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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅢ
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トータス旅行記⑩ お漏らしウサギなんていない。いいね?

※前回までのトータス旅行記

・ハイリヒ王国メンバーと邂逅

・王都のギルドに観光

・オルクス大迷宮でいろいろ衝撃の光景を見学

・オスカーの隠れ家で、編集されたハジメとユエの新婚生活を知る。香織の舌打ちが進化する。

↑ 今ここ



 しら~~っとした空気が漂っていた。凶悪犯だって泣きじゃくる恐るべき処刑場――ライセン大峡谷の谷底に。


 親達のジト目が半端ない。香織と雫がサンドイッチするようにシアを抱き締めている。


「なるほど。これが脳を揺さぶるほど衝撃的かつ――」

「痺れるようで、お空をカッ飛ぶような気持ちになった出会い、なのね」


 南雲夫妻の息子を見る目が実に冷たい。当の息子は「もうすぐ夕方だなぁ」とお空を見上げている。頑なに視線を合わせようとしない。


 ユエが、やはり視線を合わせようとしないまま、しかし、必死の弁解を試みる。


「……あ、あの、お義父様! お義母様! 私も扉を閉められかけているので! 頭皮も削られているので! この頃のハジメ的にしかたなかったというか!」

「そういうユエちゃんも、かなり塩対応よね。ウサミミ引っ張られすぎて、シアちゃん、玉ねぎみたいになってたじゃない」

「……んんっ。……ハジメにくっつくから……」


 お義母様()の指摘に、ユエはごにょごにょと小さな声で言い訳しつつ、視線をお空へ向ける。あの時も、こんな綺麗な空だったなぁ……みたいな表情だ。


 さて、トータス旅行にやってきたハジメ一行が、何故、死の谷の底で微妙な雰囲気に陥っているのかというと……


 オルクス大迷宮でいろいろ衝撃的な光景や過去を知った親達のために休憩を取った後、ハジメ達はライセン大峡谷へと出た。


グランドキャニオンの如き雄大な景色と、速攻で襲ってきた凶悪な魔物に、親達は戦慄するやら胸が躍るやら。


 そうして、ハジメ達がさくっと魔物を一掃しつつ、シアたっての希望で〝過去再生〟されたのは、もちろん、シアとの出会いの場面だった。


 ハジメ的に、こういう空気になると分かっていたので物凄く嫌だったのだが、当のシアが、


義父とうさまっ、義母かあさまっ! ここです! ここ! ここで私達は出会ったんですよ! さぁさぁ、ユエさん! 待ちに待った私のターンですよ! 感動のシーンを再生してください! さぁ早く!」


 とウサギらしくぴょんぴょん跳ねながら、ウサミミわっさわっさ、ウサシッポぶんぶんっしつつテンションMAXで要求。菫達だけでなく香織達まで見てみたいとなり、結局、過去は再生されてしまったのだ。


 そう、必死に助けを求めるシアに肘鉄し、電撃を浴びせ、最後にはハイベリア(飛竜)の群れに投げ飛ばしたハジメの姿が。


 で、こんな空気になったのである。


「懐かしいですね~。なんだかんだ言って、結局助けてくれたハジメさん、マジツンデレ! ですねぇ~」


 ドパンッ。


 回避!


「ツンデレ言うな」

「……ん。あの頃のハジメにはツンしかない」


 そんなことを言いつつも、銃弾を普通に避けるシアの姿に、ハジメもユエも「あの頃は残念ウサギだったのに……」と、懐かしさと寂しさをない交ぜにしたような表情になる。


 香織と雫が、未だにシアを抱き締めながら、


「うぅ、こんな出会い、あんまりだよ。シアが想い出を美化するのも頷けちゃう」

「ほんと、こんな男のどこに惚れる要素があったのよ」

「雫さん、それ激しくブーメランですからね?」


 と、脳内で想い出を変えちゃうくらい辛い出会いだったんだねぇと同情心たっぷりに涙ぐむ。シアの頬がヒクヒクと引き攣った。まるで、思い込みでトラウマを乗り越えようと頑張る可哀想な人……みたいな扱いだ。シア的に、実に心外である。


