イギリスでは「ミソジニー防止教育」の方針
──性教育というと、「子どもはどのようにできるのか」といった生殖について教えるイメージがあります。
もちろん、生殖の話も大切な性教育ですが、それだけではありません。性教育で著名な村瀬幸浩さんは、人間の性には「生殖」「快楽共生」「支配」という三つの側面があり、性教育においてはその三つをきちんと教えなくてはならないとおっしゃっています。そして今の日本は、性感染症や望まない妊娠についてなど「不幸にならないための性教育」はされていても、「幸せになるための性教育」が足りないのではないか、と。
親からすると、性の「快楽」の側面は、「生殖」や「支配」よりも語りづらいところがありますが、同時にとても大事なことでもあります。性行為というのは、生殖一辺倒のものではない、そして関係性によっては幸せや快楽を与えてくれるものだけれど、場合によっては支配や暴力になり、恐怖を与えるものにもなり得る。そうしたいろんな面があるんだよということを、子どものうちに理解できるといいと思います。
──性加害の動機が「性欲というよりは支配欲」だとすると、性そのものについての教育とともに、「支配」ではない関係性の作り方についても教えていく必要がありますね。
もちろんです。こういう問題が起きているのは海外でも同様で、教育による取り組みが行われている国もあるようです。例えば、AFP(2025年7月16日)によると、「いわゆる『マノスフィア』(※)界隈のインフルエンサーが発信する性差別的なコンテンツがネット上で拡散していることを受け、英政府は15日、学校で子どもたちにミソジニー(女性蔑視、女性憎悪)防止教育を行うと発表した」と伝えています。
その記事によると、11~18歳の子どもたちは、「インセル」(※2)文化、そしてポルノとミソジニーの関連性について認識を深めるための授業を受けるそうです。イギリス政府は、若者の間でミソジニーが流行していると警告しており、中学校でも新しい指導ガイドラインに基づき、AIを用いて生成された偽物の画像や映像「ディープフェイク」に対する意識向上を図るとのことです。
日本でもこうした教育をぜひ始めてほしい。今すぐにでも早く取り組むべきだと思います。
※1 …男性中心の価値観で構成されたネット上のコミュニティー。
※2…Involuntary Celibateの略語。いわゆる「非モテ」の意味。