キヴォトス剣豪流離譚【完結】   作:モモのすけ

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無限回転寿司戦隊、参上!

 

「なんですか、これはっ!?」

 

 思わず叫んだ私の前で、巨大な影が立ち上がる。巨大な腕に足、頭。シルエットは人のそれだ。驚きに何度も目を瞬かせたあと、ようやくその正体を悟る。

 それは身の丈五メートルはあろうかという、鉄の身体を有した巨人だった。

 

「────回り続けるレールはやがて、正義の未来へと繋がる!」

 

 堂々とした声と共に機械の瞳がカッと輝き、その視線が私を貫く。

 

「無限回転寿司戦隊・カイテンジャー! 参上!!」

 

 珍妙な名乗りを上げて、鉄の巨人は私の目の前でポーズを決めてみせた。色とりどりの色彩に塗られた無機質な体躯が、陽光を浴びてキラリと輝く。

 まったく予期せぬ──こんなものが予想できるわけもないが──新たな闖入者の登場に、アルの悲痛な叫びがこだまする。

 

「なんでまたカイテンジャーが出てくるのよっ!?!?」

 

「はっはっはっ。「正義」あるところに我らあり! その「カタナ」とやらは我々が頂くぞっ!」

 

 問答無用とばかりに、巨大な鉄の右手が私に向かって迫る。このロボットまでもが私の刀を狙っているらしい。

 咄嗟に迎撃しようとしたが、的があまりにも大きすぎて、一体どこを斬ればいいのか──、

 

「……きゃあっ!?」

 

 判断が遅れた私の身体を、鉄の張り手がなぎ倒した。まるで戦車にはねられたような衝撃に、刀が手からすっぽ抜けてしまう。

 先生に見せようと、腰留めから鞘ごと抜いて持っていたのが失敗だった。私がふらふらと立ち上がった時には、既に刀は鉄巨人の手中に収まっていた。

 

「レッド、目標物の確保に成功しました」

 

「よぅし、このカタナは我々の正義実現に役立てるとしよう! それでは速やかに撤退、アディオス!」

 

「ま、待て……待って……!」

 

 私の喉から、掠れた声が漏れる。だが視界がぼやけて、うまく体に力が入らない。追おうとした足は前に進んでくれず、へなりと座り込んだ。

 嫌な汗がどっと吹き出して、呼吸が途端に荒くなる。

 だめだ。「彼岸白雪」がないと、私はサムライではなくなってしまう。昔の、何もできない弱虫だった、ただの八重垣チハヤに戻ってしまう……!

 

「ま、まって……ください……おねがい……お願いだから……!」

 

 弱々しい声など聞こえていないかのように、鉄の巨人は踵を消して立ち去ろうとする。

 しかし。その足が二歩と進まぬうちに、巨人の頭部を爆発が包み込んだ。その衝撃に巨躯が揺らぎ、巨人は忌々しげにこちらを振り返る。

 

「────ちょっと、しゃきっとしなさい! アレ、大事なものなんでしょう!? なんとしても取り返すのよ!!」

 

 その叱責は、私の隣で颯爽とライフルを構えたアルによるものだった。

 その一言を合図としたかのように、便利屋の四人が各々の銃口を鉄巨人に向ける。あれだけ巨大な敵を前にしても、四人に怯む様子はない。

 

「ま、さっきまで同じことしようとしてた私たちが言うのも変だけどね」

 

「そ、それは……まあ、そうなんだけどっ……!」

 

「まあ、あいつらに何度も好き勝手されるのは面白くないしね~♪ ウチとは因縁もあるわけだし?」

 

「はははは、はい! ここで始末するべきです……! カイテンジャー、許せません……!!」

 

 組織的に何か恨みを持っているのか、便利屋の四人は私と対峙した時よりやる気のようだ。

 カヨコがこちらを振り向き、私の背後──同じく鉄巨人を見上げる先生に向けて、口を開いた。

 

「先生、私達であいつを足止めする。カタナを取り戻す算段がついたら呼んで。といっても、今の装備じゃせいぜい三分が限界だよ」

 

「問題ないよ。ありがとう、みんな」

 

 先生が頷き、強い眼差しを四人に返す。

 それに満足したように笑みを浮かべて、アルは眼前にそびえたつ巨人を睨みつけた。

 

「さあて。正月の借り、まだたっぷり残ってるんだから! ムツキ、カヨコ、ハルカ! やるわよ!」

 

