透き通るような世界観にいちゃいけないタイプのクリーチャーに成ったけど今日も元気に擬態する 作:食卓の英雄
尚、今話には若干閲覧注意気味な文章が含まれます。ただし物語の本筋や展開に影響することはほぼないので、今回限りのゲスト展開みたいな感じでゲス。
後これ何気に60話目なのね。…長いなぁ。
未知の技術が使われている列車砲のパーツを奪ってから早1週間。
その間にU.B.C.Sの部隊練度と演習での連携を深めたり、ようやく完成させたゲームを共有して、最終チェックの段階に入ったり、悩むスミカら部隊の為に最適化した専用装備を作ったりと色々あった。
だが、その中でも特筆すべき事項をあげれば、やはりトリニティにて補習授業部の顧問として先生を据えた合宿が執り行われたことだろう。
成績の悪い生徒の救済のためのものだが、その実態は「エデン条約締結を阻むスパイを炙り出す為の箱」に過ぎず、いざとなれば不安要素として全員を退学させるつもりの部でしかない。
一応、学力試験に合格すればよかったのだが、普通に落ちて合宿行きとなっていた。……うん。明らかに意図的に間違えている浦和ハナコと、ただテストをサボっただけの阿慈谷ヒフミはまだいいが、残り二人は純粋に実力が足りてなかった。
というか、白洲アズサはスパイとしての自覚はあるのだろうか。確かに根は善性のものであるようだし、天然な性格も素なのだろうが、もう少し怪しさを隠せないものか。
裏切るにせよ裏切らないにせよ、他から止められれば何も出来ないだろうに。
そうして、離れの別館で華の女子高生らしい青春と試験に向けた勉強を進めていたのだが、その際に決定的な証拠をとらえた。
ことは深夜。一人見回りと言って合宿所を後にする白洲アズサの跡を尾行させていると、何やら廃墟に入っては謎の勢力と密会をしていたのだ。
それも、平和的な話し合いなどではなく、襲撃やら決行日やら色々と聞こえてしまっている。
どうやら定期的に連絡を取っているようで、恐らくは白洲アズサから得た情報を使ってエデン条約に関わってくるのだろう。
本来なら、この時点で波乱の芽を摘んでおきたい所だが…。今のトリニティの上層部…つまり桐藤ナギサと聖園ミカ間での思惑の違いや、ゲヘナも関わっていることから、早めのアクションが何に影響するか分からない。
もっと言えば、仮想敵を白洲アズサの報告者として見た場合、確実に単独犯ではないだろう。中々やる雰囲気を持っていたし、想定される立場としては現場指揮や作戦指揮等にあたりそうだが、まずバッタで盗み見出来た時点で、例の何者かではない。
となると、更に裏に隠れた者がいるわけで、ここで潰したり報告した所で、異変を察知して警戒されるか、アプローチを変えて干渉してくることだろう。
ここは、あまり干渉せずに、情報のアドバンテージを握ったまま泳がせておいたほうがいいかな。
今現在悩んでいる先生には悪いけど、まあ何だかんだで事態解決能力が高いから不測の事態が起こっても何とかなるだろう。多分。
しかし、とうとう本格的に情報が出揃ってきた。
今、俺に出来ることは相手の出方を伺いつつ、何が起きても対応出来るように戦力を整えておく…といった所だろう。
正直、ここまで大事になるとは思っていなかったが……成程。桐藤ナギサの不安もあの状況では仕方がないとも思える。
そう考えながら、ふうと一息。書類仕事に戻ることにする。
「まあ、今考えても仕方ない。気にしすぎて業務が疎かになる方が困る。……ええと、何々…。『モササウルス用のサドルと手綱が欲しい』?……馬かなにかと勘違いしてないか、あいつら」
まあ造るけど。
●●●
「…つまるところ。エデン条約というのは『憎み合うのはもうやめよう』という約束」
どことも知れぬ夜景に、見覚えのあるような、初めてあったような一人の生徒が語りかける。
外見は幼い少女のようで、その体躯と狐の特徴を持つ身体は可愛らしくもあるが、纏う雰囲気や聡明で思慮深いような態度はどこかちぐはぐな印象を感じさせる。
またも、少女は言葉を紡ぐ。
「トリニティとゲヘナの間で、長きにわたって存在してきた、確執にも近い敵対関係。そこに終止符を打たんとするもの。互いが互いに信じられないが故に、久遠に集積していくしかなかった憎悪を解消する為、それに代わって新たに信頼を築き始めようとするプロセス」
「より簡単に言おうか、つまりはトリニティとゲヘナの平和条約だ」
「ただ、連邦生徒会長の失踪をきっかけに、この条約は何の意味も持たなくなってしまった」
「「エデン」……それは太古の経典に出て来る楽園の名。そこにどんな意味を込めていたのかは分からないけれど、まぁ連邦生徒会長のいつもの悪趣味だろうね」
