『世界はシステムで動く』徹底まとめ〖約3万字〗
ドネラ・メドウズさんって、どんな人?
「世界がもし100人の村だったら」というエッセイを思い出す方も多いかもしれない。この作品は、「めちゃくちゃ複雑なことを、なんだかスッキリ頭に入ってくる形にして教えてくれる」そんなドネラさんの才能が爆発したもの。彼女は「システム・ダイナミクス」を専門に研究していた学者さんなんですって。
「システム」ってなんだ? マングースとハブの悲喜劇
「システム」なんて言われてもピンとこない……そんな人のために、奄美大島でのマングース vs. ハブの例が出てくるわけです。ハブを退治しようとしてマングースを導入したら、マングースがハブを狙わず弱い動物を襲って、絶滅危機が別の生き物に及んじゃったというあの事件。
つまり、“ある問題の一部分だけ”を解決しようとすると、別のとこで余計に問題が大きくなってしまう。世の中は複雑に連鎖し合う「システム」で構成されているから、一部分だけ切り離して考えると危ないよ~、ということ。
システム思考がなぜ大事?
自然も社会も、私たちの家庭や会社も、あらゆるものはつながりあっている。だからこそ、「システム全体を見渡す目」が必要だよ、と。氷山に例えるなら、水面に出ている「出来事」はほんの一角で、その下にある「構造」や「メンタルモデル(思い込みとか前提)」に注目すると、問題解決の糸口が見つかるという。
日本社会だって、もう『これまでどおり』じゃ通用しない時代
温暖化、エネルギー問題、人口減少、高齢化、貧困、社会保障制度の行き詰まり、政府への不信……。まるで際限なく出てくるニュースの山に圧倒される毎日。でも、それをただ「わー大変だ、大変だ」と騒ぐだけじゃなくって、もう少し踏み込んで「この出来事の根っこにはどんな構造があるのか?」と考えてみるのが、システム思考の威力。
目の前の出来事をシステムとしてとらえれば、生きるのがちょっとラクになる
出来事を俯瞰できれば、いちいち右往左往しなくても済む。「あれ? この問題って、システム的に見たら実はこういうとこが原因だったのか!」とわかるようになると、対策を打ちやすい。自分や会社、家族、組織がはまりがちな落とし穴を事前に回避できるってわけだ。
ドネラさんの「システム思考」入門は、コンピュータを使わなくても役立つ
もともと彼女はコンピュータ・モデルでの解析を得意としていたけれど、「そこまで専門的でなくても、システム思考がわかれば日常生活でも組織運営でも超便利になるよ」と教えてくれている。
ジャーナリストに転身した理由
ドネラさんは研究者から突然「もう研究者やめます!」と宣言して、ジャーナリストに。世界観がガラリと変わったのは、「情報をつなぐ」ことが大事だと気づいたから。よりよいシステムを作るには、人々にわかりやすく情報を伝えることが有効な手段だと確信したんですね。
訳者(枝廣淳子さん)の個人的なつながり
ここで枝廣さんが「ドネラ・メドウズ・フェローシップ」っていう国際的ネットワークに参加してきた話が登場。「私は直接ドネラさんと会ったことはないけれど、彼女の思いはしっかり受け取っています」という気持ちがしみじみ伝わる。亡くなって10年以上たっても、仲間たちが口々にドネラさんのすごさを語り継いでいるってところも、彼女の人柄を物語ってますね。
この訳書が生まれた背景
英治出版の山下智也さんや、イーズの翻訳者育成コースの受講生など多くの人の協力のおかげで、日本語でドネラさんの語り口が味わえる本が完成した、という感謝の言葉が込められている。
30年の知恵が詰まった「システム思考」の核心
30年分の知恵の結晶
ドネラさんだけでなく、MITの「システム・ダイナミクス」グループの仲間たちが何十人も、何十年も研究してきた知見が、この本にはビシッと詰まっている。
システム思考は文化も分野も超える
コンピュータでシミュレーションなんてしないけど、根っからのシステム思考家である思想家たちがたくさんいる。アインシュタイン、ハヴェル、シューマッハ……挙げればきりがない。要するに、システム思考は一つの学問領域を超えて、いろんな分野で「世界をどうとらえるか」を変えてきた。
人間なので、システム思考にも学派がある
包括的な概念を使うといっても、人間はみんなそれぞれパーソナリティを持っているから、いろんな流派があるのは当然。本書はあくまで「システム・ダイナミクス」の枠組みや表現を基本にしているってこと。
本書はシステム理論の中核のみを扱う、実践的なもの
最新の理論や高度な数学の話はここでは扱わない。なぜなら、ドネラさん自身が「それが現実の問題解決にどう役立つのか?」を一番大切にしているから。抽象的な理論はまた別の本の出番というスタンス。
それでも不完全かもしれないけど、まずは興味を持って!
著者は「この本でシステム思考がすべてわかるわけじゃない、だからこそ、自分で学び続けてほしい」と願っている。だけど、「本書で始まって本書で終わるシステム思考トレーニング」にも、しっかり基礎が身につくように書いたよ、と力強く宣言している。
未出版だった草稿が、今もなお輝いているわけ
1993年に書かれた草稿、ドネラは出版を待たずに亡くなった
なんと、ドネラさんはこの原稿を完成させたのちに突然この世を去ってしまった。しばらく仲間内だけで回覧されていた原稿を、「これは多くの読者に届けるべきだ」と決心して世に出す運びになった。
『成長の限界』とドネラの警告
1972年に出版され、世界的に話題になった『成長の限界』は、資源が有限なのに人口や消費が増え続けるとやばいよ、と早くも警鐘を鳴らしていた。今では気候変動が日々ニュースになり、まさにその通りになりつつある。ドネラの先見の明が再評価されている、というわけですね。
システム思考が世界中の難題に対峙するときの必須ツール
政治、環境、経済、社会問題……あらゆるものが絡み合い、同じ構造パターンをたどる。じゃあ、どうすれば問題が根本的に解決できるのか? 「システムの仕組みを理解する」しかない。それがドネラのメッセージだった。
編集者たちが抱いた疑問:「今さら本を出して役に立つのか?」
でも結論は「すごく役に立つ!」。会社員でも経営者でも、政策立案者でも、地域をまとめる立場でも、家族の問題に悩む人でも……システムがどう動くかを知ることで、より良い変化をつくるアイデアが見つかるはず。たとえ一度うまくいかなかった経験があっても、「システム思考」なら新しい切り口が得られる、と。
1993年当時の例でも、今と変わらぬ学びがある
ソ連崩壊やイラクによるクウェート侵攻、NAFTA締結、ネルソン・マンデラの解放……当時も世界は激動の真っ只中。そこに渦巻く複雑なシステムの様子は、今の私たちにとっても教訓だらけ。そのため、あえて昔の事例も残してある。
「今日の出来事は趨勢の一部」だという見方をしよう
毎日目の前で起こる出来事が、実はもっと大きな流れ(システム構造)の氷山の一角かもしれない。そう意識してみると、少し違う現実が見えてくる。
ドネラが残した「シンプルな本」が、複雑な世界で生きるための指針
これは「複雑な世界についての、複雑な世界のための、シンプルな本」。より良い未来を創り出したい人たちのためにある、と編集者は強く訴えている。
システム思考の扉を開く、ドネラ・メドウズの力強い招待状
キーワードは、「システム思考」。ただ「ハブ対策にマングースを放とう!」みたいに一部分に飛びつくだけじゃなく、「そもそもなぜハブによる被害が起こっているのか?」をもっと大きく見る視点こそ大事、ということを繰り返し教えてくれます。
ドネラ・メドウズさんは、先を見通す洞察力、研究者としての厳密さ、それをやさしく伝える表現力、そしてなにより「システムをより良くしたい」という熱い思いを持った人。彼女が残した本書(の草稿)は、書かれた当時から時間は流れたけれど、いまも私たちの手元に来てくれた。その意味は大きい。
人生でも組織運営でも、社会を変革するときでも、私たちは否応なく「複雑なシステム」のなかで生きている。このシステムに手を焼き、「なんでこんなにややこしいの!」と叫びたくなることも山ほどある。だけど、「システムとはそもそもそういうもの。だから、こうやってとらえてみればいいのよ」と肩をトントンと叩いて、ヒントをくれるのがドネラさんの文章です。
新しい問題が次々に起こる不安定な時代だからこそ、一歩深く構造を理解してみよう。やってみたら意外と、「おお、こんなアプローチがあったのか!」という気づきがやってくるかもしれない。ドネラ・メドウズさんが用意してくれた「システム思考」への招待状、ぜひこの本で体験してみてください。きっと、あなたの見ている世界がふわっと奥行きを持ちはじめるはずです。
はじめに システムを見るレンズ
「ごちゃごちゃした状況」にどう立ち向かう?