「ふっ、リベンジマッチならば望むところ! 改良を重ねた「KAITEN FX-MKⅡ」の力、お前たちに見せてやる! いくぞっ!」

 

 四人が息ぴったりに散開すると同時、鉄巨人がうなりをあげて右腕を構えた。右手は複数の砲身を束ねたガトリングガンへと変形し、容赦なく弾丸をばら撒き始める。

 連続する爆発と轟音。瞬く間に、ブラックマーケットを焦土に変えんばかりの戦いが始まった。

 

「よし。アズサ、私達も行くか」

 

「もちろんだ。友人の宝物を奪われたとあっては、取り返さない理由がない」

 

 アズサとヘルメットを被りなおしたサオリが、再装填を終えたアサルトライフルを構え直した。アズサの美しい瞳は、便利屋のものとはまた違う怒りに燃えている。

 

「あ、アズサ……?」

 

「大丈夫だ、チハヤ。必ずカタナは取り戻す……大切なものを、また目の前で失いたくはない」

 

 残存する全武装を使い切る覚悟なのか、アズサはバックパックを逆さにして中身を全て地面にぶち撒けた。

 両手でも持ちきれないほどの武器の数々を、アズサだけでなくサオリも掴み取る。まるで事前に打ち合わせていたかのような、素早く手慣れた動きだ。

 わずか三秒で武器の取捨選択を終え、二人は互いに頷き合って、鏡合わせのように巨人を睨んだ。

 

「前は便利屋に任せ、私達は後方から援護する。二人加われば、多少は稼げる時間を延ばせるはずだ。先生、何か思いついたらすぐに指示をくれ」

 

「────うん。二人とも、頼んだよ」

 

 暴れ狂う巨人の元へ、二人は勢いよく駆けていく。その様子を呆然と見つめながら、私は震える手を握りしめた。

 

「チハヤ、立てるかい?」

 

「む……無理、です……」

 

 私の消え入りそうな声に、先生が驚いた気配が伝わってきた。

 無理もないだろう。勝手に喧嘩するなとお説教までしたほど血の気の多い生徒(わたし)が、いきなり真逆のことを言い出したのだから。でも、実際に足に力が入らなくて、身体はぶるぶると震えっぱなしなのだ。

 

「せ、先生には言ってませんでしたが……私は……刀がないと、著しくよ、よっ、弱気になってしまうんですっ……!」

 

「ええ!? そうなの!?」

 

 地面にへたり込んだまま、アスファルトの染みを見つめて呟く。

 先生にこんなところを見せたくなかった。強いサムライのお面を被っていない、「素」の私なんて、誰にも見せたくなかったのに。そう考えると、目尻に涙があふれてくる。

 

「今の私に期待なんてしないでください。刀のない私なんて弾の切れた銃、いや、イチゴのないショートケーキなんです……!」

 

 頭をぎゅっと包み込むように抱えて、編笠を深く被りなおす。

 正義実現委員会に捕まった時も、エンジニア部に刀を調べられた時も、ちゃんと刀は返ってくると知っていたから耐えられた。

 でも今度はだめだ。あんなに強そうな巨人に取られてしまって、とても取り戻しようがない。

 

「そうだったんだね。チハヤは、刀を持っていないと自信をなくしてしまう子だったのか……」

 

 先生は無言で何かを考えた後、私の前に回ってしゃがみ込んだ。

 背の高い先生の顔がすぐ目の前に降りてくる。その瞳に見つめられそうになり、思わず目線をさっと下げた。

 怖かったのだ。刀がないだけで弱気になる私を見て、先生はきっと失望すると思ったから。だが、

 

「……それでも、チハヤはチハヤだよ」

 

 先生は私の肩を掴んで、視線を私の瞳にぶつけた。

 そこに怒りや失望の色は一切なく、ただ私を信じる先生の瞳があった。

 

「チハヤの力を貸してほしい。あの巨人から刀を取り返して、この窮地を切り抜けるには、どうしてもチハヤの力が必要なんだ」

 

 なにをどう考えたら私の存在が必要になるのか分からないが、先生は強くそう断言した。

 戦えないならひっこんでろとか、邪魔だからどいてろとか言われるとばかり思っていた私は、突然の言葉に目を丸くした。

 その判断はおかしい。今の私が、誰かの役に立てるはずがない。にも関わらず、先生は落ち着いた口調で続ける。

 

