(社説)初の女性首相 「天井」は破れたけれど

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 女性が参政権を得て80年。国会議員に占める比率が2割ほどに過ぎない国で、米国よりも早く「ガラスの天井」が破られた。この事実を喜ぶ人がいる一方で、複雑な思いを抱く人も多いだろう。

 選択的夫婦別姓同性婚など個人の人権、ジェンダー平等への取り組みに否定的な高市新首相の姿勢をみれば、当然のことだ。自民党総裁選では外国人への不安をあおり、選出直後には「ワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」と発言した。女性首相の就任がマイノリティーの歩みを止めたり、後退させたりしないか。懸念が広がる。

 それでも世襲ではない、地方の会社員家庭出身の女性が選ばれた意義は大きい。男子の普通選挙法が制定された1925年、婦人参政権運動を率いた市川房枝氏は日記に「女性から参政権が奪われた日として記憶する」としたためた。だが社会はそれを「普通選挙」と呼ぶことに、違和感も持たなかった。

 100年を経て、日本社会はようやく女性が国のトップに就くところまで来た。

 1961年生まれの高市氏の半生は、戦後の女性たちの歩みと重なる。著書によれば弟の進学費用のために東京の私立大を許されず、嫁入り前だからと一人暮らしも認められず、神戸大奈良県から通学したという。男女雇用機会均等法が成立する前年の84年に大学を卒業し、テレビキャスターなどを経て政界へ。家族の介護なども担いつつ、男性社会を生き抜いてきた。

 政治家としても男性中心の「古い自民党」そのものの体質の中で育まれ、総裁選では麻生太郎氏に頼って勝ち抜いた。日本維新の会の要望をほぼ丸のみして、首相の地位にたどり着いた。

 政治は社会の「映し鏡」と言われる。高市氏の首相就任という事実が日本社会の現在地だ。そこから私たちは、多様性のある社会に向けて歩み始めるしかない。

 新首相は永田町の外に足を運び、マイノリティーの声を直接聞く機会を増やすべきだ。伝統的な価値観に凝り固まるのではなく、女性や外国人、性的少数者、障害者らがどのように生き、どのような社会を望んでいるのかに耳を傾ける。新たに見える光景、聞こえる声があるはずだ。

 社会はこれを女性やマイノリティーの議員を増やす出発点にしたい。首相も、自身の経験を踏まえたうえでの突破力が問われる。多様な価値観を持つ政治家が一人でも多く生まれることが「初の女性首相」の先、日本社会の次の100年につながる。

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