「弁護士は職人。常に技術を磨いて、ひとりでも多くの人を助けたい」
専業主婦から弁護士を目指す
ーー弁護士を目指したきっかけを教えてください。
大学卒業後はすぐに結婚して、専業主婦をしていました。市民活動をする団体に入って、消費者運動や女性の権利について話し合う活動を通して社会とはつながっていたのですが、途中でやめてしまったんですね。その後、しばらくは主婦として家庭を守っていたのですが、次第に、社会と切り離されたように感じて寂しくなってきたんです。
どこかに勤めようかとも考えましたが、なかなか就職先が見つからず、「何かの資格を取って仕事がしたい」と考えるようになりました。
そのときふと思いついたのが、司法試験でした。難しい試験だと知ってはいましたが、「頑張ったら私も合格できるんじゃないか」「挑戦してみたい」と思ったんです。
ただ、司法試験の勉強を始めてすぐに夫の転勤が決まって周囲がバタバタしてしまい、いったん受験勉強は休止することにしました。そのまましばらく受験勉強から遠ざかっていたのですが、再度挑戦することを決意し、今に至ります。
ーー注力している分野を教えてください。
特に注力しているのは、区分所有法に関する分野です。一般の方はあまり聞き慣れない法律かもしれませんが、区分所有法に関するトラブルは実は頻繁に起こっています。
たとえば、マンションの住民の管理費未納問題や、住民同士のご近所トラブル、住民とマンション内の店舗との間で起こるトラブルなどです。
その他、離婚に関する相談も多く受けています。民族差別に関する案件も多いですね。ヘイトスピーチやヘイトクライムに関する案件は、頻繁に依頼が来ます。
ーー民族差別に関する問題に関わることが多いのですね。何かきっかけがあったのでしょうか。
私には、在日韓国人の友人がいました。彼はいつも妻に、「自分の居場所はどこにもない」と話していたそうです。でも、洗礼を受けてクリスチャンになったことで、「やっと自分の居場所ができた。天国に自分の戸籍ができた」と、とても喜んでいたと聞きました。
彼が亡くなった後、奥さんから初めてその話を聞いたときの衝撃は忘れられません。友人はずっと日本で居場所を見つけられず、辛い思いをしてきたのだと。悲しかったですね。
友人が受けてきた民族差別の苦しみをなくすために、私にも何かできることがあるのでは、と考えるようになりました。それ以来、民族差別の案件に取り組むようになりました。
ーー仕事をするうえで、心掛けていることは何でしょうか。
とにかく、依頼者の話をよく聞くことです。弁護士の仕事を始めたころから、一貫して心掛けています。
じっくり話を聞くだけでなく、依頼者の表情や身振り手振りまで、しっかり見るようにしています。依頼者の本心は、言葉だけではなく、体全体に自然に表れるものだと思うからです。
「言葉ではこう言っているけれど、本当はこう思っているんじゃないか」、「別の方向からボールを投げてみたら、本音を引き出せるんじゃないか」。依頼者を丸ごと見ながら、常にそんなことを考えています。
私は、弁護士は「職人」と同じだと思っているんです。だから、知見や話術など、弁護士としての腕を常に磨いていくことが大切だと考えています。その結果、弁護士が助けられる人がもっと増えていくはずですから。
ーープライベートについてお聞きします。休日はどのように過ごしていますか。
最近はお能を観ることに夢中で、時間を忘れて舞台に見入っています。時々、茶道もたしなんでいます。
以前は読書が好きだったのですが、本を読んでいると、いつの間にか仕事のことを考えてしまうんですよ。でも不思議と、お能やお茶に集中している間はうまく仕事から意識を切り離せるんです。
休みの日に仕事のことを考えてしまうとリラックスできないので、できるだけ仕事から離れるようにしています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
今後は、行政案件にも力を入れていきたいと考えています。以前所属していた事務所では扱う案件の3分の1が行政案件だったので、当時の経験を活かしたいという思いがあります。
伝統工芸分野の経営に関する案件にも、ぜひ取り組んでみたいですね。伝統工芸は斜陽産業のように思われがちですが、やり方によって新しい芽も出てくるんじゃないかと、個人的には考えているんです。信念を持って取り組まれている経営者の方を、弁護士として支援できればと思っています。
「一人で悩んで抱え込まないでほしい」
ーートラブルを抱えて悩んでいる方に、メッセージをお願いします。
とにかく、「一人で抱え込まないでね」と言いたいです。周りの人を信頼して、力を借りて解決していきましょう。相談する相手は、弁護士じゃなくても、誰でもいいんです。
個人的な問題に思えることでも、俯瞰して見れば社会全体の問題につながっていることは、たくさんあります。たとえば、女性に対するDV問題は、家庭や恋人同士といった小さいカテゴリでの問題だと思われがちですが、社会的な目で見れば、女性差別の問題にもつながっていきます。
自分ひとりでは何もできなくても、同じ悩みや問題意識を持つ人たちと協力することで、解決できるかもしれません。あなたの行動が、同じように悩んでいる人たちを救うことにもつながっていきます。
とにかく一人で抱え込まないで、周りに相談してください。そうすれば、精神的なしんどさはかなり軽減できると思いますから。
もうひとつ、皆さんにお伝えしたいことがあります。法律事務所や裁判所に対して「敷居が高い」と思っている方は多いと思います。でも、弁護士も裁判官も、皆さんと同じ人間。あなたが抱えているトラブルを解決したいと考えている人たちです。
こんなエピソードがあります。ある日曜日に、私が裁判所のあたりを着物で歩いていたら、偶然すれ違った裁判官に、「上瀧先生、裁判の時も着物を着てきてくださいよ」と声をかけられたんです。私はそれまで、裁判に弁護士が着物で現れるのはNGだと思っていたので、そう言われてびっくりしました。
裁判所って、皆さんが思っているより、結構自由な場所なんですよ。ですから、法律事務所や裁判所を敬遠せず、もっと親しみをもってもらえたら嬉しいですね。