不同意性交事件の判決が示すもの〜22歳の男性2人に実刑、私たちが学ぶべきこと〜
新卒同期の飲み会から始まった一夜が、懲役5年6ヶ月の実刑判決という結果を迎えました。
2025年10月に東京地裁で下されたこの判決は、SNSで大きな反響を呼んでいます。
飲み会後、女性A、男性B、男性Cの3名がラブホテルへ向かい性行為に及んだ後、女性が不同意性交で告訴した事案です。一見すると「よくある飲み会の延長」に見えるこの状況が、なぜ実刑判決に至ったのか。
この事件から私たちが学ぶべきことは何でしょうか。
判決の概要
2025年10月22日、東京地裁725号法廷で判決が下されました。
罪状:不同意性交等罪+性的姿態等撮影罪
求刑:懲役7年
判決:懲役5年6ヶ月(実刑)
今後:控訴される見込み
注意:一審判決であり、まだ確定していません
控訴審、場合によっては上告審でどう判断されるかは分かりません。判決が覆る可能性も残されています。
何が起きたのか
傍聴記録から分かる事実関係は以下の通りです。
同期の飲み会
3人でホテルへ(女性A、男性B、男性C)
男性Cが一時離脱
男性Bと女性が性行為
男性Cが戻り3P(生中出し、顔射)
解散後、女性が警察へ
女性は寝ている男性2人の裸体を撮影し証拠保全
争点は、女性がアルコールにより「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」だったか。そして被告にその認識があったかどうかです。
検察側が示した証拠
検察は、女性が混乱(泥酔)状態だったとして、以下の証拠を提示しました。
両脇を抱えてホテルへ移動していた
廊下で首を垂れたり、壁に頭をぶつけたりしていた
事後の検分でアルコール呼気0.47mg/L検出(血中アルコール濃度に換算すると約1.0g/L程度、かなり高い水準)
すぐに警察に行った事実
男性2人の寝ている裸体を撮影し、証拠を残した行動
これらから被害意識の強さと、混乱状態にあったことを主張しました。
弁護側の反論
一方、弁護側は以下の理由で、女性は混乱状態になかった、少なくとも客観的に認識できる状態ではなかったと主張しました。
アルコールが検出される状態にもかかわらず、歩行・応答に問題なし、顔色平常という検分結果
HUBで階段を一人で登りながら電話できていた
男性Bとの性交を中断させて電話することができていた
飲み中や外での休憩中、女性から被告にもたれかかったりスキンシップがあった
行為中に撮影された動画で笑顔を見せている
口腔性交においてむせたりせず、自ら吸引する音声が入っていた
証拠撮影など、女性に判断能力があった
これらから、客観的な混乱状態の判断は難しいと主張しました。
裁判官の判断
裁判官は以下のように判断しました。
混乱状態について:
男性2人を撮影し証拠保全に動いたこと、すぐに警察に向かったことは、顔面への射精という行為への怒りで覚醒した可能性もある
歩行テストなどの結果も同様
検察が主張するホテル内の映像からも、混乱状態という推認は揺らがない
故意について:
被告はずっと一緒に飲んでいたため、泥酔を認識できており、故意がある
量刑理由: 泥酔に乗じて、アルコールにより同意しない意思を全う・形成できない状態で避妊具をつけず、自己の性的欲求を満たすためだけに女性の人格を無視してもてあそび、性欲の捌け口にする行為。反省も見られず、同期への信頼も裏切ることから、前科がないなど被告に有利な事情を考慮したとしても懲役5年6ヶ月が相当。
医師として伝えたい「泥酔」の医学的側面
医師の立場から、いくつかの重要な点を指摘させてください。
アルコール呼気濃度0.47mg/Lの意味
事後の検分でアルコール呼気0.47mg/Lが検出されています。これは血中アルコール濃度に換算すると約1.0g/L程度。十分に「酩酊期」から「泥酔期」に入る水準です。
ただし、事件から検分までに時間が経過しているため、事件当時はさらに高濃度だった可能性があります。アルコールは時間とともに分解されるからです。
「覚醒」のメカニズム
裁判官が指摘した「顔射への怒りで覚醒した可能性」は、医学的にも説明可能です。
強いショックや怒り、恐怖といった感情は、アドレナリンを放出させます。これにより一時的に意識がクリアになることがあります。しかし、これはアルコールの影響がなくなったわけではありません。
つまり、「警察に行けた」「証拠を撮影できた」からといって、事件当時の判断能力があったとは言えないのです。
機能的ブラックアウトの恐ろしさ
弁護側が指摘した「歩行・応答に問題なし」「電話ができた」「笑顔を見せた」。これらは「機能的ブラックアウト」の典型的な特徴です。
