キヴォトス剣豪流離譚【完結】   作:モモのすけ

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アウトロー・バトルロイヤル

 

 刀身が春先の暖かな空気を切り割く。

 一度は振り下ろした刀をゆっくりと持ち上げ、上段に構えて、全身の筋肉を使って振り下ろす。所謂「素振り」というものだ。

 単に腕の動作だけでなく、踏み込みに必要な足捌き、刃筋が正しく向いている事を確かめながら、一回一回を丁寧に振るう。

 

「────999、1000っ!」

 

 振り下ろした刀をびたりと止め、私は深く息を吐いた。

 ちょうど千回の素振りを経て、腕も足腰もかなりの負担が溜まっている。そろそろ一息入れようと、額の汗を拭って刀を鞘に収めた。

 

「ふぅ……」

 

 ぼんやりと、陽光に照らされるシャーレの建物を見上げる。

 シャーレに滞在することになってから、はや二週間が過ぎていた。

 最初は見知らぬ街や人物に困惑し、慌ただしい日々を過ごしていたが、慣れというのはどんな物事にもあるものだ。

 サムライになるべく鍛錬に励む傍ら、キリノと一緒に食い逃げ犯を捕まえたり、ゲーム開発部のシナリオ作りに参加したり……色々な事を経験しているうちに、ここでの生活にすっかり慣れてしまった。

 

「ここに慣れたのはいいことですし、親しい友人も増えましたが……依然として、サムライ探しの方には進展がありません。一体どこにおられるんでしょうか……」

 

 先生も多忙を縫って情報を集めてくれているが、刀の少女に繋がるような情報は入っていないらしい。

 シャーレでの拘留期間はちょうど一か月。

 その期間が過ぎれば、私は百鬼夜行に送還されてしまう。それまでに、憧れのサムライに会う手がかりを掴んでおきたいところだが……。 

 

「まあ、とりあえずはシャワーを浴びて……まだ11時ですか。今日はキリノのパトロールもありませんし、ゲーム部もここ数日は修羅場だそうですし、確か午前中は先生も不在……うーん」

 

 やることがない、と私は嘆息した。

 まだ見ぬサムライの手がかりを求めてさすらうのもいいが、私がキヴォトスを目的地もなくほっつき歩くと、大抵トラブルに巻き込まれる。そうなるとのちのち先生が困るので、あてのない外出は控えたい。

 とはいえ、無理に鍛錬しても身体を壊しかねない。あとはもうお昼寝くらいしか……と暇を潰す方策をあれこれ考えていると、ウッドデッキに置いたスマホがぶるりと震えた。

 

「これは……先生からのメッセージ?」

 

 何事か、と怪訝な顔で画面を見やる。そこには、こんなメッセージが表示されていた。

 

『今度こそ、チハヤの探している人の手がかりが見つかったよ』

『さっそく探しに行ってみよう』

 

 

 先生からのメッセージには、しっかり集合場所と時間まで記されていた。場所はD.U.郊外の、なんの変哲もない街角だ。

 どうせ先生不在のシャーレに残ってもやる事がないので、先んじて集合場所に移動し、こうして先生を待っているのだが……。

 

「なんでしょうか、これは」

 

 私は街角のポスターに描かれた、見たこともない生物に心を揺り動かされていた。

 嘴と羽があるから生物学的には鳥に分類されるのだろうが、あまりに異質だ。焦点の合わない瞳に、真っ白な身体。頭からぴょこんと二色のトサカを生やした異形の生物。

 

(この独特な目線。急所が判別できないフォルム。完璧な脱力を為した舌。ふざけた外見に反して、まるで隙が見えない……!)