「…………多くのことは求めない。ただ、あの巨人に向かって走って(・・・)くれればそれでいい。刀は必ず君の手に戻ると約束する」

 

「そっ、そ、そんなの無理ですよ! あ、あんな銃弾飛び交う地獄に向かって走れというんですか!? いまの私にそんな恐ろしいことできません!」

 

「そうだね。確かに危険だ……そこは、私を信じてもらうしかない」

 

 私が思わず言葉に詰まっていると、連続する銃声と爆音に混じり、息切れ混じりの声が飛んできた。

 

「先生……! こっちはそろそろ、体力も弾薬も底をつく……!」

 

 頭から一筋の血を流したカヨコが、苦しげにそう叫んでいる。

 そうだ。六人は今も、あれだけの武装と巨体を有する鉄巨人を無理して押さえ込んでいる。全ては、私の刀を取り戻すために。

 

「────────〜〜……っ」

 

 その事実を改めて認識して、強く強く両手を握りしめた。私の目尻に溜まった涙が、決壊して溢れそうになる。

 私の為に皆が戦ってくれているのに、私はこんな所でうずくまっている事しかできていない。あの場に駆けつけることも、戦う事もできない自分が情けない。いっそのこと、私が切腹してしまえば……。

 

「よかった」

 

 だが。

 私の涙が頬を伝う寸前に、先生がそんなことを言った。

 

「ど、どっ、どういうこと、ですか……?」

 

「やっぱりチハヤはチハヤだなって。いま、「みんな頑張ってるのに、何もできない自分が不甲斐ない」って考えていたんじゃない?」

 

 心の内を見透かしたような瞳に見つめられ、思わずこくりと頷く。

 

「それなら、やっぱりチハヤは変わってない。自分のために頑張ってくれる他人を放っておけない、素直で真面目なチハヤのままだよ。それなら、きっとやれる。チハヤがすごいことは、私はよく知ってるんだから」

 

 先生が優しく頭を撫でる。

 そんな言葉だけて頑張れるなら苦労しない。頭ではそう考えているのに、心の奥底に、小さな火が灯ったような感覚を私は感じていた。

 

「先生がいくら言おうと、いまの私はゴミカスです。戦うなんてとんでもありません。あらゆる森羅万象に劣る、キヴォトスいち存在価値のない存在といっていいです」

 

「そ、そんなことないと思うけど。本当に刀をなくすとネガティブになるね……」

 

 何度考えたって、私は自分を信じられない。湧き上がる恐怖を押さえつけられるほどの自信も勇気も、とうてい絞り出せそうにない。

 それでも、いまの私にできることがあるとすれば。

 

「────それでも、先生の言葉を信じるくらいは、できます」

 

 先生の瞳を見つめて、私はそう言った。

 目尻の涙を拭う。震える足に力を入れて立ち上がる。大きく息を吸い込んで、目の前で暴れている巨人をまっすぐ見つめる。

 

「指示をください、先生。もう、うじうじしませんから」

 

「……ありがとう、チハヤ」

 

 にこりと笑って、先生は手にしていたタブレットに指を這わせた。軽快な起動音と共に、そのタブレットが起動する。

 

「アロナ、プラナ。戦闘領域を規定範囲より拡大、これから七人同時に指揮を行う。全演算能力を戦闘補佐、未来事象予測に集中して。私の護りは必要ない」

 

 ただのタブレットではない、私の理解を超えたもの。先生が「シッテムの箱」と呼ぶそれは、意気揚々と何かを返答した気がした。

 生徒には聞こえない何者かの声。でも、シッテムの箱の所持者たる先生はそれを聞き取ったらしい。先生は何かを話しかけたあと、微かに笑みを浮かべて頷き、コートをなびかせて前に出た。

 

「───みんな、待たせたね! ここからは私が指揮を取る!」

 

「やっとか……!」

「待たせてくれたわね、先生!」

 

「配置を組み直す! ハルカとムツキは右手に回り込んで! カヨコ、アズサとサオリを連れて逆サイドに!」

 

 先生の声が、まるで直接脳に響くかのように明瞭に聞こえる。これもシッテムの箱が有する機能なのか。指示を受けた生徒たちが、素早く指示に沿って展開してゆく。

 

「……チハヤ、走って! 何があっても、曲がらず一直線に走るんだ!