表面上は行動できる。会話もできる。笑うこともできる。でも後で記憶がない。判断能力が著しく低下しているのに、外から見て分からない。
これが最も危険な点です。相手が「大丈夫そう」に見えても、実は判断能力を失っている可能性があるのです。
「壁に頭をぶつける」という客観的サイン
検察が指摘した「廊下で壁に頭をぶつけていた」という行動は、医学的に見て明らかな協調運動障害のサインです。
自分の体の動きをコントロールできていない状態。これは判断能力の低下を示す重要な客観的証拠です。
法律はどう判断するのか
不同意性交等罪の成立には、二つの要件が必要です。
まず客観的要件。被害者が「抗拒不能状態」だったかどうか。今回は、壁に頭をぶつける、両脇を抱えられて移動するという客観的状況がありました。
次に主観的要件。被告人が相手を抗拒不能と認識していたか。今回の判決では、「ずっと一緒に飲んでいたため、泥酔を認識できていた」として故意が認定されました。
一審では、これらの要件が認められ、有罪判決となりました。
「行動できた」からといって同意があったとは限らない
福岡で起きた類似の飲み会事件も、同じ構図でした。
一審では無罪判決が出ました。被害者が性交前後に携帯電話を操作したり、自分で歩いたりできたことから、「抗拒不能ではなかった」と判断されたのです。
ところが二審では、この判断が覆されました。そうした行動ができていても、総合的に見れば抗拒不能状態だったとして、有罪(懲役4年)に逆転したのです。
今回の東京地裁の判決も、この考え方に沿っています。表面的な行動能力だけでは判断できないという立場です。
ただし、一審判決は確定していません。控訴審や上告審で覆る可能性は残されています。
男性が知っておくべきリスク
この事件から、特に若い男性が学ぶべき教訓があります。
リスク1:「楽しそうに見えた」は通用しない
笑っていた、自分から誘ってきた、積極的だった、スキンシップがあった。これらは必ずしも「同意があった」証拠にはなりません。泥酔状態では、本人の意思と行動が一致しない可能性があるからです。
今回も、動画で笑顔を見せていた、口腔性交で自ら吸引していたという証拠がありましたが、有罪判決となりました。
リスク2:「壁に頭をぶつける」は明確な危険信号
相手が壁に頭をぶつけたり、両脇を抱えないと移動できない状態なら、それは明らかな泥酔のサインです。
この状態で性行為に及べば、「泥酔を認識していた」として故意が認定される可能性が極めて高いのです。
リスク3:生中出しと顔射は量刑を重くする
今回の判決理由で特に強調されたのが「避妊具をつけず」という点です。
生中出しや顔射という行為は、女性の人格を無視した行動と評価され、量刑を重くする要因になりました。求刑7年に対して判決5年6ヶ月ですが、これでも初犯の22歳には極めて重い刑です。
リスク4:複数人での性行為は特にリスクが高い
今回のように3Pの形態は、より複雑な状況を生み出します。各当事者の認識がずれやすく、後から問題になりやすいのです。
リスク5:動画や写真は必ずしも有利な証拠にならない
「笑っている動画があるから大丈夫」と考えるのは危険です。機能的ブラックアウトの状態では、表面上は楽しそうに見えても、判断能力は失われている可能性があります。
今回も動画証拠がありましたが、有罪判決でした。
リスク6:不同意性交等罪は非常に重い
法定刑は5年以上の有期拘禁刑です。執行猶予がつかず、初犯でも実刑になる可能性が高い犯罪です。
今回は22歳という若さで懲役5年6ヶ月。20代の貴重な時間を刑務所で過ごすことになります。
では、どう行動すべきか
1. 相手が酔っている時は性行為をしない
最も確実な自衛策は、相手が明らかに酔っている状況では性行為をしないことです。
特に以下のサインがあれば、絶対に性行為をしてはいけません:
壁や人に頭をぶつける
まっすぐ歩けない
両脇を支えないと移動できない
呂律が回らない
首が垂れる
2. 「飲み会の延長」という認識を捨てる
「みんなで楽しく飲んでいた延長だから」という認識は危険です。飲酒の状況が変わった瞬間、リスクは急激に高まります。
3. 明確な同意を確認する
「嫌じゃない」ではなく、「したい」という積極的な同意を確認すること。酔っている相手からは、明確な同意を得られません。
4. 避妊具は必ず使う
生中出しや顔射は、相手の人格を尊重していない行為と評価されます。仮に同意があったとしても、避妊具の使用は必須です。
5. 記録に頼らない
動画や写真があっても、それが同意の証拠になるとは限りません。今回の事件が示すように、笑顔の動画があっても有罪になり得ます。
6. 「自分は大丈夫」と思わない
被告の男性2人も、おそらく「よくある飲み会の延長」と思っていたはずです。傍聴した人の所感でも「かっこいいし普通にモテてきたんだろう」という印象だったようです。