まず最初に引用されているのは、ラッセル・エイコフさんというオペレーションズ・リサーチ理論家の言葉。
マネージャーたちは問題解決をしているのではなく、「ごちゃごちゃした状況」に何とか対応しようとしているのだ。
ここがとっても大事な視点なんですね。どういうことかというと、現場で起こる問題って、実は全部ひとつひとつがバラバラじゃなくて、複雑に絡み合った“ごちゃごちゃ”のかたまりみたいなもの。何かをいじれば、ほかがズレる。あっちを直せば、こっちが壊れる。そんな「連鎖と影響のかたまり」が世の中にはあちこちに転がっている、ということです。
スリンキーが教えてくれる「システムの本質」
次に出てくるのが、あのピヨーンピヨーンって動く「スリンキー」。手のひらにスリンキーを載せて、もう片方の手で上のコイルを持ってピッと引く。それから、下の手をパッと外すと、スリンキーはぴょんぴょん動く。でも、箱だと同じことをしても何も起こらない。
ここでのポイントは、「スリンキーの動きはスリンキーに内在するもの」ということ。
「手を離したから動くんじゃない。動きの秘密は、スリンキーそのものの構造にある」
システムも同じです。外部からの力――大統領の政策だとか、ライバル企業の動向だとか――を受け取ってはいますが、本当にそのシステムがどんな動きをするかは、“そのシステム自身がもともと持っている仕組み”に大きく左右されるのです。要は「スリンキー体質」の問題、というわけですね。
「大統領のせい」とか「他社のせい」とか、システム思考が嫌う“犯人探し”
ここでドネラ・メドウズさんは、世の中で起こる良くないことを、何かひとつの外部要因だけのせいにするのは間違いだと強調しています。
不況が起こるのは政治リーダーのせいなのか? → いやいや、景気の波は市場経済というシステム構造そのものに内在するものでしょ。
ライバル会社の登場で自社のシェアが落ちたのか? → 実は自分の会社の方針のほうにも原因があるかも。
石油価格が高騰したのは産油国が悪いのか? → それだけじゃなく、輸入国の消費や投資、経済の構造も大いに影響している。
インフルエンザウィルスに攻撃された? → 体内環境がウィルスを増殖しやすくしていないか。
薬物依存は中毒者本人の落ち度か? → 中毒を生み出してしまう社会システム全体の問題であり、個人だけではどうにもならない部分が大きい。
システム思考では、「問題の原因を外にだけ探すのではなく、システム内部の構造や働き方にも目を向けよう」という姿勢を貫きます。
理論と直観、両方が必要な世界
ドネラさんはこう言います。私たちは理詰めの分析をするように教育されてきた。だからこそ「悪いのは○○だ!」と外に矢印を向けがち。でも私たちは生まれ落ちた瞬間からすでに、身体という超複雑なシステムを直感的に運用している。隣の家族や自然や動物とも、言葉以前のレベルでけっこううまくやりとりしている。つまり私たちは「システム上手」な生き物でもあるんですね。
この「直観的なシステム上手さ」と「論理的な分析力」の両方を、バランスよく活かすところにシステム思考の醍醐味があるわけです。
古くて新しい知恵:「今日の一針、明日の十針」
フィードバックの遅れ、競争の排他原則、多様性の必要性……これって昔から“ことわざ”や“聖書の言葉”とかで言われていたことでもあります。
「今日の一針、明日の十針」: 早めに手を打てば傷が深くならずに済む、という意味。つまり、問題を先送りすると後々もっと大きくなるよ、というシステム的発想。
「富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しくなる」:競争の構造では、勝つ人がどんどん強くなるフィードバック・ループが働く。
「すべての卵をひとつのカゴに入れるな」:システムを安定させるには多様性が大事。ひとつに頼りきりだと脆いですよ、という教え。
こうやって見ると、システム思考って別に近代になって急に出てきたわけじゃなくて、昔の人々も言い回しやたとえを通じて、ずっと伝えてきた知恵だったんだなとわかります。
外部の技術で解決しても、問題がしぶとく残り続ける理由
科学の発展や技術革新で、天然痘を撲滅したり、食糧増産を実現したり、人の移動をめちゃくちゃ便利にしたりしてきた。すごい進歩ですよね。でも、いまだに飢餓や貧困、環境破壊、経済不安、戦争といった問題がなくならないのはなぜか。
答えは、「それらはシステムの構造に根ざすごちゃごちゃ問題だから」。
外からポーンと技術を投入しても、システムの仕組みごと変えないと、問題はいったん表面が落ち着いてもまた別の形でぶり返す。ここが「マングースとハブ事件」に通じる話でもあるわけです。
「責任転嫁をやめて、自分たちの直観を取り戻そう!」
問題を全部「大統領が悪い!」「あの会社のせい!」と外に向けても埒が明かない。むしろ私たち自身やシステム内部が、一体どうやってその問題を生み出しているのかを見つめてこそ、解決の糸口が見えてくる。
それって自分の問題にも返ってきますよね。何かうまくいかないとき、全部他人や環境のせいにするのではなく、「あれ、もしかして私の側の仕組みに原因が……?」と思ってみると、意外と突破口が見つかるかもしれない。これは強力だけど、ちょっと勇気いるんですよね。
図を使ってシステムを解体してみる
ドネラさんは、このあと順を追って「システムとは何か」を図や時系列グラフで示します。なぜ図なのか?
言葉だけで順番に話をすると、つい原因から結果へ一直線に考えがち。
でもシステムは同時多発、ループ構造も複数重なっている。
だからこそ、図のほうがパッと全体を見渡せる。
そしてシンプルな要素分析(還元主義的だけど必要な手順)を行ったのちに、要素が組み合わさってフィードバック・ループを形成する様子を示す。さらに、「システムの動物園」と称して、いろいろな種類のシステムの典型例(原型)を学んでいく。
たとえば、「共有地の悲劇」とか「ずり落ちる目標」とか「システムの抵抗」「中毒」――これらは実社会のあちこちで見られる現象です。「あー、あるある!」と思い当たる節があるはず。
「落とし穴」だけじゃなく、「チャンス」も隠されている
システムの原型は、そのままいじれば確かに落とし穴となる。でも「ほんの少しの理解や、ちょっとした構造の変更」で、改善やチャンスに変えられる場合もある。そこを掘り下げていくのが、システム思考の面白いところ。「ごちゃごちゃした状況」があるからこそ、それを再設計する楽しみもある。
レバレッジ・ポイント:最小の力で大きな変化を起こす“ツボ”
本書では「レバレッジ・ポイント」(テコ入れポイント)を見つける方法も学んでいくそうです。システムを全体としてどこに手を加えたら、効果がいちばん大きいか? これがわかると、一生懸命働いているのに全然変化しない……なんて無力感から解放されるはず。
システム思考の“いちばん大きな教訓”
最後に本の締めくくりとして、システム思考を実践してきた人たちが共有している「知恵のまとめ」が紹介される予定。そこにはおそらく、
「何があってもあきらめない姿勢」
「全体を見渡すダイナミックな視点」
「問題の原因を一部に押し付けず、システム全体の構造を捉える」
「自分もそのシステムの一部だという自覚」
などが入ってくることでしょう。
「違うレンズを覗くということ」
大学の教授がドネラさんたちのセミナーを見て、「あなたたちは違う種類の質問をしてるね」と驚いた話が登場します。
これは言い換えれば、「肉眼で見る」「顕微鏡で見る」「望遠鏡で見る」のそれぞれで見える世界が変わるように、「システム理論のレンズ」を通して世界を覗けば、まだ見えていなかったものが浮かび上がる、ということなんですよね。
いまこの瞬間、世の中はすっかり複雑に絡まり合い、めまぐるしく変化している。だからこそ、複数のレンズを持つのが賢い。システム思考のレンズは、そのうちのひとつ。
目の見えない男たちと象:部分だけ見てもダメよ
最後に出てくるスーフィー教の寓話「目の見えない男たちと象」。
耳を触った人は「これは平たい絨毯だ!」
鼻を触った人は「これはゴツいパイプだ!」
足を触った人は「これは固い柱だ!」
どれも間違いじゃないけど、象という全体像にはほど遠い。それと同じで、システムの一部だけを見たら、すぐに「正解だ!」と飛びついてしまうと、かえって真実から遠ざかってしまう。
システムの挙動を本当に理解するには、要素を全部合わせた「全体像」が必要。ここに、システム思考の真髄があるわけですね。
スリンキーを手に、システムという“象”を一緒に探検しよう
ごちゃごちゃした状況: 世の中の問題はみんなつながっている。
スリンキー: システムの動きは、システム自体が持っている構造から生まれる。
犯人探しをやめる: 「あいつが悪い」「こいつが悪い」で済む話じゃない。
昔からある知恵との一致: ことわざや聖書が示すとおり、システム思考はけっこう根が深い。
図を使う理由: システムは同時並行&複雑だから、見える化が命。
レバレッジ・ポイント: 「テコの支点」を探すことで、少ない力で大きく動かす。
象の寓話: 部分だけ見て「これがすべてだ!」と思い込むと、見誤る。
今読むだけでも、なるほどと思えるテーマばっかり。そしてこのあと、どんな図や例が出てくるのかワクワクしませんか? だってスリンキーが舞台に登場しただけで相当インパクト大ですよ。わたしたちは「象の一部」を手探りして「これぞ真実だ!」と叫んでないか、自分自身の考え方をあらためて見つめ直したくなりますよね。
この後の章を読んでいけば、「ごちゃごちゃ」な景色が、ちょっとずつ整理されて見えてくるかもしれません。ぜひ、あなたもスリンキーのピョーンピョーンと弾むイメージを頭に浮かべつつ、「システムが本来持っている動き」について、想像しながら読み進めてみてください。
第1章 基礎
たとえば路上の砂はシステムじゃないけれど、サッカーチームやあなたの消化器官、はたまた大学や街、国家の経済まで、全部システム。どう違うのかって? ポイントは「要素」と「つながり」と「目的」――この3つをキーワードにしながら読み解いていきましょう。
「システム」はただの寄せ集めとは違う
最初に出てくるのが、「システムというのは要素と相互のつながり、そして機能(目的)でできている」という話。砂を路上にばらまいたのは、ただのバラバラ集団なのでシステムとは言いがたい。でも、あなたの消化器官やサッカーチームは、歯や胃、選手やコーチなどの「要素」があって、それぞれがルールや化学信号などの「つながり」で結びついている。そして「勝利」「栄養を吸収する」といった「目的」がある。だからこそ「全体として動いている」ものになるんです。
要素の例
消化器システム:歯、胃、腸、酵素…
サッカーチーム:選手、コーチ、グラウンド、ボール…
つながりの例
消化器システム:食物の流れ、化学信号
サッカーチーム:試合のルール、戦略、選手同士のコミュニケーション
目的(機能)の例
消化器システム:栄養を取り込む
サッカーチーム:「勝つ」「楽しむ」「お金を稼ぐ」etc.
