キヴォトス剣豪流離譚【完結】   作:モモのすけ

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サムライガールVSニンジャガール

「チハヤ殿……残念です。私たちは分かり合えると思っていたのに……まさか、イズナの主殿を奪い去ろうと目論む悪しき女狐だったとは……」

 

「それはこちらの台詞です。というか、まるで私が二番煎じみたいじゃないですか……仕えてくれる女の子という独自性だけは、この先も安泰だろうと思っていたのに……」

 

 上演開始1時間前、舞台裏にて。

 同時に立ち上がった私とイズナは、さっきまでの和気藹々とした空気はどこへやら、絶対零度の視線を宙空でぶつけ合っていた。

 というのも、互いの主が同一人物──シャーレの先生であるということに、今更ながら気がついたからだ。

 

「みたいじゃなくて、実際にそうなんです。イズナの主殿はイズナの主殿なんです!」

 

「こ……この、言わせておけば……先生は私が主と仰ぐ、ただ一人の方なんです! 私のです!」

 

「イズナのです!!」

 

「私のです!!」

 

「「ぐぎぎぎぎぎぎ……!」」

 

 私とイズナは睨み合ったまま間合いを詰め、互いのおでこが衝突しても睨み合うのをやめずに唸り声を上げた。

 肉食獣の縄張り争いじみた様相を呈する私たちに、ミチルが恐る恐るといった様子で声をかける。

 

「ち、ちょっとふたりとも? 喧嘩はよくないと思うんだけど……ほ、ほら、本番もうすぐだしさあ……いま揉めてる場合じゃ……」

 

「ミチル殿! 誠に申し訳ありませんが、忍には時として退けない時があるんです! それが今なんです!」

 

「は、はぁう……」

 

 見かねて仲裁に入ろうとしたミチルだったが、私とイズナの剣幕の前に戦術的撤退を決めたらしく、あっさり元の場所に座り込んだ。

 

「似たもの同士だとは思っていたけれど、最悪の予想がここで的中するとは……これに関しては、下手に質問してしまった私のミスね……」

 

「い、いえ……気にしないでください、ミフユさん。私も薄々察してはいたので……恐らく、時間の問題だったかと……」

 

 その傍らでひそひそ話し合うミフユとツクヨを差し置いて、私とイズナは同時に距離をとった。

 今すぐにここで武器を抜いて戦ってもいいが、それよりもっと分かりやすい「方法」がある。

 

「こうなった以上、するべきことは一つしかありませんよね……チハヤ殿……」

 

「ええ……どちらが先生に相応しいのか。他ならぬ先生の前で、決着をつけようじゃありませんか!」

 

 

 

 

 という背景があって、私とイズナは舞台上で睨み合うに至ったのである。

 ここまでは私とイズナが舞台上で対面せず話が進むので、演目はさしたる問題なく上演された。サムライとニンジャ、それぞれの視点から物語を演じ、そしてようやくご対面となった訳だ。

 脚本の流れをこのまま踏むのであれば、私とイズナはここで適度に戦った後、互いに和解することになる。

 

 が、しかし。

 

 もはや脚本なぞどうでもいい、というのが私とイズナの共通認識だった。

 それ以上に大切な己のプライドと信念を守るため、なんとしてもこの敵を打ち倒し、先生に己の方が優れていると証明する……!

 この剣呑な空気が演技だと思い込んでいる観客達は、固唾を飲んで私たちを見守っている。観客席の一番前で熱心に舞台を見つめるシャーレの先生も、その一人だ。

 

(ご安心ください先生。今ここで、ニンジャよりもサムライの方が優れていることを証明します)

 

 剣を正眼に構えて、同じようなことを考えているであろうイズナを睨みつける。

 猛る意思はふつふつと湧いてくるが、迂闊に攻め込むのは悪手だ。相手が普通の生徒ならまだしも、ニンジャとなると何をしてくるかわからない。

 慎重に攻め口を探す私を置いて、イズナが動いた。

 

「残念です。イズナ、チハヤ殿とは仲良くなれると思っていました。ですが、私の主殿をたぶらかすのならば……」

 

 イズナの姿が、風にたゆたう柳のようにぶれる。

 息を吐くように自然な脱力だ。だがそれは、次の瞬間に訪れる爆発の前兆でもあって──、

 