「シアよ、お主、仲間だったんじゃな。妾、うれしい」

「ケツパイルしますよ」


 嬉しそうに微笑むティオ。シアの蔑む目が、パイルバンカーのようにティオの心に突き刺さる。ハァハァせずにはいられない。


 釈然としない表情のシアを、今度は小さな手がぽんぽんした。


「シアお姉ちゃん。――〝問題は未来だ。だから私は過去を振り返らない〟なの」

「それ、どういう意味ですかね! ミュウちゃん!」


 ミュウの表情が優しい。慈愛に満ちた大人の女みたいな微笑みだ。テレビかネットで仕入れたっぽい格言とその表情が、何より雄弁に語る。「悲しい事件だったね。忘れてしまおう? なの」という同情の心を。ウサミミが抗議するようにウサッとなった。


 もっとも、薫子や霧乃、そして愛子や昭子たち女性陣からも、慰めるような、未来に生きよう!と励ますような、そんな視線が送られてきて「あれ? もしかして私の出会い、不憫すぎ? そんな馬鹿な……」と萎えてしまったが。


 智一が殺し屋みたいな目で言葉の釘を刺しにかかった。


「ハジメ君。まさかと思うが、香織にも同じような対応をしていないだろうね? もしそうなら、私は修羅にならざるを得ない」

「いえ、ホルアドで見た通り、普通にふっただけです」

「修羅にならざるを得ない!」


 修羅ルートしか残っていない智一さんと、人間ルートの維持を図るハジメとのやり取りをスルーして、気を取り直したらしい菫がシアの頭をなでなでした。


「義母さま?」

「なんだか息子がごめんなさいね、シアちゃん。本当に、よく頑張ったわね」


 何を、とは言わない。だが、誰もがその言葉の真意を理解していた。


 家族を救うため、どれほど辛辣な対応をされても決して諦めなかったのだ。頑張れば、未来は必ず変えられると。


 生まれたことが罪だと言われた。自分の存在が家族を失わせ、苦境に追いやった。それを誰よりも心に刻みつけてしまっていたのはシア自身であることを誰もが察していた。残念ウサギなんて呼ばれて、どこかコミカルな言動であっても、瞳の奥の必死さは余すことなく伝わっていた。