ここで「目的」というと、人間が「よし、世界征服!」なんて考えてるイメージが浮かぶかもしれない。でも「生きる」「増える」「自分を維持する」みたいな無意識の目的をもつシステムもあるわけです。
要素よりも重要かもしれない「つながり」と「目的」
「人間って、つい目に見える要素ばかりに意識が向かいがちじゃない?」――これは本書の指摘ポイントのひとつ。学校のシステムであれば、建物や学生、教授ばかり思い浮かべて「これが大学だ!」と思いがち。でも本質は、教授と学生のコミュニケーション、噂話が巡り巡る仕組み、試験や単位の評価基準のような“目には見えない関係性”で動いている、ということなんです。
さらに見えにくいのは、「目的」。たとえば「うちの政府は環境を大切にしています」と言っても、実際はほとんど予算を出していなかったら、それは本当の目的じゃない。行動を見ていると、システムが何を目指しているかが自然にわかってくる。口だけじゃダメ、と厳しく突きつけられるわけですね。
部分を変えても、ルールや目的次第でシステムはそのまま維持される
システムの面白いところは、メンバー(要素)がごそっと入れ替わっても案外そのまま存在し続けるケースが多いこと。
大学:毎年学生が卒業していくし、教授も定年や転職で入れ替わる。でも大学という存在は続いている。
フットボールチーム:選手がごっそり変わってもチームはチームであり続ける。
理由: 「要素」が変わっても、「つながり(ルール・組織の仕組み)」と「目的」が変わらない限り、システムとしては同じように機能し続けるから。
逆に言えば、つながりや目的を劇的に変えると、見た目が似ていても中身が全然別ものになる。たとえば、フットボールの選手は同じなのに、急にバスケットボールのルールでプレーしろと言われたら、もはやフットボールチームじゃないですよね。
バスタブの水でわかる「ストックとフロー」
「ストックとフロー」という概念は、システム思考の基礎中の基礎。著者は「バスタブ」を例にバッチリ説明してくれます。
ストック:バスタブにたまった水のように、「ある時点での蓄積量」。
フロー:インフロー(水がバスタブに入る)とアウトフロー(水がバスタブから出る)。
バスタブって、栓を抜いたとしても水は一気に消えないですよね。少しずつ減っていく。蛇口をひねっても、少しずつしか増えない。要するに「ストックを変化させるには時間がかかる」ということ。ここには「なんで世界がこう動くのか」の超重要なヒントが隠れているんです。
「フロー」に注目すれば、別の方法が見えてくる
人間は「インフローを増やす」ばかりに注目しがち、と本書では言われます。たとえば「もっと石油を見つければまだまだ使える!」みたいな発想。でも「アウトフローを減らす」という方向にも目を向ければ、同じようにストックを延命できるよね、ということなんです。
石油問題の例
新たな油田を探す(インフローを増やす)
石油消費量を減らす(アウトフローを減らす)
いずれも「石油ストックを長持ちさせる」という意味では同じ効果。でも、どちらを重視するかで得をする人や損をする人が異なるわけで……ここにいろいろな社会的葛藤が生まれるのです。
ストックが大きいと、変化には時間がかかる
この本では「ストックほど変化しにくいものはない」と強調しています。石油の埋蔵量とか、巨大な森の木質量とか、地下水の量とか、あるいはあなたの貯金残高。
「ちょっとやそっとのインフロー・アウトフロー調整では急にゼロにならないし、急に増やすのも難しい」。だからこそ、一気に解決ができない問題だらけなんだ、というわけですね。
バランス型フィードバック・ループ:システムを一定に保つ仕組み
フィードバック・ループのうち、一つめは「バランス型」(本書では B と表記)。
例:コーヒーが冷めていく。熱いコーヒーは周りの温度と差が大きいほど勢いよく冷める。最終的には室温(目標)に近づく。
例:クタクタになったからコーヒーを飲んで元気になろう→行き過ぎると今度は落ち着かなくなってコーヒー摂取量を減らそうとする。
こうして「何か一定の目標に合わせようとする働き」がバランス型フィードバック。体温調節からエアコンのサーモスタットまで、世の中にいっぱいあります。
自己強化型フィードバック・ループ:増幅する仕組み
もう一つのフィードバック・ループは「自己強化型」(本書では R と表記)。
例:銀行口座の利子。口座残高が増えるほど利子も増えて、雪だるま式にどんどんお金が増える。
例:人口。親が多ければ子どもが増え、またその子どもが親になる……。
例:商売で利益が増えれば投資が増えて、さらに利益が増える……(または逆の方向で悪循環になる)。
少しずつ加速する形で、幾何級数的に増えていくのが特徴です。良い側面と悪い側面、両方あり得るところが「システムあるある」。たとえば「成長」か「崩壊」かは、どう回るかによって全然違います。
フィードバック・ループが見えたら、あなたは「システム思考家」
最後に著者が面白い質問を投げかけてくれています。「いったい世の中に、フィードバックなしの意思決定ってあるの?」 恋に落ちること、自殺、みたいに一見フィードバックのループがないように見えても、実はどこかにあるんじゃないか――想像してみると、めちゃくちゃ脳がかき回されませんか?