 

 その指示に頷き、私は覚悟を決めて地面を蹴った。

 刀を持っている時とはまるで感覚が違う。「恐怖」という感情が、私の足を縛り付けているからだ。心の奥底から湧き上がるソレに逆らって、重石がついたような足を必死で動かす。

 

「ムツキ、後方3メートルにありったけの地雷設置! ハルカは前進して左脚のジョイント部を攻撃!」

 

 矢継ぎ早に先生の指示が飛ぶ。それに背中を押されるように、私は足を動かすことだけに専念した。すぐ近くを銃弾が掠め、爆発による烈風と熱が身体を叩く。

 考えるな、考えるな、考えるな……。

 今の状況を少しでもちゃんと考えてしまったら、きっと私は止まってしまう。前のようにへたり込み、恐怖で動けなくなってしまう。

 だから前へ、何も考えずにひたすら前へ。

 

「カヨコ、アズサ、サオリは頭部に火力を集中! 五秒後に反撃がくる、胸部ハッチ警戒! ムツキとハルカは引き続き左脚を狙って、アルは待機!」

 

 まるで未来すらも見通すかのような指揮の通り、鉄巨人の光沢放つ胸部が開いた。その奥に見えるのは、不気味に輝く何発ものミサイル弾……!

 

「うおおおおっ! 『無限回転・HYPER鰯ミサイル』発射────っ!!」

 

 それが技名の宣言と共に放たれると同時、

 

「────アル、今だ! ハッチ内部を狙って!」

 

「まったくもう。人遣いが荒いんだか、らっ!」

 

 既に後方に置き去りにしたアルが、渾身の一射を放った。弾丸は私のすぐ横を駆け抜け、追い越して、吸い込まれるようにミサイルの発射口へと着弾した。

 一瞬遅れて発射口が閉じるが、時既に遅し。アルがほくそ笑む気配と共に、放たれた弾丸は鉄巨人の体内で爆発した。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

 いくら頑強な巨人でも、内部での爆発には弱いのか。

 聳え立つ巨体がぐらりと揺れて、胴体に入った亀裂から黒煙が立ち上る。思わずといったように一歩、二歩と後退し、後方に敷いてあった地雷を踏み抜いた。

 更なる爆炎が巨大を包み込み、こちらまで悲鳴が聞こえてくる。

 

「く……無限回転・HYPER鰯ミサイルの発射口を狙うとは……! 流石だな先生! だが、この程度で倒れる私たちではないっ!」

 

「その通りだ。改良を重ねたMK-Ⅱの損耗率、現在約30パーセント! まだまだ戦闘不能には程遠い!」

 

「いや、感心してる場合じゃない! 地雷を踏み抜いた衝撃でカタナが……!」

 

 そんな会話が繰り広げられている間も、私はとにかく走っていた。

 胸部から放たれたミサイルが目の前に迫る。足を縛りつける恐怖は最高潮に達し、呼吸はとっくに正常なペースを忘れてしまった。それでも先生を信じると決めたから、私は目を瞑って走り続ける。

 そして。迫ってきたミサイルは私のすぐ左右を掠め、背後の地面にぶつかって大爆発を巻き起こした。

 

「わああああああああああああああああっ!!!?」

 

 爆風に背を押されて、私の体がぶわりと浮かんだ。

 不快な浮遊感と共に、どんどん眼下の地面が離れていく。三メートル、五メートル、十メートル……。

 

「ああああああああああああ……あ?」

 

 そして。先生の計算通りに、その時は訪れた。

 棒状の物体が、目の前に宙を舞っている。鉄巨人の手からすっぽ抜けた、黒光りする鞘に収まった一振りの刀。

 それはくるくると回りながら放物線を描いて飛翔し、宙を飛ぶ私と距離を縮めていって、

 

「──────────」

 

 とすん、と、空中で私の手中に収まった。

 

「いや、そうはならんだろ!?」

 

「目の前でなってるんだよリーダー! これが先生の指揮能力だ! クソ、あれを早く取り返そう!」

 

 鉄巨人よりも高くまで吹き飛ばされた私の身体が、重力に囚われて落下を始める。

 でも、既に恐怖はない。

 私は無言のまま、再び手中へと戻った「彼岸白雪」を引き抜いた。陽光を浴びてぎらりと輝く刀身は、いつ見ても変わらず美しい。

 ごめんなさい、大切なあなたを離してしまって。

 固く柄を握りしめる。それだけで、私の心の奥底に残っていた弱気も吹き飛んだ。もうさっきまでの私ではない、と眼下の巨人を睨みつけ、

 