「あなたを、許すことはできません」

 

 その瞬間、私は全力で首を横に捻った。

 銃弾に迫る速度で放たれたクナイが頬を掠め、木造の舞台に深々と突き刺さる。びぃぃん、と反動で小刻みに揺れるその凶器は、一目でその威力を想像させた。

 

「……っ!」

 

 恐るべき身体能力だ。まるで投擲の予備動作が読めなかったことに驚愕する間もなく、イズナがこちらに銃口を向けた。

 軽快にトリガーが弾かれる。

 閃光が劇場を照らし上げ、無骨な鉛玉が宙を舞う。

 

「たあああ……ああああっ!!」

 

 刀を抜き放ち、迫る銃弾を弾き飛ばす。私の周囲で火花が散り、寸断された鉛玉が床を叩いた。

 どっ、と観客席からは大きな歓声が上がり、大一番の始まりが拍手をもって迎え入れられる。

 その喧騒を聞き流しながら、私は勢いよく床を蹴った。

 

(問答無用、一撃で決着をつけてやります……!!)

 

 弾幕が途切れた隙に、一息で間合いを詰める。

 戦いをドラマチックに長引かせるような真似はしない。演技など抜きの真剣勝負、手加減なんて最初から捨てている。

 私は走りながら鞘を収め、ミフユの懐に飛び込むと同時に抜刀した。

 居合斬り。鞘走りの速度を乗せて放つ超高速の一閃が、イズナの胴体に叩き込まれた。

 鋼鉄すら容易く断ち切る威力の一撃、急所に受ければどんな生徒だろうと昏倒は免れない。だが──、

 

(手応えが、ない……!?)

 

 人体を打ち抜いたものとは明確に異なる不気味な手応えに、私は顔を顰めてイズナを睨んだ。

 次の瞬間、白煙と共に彼女が消え失せる。

 煙の向こうにイズナの姿はなく、ただ、代わりに真っ二つになった狐の人形が宙を舞っているのみだった。

 私が驚きに瞳を見開いたと同時、背中に強烈な衝撃が走り抜ける。

 

「かかりましたね、チハヤさん! これぞ『イズナ流忍法・空蝉(ウツセミ)の術』です!」

 

「か……っ、は……!?」

 

 いつの間に背後に回っていたのか、イズナの弾丸が容赦なく私を撃ち抜いたのだ。

 イズナの披露した鮮やかな変わり身に、観客席からは拍手が飛ぶ。その声援を受けながら、イズナは大きく身体を旋回させて──、

 

「そしてこれが、『イズナ流忍法・爆裂手裏剣の術』っ!!」

 

 バネのようにしなやかな身体を使い、巨大な投擲物を投げつけた。

 どこから取り出したのか、と驚愕せんばかりの巨大な投擲物の正体は、「手裏剣」だ。大型のフリスビーに刃物を付け加えたようないかにも痛そうな凶器に、名前の通り爆弾まで括り付けられている。

 背中の痛みに顔を顰めつつ、私は刀を握る手に万力を込めた。

 

「ならば、私も必殺技をお目に入れましょう!」

 

 飛来する手裏剣は、イズナの膂力による投擲で高速回転を続け、まるでチェーンソーが如くその刃を唸らせている。

 が、こと刃に関してならば、この「彼岸白雪」に勝るものなぞキヴォトスには存在しない。

 私は唸る手裏剣めがけて跳躍し、大上段に構えた刀を渾身の力で振り下ろした。

 

「キヴォトス一刀流・必殺……『桜槌閃(おうついせん)』っ!」

 

 乾いた音がこだました直後、両断された爆裂手裏剣は私の背後へと通り過ぎ、大爆発を巻き起こした。

 先生が見ている以上、技のレパートリーでも負ける訳にはいかない。ちなみに、キヴォトス一刀流の奥義は今のを含めてあと87種類ある。常日頃から考えていた必殺剣をお見せするには丁度いい機会だ。

 爆風の閃光が私に濃い陰影を刻む中で、問題ないとばかりに刀を構え直す。その姿に、またもや観客は歓声と拍手をもって賞賛を告げた。

 

「イズナの爆裂手裏剣を真っ向から斬り飛ばすとは……流石ですね、チハヤ殿」

 

「いえいえ……イズナの変わり身も見事でした。斬るまで変わり身に気付かないとは、恐れ入る疾さです」

 