「AがBを引き起こして、BがAをまた変える」――こんなふうに視点をくるっと回して見てみると、「犯人探し」じゃなくて「連鎖と循環」が浮かび上がってくる。そこにシステム思考の醍醐味があるんですね。
システムの基礎を知れば、世界は「ストックとフローとフィードバック」に見えてくる
システム=要素+つながり+目的
どれも欠けたら、ただの寄せ集めかもしれない。目には見えない情報や目的ほど影響が大きい
メンバーや見えるモノより、ルールや方針が変わると組織全体がガラリと変わる。ストックは時間を伴う蓄積
バスタブの水のように、すぐに増やせないし減らせない。フィードバック・ループには「バランス型」と「自己強化型」がある
バランス型:ある目標に向かって安定を保つ(コーヒーが冷める、体温調節など)
自己強化型:雪だるま式に加速する(銀行利子、人口増加、どんどん悪化する問題など)
この2つのループが複雑に組み合わさって、どこに手を入れても一筋縄ではいかないのが、私たちの世界。その一方で、「なるほど、ストックが時間をかけて増減するからこうなるのか……!」と気づくと、今まで謎だった現象もけっこう説明できたりします。
あなたの銀行口座残高や、部屋にある在庫、部活のメンバー数が「なんでこう動くのか」に思いを馳せるとき、この「システム思考」の入り口を思い出してみてください。バスタブに水をためるイメージで、蛇口(インフロー)と排水(アウトフロー)を観察すれば、少し違う解決策も見えてくるかもしれません。ちょっとした発想の転換で、「複雑な問題」に対するアプローチがスッキリすること、あるかもしれないですよ。
第2章〝システムの動物園〟にちょっと行ってみる
著者が「動物園」になぞらえているのは、「システム」をわかりやすくまとめて見せるためです。とはいえ、動物園の動物たちが本当は自然界で他の動物や植物と複雑につながっているように、システムも本当はあちこちと絡み合っています。でも今回は、それぞれを単体で観察してみようというわけです。
ストックがひとつ:サーモスタットとバケツの穴
最初の「システム動物園」は、ストックがひとつでバランス型ループが2つの仕組み。具体例が「サーモスタット」です。
暖房ループ(部屋を暖めようとする)
冷却ループ(外気温に近づけようとする)
この2つのループが同じ「室温」というストックを取り合いっこしている状態。部屋を暖めれば暖めるほど、外への熱の漏れ(冷却ループ)も激しくなるという“競合”状態なんですね。
ポイント
フィードバックは未来にしか影響できない
部屋が寒いからヒーターをガンガンつけても、今すぐ瞬時に快適温度にはならない。ちょっと時間がかかります。漏れ続けるところもちゃんと計算しないと、目標水準に届かない
たとえば、室温を18℃にしたいなら、サーモスタットは実際には少し高めに設定して初めて、18℃に近い体感温度を維持できる。バケツに穴があいているイメージと同じ。
この「綱引きするバランス型フィードバック・ループ」は、企業の在庫でも、借金返済でも、似たような構造としてよく登場します。
自己強化型ループとバランス型ループが共存:人口と経済
次の「システム動物園」は、ストックがひとつで、自己強化(増大)とバランス(減少)が拮抗しているケース。
例:人口
自己強化:「子どもが生まれる→親が増える→子どもがさらに増える」という増殖のループ
バランス:「年を取って死ぬ人がいる」
例:工業経済(資本ストック)
自己強化:投資して設備が増えるほど、生産量も増え、利益も増え、さらに投資を拡大→また設備増
バランス:古くなって廃れる機械(減耗)
このふたつの力がシステムを引っ張り合うと、「人口や経済が幾何級数的に伸びていく」かもしれないし、「衰退していく」かもしれないし、「ちょうど釣り合って安定する」かもしれない。そこに、出生率や死亡率、投資率や資本の寿命など、いろいろな要因がからんでくるわけです。
ポイント
システムを支配するループが変わると、振る舞いも変わる
当初は自己強化が強くてぐんぐん伸びても、ある時点でバランス型が強まると安定したり減少に転じたりする。境界をどう設定するか
本章で繰り返されるのは「出生率と死亡率がそのままではありえない。背景にある食料生産や医療など、いろんな要因があるでしょ?」という話。システムがもっと大きなシステムの一部かどうか、その境界を見ることが大切。
時間の遅れがあるバランス型ループは、振動を生む:自動車販売店の在庫
3番目は、サーモスタットみたいにバランス型ループが2つあるけど、そこに「時間の遅れ」が加わるとめちゃくちゃ振動が起こる、というケース。
例:自動車販売店の在庫
在庫というストックを、販売(アウトフロー)と納車(インフロー)で調整する。
販売が増えたら、すぐに補充しなきゃ→でも認知も発注も納車も遅れがある→ようやく補充されたときには売れ行きが落ち着いてたり→あたふたして過剰在庫になり、また急に減らす……。
こうして在庫が「上下に振動」する。
ポイント
遅れを短くすればいいってもんじゃない
システムによっては「遅れを短くする」が逆効果で、さらに大暴れすることも。直感通りに操作すると、かえって悪化する
たとえば在庫が足りないと焦って大量発注→届いた頃には需要減→在庫ダブつく→大幅カット→在庫がまた足りない…のループ。
これがあちこちで連動すれば、いわゆる「景気循環」が起きてしまう。一社の在庫の振動が、部品メーカーや雇用、投資、株価……どんどん波及して振動が増幅されるというわけです。
ふたつのストックが絡むとき:再生不可能&再生可能な資源
ここからはストックが2つ以上の複雑版。「制約のある環境での成長」という視点で登場します。
(A) 再生不可能な資源
たとえば石油会社。地下の石油(再生しないストック)をどんどん汲み上げることで利益を得て、設備投資に回してさらに汲み上げる量を増やす……という「自己強化型ループ」と、「油田が減っていくと取り出しにくくなる→コストが上昇し、利益が下がる→資本の成長が鈍る」という「バランス型ループ」。
石油が大量にあるほど、最初はガンガン成長できる。
でも幾何級数的に石油を掘り出すと、あっという間にピークを迎え、急落する。
もし短期間で大きく成長したら、その分「限界」も早く深くやってくる。
(B) 再生可能な資源
次に漁業の例。魚は“増える力”を持ったストックだけど、漁船を増やして取りまくると、魚が減って釣れなくなり、漁船の利益が落ちる→投資が減るというバランス型ループが働く。
うまくバランスが取れれば、ある水準で魚も漁業も共存できる「持続可能」な状態へ。
しかし、漁獲技術が向上しすぎて魚の再生能力を超えてしまうと、一気に崩壊するパターンもある。
あるいは魚の数が超少なくなったあと、再生に成功して何十年後にまた同じことを繰り返すケースもある。
ここで重要なのは、再生可能だとしても「自分を再生する能力(閾値)」を破壊してしまうと、崩壊してしまうという点。逆に言えば、資源回復が十分間に合うなら、一時的に取りすぎても持ち直すこともある。そこの違いが「資源保護」や「環境破壊」問題のカギになるんですね。
「構造」と「条件」が運命を分ける
本章は「いろんなシステムの具体例」を動物園のように紹介しながら、結局のところ「どんな構造が、どんな潜在的な動きを生み出すのか」が大事だと訴えています。
サーモスタット:バランス型ループ×2で、うまく温度を調節する(ただし時間的遅れがある)。
人口/工業経済:自己強化型(増やす)とバランス型(減らす)のループがストックをめぐって攻防。
在庫システム:2つのバランス型ループ+時間的遅れで、振動しがちに。
石油経済(再生不可能資源):「あっという間に栄えて、あっという間に枯渇」。
漁業経済(再生可能資源):「多少は持続的に利用できるが、閾値を超えると絶滅リスクも」。
それぞれのシステムは「全然別物」に見えても、似たフィードバック構造を持っていると、似たような挙動を示す。「ここぞ!」というポイントでループが切り替わって突発的な変化を起こすところや、遅れや技術の変化が思わぬ大振れを起こすところなど、現実社会でもよく見かけませんか?
システムを動物園で眺めてみると……
競合するバランス型ループ
サーモスタットの「暖める vs. 冷やす」
需要と補充のタイミングがずれて振動しがちな在庫調整
自己強化型ループとバランス型ループのバトル
人口増加・経済成長がぐんぐん加速するのか、死亡・減耗で減るのか
スピードがどっちが強いかで、一気に増えたり減ったり、安定したりする
資源制約による成長の限界
石油など再生不可能な場合は、ドーンと掘りまくった後にガクッと落ち込む
魚など再生可能な場合でも、取りすぎて再生不能ラインを超えるとあっけなく崩壊も
こうした「システムの動物たち」の挙動を予想するときのポイントは、インフローとアウトフローを見て、そこで働いているフィードバック・ループを探すこと。さらに、時間的遅れや資源の再生能力などを勘定に入れること。そうすると、「えっ、こんな挙動になるの!?」と驚く展開も、少し落ち着いて受け止められるようになる……かもしれません。