誰もが加害者になり得る。それがこの事件の教訓です。
一審判決への反応と問題
この判決に対し、SNSでは大きな反響がありました。
傍聴した複数の人が「冤罪感が凄い」「これがまかり通るなら酒飲んでる時点で全てアウトになり得る」「5年半は無いだろ」という感想を述べています。
とある執政官氏は「チーム冤罪」「中世魔女裁判」といった強い表現で判決を批判しました。
これらの反応には、一定の理解もできます。動画で笑顔を見せていた、電話ができていた、という事実があるのに有罪になった。22歳という若さで5年6ヶ月の実刑。確かに重い判決です。
しかし、同時に考えるべきことがあります。
「冤罪か」「適切な判決か」は確定していない
重要なのは、これは一審判決だということです。
控訴審でどう判断されるかは分かりません。過去には、一審無罪が二審で有罪に覆ったケースもあれば、その逆もあります。
証拠の評価、法律の解釈、事実認定の方法。これらは審級ごとに見直されます。
だからこそ、一審判決だけで「冤罪だ」「正しい判決だ」と決めつけることはできません。
私たちがすべきことは、控訴審の判断を待ち、その理由を丁寧に読み解くことです。
SNSでの情報拡散が抱える問題
傍聴メモは貴重な情報源です。しかし、限界もあります。
実際の動画や写真は見られない
証人尋問の詳細な内容は分からない
裁判官がどの証拠をどう評価したかの全体像は見えない
傍聴者の主観が入る
特に問題なのは、裁判官への人格攻撃です。
「女性経験・性愛経験が少ない場合」「チーム冤罪」「全員クビにすべき」。こうした表現は、司法への信頼を根底から揺るがします。
判決に不満があるなら、適切な上訴手続きで争うべきです。SNSで裁判官を攻撃しても、公正な裁判には繋がりません。
不同意性交等罪という法律の背景
2023年の法改正で、性犯罪の要件が見直されました。従来の「暴行・脅迫」がなくても、恐怖で体が固まったり、相手との関係性で抵抗できない実態があるとして変更されたのです。
これは被害者保護の観点から重要な改正でした。同時に、新たな課題も生まれています。
同意の境界線がより曖昧になった
善意の誤信の可能性
客観的証拠による判断の重要性
被告人の防御権の保障
これらのバランスをどう取るかが問われています。
性犯罪をめぐる難しさ
性犯罪の最大の難しさは、同意の立証にあります。密室で起きる出来事に、客観的な証拠が残りにくい。当事者の記憶も曖昧になりやすい。
今回の事件も、双方の主張に隔たりがあります。被告側は無実を主張し、女性側は被害を訴えています。一審判決は有罪でしたが、控訴審でどう判断されるかは分かりません。
医学的知見、法的判断、社会通念。これらが複雑に絡み合う問題に、簡単な答えはありません。
私たちが考えるべきこと
この事件から学ぶべきは、単純な「有罪か無罪か」ではありません。
若い男性として:
泥酔者との性行為のリスクを理解する
「壁に頭をぶつける」などの危険信号を見逃さない
同意の確認を徹底する
「大丈夫そうに見える」という判断の危うさを知る
生中出しや顔射が量刑を重くすることを知る
「飲み会の延長」という軽い認識を捨てる
情報を受け取る側として:
一方的な情報で判断しない
SNSの傍聴メモは一つの視点に過ぎない
実際の証拠を見ていない限り、確実なことは言えない
裁判官への人格攻撃は不適切
控訴審の判断を待つ
社会として:
性犯罪の難しさを理解する
被害者も加害者も生み出さない環境を考える
法律の運用を見守り、学ぶ
若い世代への教育の重要性
22歳という若さ
最後に、被告が22歳という若さであることに触れたいと思います。
新卒として社会人になったばかり。人生これからという年齢です。5年6ヶ月という刑期は、20代の貴重な時間の大半を奪います。
一方で、女性も22歳です。同じく人生これからという年齢で、トラウマを抱えることになったかもしれません。
誰も幸せにならない結果です。
だからこそ、同じような状況を生み出さないこと。それが最も重要です。
飲み会は楽しい。出会いもある。でもその楽しさが、一瞬にして人生を狂わせる可能性があることを、私たちは知っておくべきです。
控訴審の判断を待ち、その理由を丁寧に読み解く。そして、若い世代に正しい知識を伝えていく。それが、この事件から学ぶべきことではないでしょうか。
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この事件から学ぶべきことは、泥酔状態での性行為が持つリスクと、それに伴う法的責任です。「壁に頭をぶつける」などの明確な危険信号を見逃さず、同意の確認を徹底することが重要です。ま…