「えへへ」


 照れたように、あるいは心底嬉しそうにはにかむシア。


 乾いた空気が、菫達や香織達の温かな眼差しと共に潤いを帯びていく。


 なので、


「よし、もういいな。次に行こう」


 パンッと柏手を打って号令をかけたハジメに、全員から「空気を読め」という白けた視線が放たれた。


 よほど、今の空気がいたたまれないらしい。ハジメさんは逃げ出したい様子。問題は未来。ハジメさんは過去を振り返らないのだ。


「待て待て、ハジメ。何をそんなに急ぐんだ。まだ聞いてないこともあるし――」

「そんなものはない。残念ウサギが一匹、根性を見せた。それだけの話だ」


 言葉を被せる。まるで、その先の質問を許さない! というかのように。あるいは、その先の話題に触れたくない! というかのように。


 そこで親達はギョッとした。ユエも香織も雫も愛子も、そして当のシアやミュウまで、一斉に顔を逸らしたのだ。ハジメの気持ちは分かると言いたげに。


「シアちゃんのお父さん、優しそうな方だったわね~。お会いするのが楽しみだわ」


 言っちゃった。菫お母さんが言っちゃった。


「なんというか、イメージと違ったな。ほら、シアちゃんってのうき――ごほんっ。アグレッシブでチャレンジャーな感じじゃないか」

「義父さま? 今、私のこと脳筋って言いかけませんでしたか? 言いかけましたよね!」


 愁に詰め寄るシアをスルーして、智一も感想を口にし出す。


「ああ、兎人族というのは好奇心旺盛で、もっと剛毅な性質の人達かと思っていたんだが……」


 ハジメとユエが顔を見合わせた。「確かに、好奇心旺盛で剛毅な連中だよ、今は」みたいな顔をしている。


「本当は穏やかで優しい気質の人達だったのね。お花とか動物とか愛でていそうね」


 薫子の感想に、香織と雫が顔を見合わせた。「大正解。愛でていたらしいよ、大昔は」みたいな顔をしている。


「シアさんが特別だったのね」

「まさに、一族の英雄というわけか」

「お父上達はシア君の心を守り、戦えないお父上達の体はシア君が守った。そういうことなのだな」


 霧乃、虎一、鷲三の感想に、シアとティオが顔を見合わせた。「むしろ、心にダメージを入れてきますけど。全員が最前線中毒者ですけど」と言いたげな顔だ。


「みんな美男美女ばかりね。小さな子達なんかすっごく可愛いかったし。ふふ、こんな人達が森の中の家で生活しているのかと思うと、シルバニ○感があるわね~」


 昭子の夢見るような感想に、愛子とミュウとレミアは顔を見合わせ「確かに、もはや夢だよ」みたいな顔になった。ついでに、ハジメが「……あえて言うなら死流刃仁悪、か?」みたいな顔になっている。


 それはそうだろう。その〝可愛い小さな子〟は今や〝必滅のバルドフェルド〟なんて名乗りを上げて獲物の頭をぶち抜くことを生きがいとしており、もう一人も〝外殺のネアシュタットルム〟と名乗って、あわよくばボスの寵愛をたまわらんと日々同族のお姉さん達としのぎを削り合っているのだから。


(ハ、ハジメさん、どうしましょう。義父さま達、〝森のウサギさん〟一族を想像してますよ! 実際は森に潜む首刈りウサギですのに! ウォーモンガーでアサシンな集団ですよ! 絶対にドン引きされますぅ!)

(だから、変わっちまう前のあいつらを見せるのは嫌だったんだ)

(変えたのハジメさんですけどね! 予定変えませんか? 今回はちょっと都合がつかなかったということで、うちの家族とは会わない感じに)

(そんなことして、後でばれてみろ。あいつらのことだ。今度は自分達の方から乗り込んでくるぞ。過剰な演出つきでな……怖ろしい)

(……確かに。父様達のことです。次の渡航を狙って待ち伏せしますね。何ヶ月でも、何年でも、王宮のゲートに張り込みますよ)


 揃って頭を抱えるハジメとシア。こそこそ話し合う二人に、愁達が不思議そうな表情になる。


「どうしたんだ、ハジメ」

「いや、なんでもない。ハウリア一族に紹介する時の話をちょっとな。香織、魂魄魔法と再生魔法でのフォロー、頼むぞ」

「ちょっと待て、ハジメ。あんな優しそうなシアちゃんのお父さん達相手に何を言って……って、香織ちゃん!? どうしてそんな決然とした表情を!?」

「お義父さんの心は、私が守りますっ」

「どういうこと!?」

「ハジメくんでさえショックを受けて茫然自失になる破壊力ですけどっ、私、守りますっ」

「ハジメって神殺しの魔王なんだよね!? シアちゃんの家族、何者!?」

「父さん、気をしっかりな。たぶん、この中では父さんが一番……やばい」

「もう一度、聞くぞっ。シアちゃんのご家族だよな!? 優しそうなウサミミさん達だよな!?」


 愁が戦々恐々としている。脳内に、まるでサイコパス集団のようなカム達の姿が過ぎる。ある意味、間違いでもない。


 ちなみに、愁が一番やばいのは、ハジメの父であるという点で推して知るべし。心の奥にあれこれ封印しているのは息子と同じなのだ。


「父様達のことは取り敢えずおいといて! 次に行きましょう、次に!」


 シアが嫌な未来から目を逸らすように、峡谷の西を指さした。問題は、いつだって未来なのだ。


 釈然としないものを感じつつも、愁達は大人しくゲートをくぐった。






 やってきたのはもちろん、ライセン大迷宮である。


「ここが二つ目の大迷宮……なのか?」


 愁の疑問はもっとも。智一達も揃って目を点にしてる。


――おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪


「うん、そういう反応になるよな。俺等もそうだった」

「……ん。今見ても微妙にイラッとする」

「ですね~。もうこの瞬間からウザったいですもんねぇ」


 ハジメ達が遠い目になった。話にはよく聞いていたものの、〝それ〟を実感したことのない雫、ティオ、香織が、ようやく追体験できる時が来たとドキワクしている様子。


「この大迷宮の話になると、三人共、自分達だけの世界に入っちゃうから気になってたのよね」

「微妙に疎外感を覚えるんじゃよなぁ」

「決戦の時、ミレディさんと会ったけど……重力魔法で魔物を圧倒していて……その時の声音とかすっごく冷徹な感じだったから、どうにもハジメくん達のいう人物像とイメージが合わないんだよね。むしろ、ユーモアのある格好いい人って感じが――」