どのシステムにも共通するのは、「よかれと思ってやった対策が逆に変な振動を増幅してしまうこともある」ということ。まさに「動物園」的に観察して、「どの子がどんな癖を持ってるのか」知るだけでも、ずいぶん状況がわかりやすくなるのではないでしょうか。
第3章 なぜシステムはとてもよく機能するのか
どうしてシステムはそんなに「それなりに」うまく機能し続けられるの?―その背景にある3つのキーワードが「レジリエンス」「自己組織化」「ヒエラルキー」です。
レジリエンス:押されても引っ張られても、また立ち直る「しなやかさ」
まずは「レジリエンス」。直訳すると「弾力性」「跳ね返る力」みたいな感じ。
例えば、私たちの 人体 は気温の変化や病原体、ケガなどいろんなリスクにさらされても、ある程度自力で修復したり補ったりできる。
生態系 だって、少々生き物が増えたり減ったりしても絶滅しないよう、複数の種が複雑に絡み合ってお互いを支え合っている。
「レジリエンスがあるシステム」はまったく微動だにしないわけじゃありません。むしろ、ちょっとぐらい揺さぶられてもすぐに元のバランスを取り戻す。どんな嵐が来ても倒れずに踏ん張るヤシの木みたいなイメージ。「静止している安定」とは違うんですよね。
レジリエンスを削ってしまう例
牛に成長ホルモンを打つ: 牛乳はたくさん出るようになるけど、牛自体の健康レジリエンスを削ってしまう。
ジャスト・イン・タイム方式: 在庫が最小限ですむから効率的だけど、思わぬ事故や交通トラブルがあると生産ラインがすぐ止まってしまう。
単一品種の大規模農業: とにかく効率重視で木や作物を均一化してしまう。すると病気や汚染に弱くなる。
要するに、「目先の効率や生産性を追求しすぎると、レジリエンスを犠牲にしがち」。そして気づいたときにはシステムが一気に崩れてしまう危険があります。
自己組織化:システムが勝手に「もっと面白くなる仕組み」を作り出す
自然界を眺めていると、そこらの水たまりから新しい生命が生まれたり、DNAから超複雑なカエルやゾウや人間が育ったりしますよね。「自己組織化」は、システムが自分で新しい構造やルールを生み出して、複雑さや多様性を高めていく能力のこと。
人間社会も、あるとき誰かが「こうしたら面白いんじゃない?」と思いつき、仲間が集まって組織を作り、さらに大きくなって経済や文化を変えていく。
フラクタル幾何学みたいに、シンプルなルールを繰り返すだけで、とてつもなく入り組んだパターンが出来上がる(雪の結晶がその好例)。
自己組織化を邪魔しちゃう例
「創造的だけど予測不能な試行錯誤」は、既得権や権力構造からすると「面倒、やめてくれ……」となりがち。そこで抑えこまれることが多いんです。
教育現場 が子どもの創造力を伸ばすどころか、成績重視や管理主義で押さえつけちゃう。
企業や役所 が「あれは規則違反だからダメ」と新しいアイデアを封じ込める。
それでも生き物や人間社会には「自己組織化しようとする力」が根強くあって、まったくゼロにはできない。この力を上手に活かすか、または抑圧するかで、社会や組織や文化の発展は大きく変わるんですね。
ヒエラルキー:入れ子構造で「安定&効率」を両立
世界はサブシステムが集まって上位のシステムを作り、それがまたさらに上位のシステムに……って感じで階層(ヒエラルキー)を成していることがよくあります。
人体:細胞 < 器官 < 全身
社会: 個人 < グループ < 市町村 < 国 < 地球
この階層構造は、システムにとって 効率性とレジリエンス をもたらす、とても大事な発明なのだとか。なぜなら、下位レベルは下位レベルで自己管理できるし、上位レベルはサブシステム同士を調整する役割に専念できる。全部が全部、全体で一斉に管理されるのは大混乱ですからね。
ただし、うまくいかない例:部分最適化と過度の中央集権
部分最適化: 下位のサブシステム(例えば、野球チームの個々の選手)が自分勝手な目標に突っ走ってしまい、チーム全体の勝利を無視する、というような状態。がん細胞が勝手に増殖し続けるのも同じような構造。
過剰な中央集権: 一方で、上位が下位を必要以上にコントロールしすぎると、下位の自己組織化や自由を奪ってしまい、全体もうまく機能しなくなる。
要は 「上下両方の意図をバランスよく保つ」 のが、健全なヒエラルキーということです。
うまく回ってるシステムが持つ3つの力
結局、システムがなぜそんなに粘り強く、創造的に動き続けるのかというと、この3つの性質が支えているからです。
レジリエンス
多少の衝撃じゃビクともしないしなやかさ。
一方で、目先の効率を追うと失われがち。
自己組織化
新しい仕組みを自発的に生み出す進化の力。
これを抑圧すれば、システムは停滞してしまう。
ヒエラルキー
小さなサブシステムの集まりが層を成し、上位レベルがうまく連携を調整する。
部分最適化や中央独裁にならないよう注意が必要。
自然界を見ても、生き物や生態系が長年にわたって破滅せずに続いているのは、この3つの特性のおかげだし、社会や企業でも、ある程度これが機能してるからこそ大崩壊せずにやってこられたのでしょう。
もちろん、「うまく機能しているシステムの裏では何かが抑圧されているんじゃないか?」「レジリエンスを削りすぎると逆に危ないよね」といった声も大事。でも、そのあたりのバランスを見極めるのが、システム思考の面白いところではないでしょうか。
これら3つの特性を「システムが自然にやってくれてるなら、ほっとけばいいや」となるのか、「この力を伸ばすためにどう制度設計する?」と考えるのか。そこには人間の意志や知恵も関わってきます。その駆け引きこそが、私たちの未来を決めるカギになるのでしょう。
第4章 なぜシステムは私たちをびっくりさせるか
人間が何年も生きてきたのに、なぜ世の中はちょくちょく「え、そうなるの!?」と私たちを仰天させる展開を繰り出してくるのでしょうか。この章では、システム思考の視点から「え、そんなはずじゃ」とビックリしちゃう理由を整理してみます。
私たちが使っているのは、あくまで“モデル”に過ぎない
私たちの脳内や会話の中では、単語・データ・図式・方程式……どれも「本物の世界」ではなく、世界をかみくだいた モデル です。しかも人間の頭は、せいぜい数個の変数しか同時にイメージできないし、前提も誤っている場合がある。その結果、「絶対こうなる!」と思ったのに、現実世界でショックを受ける――こんなことがしょっちゅう起こるわけです。
つまり、世界の複雑さをすべて再現できるモデルは存在しないから、「ある程度うまく説明はできるけど、100%完璧にはならない」。この両面を踏まえながら柔軟に考えることが大切というわけ。
出来事だけ追いかけると、なかなか本質が見えない
テレビや新聞を見ると、「株価が下落した」「○○国が侵攻した」など毎日新しい出来事が報じられます。私たちは「何が起きたか」に一喜一憂しがち。でもシステム思考では、“出来事”を追うだけではなく、もっと大きな流れ(挙動パターン)や構造を見よう と言います。
出来事レベル: 例えば今日は株価が上がった、明日は下がった。
挙動パターン: 株価が全体的には2年ほど上昇傾向、といった長期の動き。
システム構造: 背後にあるフィードバック・ループやストックとフローのつながり。
構造まで理解すると、目先の動きに慌てずに「なぜこうなるの?」に踏み込める。長期的な施策も考えやすくなるのです。
この世界、実は「非線形」だらけ
私たちはつい「2倍押せば2倍の効果が得られる」と考えがち。でも自然や社会は、 非線形 (直線ではなく曲線的な関係) が多い。例えば農地に肥料を少しやれば収穫が増えるけど、肥料を山盛り投入すると逆に収穫が減る。交通量が徐々に増えると大丈夫だけど、ある点を超えると一気に渋滞する。
非線形だと「少し多くしただけで全然違う結果になったり」「予想以上に大爆発したり」するので、システムはたびたび私たちの直感を裏切って驚かせるわけです。
雲に隠れた「存在しないはずの境界」
システム図では、よく 「雲」 が描かれます。たとえば自動車販売店の在庫モデルなら、工場からやってくる車は「雲」からのインフローとして描いて、販売された車は「雲」に消える、という具合。しかし実際には、自動車は地球上の鉱物資源や工場の生産ラインからきて、売れた後はお客さんのガレージに行き、そのうち廃車になってどこかの処分場へ――。
ようするに、システムに「ここまでで終わり」という絶対的な境界はなく、「雲」はただのモデル上の割り切りに過ぎないのです。おまけに、じつは「雲」の先に大事な要素が潜んでいると、あとで思わぬ副作用が起きて「こんなことになるなんて…」と驚く羽目に。
境界を狭くとりすぎると、副作用や下流への影響を見落とす。
境界を広げすぎると、モデルが複雑化して何も分からなくなる。
結局、 問題を解くために最適な境界を設定する のがシステム思考の腕の見せ所なんですね。
層状の限界にぶち当たる