 

 ごくり、と唾を呑む。

 人体の急所は決まっている。まずは頭部。次に様々な臓器を抱える胴体だ。だがこの生物ときたら、どこからどこまでが頭でどこが胴体なのかまるで分からない。

 仮にこの生物に相対したとすれば、私は一撃たりとも打ち込めずに敗北する予感がある。

 

「この生物は、いったい……?」

 

「それは「ペロロ」だ」

 

 背後から突然に声を掛けられ、私は思わず変な声を上げて振り返った。私としたことが、眼前の怪生物に意識を奪われて周囲への警戒を忘れるなんて。

 だが、振り返った先の少女はもっと奇怪な姿をしていて、私は思わず目を剥いた。

 純白の髪を押しのけるように、武骨なガスマスクを装備した少女だ。シュコー、シュコー、と呼吸音が漏れる中、私はあまりの衝撃に言葉を失ってしまった。

 

「……あ。すまない、驚かせてしまった」

 

 その人物は謝罪を口にして、ゆっくりとマスクを外す。その奥から、これまた驚くような可憐な顔が現れた。

 

「あ、あなたは?」

 

「私は白洲アズサ。あまりに熱心にペロロを見ているから、声をかけたくなって……普段はこんなことしないけど、つい」

 

 アズサと名乗った少女は、すこし顔を赤らめてそう答えた。あえて無言を貫く理由もないので、簡潔にこちらも名乗る。

 

「私は八重垣チハヤです。その、私は最近の流行などに疎いんですが……このペロロという生物は、一体何なんですか? 未確認生物とか?」

 

「いや。ペロロと言うのは、「モモフレンズ」というキャラクターブランドのキャラクターなんだ。他にも様々なキャラクターがいて……」

 

 アズサはそこで言葉を区切り、小さなストラップの付いたスマートフォンを取り出した。

 端末を何度かタップして、表示された画像をこちらに向ける。そこに映っていたのは、多種多様なキャラクターたちだった。いずれも王道なデザインからややズレた、独特な容姿をしている気がするが……、

 

「こういうのだ。どう?」

 

「これは……その……なん、というか……」

 

「なんというか?」

 

 一瞬の沈黙。

 私は画面から目線をアズサに向けて、率直な心情を告げた。

 

「────可愛いですね!」

 

「そうだろう!!」

 

 私の率直な感想に、アズサは声を弾ませて頷いた。

 

「ちなみに、私の一押しはこの死神「スカルマン」なんだ。骸骨(スカル)の名を冠しておきながら、この愛くるしい顔がたまらない」

 

「私はこの、猫のような生物が……このくねるような身体のキレが、相手の攻撃を避ける足捌きに参考になりそうで……!」

 

 同好の士を見つけた嬉しさからか、アズサの口数もぐんと上がる。

 モモフレンズ達の愛くるしい画像を眺めながら、やいやいと二人で盛り上がっていると、人込みの中からこちらに歩いてくる人影があった。

 

「やあ、二人とも。遅れてごめん」

 

「「先生!」」

 

 私とアズサは同時に声を上げて、それからお互いに顔を見合わせた。

 どうやら、またも先生の知り合いらしい。ゲーム開発部の時といい、この大人は一体どれだけの生徒と面識があるのか。そんな私の疑問に満ちた視線に苦笑しつつ、先生は口を開く。

 

「チハヤにアズサ。二人とも仲良くなってるみたいでよかった。なら、互いに紹介はいらないかな」

 

「ど、どういうことですか?」

 

「チハヤの探す人物が目撃された場所は「ブラックマーケット」という場所でね。二人きりで行くには少し危険なんだ。そこで、アズサにマーケットでの案内役、兼護衛役を頼んだというわけ」

 

 なるほど、と私は頷いた。

 私もアズサも、ペロロのポスターをきっかけに偶然出会ったと思っていたが、そもそも最初から同じ場所に集合していたのだ。

 

「護衛対象がチハヤとは予想外だったけど、任せてくれ。ヒフミに教えられたおかげでマーケットの地理には詳しいから」

 

 とん、とアズサは自身ありげに胸を叩く。それから、少しこちらに顔を近づけて小声で耳打ちした。

 

「それに……マーケットには、モモフレンズのグッズも数多く流れているんだ。中でもおすすめのお店があるから、ついでに紹介してあげる」

 

「本当ですか? それは楽しみです!」

 

「ああ、きっと気にいると思う。時間があったら立ち寄ってみよう」

 