 香織が、決戦の時にゴーレムを率いて救援に来てくれたミレディを思い出すように虚空を眺めながら、そんなことを言った瞬間、ハジメ達の目がクワッと開かれた。


「香織、正気に戻れ。洗脳されてるぞ」

「……ばかおり。もう少し人を見る目を磨いた方がいい」

「おかしな妄想をしてしまうくらい、極限の状況だったんですね……」

「なんでそこまで言われるの!?」


 ハジメ達の尋常でない様子に、誰もが「ミレディ・ライセンっていったい……」みたいな表情になっている。


 ごほんっと咳払いをしたハジメは、気を取り直すようにして口を開いた。


「これから、このライセン大迷宮の見学に行くわけだが、ここは物理トラップの山だ。何処に何があるか分からないから、オルクスより警戒してくれ。くれぐれも、勝手に行動したり何かに触れたりしないように」


 ハジメの真剣な表情での忠告を受けて、しっかりと頷く親達。香織が早速といった感じで〝過去再生〟を始めようとする。が、その前に、


「まだ入り口ですよ、香織さん」


 シアに肩をガッと掴まれた。


「え? でも……」

「でも、なんですか?」

「な、なんでもないです」


 シアは笑顔だ。だが、妙に迫力のある笑顔だった。普通に怖い。おまけに、肩を握る手が万力のよう。〝過去再生、絶対阻止!〟みたいな気迫を感じる。


「……ん。過去再生いきま~~す」

「ユエさん!?」


 ユエ様、まさかの裏切り。ささっと前に進み、回転岩扉を開けるや否や、飛んできた矢を適当に叩き落とし、流れるような鮮やかさで過去を再生した。


「まさかっ、さっきの腹いせですか!? あんなの時効じゃないですかぁっ」

「……ん? なんだって?」


 急に耳が遠くなったユエに、シアはうがぁ~っと飛びかかる。


 ちなみに、〝さっきの〟とは、峡谷での過去再生における「――胸なら私が勝ってます! そっちの女の子はペッタンコじゃないですか!」というセリフのことだ。


 組み伏せようとしてきたシアを前に、ユエは、


「……ハジメ!」

「おう」

「!? ハジメさん!?」


 後ろから羽交い締めにされて、シアが信じられない! と言いたげな表情でウサミミを逆立てる。


「悪いな、シア。条件反射だ」

「しつけられた犬ですか! 放してぇ~~、皆さん見ないでぇ~~~」


 ジタバタッジタバタッ。ハジメの拘束を解こうとするも、身体強化のレベルを上げる前に過去は映し出されてしまう。


「い、いったいなんなの? ねぇ、ユエ。シアが本気で嫌がってるし、見ない方がいいなら……」

「……ん、冗談だから」


 過去のシアが、油断のせいで一人回転扉の向こうへ消えるという残念な光景が映し出されたと同時に、ふっと映像は消えた。どうやら流石のユエも、本当にシアの黒歴史を見せるつもりはなかったらしい。何せ、女の子の尊厳の問題であるからして。