物理的なシステムは、どこかで必ず「生産に必要な要素が足りなくなる」など何らかのボトルネックに行き当たります。農作物なら窒素・リン・カリウム、企業なら資金・労働力・原材料・顧客など、「複数のインプット」のうちの一つでも十分に供給できなくなると成長が止まる。
さらに、あるボトルネックを解消すると、次は別の要素がボトルネックになる――これが “層状の限界”。
一時的には会社が「労働者を増やす」対策を打てば、今度は「資金が足りない」ことが制約になる。
永久に成長し続けるのは物理的に不可能で、いずれ何かの限界にぶつかる。
「じゃあ最終的にどこまで成長を許すのか?」「ある時点で成長を抑えないと、自然のほうで強制的にストップされるんじゃ?」――こんなことを考えさせられるのが層状の限界の怖さ、そして面白さです。
時間的な遅れがあちこちにある
自然界や社会には、すぐに結果が出るわけではなく、時間を要するプロセス が多々あります。例えば…
何かの技術を導入しても浸透するまでに年単位かかる。
汚染物質が拡散して悪影響が見えるまでに長い遅れがある。
温暖化ガスを削減しても、気候の変化が止まるまでは何十年もタイムラグがある。
人間はとかく「今やったらすぐ効果が出るはず」と考えがち。でも「システムにおけるフローの変化がストックを変えるには時間がかかる」。このタイムラグを忘れて急に方向転換すると、やり過ぎ(=大きく振動)になったり、逆にあまりに先延ばしすれば手遅れになったり。これもよくある「システムのびっくり」の一因です。
限定合理性:みんなそれぞれに(部分的に)合理的だからこそ起こる大問題
アダム・スミスの「見えざる手」理論は、「個々人が自分の利益を追求すれば自然と社会も良くなる」と言いました。でも、実際には自分の周りしか見えていない人々の行動が合わさると、めちゃくちゃな方向に行きがち。
漁業で、お互いが「魚がいるうちに獲らなきゃ」と思うと結果的に取りすぎて資源を枯渇させる。
企業が目先の利益に走って生産しすぎると、結局値崩れして全滅する。
観光客が押し寄せて観光地が台無しになる。
自分の立場で持っている 不完全な情報 と 短期的な合理性 が合体すると、全体的には大混乱。これが「限定合理性」の落とし穴です。
「人を入れ替えても同じ問題」が起こる理由
特定のポジションにいると、見えてくる情報は限られる。その人はその立場からすると合理的な行動をしてるだけ。だから、その人を他の人と交替させたところで、構造が同じなら同じ行動になる。だから本当に解決したいなら、システム全体の構造(情報の流れやインセンティブ) を変えなきゃダメ。
「どう変えればいいか」は次の章(「システムの落とし穴とチャンス」)で深堀りしていくようです。
システムが引き起こす「え、なんで…!?」の正体とは
モデルの限界
現実をすべて頭に収められない私たちは、どうしても見落とし・誤解が起きる。
出来事だけ追うと流れや構造が見えない
もっと大きな視点(挙動パターン・構造)を見ないと、サプライズが連発する。
非線形&複雑な相互作用
「2倍押せば2倍の効果」が通じない世界なので、直感が外れる。
境界の引き方が恣意的
あちこちで見えないつながりを無視して、後から副作用に驚かされる。
層状の限界
どこかに必ずボトルネックが発生するし、それを克服すれば次のボトルネックが…。
時間的遅れ
やったことの影響がすぐに出ない。気づいたときには手遅れ、あるいはやり過ぎ。
限定合理性
各人・各立場が部分的には合理的に行動して、全体を混乱に陥れる。
要するに、私たちの世界は「一筋縄ではいかないシステム構造」だらけ。短期の出来事だけ見ていると全然先が読めないし、「ちょっと押してみたら」と気軽にやった政策で大事故が起こったり、「あの人が悪いんだ」と個人を入れ替えても何も変わらなかったり……。
第5章 システムの落とし穴…… とチャンス
システムってやつは、私たちの期待通りにならないばかりか、あたかも “あまのじゃく” のように振る舞うことがあります。ここでは、そんな「はまってしまうと悩ましい」システム構造を紹介しつつ、同時に「そこに潜むチャンス」を見つける道を探ります。
施策への抵抗:「うまくいかない」どころか、むしろ大騒ぎ
仕組み
複数の主体が、同じストックを違う方向に引っ張り合っている。
例えば、警察は麻薬を減らそうとし、中毒者や売人は増やそうとする。どの主体も、自分の目標に向かって合理的に頑張る → その結果、何をしても元の状態に戻ってしまう(またはもっと悪化)。
典型例
麻薬取り締まり: 取り締まれば価格が上がり、麻薬ビジネスがさらに儲かる → もっと持ち込まれる…
禁酒法: かえって闇取引が横行。終いには政策ごと撤回。
抜け出す方法
力で押さえ込む: 短期的には効果があっても、反動がすごい。
手を放す(政策をやめてしまう): 禁酒法をやめたら、案外問題が軽減した…など。
互いの目標を調整して“一致”する、大きな目標を作る: たとえばスウェーデン式の「子どもの質を上げる」政策は、単に出生率を上げようとするより成功だった。
共有地の悲劇:皆が得するはずが、むしろ皆が損
仕組み
共有資源(牧草地・空気・河川など) があって、誰でも使える状態。
各個人は自分の利益のためにどんどん利用 → 全体として資源が枯渇。
例
国立公園: 観光客が押し寄せすぎて自然が破壊される。
大気や海の汚染: 化石燃料を燃やせば温暖化ガスは増えるけど、1人1社がやめたところで全体に変化があるように見えない → 誰も自粛しない。
抜け出す方法
勧告・道徳観で呼びかける: 「みんなで少しずつ控えよう」
私有化: 利用者自らが負担を受けるから、資源を守るインセンティブが生まれる。ただし、空気や海を私有化はできない…。
規制: 免許制・許可制・課税などで、共有資源へのアクセスを強制的に制限する。
低パフォーマンスへの漂流:下がる一方…「まあ、こんなもんでしょ」
仕組み
システムに絶対的な基準がなく、過去のパフォーマンスを基準にしがち。
悪い結果が続くと、「目標」そのものを引き下げる→さらに努力しなくなる→もっと悪化。
例
学校教育が徐々にレベルダウン → 教師や生徒が「こんなもんでしょう」。
病院サービスが徐々に悪化 → みんなも「どこもそんな感じだし」と受容する → どんどん悪く。
抜け出す方法
目標を絶対的・客観的基準にする: 「なんとしてもここまで到達する」という固定基準を。
最良のパフォーマンスを基準に、どんどん基準を引き上げる: 「去年のベスト状態が標準!」にすれば上方への自己強化が起きる。
エスカレート:競争の果ての果て
仕組み
「相手より少しでも上」を目標に設定 → 相手も頑張って上回る → どんどん拡大。
競争が自己強化型 になり、短期間で極端な状態になる。最後は破局的な崩壊が多い。
例
軍拡競争: 相手より多くの兵器 → 相手も上回る → 凄まじい軍備→国家財政を圧迫。
価格競争: 一社が下げ → 相手がもっと下げ → … → お互い赤字。
抜け出す方法
一方的武装解除: 思い切って「もう競争しません」→相手の過激化が鎮まる可能性。
交渉によるルール作り: 互いにリミットを設ける、規制を導入する。
成功者はさらに成功する:モノポリーに学ぶ独占スパイラル
仕組み
一度勝ったら、その報酬で次にまた勝ちやすくなる → 勝者独り占め化。
市場競争・自然界の生存競争・「金持ちがますます金持ち」 などに多い。
例
巨大企業がさらに資金や技術を使ってライバルを買収
富める者が節税や投資機会を得やすく、格差が拡大
単一種が生態系を独占し、他種が絶滅
抜け出す方法
多様化・差別化: 他にない製品やサービスを開発し、競合を避ける。
独占禁止法や再分配の制度: 例えば累進課税や相続税で格差スパイラルを抑制。
条件を公平にする: ゲームをやり直す仕組みを設ける(スポーツのハンディ戦、ポトラッチ文化など)。
介入者への責任転嫁(中毒):根本は放置して症状だけ和らげる
仕組み
問題が発生 → 本質的解決は手間がかかる → 代わりに簡単な「対処策」が症状を一時的に緩和。
だが、実は 根本は悪化 → また対処策が必要→更に依存度アップ。最終的には「中毒」。
例
アルコール・ドラッグで苦痛を紛らわす → 依存が深まり実際の問題解決は遠のく。
石油枯渇を根本解決せず「価格調整」や「新油田を探す」→結局何も変わらず、さらに消費し放題で悪化。
麻薬戦争 → 取り締まりすれど根本原因に手を付けず、ビジネスが儲かる悪循環。
抜け出す方法
中毒状態をやめる痛み は避けられない。ただ、徐々に減らす努力や、別の方法でシステムの能力を回復させることを同時に進めれば、混乱を最小化できる。
そもそも依存構造を作らない: 例えば農業では、土壌改良するなり自然防除を導入するなり、持続可能な方法を合わせて取り入れる。
ルールのすり抜け:規則を守っているように見せて、実は回避
仕組み
目標や規則が作られると、システムの自己組織的な知恵がそれを回避する抜け道を考え出す。