 照明係が機転を効かせて、私とイズナの二人を眩いステージライトで照らしあげる。

 打ち合わせにない私闘が始まっているにも関わらず演出を合わせるあたり、裏方の練度の高さが窺えるところだ。

 

「なら……今度は、捉えられるでしょうか!? しゅばばっ!」

 

 ひゅん、という風切り音を残して、イズナの姿が掻き消えた。

 間を置かずして、周囲から断続的な跳躍音が聞こえてくる。イズナはその俊敏極まる身のこなしで、周囲を三次元的に跳び回っているのだ。

 それも、舞台の上どころの話ではない。大きな梁のうえ、観客席の小通路、照明の間、舞台袖の暗がり、あらゆる箇所から軽い足音が響き渡る。そして……、

 

「そこですかっ!?」

 

 殺気を感じて振り返ったが、そこには誰の姿もなかった。

 おかしい、確かに私の直感は「背後」だと告げていたのに、イズナの影も形もない。私はじっと目の前を睨みながら、慎重に一歩を踏み出してみる。と、

 

「『イズナ流忍法・奇襲の術』っ!」

 

 ばっ! と、壁と同じ模様のふろしきを持って隠れていたイズナが、目の前から姿を現した。

 片手に手にしたクナイが煌めき、私の喉元めがけて突き出される。それを──、

 

「なんの! キヴォトス一刀流『桜巻閃』っ!」

 

 ギリギリのところで、私は身体ごと横薙ぎに振るった刀で受け止めた。

 甲高い衝撃音が響き渡り、舞い散った火花が舞台を赤く彩る。そのまま私とイズナは何合か獲物を激突させ、お互い同時に距離を取った。

 やはりニンジャ、古来からサムライのライバルとして名が知れてきたことはある。あの距離で私と打ち合って無傷で潜り抜けられるのは、このキヴォトスでもそう多くはないだろう。

 

「ふふ……」

 

 面白いではないか、と私は口端を吊り上げた。

 倒し甲斐のある敵であるからこそ、主にいいところが見せられるというものだ。

 全く同じことを考えているであろうイズナも、私と同じく不気味に笑った。

 

「ふふふっ! チハヤ殿、イズナの忍法はこれからが本領ですよっ!

 

「ええ……どんな忍法だろうと、この刀で斬り伏せてみせましょう!」

 

 燃ゆる瞳から発せられた視線が激突し、不可視の火花を散らす中。私とイズナは同時に獲物を構え直し、

 

「イズナ流忍法──────!!」

「キヴォトス一刀流──────!!」

 

 必殺を放つ二人の声が、舞台に大きく響き渡った。

 

 

 

 

「「はぁ……はぁ……はぁ……」」

 

 戦い始めて、どれだけの時間がたったのだろう。

 私とイズナは荒い呼吸を繰り返しながら、そろそろ半壊しつつある舞台の中心で睨み合っていた。

 

「まさか……私が毎晩寝る前に頑張って考えた、88種の必殺剣……全てを、出し切らされるとは……思いませんでした……」

 

「い、イズナもです……日々開発したイズナ流忍法、全てを使ったのに……倒せないとは……」

 

 先程、まだまだ技のレパートリーはあると内心で強がったが、全部使い切る羽目になるとは思わなかった。

 後半は「桜突き・零式」「桜突き・三式」とか番号を変えただけの水増し技で誤魔化していたが、とうとう誤魔化すこともできなくなってしまった。

 だが、技のネタ切れはイズナも同じようだ。

 レパートリー勝負は互角。となれば、あとは泥臭く互いの獲物をぶつけ合って、最後まで立っていたものを勝者とするほかない。

 最後の果し合いのため、互いが足に力を込めたその瞬間。

 

「おらぁーっ!!」

 

 大きな爆発音が響き渡り、私は弾かれるように音源を見やった。

 爆発があったのは舞台の奥、ちょうど観客席の反対側──私たちのすぐ真横だ。「百鬼夜行』と書かれた垂れ幕が吹き飛ばされ、その奥からわらわらと人影が現れる。

 

「はーっはっはっはっ! 泣く子も笑う須磨一座のご登場だっ! 目立つ舞台でさっきからいい感じに戦ったりなんかしちゃってさあ……あたし達より目立って目障りな奴らめ、邪魔してやる!」