 先生はそんな私とアズサを微笑ましいものを見る瞳で眺めた後、こほん、とわざとらしく咳払いをして言った。

 

「じゃあ、行こうか?」

 

 

 一時間後。

 私はすっかり疲労困憊という顔で、路地の片隅に座り込んでいた。目の前には、ヘルメットを被った生徒が昏倒して山のように積み上がっている。

 いずれも、突然私達を襲撃してきた「ヘルメット団」とかいう連中だ。

 ブラックマーケットに入ってから、ならず者達の襲撃を受けたのはこれで六度目になる。先生の指揮の元、アズサと二人でなんとか退けてきたが、もう何人斬り伏せたのかすら忘れてしまった。

 

「はあ、まったく……ブラックマーケットというのは、こんなにも治安が悪いものなんですか……?」

 

 目標地点までの道のりはまだ半分以上残っている。このペースで襲撃を受ければ、今日だけで100人斬りを達成してしまいそうだ。

 私の問いかけに、アズサも同じく疲労の滲む顔で答える。

 

「……いや、これは明らかに妙だ。いくらブラックマーケットとはいっても、普段はこんなに荒れてない。マーケットガードが姿を見せないせいだ。それに、なぜか私達が集中的に狙われてる気がする」

 

「不良グループにヘルメット団、アルバイト傭兵。一日にこんなに襲撃を受けるのは初めてだね……」

 

 先生は何かを考えるように沈黙する。

 最近気づいたが、先生は物事を考える時に顎を撫でる癖があるらしい。だからなんだという話だけれど。

 

「困ったな。ヒフミなら更に危険性の低いルートを知っていそうだけど、今はちょうど補修試験を受けているところだし……そうだ」

 

 先生が考え込んでいる間、アズサはごそごそと背負ったバックパックを探り、座り込んだ私の目の絵に物騒な品々を並べていく。

 

「アズサ、これは何ですか?」

 

「発煙弾に閃光弾、C4爆弾に催涙弾とガスマスク。チハヤは銃が嫌いと聞いているが、これなら銃じゃないし問題ないだろう。使い方も簡単だ。不測の事態に備えて、一つくらいは何か持っておいた方がいい」

 

 う、うーん、と思わず唸ってしまった。私が銃を嫌いなのは、サムライの武器としては不適切だからだ。その点から考えれば、こういった携行武器の類も、あまりサムライのイメージにはそぐわない。

 とはいえ、アズサの親切心を無下にするのも考え物だ。

 迷った結果、もっとも殺傷力の低い発煙弾のみを受け取る。刀以外の武器でダメージを与えず、煙幕として用いるだけならば、ギリギリ私の中のサムライ像に引っかからない……気がする。どうせ私の主観に基づく話なので、ひどく個人的なこだわりになってしまうが。

 と、そんなやり取りをしている私とアズサに、先生が真剣な顔で口を挟んだ。

 

「ごめん、アズサ。せっかく準備をしてくれたところ申し訳ないけど、今日はやめにしよう。撤退だ」

 

「ど、どうしてですか、先生! せっかく、追い求めた手がかりが見つかったのに……!」

 

「いや……これは私のカンだけど、この襲撃の連続は偶然じゃない。たぶん、誰かが陰で糸を引いている。これ以上進むと、二人に危険が及びかねない」

 

 先生が何かを警戒するように、路地の先を見やる。

 ブラックマーケットの構造はひどく歪で、無計画に建てられたボロい低階層のビルの隙間を、狭い路地が縦横無尽に走っている。裏取引が主を占めるからか、どこが店でどこが廃墟なのかも分かりにくい有様だ。道を知っていなければ、無限に彷徨ってしまうだろう。

 故に、その視線の先はすぐに別の路地へと分かれ、見通す先は怪しげな看板と闇ばかり。

 私への同意を求めるようにアズサを見たが、彼女は残念そうに首を振った。

 

「……正直、その選択は間違ってないと思う。このハイペースで襲撃されると、チハヤはまだしも、私の弾薬が底を尽きかねない。ここに来るなら、もっと人員を増やして、弾薬なんかの準備も万全に行なうべきだ」