見た目上はルール遵守。実際には、本来の目的に反する挙動。
例
10エーカー未満に分譲制限 → 中途半端に10エーカーちょいの土地が激増。
絶滅危惧種がいると開発規制 → 先にこっそりその種を駆除してしまう。
制限速度 → パトカーがいないところでスピードを出す。
抜け出す方法
ルールのすり抜け自体を“フィードバック”と捉える: つまり、ルールの意図を果たすように設計し直す。
強化・罰則ばかりでなく、ルールの目的をより広く説明し、自己組織的に目的達成に向かわせる。
間違った目標の追求:見当違いなものに全力を注ぎ込む
仕組み
システムの目標をどこで設定するかが大事。 もし測定指標が本質とズレていたら、システムはとんでもない方向に突き進む。
例
安全保障を「軍事費」だけで測る → 兵器は増えるが国全体の平和はむしろ危うく…。
教育の質を「標準テストの点数」だけで測る → 詰め込み授業が増え、本物の学力が育たない。
国家の成功を「GNP成長率」だけで測る → 交通事故や自然破壊も生産の一部としてGNPが上がり、むしろ破滅的に。
抜け出す方法
本質的な目的を測る指標に変える: 安全保障なら軍事費だけでなく、経済の安定・社会福祉など総合的視点を。
「結果」と「努力」を混同しない。「GNPが伸びてる=人が幸せ」とは限らない。
落とし穴はチャンスの扉でもある
これらのシステム構造は「なぜこんなにうまくいかないの?」と嘆きたくなるパターンばかり。でもこれを “落とし穴” と呼ぶ一方、「チャンス」とも呼んでいます。なぜなら、構造が見えてくれば、そこに手を加えて 抜け出す可能性 を探ることができるから。
施策への抵抗 → 大きな目標を共有し、互いに協力。
共有地の悲劇 → 誰でも使える資源をどう規制・教育・私有化するか。
低パフォーマンスへの漂流 → 絶対的基準を固定、最良の成果を標準に。
エスカレート → 一方的武装解除、あるいは競争のルールを再交渉。
成功者はさらに成功する → 独占禁止法や再分配でリセット。
介入者への責任転嫁(中毒) → 根本的な原因と向き合い、システム本来の回復力を取り戻す。
ルールのすり抜け → ルールを設計し直し、本来の目的を追求できるしくみに。
間違った目標の追求 → 測るべき指標を見直して、本質を捉えたゴールを設定。
こうした落とし穴は、新聞記事を読んでいるだけでも山ほど見つかります。でもそれらが単なる “現象” で終わらず「どんな構造が、こんな行動を誘発してるの?」とシステム思考で問いかければ、解決策の手がかりが見えてくるかもしれません。
一筋縄ではいかないけれど、「あ、これは『共有地の悲劇』構造だ!」と見抜くだけでも、かなり楽になるんじゃないでしょうか。問題の核心に近づき、世界ともっと上手く付き合う道を拓けるかもしれません。
第6章 レバレッジ・ポイントシステムの中で介入すべき場所
ここまでの内容を踏まえ、「システムに干渉して、その動きをガラッと変えたい。でも、どこを押したらいいの?」
こんなモヤモヤを抱えた人、多いのではないでしょうか。
私たちがついついやっていることは、たいてい“目に見える部分”を寄せ集めて、ガシャガシャいじって終わり。でも、システムの世界では、「まるでボタンひとつで天気を変える」ぐらい劇的なポイントが、意外に“地下の奥底”に隠れているんです。そういうポイントを「レバレッジ・ポイント」と呼びます。
ここでは、12個のレバレッジ・ポイント を並べてみたリストが登場します。下から順に、「あんまり効かない」ものから「超有効で、ときに危険なほど」のものまで。「どこをいじればいいか」を考えるときの手がかりです。ちょっとスゴイですよ。この章を読んだあなたは、いままで目を向けていなかった意外な場所を発見するかもしれません。
12:パラメーター(税率とか、補助金とか、具体的な“数字”)
何かを変えよう → まずやりがち:「最低賃金を上げろ!」「補助金増やせ!」とか。
実は、これらの数字をいじるだけでは、システム全体の動きって大きくは変わりにくい。
政治家が注力しがちなとこだけど、マクロ視点で見ると効果は限定的。まるでコーヒーで言えば“砂糖の量”変えるくらいかも。
11:バッファー(在庫や貯水池など、システムを安定させる“蓄え”)
バスタブの中の水が大量なら、ちょっと出し入れしても水位は安定 → これがバッファーの安定効果。
だからといって、やたら大きいバッファーはコストや融通が利かなくなり逆効果にも。
コンクリでできたダムを急に広げられないように、バッファーの大きさを変えるのって難しくてお金や時間もかかるので、あまり有効なレバレッジ・ポイントじゃない。
10:物理構造(ストックとフローの“配管”の組み方)
典型例:都市の道路網のせいで渋滞が慢性化してるとか、エネルギー配管がムダに曲がっていて損失してるとか。
一度作った道路や配管の構造を変えるには、とにかくお金と時間が必要なので、しばしば手をつけにくい。
だから最初に設計するときが勝負!
9:時間的遅れ(タイミングのズレ)
在庫発注のタイミングやダム建設にかかる年数など、「実際に動くまでのラグ」。
遅れが長すぎると、もう手遅れになってからやっと効果が出るし、短すぎても逆に過剰反応して振動がでかくなる。
でも、「遅れの長さそのもの」を変えるのは難しいことが多い。建設に要する年数とか、世代交代にかかる時間とかを劇的に短縮はできない。
8:バランス型フィードバック(サーモスタットのような“安定化”メカ)
バランスを取るための仕組み。たとえば「在庫を適正量に維持したい」というのを達成しようとする調整。
こういうループが十分に強く働くと、システムは安定する。弱すぎるといつまでも変動するし、強すぎると逆に過剰に動いてしまう。
「制御メカを強化する」がレバレッジ。たとえば工場が環境を汚すなら、“汚染税”を課して問題を減らす。→ 汚染フィードバックが強まる。
7:自己強化型フィードバック(暴走系 or 成長系の“勢い”)
お金持ちはさらに利子を得て金持ちになる――あの強力な“無限ループ”の話。
油断すると加速度的にモノゴトが進みすぎて破局(成長しすぎて破綻、みたいな)に向かいがち。
ここに介入して抑えたり、逆に好循環をうまく使うのは大きなインパクト。たとえば累進課税で富の集中を抑えたり、逆にベンチャー支援で成功を成功につなげる支援とか。
6:情報の流れ(誰が何をいつ知るか?)
これ、ドネラさんお気に入りポイント。「電気メーターを玄関に置いたら電力使用量が30%下がった」って有名な話が典型例。
「誰が、どんな情報を手にできるか」が変わると、システムの動きもガラッと変わる。たとえば「漁業の魚の資源量をリアルタイムでちゃんと知らせる」など。
とっても安上がりに大きな変化を起こせる可能性がある。一方で、権力者はここを握っておきたがる。
5:ルール(インセンティブ、罰、法律)
「人を殺すな」「政治家は○年で任期切れ」「銀行強盗は牢獄行き」とか、社会や組織が従う“公式ルール”のこと。
ルールを決める立場にある、あるいはルールを変えられる人がシステムの大きな握り手になる。
憲法は最強ルールだし、熱力学の第2法則みたいな物理法則はもはや“どうしようもないルール”ですね。
4:自己組織化(システムが自分で“新しい構造”を生み出す力)
進化、変革、発明、イノベーション――システムが勝手に新しいカタチを作っちゃう力。
多様性を守ることがキー。いろんな種がいる森ほど、病気や害虫に強い。いろんな価値観を大事にする社会ほど、イノベーションが生まれやすい。
「秩序を保ちたい」とガチガチに縛りすぎると、この自己組織化能力が弱体化してしまう。
3:ゴール(システムの“目的”とか“機能”)
たとえば企業なら「社会を豊かにするために存在してます」と言いつつ、実際には「まず利益至上主義」だったりすることってある。
ゴールをすり替えるのって、システム全体の動きを大改造する行為。「今から目指すのは○○です!」ってトップが言うだけで、組織の空気が変わったりする。
これがホントの意味で変わると、あらゆる“ルール”が一気に書き換わり、パラメーターも全部追随する。
2:パラダイム(世界観・信念体系)
「成長って絶対いいことだよね?」とか「自然は人類の資源でしょ?」みたいな“常識”や思い込みそのもの。
「私たちの文化の中では当たり前」= 他の文化からしたら「はぁ!? なんで?」みたいなことも多い。
ここが変わると、新しいゴール、新しいルール、新しいフィードバック……すべて変わる。めちゃくちゃ強力。でもめちゃ変えるの大変。
1:パラダイムを超越する(パラダイムに縛られない)
「え、パラダイムより強烈な場所があるの?」ってなるのですが、ここはもう「目からウロコ」という境地。
自分の信念とか前提とか価値観にすら囚われない。ちょっとスピリチュアル? でもそこに無限のチャンスがある。
達人はここ。「あ、どんな世界観もただの思い込みかもね」とふわりと受け止めつつ、共感と知恵を発揮していく――そんな感じでしょうか。
レバレッジ・ポイントをどう使えばいいの?