「よ、よかったですぅ。ユエさんが本気だったら修羅にならざるを得ないところでした」

「修羅になりそうな人が多いな」


 智一さんがサッと視線を逸らす。


「まぁ、察するにあれじゃろ。シアが大ぽかをやらかした、というところじゃろ。この頃は随分と未熟のようじゃしな」

「そ、その通りなんですが……後生ですから。内容は聞かないでください」


 今や南雲家の中でもしっかり者。むしろ、ニート吸血姫まっしぐらなユエより頼りになるウサギさんで通っているシアが、ここまで恥ずかしがる失敗談。


 誰もが非常に気になっていたが、ウサミミをぺったりと折りたたみ、首筋まで真っ赤にしているシアが可愛かったので追及はせず、代わりにほっこり気分を味わうに止める。


 が、そこで容赦しないのが世界一ウザいあの人クオリティー。


 ハジメ達が迷宮内に踏み込み、回転岩扉が閉まった瞬間、その扉の内側に光り輝く、それはもう燦然と、かつてないほど輝く文字が浮かび上がった。


――ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして。

――いいんだよ! チビっちゃうくらい! ダバーッといったウサギ娘もいるから大丈夫! あ、でも掃除はしていってね! マナーは大事だぞ? プギャーーーッ


 以前と、微妙に文章が変わっていた。というか、追加されていた。


 全員が「あ」と出そうになった声を呑み込んだ。咄嗟に察していないふりができたのは上出来だろう。とはいえ、恐ろしさすら感じる静寂の中、視線がススッと流れてしまうのは無理もないこと。そう、ダバーッといった子の方へ。


「……」


 シアさんが俯いていらっしゃる。表情が見えない。非常に不気味だ。ウサミミも、嵐の前の静けさのように微動だにしていない。


「だ、誰ですかねっ! 全然分からないですね!」


 愛子ちゃん、必死のフォロー。むしろ致命傷。いつもの空回りに、昭子が「あんた黙りなっ」と娘の頭をペシッとする。


「ミュ、ミュウのことかも! なの! パパと出会う前は、よく夜にダバーッしてたから!」

「あらあら、ママはミュウが誇らしいわ。でも、今はちょっとお口をキュッとしときましょうね?」


 ミュウ、自己犠牲の精神で必死のフォロー。むしろ居たたまれない。レミアは素早くミュウを回収した。胸元に埋めて強制お口チャックだ。


「シ、シアちゃん? あのね、お義母さん達は別に――」

「待たれよ」


 シアの鉄壁だったはずの口調が壊れた。気遣う菫に手を突き出し制止すると、ぬるりと動き出す。流れる水のような自然さでヴィレドリュッケンを装備。


 次の瞬間、


「ミィレェディイイイイイイイイイイイイイッ、生き返ってこいやぁああああっ!! ぶっ潰してやるからよぉおおおおおおおっ!!!」


 淡青白色の魔力が噴き上がる! それは身体強化レベルX発動の証! モッと逆立つウサ毛と血走った目のまま、キャラ崩壊したシアの一撃が回転岩扉にヒット! 轟音と同時に入り口付近が丸ごと爆砕された。


 外にあったカモフラージュ用の巨大な岩まで吹き飛び、向かい側の岸壁に着弾。ライセン大峡谷の一部が崩落していく! そのまま、轟音に引き寄せられて襲いかかってきたライセンの魔物達に八つ当たりの応戦を開始。


 天変地異の如き激震と惨状に菫達が「きゃぁあああっ」と悲鳴を上げつつ、「シアちゃん落ち着いてぇえええっ」と叫ぶ中、ハジメが引き攣った表情を見せた。


「最終決戦前、シアはここに来たはずだが……今の様子を見るに、あれ、初見だな」

「……ん。つまりミレディは、シアが帰った後、出陣するまでの間に、わざわざあれを追加していったと」


 そういうことなのだろう。決戦前にライセン大迷宮から帰ってきたシアの様子を思い出すと、ミレディといろいろあったというのは明らかだ。その腹いせに違いない。


 流石、世界ウザレディ選手権があれば永劫優勝者間違いなしの強者つわものだ。自分亡き後も、後世にウザさを残すとは……。今も、実はどこからか見ていて腹を抱えて笑っているような気さえする。


 絶えず迸る衝撃音と、シアの「ですぅ」を忘れた罵詈雑言を見かねて、取り敢えずティオが出陣。


「シ、シアよ。気持ちは分かるでの。そろそろ落ち着いて――」

「シャオラッ」

「ありがとうございますっ」


 ティオはお空の彼方へ消えていった。香織がオロオロしながらハジメの服の袖を引く。


「ハ、ハジメくんっ、どうしよう! あんなキレッキレのシア初めて見たよ!」

「前の時もかなりキレッキレだったけどな」

「ハジメ! あんたなんとかしなさい! 恋人の役目でしょうが!」

「大丈夫だって、母さん。放っておいても、レベルXなら言っている間に魔力が枯渇してぶっ倒れるから、取り敢えず思いっきり発散させてやろうぜ」


 そう言うハジメの言う通り、数分後には静かになった。ミンチとなった魔物達の屍山血河の上で、シアちゃんはぐったりと膝を抱えている。耳を澄ませると、微かにシクシクと悲しげな泣き声が聞こえてくる。


