「グエー死んだンゴ」8文字からの寄付の輪 遺族「がん研究進めば」
がん研究への寄付が増えている。きっかけは、今月がんで亡くなった北大生の中山奏琉(かなる)さん(22)が生前、Xに投稿した「グエー死んだンゴ」の8文字。父親の和彦さん(48)=北海道津別町=は「多くの方々が関心を寄せて寄付していると聞いて、素直にうれしい。息子の場合、治療の手立てが一切ないという説明だったので、何もできることがなかった。希少がんも含めて治療が難しい病気の研究が進めばと思う」と話す。
生前に予約配信
発端の一文は、中山さん(アカウント名:なかやま)が14日午後8時に投稿した。「グエー死んだンゴ」は2010年代に匿名掲示板「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」で生まれたネットスラングで、相手の言葉にショックを受け、死んだふりをする時などに使われてきた。
和彦さんによると、中山さんは「類上皮肉腫」と闘っていた。国立がん研究センター(東京)の希少がんセンターのホームページによると、新規患者は年間20人ほどで、希少がんの一つという。
中山さんは10日の投稿で「多分そろそろ死ぬ」と記し、3日後の13日に「なかやまの友人です」とする投稿で、12日夜に亡くなったと伝えられた。周囲によると14日の投稿は、生前に予約配信していたと見られる。
手術や抗がん剤治療を続けながらも、ユーモアを交えたひょうひょうとした語り口で発信を続けてきた中山さん。Xでは感服の声が上がり、「グエー死んだンゴ」に対するお約束の返答となるネットスラング「成仏してクレメンス!」と書く返信が相次いだ。
「『成仏してクレメンス』をここまで敬意を持って言える事そうそう無いよ」
「予約投稿設定して、生き延びてまた予約投稿してってやってた間どんな気持ちだったのかと考えてると涙止まらなくなるわ。改めて、成仏してクレメンス…」
国立がん研究センター「心より感謝」
投稿をきっかけに「香典」として、医療機関に寄付する動きも広がった。献血や骨髄バンクへの登録を表明する投稿もあった。
国立がん研究センターによると、国立がん研究センター基金への寄付件数は増えている。ただ、具体的な件数や金額は「お答えを差し控える」とした。
その上で「多くの方からXのポストを見て、がん医療・がん研究の支援のため寄付をしたいとのコメントをいただいております。併せて、医療従事者への応援や、がん克服への願いを込めたメッセージも多数いただいております。SNSを通じて多くの方々が寄付という形でご支援の輪を広げてくださったことに、心より感謝しております」とコメントした。
朝日新聞の調べでは、寄付の申し込み順に割り振られる受け付け番号は22日に2万6千番台となっており、14日の投稿以降の寄付件数は2万件近くに上り、それ以前から急増している。
表示回数3億回 父の思い
同センターに寄付したという静岡県在住の会社員(33)は、取材に「祖父や知人など身近な人たちにもがんが多い。全てのがん患者の皆さんががんに打ち勝てることを祈っている」と語った。これまでネットで寄付ができることを知らなかったといい、多くの人に知ってもらおうとXで発信したという。
自身も腫瘍(しゅよう)の治療中という川崎市在住で20代会社員女性は、初めて医療関係の団体に寄付したという。取材に「私もSNS上で人の優しさに何度も救われた経験がある。今度は私が誰かの明日のために力になれればと思った」と話した。
「グエー死んだンゴ」の投稿には、22日午後1時時点で84万の「いいね」がつき、表示回数は3億に達している。
和彦さんは「息子のXアカウントの存在は知らなかったが、葬儀の際に友人から話題になっていると聞いて驚いた」と話す。「息子が痛がって苦しみ、若くして亡くなるまでの様子をずっと見てきた。研究が進み、息子のような人が少しでも減ってくれればと願っている」
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- 【視点】
まだ22歳の前途有為な若者だった中山さんの死を悼み,心から哀悼の意を捧げます. これをきっかけに,がんセンターへに多くの寄付があったとのこと.ある社会心理学研究を思い出しました.飢餓に苦しむ人々への寄付を募る時,「統計」より「顔と名前のある一人の子ども(Rokiaちゃん)」を示した方が多くの寄付を獲得したことを示した,つまり,人は抽象的な多数より,具体的な一人の物語に動かされやすいという結論が得られた研究です.以下で全文を読むことができます. Small, Loewenstein & Slovic (2007) Sympathy and callousness: The impact of deliberative thought on donations to identifiable and statistical victims. https://doi.org/10.1016/j.obhdp.2006.01.005 物語(ナラティブ)による説得の効果はこの文脈によらず今般注目を集めています.本記事のエピソードにケチをつけるつもりはまったくありませんが,不適切な模倣が起きないことを願うばかりです.
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