「──────八重垣チハヤ、いきます!!」

 

 身を引く重力に身を任せ、降下しながら強く叫んだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「『無限回転・SUPER海老マシンガン』!!」

 

 落下してくる私めがけて、巨大な右腕が向けられた。

 複数の砲身を束ねた物々しい銃口が、スプリングの力を借りて唸りを上げる。あのサイズの銃口から放たれる弾丸となると、流石の私でも捌ききれない。

 くっ、と奥歯を噛んで、数瞬後に襲いくる衝撃に備える。だが──、

 

「アズサ、サオリ! 今だ!」

 

 戦場を引き裂くように、先生の指示が飛んだ。呼ばれた二人はそれを知っていたかのように、既に照準を終えている。

 

「「【vanitas vanitatum et omnia vanitas】──!」 」

 

 二人が、息ぴったりにトリガーを弾いた。

 放たれた渾身の二射は大気を貫き、轟然と唸りを上げて、カイテンロボの頭部に命中する……!

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

「と、頭部に強烈な攻撃! 損耗率50パーセント!」

 

 二人の闘志が込められたのかと錯覚するほどの、凄まじい威力。

 カイテンロボの上体がぐらつき、放たれたマシンガンの弾丸が私のすぐ横を掠めてゆく。もはや距離は幾許(いくばく)もない。

 私は握った柄に万力をこめて、全身全霊の一閃を打ち放った。

 円弧を描く横薙ぎの一撃。それは鉄巨人の頭部の根元に食い込み、あらゆる金属やケーブル、人工筋肉を切断しながら押し進んで……!

 

「はあああああああああああああっっ!」

 

 ────ずばん、と、その頭部を切断した。

 空を舞った巨人の頭部が、地響きを立てて地面へと墜落する。私は落下の衝撃を殺しきれずに、そのまま地面に叩きつけられた。

 踏み潰された瓦礫の上を転がり、全身をすり傷だらけにしながら、なんとか振り返って巨人を見やる。頭部を欠損した巨体は、沈黙して土煙の中に立ちすくんでいる。

 

「はあ、はあ…………っ」

 

 今の一撃に残った力を全て注ぎ込んだせいで、しばらく立ち上がれそうにもない。

 これでまだ動けるのなら、私になす術はない……。

 訪れた静寂の中で、巨人の行末を固唾を飲んで見守り、そして。

 

「……『無限回転・MEGA玉子オーバーチャージ』!!」

 

 そんな私の期待を裏切るように、巨人は目の前で火花を散らしながら再起動した。

 

「まさか、まだ動け……!?」

 

「動けるとも! たとえ頭部パーツを破壊されようと、我らの正義は不滅だからな! くらえええええっっ!!」

 

 ぐらり、と立ち上がった首無しの巨人は、咆哮じみた駆動音をあげて襲いかかってきた。思わず、刀を懐にしまいこんで身体を丸める。たとえ私がどうなっても、二度と手放すもんかと目を瞑る。

 だが、私が踏み潰されたりすることはなかった。

 私にその巨腕が届くよりもなお早く、その腕が肘の関節部あたりで切断(・・)されたからだ。

 

「「「な……!?」」」

 

 カイテンジャーを含めたその場の全員が、あまりの事に言葉を失った。

 切断された左腕を踏みつけて、一人の少女が立っている。

 風にたなびく白の短髪。その腰に差された、一振りの刀。私の記憶領域に焼きついた過去の記憶が、その姿を見てフラッシュバックする。

 

「あなた、は……まさか……」

 

 その顔は、背中を向けていることで判別できない。だが間違えようがない。少女はこちらを振り返らぬまま、緩慢な所作で抜刀した。

 強烈な赤い光が周囲を照らしあげる。

 少女が持つ刀が割れて、その奥から閃光を放ったのだ。その光を受けた途端、鞘に収めた「彼岸白雪」までもが、何かを告げたいかのように震え出した。

 

「戦闘開始」

 

 そこからの光景は、夢か現実かも判別できないようなものだった。

 少女の刀が閃くたびに、あれだけ強靭だった鉄の巨人の四肢が吹き飛んだ。赤色の閃光を空間に焼き付かせながら、少女はものの三十秒足らずで、目の前の巨人を物言わぬ鉄塊の集合体へと変えてしまった。

 

「──────────────、」

 