 

 多数決だと二対一だ。せめてもの抵抗にぐぬぬ、と唸ってみたが、先生に響く様子はないので諦める。

 

「……二人がそう言うなら、仕方ないですね……」

 

「大丈夫、また来よう。次はもっと準備をしてからね。じゃあ二人とも、出発しようか」

 

 私の頭をひとしきり撫でてから、先生はすっくと立ち上がった。

 進路はこれまでの真逆。銃の再装填を終えたアズサと頷き合い、アズサが前、真ん中に先生、後方に私の布陣で歩を進める。これが最も先生を守りやすく、かつ先生の指揮を活かせる配置だからだ。

 何度も進む路地を変え、怪しげな商店やテントの数々を潜り抜けて、道幅一メートルもない裏路地に差し掛かったとき。私の嗅覚が不快な火薬の匂いを捉えた。

 

「────伏せて!」

 

 アズサが警告を発すると同時、爆発音が鼓膜を揺るがした。音源は右でも左でもなく、真上だ。勢いよく上を向くと、オンボロビルの壁面が粉々に砕け、巨大な瓦礫が私目掛けて落下してくる……!

 

「くっ!」

 

 私は咄嗟に地面を蹴って、その崩落に巻き込まれるのを避けた。目の前に幾つもの残骸が積み重なり、向こうにいる先生とアズサを遮ってしまう。

 私は頬を伝う冷汗を拭い、瓦礫の向こうに消えた二人に呼びかけた。

 

「先生!? アズサ!? 無事ですか!?」

 

「私と先生は無事。でも……くそ、うまく分断された。この瓦礫は乗り越えられそうにない」

 

「チハヤ、すぐに迂回して合流するね。危険かもしれないから、その場所を動かず……」

 

「先生、敵! 前方!」

 

 アズサの警告が飛ぶと同時、激しい銃撃戦の音が瓦礫越しに聞こえてきた。

 瓦礫を叩いて二人の名前を呼んでみるが、応答はない。その代わり、断続的に続く爆発音と銃声だけが返答代わりに返ってくる。

 

「くっ。私の方から向かった方がいいですね」

 

 敵の狙いが先生とアズサなら、私も今すぐに駆けつけるべきだ。すれ違うこともできないような狭い路地を全速力で駆け抜け、入り組んだ路地の迷路に飛び出す。

 こうなったら当てずっぽうで路地を走り回り、向こう側に行く道を探すしか……と考えたところで、前方に一人分の人影が立ち塞がった。

 

「────こちらターゲットを確認。迅速に無力化する」

 

 ヘルメットを被った長身の人物だ。

 マズル・フラッシュじみた薄青の刺々しいヘイローが、傷だらけのメットを物々しく照らしている。その手には無骨な黒のアサルトライフル。すらりと長い四肢は筋肉に覆われ、その身体能力の高さを伺わせる。

 

「はあ、またメット団の新手ですか。ですが、いまさら下っ端が一人来たところで……」

 

 そこまで言ってから、言葉を呑む。

 このブラックマーケットに入ってから、少なくとも二十人はヘルメットを被った連中を斬り伏せ、蹴散らし、前へ前へと進んできた。

 だが。目の前のヘルメット女は、何かが違う。

 

(歩き方に一切の無駄がなかった。それにこの気配、間違いなく今までの敵とはレベルが違う。まさか、私たちを的確に分断したのは……)

 

 予期せぬ強敵と判断し、熱が出るかと思うくらいに思考を回す。

 私はこの強敵と戦って勝てるのか。仮に勝てたとして、先生とアズサに合流するだけの体力を残せるのか。そこから脱出までの目処は立つのか。

 一秒で決断を下す。

 私は、構えた刀を潔く鞘に収め、得難い強者と戦いたい気持ちをぐっっ……と堪えて、180度方向転換して走り出した。

 

「──────待て!」

 

 背後のヘルメット女が走り出す気配。それを無視して、ブラックマーケットの路地迷宮を駆ける。

 とにかく今は先生との合流を優先するべきだ。

 ダクトや室外機の狭間をすり抜け、放棄された廃ビルの階段を駆け上がり、何度も路地を曲がって曲がって、ようやく大きめの路地に飛び出した瞬間──、

 