こちらの返答を待つでもなく、少女は言葉を陳ねていく。
「キヴォトスの、「七つの古則」をご存じかい?その五つ目は、正に「楽園」に関する質問だったね。―――「楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか」……他の古則もまたそうであるように、少々理解に困る言葉の羅列だ。ただ、ひとつの解釈としてこれを『楽園の存在証明に対するパラドックス』であると見る事は出来る」
「もし楽園というものが存在するならば、そこに辿り着いたものは至上の満足と喜びを抱くが故に、永遠に楽園の外に出る事はない。――もし楽園の外に出たのであれば、つまりそこは真の悦楽を得られるような『本当の楽園』ではなかったという事だ」
「であるならば、楽園に到達した者が、楽園の外で観測される事はない。存在を捕捉されうる筈がない――到達した者を観測できたのなら、楽園は存在するが、真の楽園とは云えない事が証明される。しかしそもそも観測すら出来ないのであれば、楽園はあるのかもしれないし、ないのかもしれない……」
「――存在しない者の真実を証明する事は出来るのか?」
少女の問いに、
黙り、静かに佇む先生を都合のいいように解釈したのか、少女は言葉を連ねていくが、先生はどこか奇妙な違和感を少女の態度に感じ取っていた。
「――先生」
自分達以外の異物のこの空間に、小さな声は良く響いた。
「もしかしたらこれから始まる話は、君のような者には適さない、似つかわしくない話かもしれない」
「不快で、不愉快で、忌まわしく、眉を顰める様な――相手を疑い、前提を疑い、思い込みを疑い、真実を疑う様な」
「悲しくて、苦しくて、憂鬱になるような……」
「それでいて、唯々後味だけが苦い……そんな話だ」
「しかし同時に、紛れもない真実の話でもある」
「だから――どうか背を向けず、目を背けず、最後の『その時』まで、しっかり見ていて欲しい」
少女の羅列は、どこか幻想的で、しかしながらに問いかけるような声音とは裏腹に切羽詰まったかのような、強迫感と諦めの混じったような顔がどうにもミスマッチに見えた。
「それが先生……「この先」を選んだ、君の義務だ」
言い切ったと、そう安心したような表情を見せたそれは、まるで、誰かを送り出すための餞別の言葉を紡いだようなものではなく、道理のわからない子どもに諭す言い訳をようやく思いついた家族のような目をしていた。
その様子があんまりにも不思議で、意識が覚醒する瞬間、記憶にも残らない忘却の間際にて、先生はこう言葉を紡いでいた。
「“君は―――”」
“―――どうして、そんなに怯えた顔をしているんだい?”
その言葉は夢に溶け、形を成す前に泡沫と消えていった。が、ここもまた尋常ではない空間。本来ならば知覚することも叶わないその意思は正確に少女へと伝わっており、そこで初めてハッとしたように自身の顔に手を当てた。
「…私が、怯えている?」
先生のいなくなった空間に一人。少女はぽつりと零す。
「は、はは。そう、だね。確かに、恐怖を覚えていないと言えば嘘になるだろう。だが、見てしまったものは、仕方ないだろう…!」
そう、少女―――“百合園セイア”は細い体から力を抜いて、空を見上げるように背中から倒れ込んだ。
「私達は、生きとし生けるものは全ていつか死ぬ。分かっているさ。それは覆し様のない摂理にして、万能でない実在の器を持つ者の定めに他ならない」
どこか諦観したような、少女らしからぬ表情を作り、セイアは独りごちる。
実のところ、あの邂逅はセイアにとって初めてのものではない。否、厳密には体験していないが、既に視ていた事象の一つだ。
細部こそ曖昧なものの、この空間にてセイアと先生による問答が行われることだけは知っていたのだ。
彼女の持つ異能、未来視。
これにより彼女にとって未来の出来事は既知となり、それが故の感性を育て上げた。
「……何故、私なんだ」
そして、今こそはと願わくば己にこの力の宿った理由を問い詰めた。
何故か。それは彼女が視たある未来への悲観に他ならない。
人と虫を無理矢理繋げたような異形の群れ。崩壊するキヴォトス。肉を貪り、骨を裂き、快楽と共に体液を啜る。あまつさえ、既に死した者の尊厳すらも凌辱した悍ましい生態。
―――あれは、駄目だ。
災害ならばまだよい。誰かによってヘイローを破壊されるのもまだ分かる。はたまた、予想もつかない軍隊が蹂躙するのも分からなくはない。
だが、あれは駄目だ。人の死に方ではない。
真っ当とは言い難い生物の齎した破滅の未来。セイアは数日に渡ってその悪夢を見続けた。
そこには、ただ壊滅するよりも悍ましく、人の恐怖と絶望を啜りとる地獄が待っていただけだった。