 その様子を見て、シアがいろいろ発散している間にご機嫌回復作戦を練ったハジメ達は、顔を見合わせしっかりと頷き合った。


 ハジメがミュウに視線を向ければ、如何にも「ミュウに任せときな! なの」みたいな男前な表情を見せて、シアのもとへ歩いていく。


 魔物の屍山の麓で両手をメガホンのように口元に添えて、声を張り上げる。


「シアおねぇ~~ちゃぁ~~ん。いきなりどうしたの~~? なんで泣いてるの~~?」

「ひっく、ぐすっ、知られちゃいました……ティオさん達ならともかく……義母さまや義父さまにまで……ふぇっ……香織さん達のご家族にも……」

「何を知られたの?」


 きょとんとしたミュウの質問に、シアは思わず「え?」となった。くりくりとお目々で不思議そうに自分を見つめるミュウに、シアは戸惑いの表情を見せる。


「な、何をって……それはもちろん、ほら、入り口のところに書いてあったことを」

「入り口? 書いてあった? 何が書いてあったの?」

「え? ええ? あれぇ?」


 不思議な状況にすっかり涙も引っ込んで、首を傾げるシア。合わせて、ミュウも首を傾げる。本当に、何も分かっていないような雰囲気だ。


 どういうことかと、シアはようやくハジメ達の方を見た。やっぱり不思議そうな表情をしている香織達。いつの間にか戻ってきているティオも、何事もなかったように小首を傾げている。


 そして、ハジメとユエがこっそりとサムズアップしていた。


「あ、も、もしかしてユエさんの魔法で記憶を……」


 その可能性に思い当たり、ありがたいやら申し訳ないやら。ようやく正気に戻ったシアは、おずおずと屍山を下山した。


「えっと、ミュウちゃん。本当に覚えてないです?」

「みゅ?」


 ジッとミュウを見つめるシア。きょとんと見返すミュウ。じ~~~。きょと~~~~ん。


「……シアお姉ちゃん?」

「ごめんなさい、ミュウちゃん。なんでもないです」


 ニコッと笑って、シアはハジメ達の方へ歩き出した。途端、ミュウが胸を押さえて「ふひぃ~っ」と緊張の息を吐き――


 バッと振り返るシア。実にキレのある〝だるまさんが転んだ〟だ。


 だが、ミュウとて伊達に魔王の娘ではない! シアが振り返った時には既に、ニコッと笑顔を返して歩き出していた。シアは「ふむ」と頷いて再び歩き出す――


 バッ。


 ニコッ


 ……ふむ。


 ふぃ~


 ババッ!!


 ニコニコッ!!


 ……ふ~む。


 みゅ~~、パパぁっ。


「お前等、なに遊んでんだ?」

「あ、すみません、ハジメさん」


 ハジメに答えるシアの後ろで、ミュウが胸を押さえている。大迷宮に入る前にドキドキと心臓がうるさいらしい。まったくちっともワクワクはない様子。レミアママから小さなサムズアップが届く。ミュウはやり遂げた戦士のような表情でサムズアップを返した。


「え~と、皆さん、入り口で何か見たりはしてないです?」


 シアが笑顔で尋ねた。笑顔なのに、細く開けられた目の奥の瞳には、真偽を確かめるベテラン刑事のような鋭さがある。愛子と昭子がビクッとした。雫がつい視線を逸らし、霧乃に叱責の眼差しを向けられる。


 シアの目がスッと細まった。


「シアちゃん、さっきからどうしたのよ」

「体調でも悪いのかい? 今日の観光は中止にしようか?」

「あ、いえいえそんな! 義母さま義父さま、すみません。なんというか、いろんな意味で本当にごめんなさいです」


 なんとなく、シアは察したらしい。つまり、実際に記憶を改ざんしたのではなく、そういうことにしておこうということになったのだろうと。流石に、身内の記憶改ざんはやりたくないことだが、シアへの気遣いから優しい嘘を貫こうということになったのだ。


