小田原市「生活保護なめんな」ジャンパー事件から8年…公務員らを追い詰めた“過酷な労働環境” 根本にある“圧力”の正体とは
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2017年、神奈川県小田原市で発覚した「生活保護なめんな」ジャンパー事件は、日本の生活保護行政の現場が抱える根深い問題と、社会に蔓延する貧困に対する不寛容さを浮き彫りにしました。 生活保護を受給するのに必要な「3つの条件」とは およそ10年間にわたり、同市の生活保護担当職員が、威圧的なメッセージがあしらわれたジャンパーを着用し、業務にあたっていたのです。 この一件は、決して、小田原市という一地方自治体の地方公務員の不祥事で片付けられる問題ではありません。また、提起された問題は、今なお、解決されたとはいえません。 セーフティネットの理念が機能不全になっている現状、それを助長する「自己責任論」など、日本社会が抱えるジレンマそのものを映し出すものといえます。(行政書士・三木ひとみ)
「HOGO NAMENNA(ホゴ ナメンナ)」に込められたメッセージ
事件が明るみに出たのは、2017年1月のことでした。小田原市の生活福祉課で生活保護を担当する職員たちが、オリジナルのジャンパーを着用して業務を行っていることが報道によって発覚します。問題となったのは、その背中にプリントされた衝撃的な文言でした。 「HOGO NAMENNA」(保護なめんな) 「不正受給はクズだ」 「我々は正義だ」 さらに、ジャンパーの胸には、アメリカのハードロックバンド、AC/DCのロゴを模倣したデザインで「SHU-NO」(収納)という文字もあしらわれていました。 「収納」とは、生活保護費の返還金徴収を意味する業界隠語です。これは、生活保護費の返還金などを徴収する「収納対策チーム」のユニフォームとして作成されたものでした。 報道によれば、このジャンパーは2007年度から、市の生活保護担当部署に所属する職員有志によって自費で作成され、更新を重ねながら約10年間にわたって使用されていました。 着用は、主に不正受給の疑いがある世帯への家庭訪問(ケースワーカー業務)や、返還金の徴収業務の際に行われていたとされています。 このジャンパーに込められたメッセージは、明らかに生活保護受給者に対する威圧と侮蔑の意図を持つものでした。 生活保護制度は、日本国憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)」を具現化するための最後のセーフティーネットです。 その最前線に立つべき公務員が、制度の利用者を「なめるな」「クズ」と断じ、「正義」を自称する。この倒錯は、本来あるべき支援者と被支援者の関係性を歪めるものであり、受給者の尊厳を踏みにじる行為にほかなりませんでした。 事件の発覚は、市議会議員への内部告発がきっかけでした。当初、市側は事態を軽視し、口頭注意で済ませようとしましたが、メディアにより報道され、全国的な批判が高まる中で、本格的な調査と対応を迫られることになります。
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