「あ。カタナ使いの女の子、み~っけ☆」

 

「っ!?」

 

 そんな声と共に、視界の端に大きな黒い影が映った。

 どこからか投擲されたのか、何の変哲もない黒のボストンバッグだ。直撃するコースでもないし、危険性はないに等しい。

 にも拘わらず、私の本能は「危険」と判断した。

 理性よりもカンを信じて身を伏せる。ほぼ同時に、バッグは内側から発生した熱と閃光に引き裂かれ、大爆発が巻き起こった。

 

「う、ぐうっ……!!」

 

 伏せたおかげでダメージは抑えたが、それでも凄まじい爆発だ。

 熱波と衝撃が体を叩き、地面にしがみつこうとする手が離れる。爆風にあおられて地面を転がり、倒れた看板にぶつかって停止した。

 

「あーあ。ざんねん、避けられちゃった」

 

「ムツキ、爆薬多すぎ。大事な「お宝」が爆発で壊れでもしたら終わりだよ、私たち」

 

「えっ、えっ、こ、このあたり一帯に爆薬を仕掛けに仕掛けてしまったんですが……! いいい今から全部撤去した方がいいですか!?」

 

 私がせき込みながら立ち上がると、もうもうと立ちこめる黒煙の向こうから、銃器を構えた少女たちが姿を見せた。

 新手は三人組か、と早合点しかけたところで、こちらを射抜くもう一つの視線に気が付く。

 

「くっ!!」

 

 間一髪。

 轟くような銃声と共に放たれた弾丸を、私は辛うじて刀身で弾き返した。それは逸れて背後の建物に着弾し、再び爆発を巻き起こす。

 弾丸に時限爆弾でも仕込んであるのか。掌に伝播する衝撃に顔を顰めつつ前を睨むと、四人目──リーダーと思しき最後の一人が、コートをたなびかせて悠々と姿を見せた。長い朱色の髪、後頭部から生えた一対の角。不敵な笑みを浮かべ、少女はこちらを見下ろしている。

 

「問題ないわ。いま見た通り、アレは銃弾を受けようとキズ一つつかない。「そういうもの」だと、クライアントから聞いているもの」

 

「わお、すごーい。アルちゃんの狙撃を斬り飛ばしちゃうなんて!」

 

「……そういう事は先に言っといて。まあ、それなら遠慮はいらないか。出し惜しみなし、とっとと仕事を終わらせよう」

 

「はは、はい! ぜ、ぜぜ全力で、潰します……!!」

 

 四人が各々の獲物を構える。状況は一対四。単純な数的不利に加えて、この四人は今までのしてきた不良たちほど容易く倒せる相手ではなさそうだ。

 かなり絶望的な状況だが、さらに──、

 

「見つけたぞ」

 

 私が逃げてきた廃墟から、ゆらり、と長身のヘルメット団員が姿を見せた。ヘルメットの奥の眼光がまず私を見つめ、それから四人組の方へと向けられる。

 乱入者を注視したのは四人組も同様。どうやら味方同士というわけではなさそうだが、狙いは同じらしい。

 

「ヘルメット団? いや、ただの構成員じゃないな。気を付けて社長、あいつ強いよ」

 

「ここで同業者と出くわすとは……「また今度」がこういう形になると、予想していなかった訳じゃないが……」

 

 私を挟んで両者が睨み合う間、素早く互いの位置を確認する。

 位置関係は最悪だ。幅が五メートルほどの路地で左右に逃げ場はなく、背後には追手のヘルメット団、目の前には正体不明の四人組。

 

「────これも仕事だ。目標確保の障害となるのであれば、先達(せんだつ)といえど排除する」

 

「ふん。悪いけど、裏社会の競争に負けるつもりはないわ。……私達、「便利屋68」はね!」

 

 集った五人が勢いよく武器を構える。

 絶体絶命……改めて自分の状況を認識し、私は強く唇を噛んだ。

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