開かれた公判では、被告の母親も証人として法廷に立った。事件時、青木被告は4人を殺害した後、自宅に立てこもった。母親も自宅に入って息子と対峙。法廷では、その際に以下のような会話をしたと明かしている。 母:こんなことをして、人を殺めて、とんでもないことして。お父もお母も、政憲のためによかれと思ってやってきたのに、こんなことになって。お母を撃ってくれ。 被告:それはできない。 そこで母は自首を勧めたが、被告は「長い裁判の末に絞首刑になる。絞首刑は苦しいのでそういう死に方はしたくない」と拒否。自殺も勧めたものの、銃身が長く、出来なかったという。そこで母が「私が撃とうか?」と聞くと、被告はうつぶせになり「ここに心臓があるから撃ってくれ」と銃を手渡した。しかし、母は息子を撃つことはできず、銃を取り上げてその場を去った――(母の証言は、「朝日新聞」9月6日付記事を要約)。 また、父は被害者を悼むため、今年になって自宅に観音像を建立した。しかし、遺族側は謝罪を拒否しているという。 30年余の歳月は、殺人鬼を育て、我が子に銃を向けるためのものだったのか。両親の息子への向き合い方は、何が間違っていたのか。10月14日に下される判決では、その点が明らかになるかどうかも注目されている。
デイリー新潮編集部
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