 羞恥心でちょっぴり頬が赤くなるシアだったが、ミュウにまで気を使わせたのだ。その嘘に便乗して、今度は正気を保った。


 シアのそんな様子に、親~ズ達は温かい眼差しを向ける。ユエ達もシアを慰めるように寄り添った。


 もう大丈夫だと、一行はようやくライセン大迷宮の中に進んでいき、だまし絵のように階段が入り組んだ場所で、過去再生が行われた。


 が、そこでハジメと香織が痛恨のミス。


「そういえば、遠藤の奴、ここ一人で攻略したんだよなぁ」

「あ、確かにね。ちょっと見てみようか? 決戦の後、少し経ってからだったよね」


 香織が時間を調整して〝過去再生〟。


 しばらくすると、黒装束の完全武装した男――浩介の姿が映し出された。


 決戦の後、隠形した状態でさえ自分を認識してくれたハウリアのお姉さん――ラナインフェ……ラナに惚れ込み告白。しかし、交際を考える条件として、大迷宮の攻略とハジメに傷を一つ付けるという鬼畜なことを言い渡され、それを実行しに来たのである。


 ある意味、無謀とも言える挑戦に、浩介もさぞかし緊張しているだろうとハジメ達が見守る中、しかし、浩介の様子が何やらおかしい。ブツブツと独り言を呟いている。


 何を言っているのか、耳を澄ませてみると……


――ダバーッしちゃったウサギ娘って……兎人族は本来気弱な種族だし……他にいないと思うし……え、つまり、そういうことだよな。シアさん、あそこで――


「エンドウコウスケヲ、コロスッ!!」

「落ち着けシアぁっ」


 再び正気を失ったシアちゃん。ドリュッケンを肩に担いで踵を返そうとしたので、慌ててハジメが羽交い締めにする。が、シアの膂力の前にズルズルと引きずられていく!


 ユエ達も揃ってわぁ~~っとシアに飛びつき制止しようとするが揃って引きずられていく。しまいには親達まで参加して一本の人間ロープみたいになるが、浩介への口封じに心を滾らせるバグウサギは止められない!


「エンドォオオオオオオッ、コウスケェエエエエエッ」

「落ち着けぇええええっ、マジでバーサーカーみたいになってっからぁああああっ」


 その後、浩介の記憶を飛ばす約束をすることで正気に戻ったシア。


 実際に、その処置がされたのかどうかは……


 クラスメイトが、ライセン大迷宮攻略の時のことを浩介に尋ねた時、最初の方で決まって「ライセン……入り口……うっ、頭がっ」となることから推して知るべし。


 いずれにしろ、ライセン大迷宮は主のいるいないにかかわらず、シアの正気度を削らずにはいられない場所らしい。まさに鬼門というべきか。


 とはいえ、今回はちょっとした目的もある。なので、ライセン大迷宮の観光は続行だ。


 ハジメ達は〝過去再生〟をしながら奥へと進んでいった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


※ネタ紹介

・玉ねぎシア 日常から逆輸入です。

・ミュウの格言 ビル・ゲイツ氏のお言葉らしいです。

・シルバ○ア これまた日常より逆輸入w


※恐縮ですが宣伝です。『ありふれた職業で世界最強・零3巻』 3月25日 発売予定です。早いところだと、もう出ているようです。

挿絵(By みてみん)

駄メイルお姉さんをたくさん見られます。あと、組織・解放者の全容とか、原作9巻で攻略中である氷雪洞窟の創設者ヴァンちゃんとか、魔王とか出ます。

是非お手に取っていただければと!

オーバーラップ様のHPにも発表されていますので、よろしければチェックしてみてください。


よろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
あ、あの時にそんな余裕があったんか!? ミレディ・ライセン………恐ろしい子………!
[気になる点] 登場人物だいたい性格悪い点
[良い点] まあ、女の子的に、ミレディ許さじですよね…エンドウくんはとばっちりだけど…という点。ちょっとシア好きにとってもトラウマかな……。できれば、ここはなるべくスルーして欲しかったわ、という点。
感想一覧
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