 

 瞬間、私の思考は混乱に陥った。

 今この状況でどうするべきか。予定にないならず者達の乱入、とはいえ私は決して負けれぬ死闘を続けている最中だ。

 このまま無視してイズナを倒すことを優先するのか、それともこの連中を倒すのか、それとも……、

 

「聞こえなかったのか!? 魑魅一座だぞこっちはぁ!」

 

 止まりかけた思考を、強烈な銃声の音が揺り戻した。

 あろうことか、連中は垂れ幕や提灯を破壊しながら舞台に上がり、観客席に銃口を向けたのだ。

 

「「──────────!!!」」

 

 その瞬間、私のやることは決定した。

 そしてそれは、目の前で刃を交わしていたニンジャも同じだった。

 集まった観客が悲鳴をあげ、パニックになった人々が逃げ出そうと押し合い始める中で、私とイズナはぎろりと闖入者を睨みつけた。

 

「私の大切な主に……」

「私の大事な主殿に……」

 

 どんな状況だったとしても、これだけは変わらない。

 一番大切なもの。忠義を尽くす私たちの主。そんな先生に手を出すというのなら、絶対に──、

 

「へ?」

 

「「何をしようとしてるんですかっ!!!」」

 

 許さない。

 そんな怒りの声を乗せた私とイズナは、リーダーらしきタヌキ耳の少女に、握りしめた刀とクナイを同時に叩き付けた。

 X字を描いてクロスした刃が懐に食い込み、込められた怒りの力によって、その小さな身体を吹き飛ばす。

 

「ぶ、ぶへえ゛えぇぇぇええっ!!??」

 

「り、リーダーがホームランボールみたいにぃいぃっ!?」

 

 舞台の上から高々と宙を舞い、そのままどこへとも知れぬ場所へとすっ飛んでいく少女を見つめながら、私とイズナは同時に息を吐いた。

 驚くほどに鮮やかな、力を合わせた一撃。

 それは互いの主を守らんとする一念が生んだ、ある種必然の奇跡だったのだろう。

 

「「…………………」」

 

 いきなり頭目を吹っ飛ばされてしまった魑魅一座が狼狽える喧騒の中で、私とイズナは深い沈黙の中で見つめ合った。

 昂りを忘れた私たちの心に、ひとつの疑問が浮かんでいたからだ。

 

 私たちは、何か勘違いをしていたのではないか?

 

 どちらが正しいかとか、どちらが強いかなんて話は、最初からきっとどうでもよくて。私たちの大切なものが共通しているのなら、刃を向け合うのではなく、それを尊重するために手を取り合うべきなのでないか。

 奇しくも──私たちは演目の登場人物と同じように戦い、実際に刃を重ねる中で、同じ結論に辿り着いたのだった。

 

「イズナ……」

「チハヤ殿……」

 

 もはや言葉は不要。私とイズナは握りしめた刀とクナイを、その友情を確かめるように交差させて、笑った。

 

「な、なんだよこいつら!? なんでいきなりリーダーを吹っ飛ばした挙句、いい感じに和解してるんだよ!?」

 

「いやお前、あれはあくまで演技だろ! あの鬼気迫る感じ、確かに騙されるのもわかるけど! 別にこいつらが仲良しでもおかしくないって!」

 

 と、横から飛んでくる声が私たちを友情とロマンの世界から引き戻した。

 そちらを睨みつけると、リーダーがお星様になったことで狼狽する魑魅一座の姿がある。依然として大切な主に刃を向けんとする悪漢(?)たちに、もはや慈悲は必要ないとみた。

 

「チハヤ殿……同じ主を戴く者として助力します。共にこの方々を打ち倒し、世界に平和をもたらしましょう!」

 

「ええ。サムライとニンジャの友情が、きっと世界を救うと信じて……!」

 

 熱い友情の再確認を経て異様なテンションになった私とイズナは、戸惑うばかりの魑魅一座へと飛びかかり──、

 

「「「う、うわあああああああああああ!!?」」」

 

 ゴウランガ! 同じ主のもと力を合わせた私とイズナの力によって、魑魅一座はカップラーメンを待つよりも早く壊走に追いやられたのだった。

 『サムライVSニンジャ キヴォトス最終決戦』……完!

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