ボロボロのスーツを纏った市民が鳥葬の様に刺されていた。潰れた戦車からは鼻を突くような異臭がした。閉め切った防護壁が中央から拉げたシェルターに、赤黒い何かがついていた。
名前も知らぬ生徒が身を寄せ合い、怪物から逃げおおせるも、逃走経路の地下水路にはそれ以上の個体が待ち構えており、抵抗虚しく先人と同じ道を辿った。
生前の知り合いか、誘き出された生徒が声を掛けるまもなく頭部を鷲掴みにされた。
どことなく見覚えのある生徒が、既に虫になっていた。
中には、希望を諦めずに抵抗する勢力もいたものの、そのムードは陰鬱だ。
化物に群がられたショッピングモールは炎上し、自ら命を絶った姿も見た。
そして、セイアにとって最も衝撃だったのが、その化物達は生存本能などによって人を襲っているわけではないことだ。
というのも、セイアが見たどこかの勢力の研究によると、その化物達には本来摂食行動がほぼ必要なく、1頭につきネズミ一匹分ほどの肉で数カ月は肉体を維持できるどころか、その気になれば放射線などですらエネルギーとして吸収してしまえるようだ。
更に言えば、生殖するのにも肉の苗床は必要ない。大量の群の中には、人の名残の見えない個体も多くいたことで証明されている。
つまり、この生物が行う摂食、繁殖行動は、本来全て不必要なことなのである。
恐ろしいほどの燃費を持つくせに、浅ましく獲物に群がるそれは尋常ではない。冗談ではない。
まだ、侵略的な生物の生理的欲求であるならば納得はせずとも理解はできた。防衛本能による攻撃も同様に、生きる糧として人が選ばれたのだと理由をつけることが出来た。
しかし、それが違うなどと、悪趣味にも程がある。
―――それは、嫌だ。
何の信念も、感慨も、生きるための選択ですらないそれによって、あの様な扱いを受けていいはずがない。
無意味に食い散らかされ、人の絶望を煽り、不必要な行動で死者を冒涜する。
当然のことながら、セイアはこの出来事を誰にも話していない。話した所でSF作品に影響されたと取り合って貰えないことは明らかで、それ以前に行動を起こす気力すら残っていなかった。
キヴォトス全土が陥った災害だ。況してセイアが見たのは全てが終わった後で、原因がどこから来たのか、どうして広まったのかすら分からない。
故に、セイアは今まで通りに諦めることにした。せめて、それまでは平穏な日々を謳歌してもらえるように口を閉ざして。日常の崩壊に蓋をして。
己がこのまま目覚めることなく静かに生命を終えることを、微かに期待して。
「……未来は変えられない」
だが、果たしてそうだろうか。襲撃に来た白洲アズサも、シャーレの先生も。
どちらも困難な理想に身を投じる覚悟を持つ者だった。
だからこそ、セイアはこうして思うのだ。
―――何故、私のような非力な悲観主義者にこんな力があるんだ。
そう思えど、事実は変わらない。
「……せめて、未来が変えられたのなら。………それも、今や不可能、か」
唯一会える先生も、ここでのことは覚えていないだろう。
ただ一つの心残りがあるとすれば、あの未来を視た時点で親友二人に全てを擲ってでも警告すべきであった。
例え信じてもらえなくとも、事態が起これば否応なしに信じる他ない。未来は地獄だが、人が絶滅したわけではない。初期対応やそれらの苦手なものを記して無理矢理にでも持たせておけば、少なくとも親友くらいは助けられたのではないか。
後悔しても遅いが、伝える努力を怠ったのがこれだ。
「全く、我ながら、諦観しすぎじゃないか…」
故に、諦めと後悔を携えながら、百合園セイアは独りごちているのである。
まあ、セイアが視た絶望の未来はアホがインストールされたことで潰えてるんですけどね(˶ᐢ ᐢ˶)
セイアは原作以上に未来を悲観していますが、その分逆に変えたいという願いを持っています。バランスだね。
あと、既出の情報(最初の数話や改造バッタ)から何となく察していた人はいたでしょうが、あの生物は滅茶苦茶燃費がいいから貪る理由はないですし、他生物を苗床にする理由もありません。
強いて言えば、学習したその生物の擬態をするためですが、そもそも狩る理由がない上に貯蔵や食いだめという習性もないため、本当に必要ない機能です。
先生の台詞にゲーム本編のように「“”」はいる?
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先生と一目で分かるからあった方がいい
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別にゲームテキストでもないのでなくていい