今紹介したリストは、下から上に行くほど影響が大きくなるけど、扱うハードルが高いのも確か。「パラメーター」は手っ取り早くいじれるけど、大きな効果は出にくい。逆に、「パラダイムを超越する」はすごいパワーがあるけど、そう簡単にできません。
まずは下の段の話に気づく
たとえば、補助金を少し増やすとか、最低賃金をわずかに上げる。政治家や企業がやりがちだけど、思ったほど効果は限定的。さらに一歩、情報の流れやルールを見直す
「誰が何を知っている?」「そのルールは誰のために、どう機能している?」など。“透明性を上げる”だけで一気に変わったりする。ゴールやパラダイムへの意識を持つ
「本当に目指すものは何?社会にとっての最重要な価値は?」まで話を進めたら、その先は、ただの“いじる”を越えて、発想がガラリと変わる。
レバレッジ・ポイントは「どこをどう変えるか」。でも最強は「あなた自身の頭の中」
ドネラ・メドウズさんは、20世紀後半から21世紀にかけて、システムが大きく変われるチャンスをずっと探求してきました。彼女の結論は、「最上のツボは世界の姿勢や考え方そのもの」。そこに向き合うのは勇気も謙虚さもいるけれど、私たちが本当に変えたいなら、そこを押すのが一番効果的。そして、ときに、ほんの小さなきっかけでその扉が開くこともあるのです。
いかがでしたか? 「企業とか政治がパラメーターばっかりいじるのも無理はないけど、実はほんとに効くポイントはそこじゃない」って、ちょっとワクワクしませんか? 自分の暮らしや仕事の中にも、こっそり隠れたレバレッジ・ポイントが潜んでいるかも。次にちょっと悩みにぶつかったら、ぜひこの“12段リスト”を頭の片隅で思い出してみてください。
総括
「私たちが生きているこの世界、どうしてこんなにややこしいんだろ?」
そんな疑問を抱える人が、海より多いのではないでしょうか。
1章から6章にかけては、その“ややこしい世界”を丸ごと理解しようとする「システム思考」のエッセンスがギュッと詰まっています。では、頭からガッと流れを追いかけてみましょう。
第1章:システムの思考世界へようこそ
一瞬で「えっ、世界ってこんなだったの!?」が始まる
私たちって、つい“出来事”だけに気を取られがち。大雪が降った、株価が上がった……そんなニュースを、“日々のドラマ”みたいに追いかけて、「あーすごいことが起きたわ」と感情が乱高下。しかし、実際には、“出来事”はほんの氷山の一角。システム=「相互につながった要素の集合体」
例えば、あなたの街で起きる交通渋滞は、単に「車が増えたから」じゃなく、市役所の道路計画、住民の通勤スタイル、近所の大型ショッピングモールの開店時間など、いろいろな要素がリンクしているからこそ。これらを一度に考えないと、核心にたどり着けない。キーワード「ストック」と「フロー」
バスタブのアナロジーが出てきます。バスタブにたまった水が“ストック”、入ってくる/出ていく水量が“フロー”。これを頭にインプットするだけで、「なんだ、世の中ってバスタブだらけじゃないか」となるわけです。
第2章:“システムの動物園”めぐり
小さなサーモスタットから世界人口まで
システム思考を学ぶときに一番いいのは“具体例”を見ていくこと、と著者は主張します。ここでは、暖房のサーモスタットとか、在庫を抱える自動車販売店とか、人口の成長とか、いろんなシンプルなのに超典型的な例がズラリ。“ループ”が見えてくる
サーモスタットの話なら、部屋が冷えれば暖房を強め、暖まれば止める。これが、いわゆる「バランス型フィードバック・ループ」。人口なら「子どもが増えれば、将来的に産む人も増える」という「自己強化型フィードバック・ループ」。この2つのどちらか、あるいは両方が入り混じって“ダイナミック”な世界が出来上がる。たまにある「支配のシフト」がシステムを振り回す
成長していたのに、ある時点を越えていきなり衰退に移行……みたいなハラハラ展開が起きるのは、2章で見たような競合するフィードバック・ループの“支配権”が入れ替わるから。例えば、部屋の外気がめちゃ寒いと、暖房装置が頑張っても追いつかない瞬間がある、みたいな。
第3章:なぜシステムはこんなにもうまく機能するの?
えっ、うまく機能してるの?
大雪、渋滞、貧困、戦争……世の中は問題だらけに見えますが、それでも多くのシステムはそこそこ破綻せず動いてますよね。人類が何千年も絶滅してないのも、システムの“偉大なる調和力”のおかげ。3つのスーパーパワー
レジリエンス:打たれてもなんとか復活するしなやかさ。
自己組織化:どうやってそんなに巧みに発展したのか分からないくらい、システムが自分で成長&進化する力。
ヒエラルキー:あらゆるものが“サブシステム”を抱えていて、部分と全体がいい感じに階層を作る。
この3つがあるから、多くのシステムはそこそこちゃんと機能している。
でも、この3つを壊しがちな人間の行動
レジリエンスを削ってコスト削減したり、自己組織化できないほどガチガチに管理したり、ヒエラルキーが“部分の暴走”を許したり(部分最適化)。第3章はそこまで踏み込みます。
第4章:それでも私たちが“びっくり”するわけ
システムをわかったつもりでも予想外が起きる
「もう見切ったぜ!」と思っていたら、えええ!とあっけにとられる。なんでこんなことが起こるのか。ここでは、その理由を“人間がついついやらかす認知のミス”として解説。人は出来事に振り回される
さっきも言ったとおり、地震が起きた!株価が急落した!という“出来事”だけ見て右往左往。実は“流れ”をちゃんと見ないと、本質は見えない。非線形が当たり前
「肥料を10キロ増やせば収穫が上がる。なら20キロで2倍だ!」みたいな直線思考は危険。「やりすぎるとかえって収量が落ちる」みたいな話が山ほど。人間の頭は直線で考えがちだから、びっくり連発に。システムは反応が遅れる
在庫管理のシステムとか、遅延があるために振動しちゃう。ダム建設に年数がかかるとか、子供が育つのに最低限の年数が必要とか、世界は思ったより動きがのろい部分もあるから余計に予期しづらい。限定合理性
これが一番ズキッとくる。システム全体を見ず、自分の目の前の小さな合理性で動いてしまうとき。結果、全体にとっては最悪だったりする。たとえば街中に車をみんなが1台ずつ突っ込むと渋滞に苦しむのに、自分はやっぱり楽だから車を使う、みたいな。
第5章:システムによくある“落とし穴”をどうするか?
“原型”がわかれば落とし穴から脱出できる
システム学では、似たような構造・似たような失敗パターンを“原型”と呼びます。「あっ、これ“エスカレート”原型だ!」と分かると、変に解決策をこねくり回さずに済む。具体例:
施策への抵抗:分かりやすく言えば、同じストックを別方向に引っ張ってると、どんな施策もうまくいかない。無理やりねじ伏せれば激しい抵抗が来る。
共有地の悲劇:公共の資源を我先に使う。そのコストは皆で分担だから個人は止める理由がない。結果、資源が枯渇。
低パフォーマンスへの漂流:悪くなった分だけ目標を下げていくと、どんどん悪化していくパターン。ゆでガエル状態。
エスカレート:あっちが値下げしたならこっちはもっと値下げ。あっちはさらに下げ……永遠に戦い、行き着く先は全滅か極限。
成功者はさらに成功する:競争の勝者が有利になり、さらに勝つ……みたいな無限ループ。
介入者への責任転嫁:根本の問題を解決せず、表面的なやり方で“麻薬”を打って問題を隠すと依存が生まれ悪化する。
ルールのすり抜け:ルールの文言だけ守り、中身はかいくぐる。
間違った目標の追求:たとえば「教育の質」を“テストの点数”だけで測って、それを全振りした結果、とんでもないことに……。
対処法=一歩下がって“システム”を見る
対処するには、頭ごなしに人を責めるんじゃなく、構造を変えたり、情報の流れを変えたり、ゴールを変えたり――そういうのが求められるよ、とこの章はアドバイス。
第6章:レバレッジ・ポイント──「システムを変えるツボ」はどこに?
目に見えるパラメーターをいじっても効果薄…
「税率」みたいなパラメーターはわかりやすいけど、根本的に世界を良くするには弱い。情報の流れを変える:けっこう効果ある
たとえば発電所と住民をリアルタイムでつなぐ仕組みを作れば電気が省エネになったり。ルールを変える:もっと強い
憲法レベルで方向性を変えれば社会はダイナミックに変わる。目標(ゴール)を変える:さらに強い
企業が「利益追求」→「社会貢献」へ本気で変わったら、組織の全体が変化する。パラダイムを変える:MAXに近い
「成長なんて当たり前にいいこと」という思い込みを外したら、世界の構造自体がひっくり返る。パラダイムを超越:究極
今までの自分の世界観ですら超える。価値観そのものを外側から見れるようになると、その人はもはや“高次の力”を発揮。もう、ヒーロー的存在。
もっと気軽に“世界”とダンスしよう
1章から6章まで読むと、「世の中って本当に複雑。私たちが思う単純な解決策で簡単には動かない。でも、ちゃんと対処法の糸口はあるんだ!」という感触がつかめるはずです。
私たちは出来事レベルでゴタゴタしがち。そこを“流れ”で見る。
さらに流れを生む構造を見て、フィードバックの正体をつかむ。
それが分かれば、落とし穴を予測できるし、レバレッジ・ポイントも浮かび上がる。
最後にドネラ・メドウズさんも言っていたように、システムって支配したり、完全に理解したりできないからこそ面白い。「どこがレバレッジ・ポイント?」と考えながら、自分もそのシステムといっしょに踊ってみよう。 そうすれば、思いがけず「おや? なんだかもっといい動きが生まれそう」と感じる瞬間が訪れるはずです。
1章から6章を一気にまとめるなら、まさにこの言葉:
「あなたもシステムの一部でありながら、同時に作り手。上手にダンスできたら、システムはきっともっといい顔になる」
ここから先、私たちはその踊り方を、日々の暮らしや仕事のなかで少しずつ習得していくのです。



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