 私は、その光景をただ眺めることしかできなかった。

 戦闘を終えた少女が、無言でこちらを振り返る。手にした刀の赤光にあてられて、その顔には深い陰影が落ちていた。そのスリムな体躯は、黒を基調としたSFチックなボディスーツに覆われている。

 ……いや、黙っているわけにはいかない。

 一年も探し続けた憧れの人に、ようやく会えたのだ。遅まきながら意識を取り戻し、目の前の少女に呼びかける。

 

「わ、私……八重垣チハヤといいます! あ、あなたに、同じ刀を使うあなたに会いたくて、ずっと……!」

 

 が。凄まじい悪寒を感じて、私は言葉を中断した。

 全身から冷汗が吹き出す。疲労した身体を恐怖で跳ね起こし、私は咄嗟に刀を抜いた。

 

「はっ……はっ……はっ……!?」

 

 私の生存本能が、目の前の存在が脅威だと告げている。気を抜けばその瞬間にやられる、と。

 戦慄する私をよそに、抜き放った「彼岸白雪」が、同じように青色の輝きを放った。

 赤と青。真反対な二色の輝きが混じり合い、不思議な色彩で空間を照らし出す。向かい合った刃筋はほぼ同一で、ただ光の色だけが異なっている。

 

「やっと見つけた。もう一振りを持ってたのは、あなたね」

 

「な、何を……」

 

 ざり、と少女が一歩を踏み込んでくる。軽快に、刀を構える私なんてまるで脅威と認識していないように。

 しかし、その足は二歩で止まった。私を庇うように立ち塞がった先生と、自分を取り囲んだ生徒たちを見て、少女は足を止めたのだ。

 

「君は、誰?」

 

 先生が、やや警戒を孕んだ声で問いかける。

 その問いに少女は答えず、不機嫌そうに眉間の皺を寄せた。視線は先生に向けたまま、胸部の無線機と思しき機械に問いかける。

 

「……こちらにイレギュラー発生。目標に味方する一団を確認しました。排除しますか?」

 

「いいや。残念だが、そこにおられるのはシャーレの「先生」だ。いくら君でも、そう一筋縄にはいかないよ」

 

 無線機から、低い声が響き渡った。あの少女はどうやら、何者から指示を受けて私の前に現れたらしい。

 

「向こうに先生がついているのは想定外だ。それでも尚、君であれば無力化は可能だろうが……余分なリスクは避けたい。撤退してくれ」

 

 少女は、しばらく無言を貫いた。

 まるでここで立ち去る事を嫌がるように、私を、そして私の構える「彼岸白雪」を見つめる。たっぷり数秒の余白を置いてから、少女は諦めるように「了解」とだけ口にした。

 やっと会えた憧れの人は、早くも立ち去る事を決めたらしい。しかし彼女が去ろうとするより早く、先生が少女を呼び止めた。

 

「待った。生徒たちを無闇に扇動し、こんな事態を引き起こしたのは……あなただね?」

 

 聞いたこともないような底冷えする声で、先生は目の前の少女……ではなく、無線機の奥に佇む何者かに問いかけた。

 物を言わせぬ凄絶な瞳が、黒光りする無線機を睨んでいる。先生があの瞳を生徒に向けないと分かっていても、思わず息を呑んでしまうような鋭い視線。

 

「────ああ。その通りだよ、先生」

 

 が。そんな視線が無線の奥に届くわけもなく、声の主はあっさりとその事実を認めてみせた。

 なんとなく、私はその声に嫌悪感を覚えていた。

 先生と同じく、話し手が「大人」であることを思わせる低い声。だが、その声はどこか薄ら寒くて、表面上の明るさと釣り合っていない。信用ならない、と私は直感的に判断する。

 

「私は「プリンス」という者だ。あなたと語りたいことは多いが、私はこれでも多忙の身でね。直にお目通りした際、改めて自己紹介させていただこう」

 

 無線が切れるや否や、少女は刀を鞘に収めて踵を返した。数歩歩いたところで立ち止まり、肩越しに私へと視線を投げる。

 切先のように鋭く、水底のように昏く濁った瞳が、私のことをじっと見つめている。

 

「私は、必ずそれを手に入れる。近いうちにまた会いましょう」

 

「ま、待っ……!」

 

 そんな言葉を残して、少女は去っていった。

 遠ざかってゆく憧れの人の背中を、私は呆然と見つめることしかできなかった──。

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