透き通るような世界観にいちゃいけないタイプのクリーチャーに成ったけど今日も元気に擬態する 作:食卓の英雄
第36話 穏やかな日常の一欠片
―――暗い暗い地下室。
乱雑に資料と種々の機械が乱雑に、けれど分野ごとに広げられたその部屋に、人影が一つ。
ただでさえ窓もなく、陽光を得ることのできない地下において、照明をつけない理由などない。
否、睡眠時などであればまた別だが、その人物は真っ黒な部屋の中にて、書類を睨みつけるように眺め、次々と処理していく。
闇夜の中に、カリカリ、ペラペラと一定の速度で音が響くのは、ある種恐怖の対象であろう。
だが、よくよく聞けばその音は複数同時に起こっている事が分かるだろう。
そうと感じられるほどの速度で処理しているのかと言えば、それは違う。
何故ならば、同じタイミングで同種の音が複数繰り返されている。どれほどの速度で筆を動かしたとて、音の鳴る対象は一つ。同じタイミングで異なる発生はできない。
ならば、中にいるのは一人ではないかと言えば、それも違う。何を以て一人とするかの定義はこの際曖昧だが、間違いなく個人ではある。
“引き裂かれた様な肉体の数々がそれぞれ独立して動いていたとしても、パーツの大本が同じである以上、それは『一人』なのだから。”
「……慣レルと楽だナこれ」
そう呑気に呟いたのは、ここRE:flectorのオーナー兼何でも屋でもある遊星リアン。
正確には、彼女の両腕のない上半身のみが、椅子に骨足を絡ませ、背部から伸びる機械腕で作業を進めながら呟いていた。
他を見れば、恐らく制圧したであろうオートマタがマネキンの様に置かれ、その腕部分に二本ある生身の腕のうち、甲殻のある中腕がオートマタを抱き込むように固定し、その腕に取り付けられている機械がオートマタを通して停止した筈の腕を動かしている。
まるで腕に乗っ取られたかのように動くものが、それぞれ右腕と左腕で二体。
続けて、下半身のみが独立して動き、骨盤辺りから伸びた奇妙な脊椎に絡みつく機械から腕を出し、律儀に書類を片付けている。
ただでさえ真っ暗な室内において、このような光景が繰り広げられていると知れば、常人であれば卒倒するであろうことは間違いない。
だが、この生命を侮辱し弄ぶ様な凄惨な現場は、決して誰かに知らしめ、愉悦を得るためのものではなく、リアンなりの理由があったのだ。
「………ふふふ、折角使えるのダ。効率的にいかなくては」
効率。そう、全ては効率的に書類仕事と雑務を熟す為である。
そもそもの話、リアンにとってはこの程度の損傷で生命活動に支障をきたすものではない。
上半身が爆散しようが、下半身から新たに体を作り、頭部が離れようが独立した体が動き出す。ならばと首を飛ばし、その他を消し飛ばしても飛ばした頭から再生する。
知性体の持つ生命力を著しく超えかけている謎の生き物である。
そして、少し前の検証により、自身から離れた肉体の一部にも意識や知性は存在し、また同じ存在として互いに認識し、自己同一性は失われていない。
切り離した部分は再度くっつけない場合は時間経過と共に劣化し、最終的には元の意識に戻るのだが、これを一定の電気信号を通すことで延命させることは可能だ*1。
因みに限界まで引き延ばして1週間程度である。
よって、今現在こうして肉体を文字通り4分割しているのは、単純に手数と見える範囲が広がるというメリットがあるからにほかならない。
腕や下半身など、単独では書類仕事を行えない部分については支えと開発した機械腕でカバーでき、本人しか処理できない書類も無事に解決可能。
欠点としては、下半身はともかく、分割しすぎては行動に難があるが、こうして動かず座り仕事をする分には準備さえ整えば可能なのだ。
こうして、リアンはただでさえ無駄に高い基礎スペックと、この手数により4倍、否、睡眠がほぼ不要であることを考えると実質的に8倍かそれ以上の効率で仕事が出来るのである!
最初こそ、分割された視界と感覚に、それぞれ異なるボディの資料と書類を取り違えたり、書き間違えていたが、これも繰り返し試行することで様になってきた。
正直、まともな生物からはだんだんとかけ離れて来ている様な気はするが、本人がそれでいいのなら、いいんだろう。
因みに、振り分けは上半身と右腕がRE:flectorのトップとしての業務と報告の処理で、下半身が起こった問題への対処の考案と実施。左腕が個人で作っている製品の設計である。
複数の内容を同時に進めるのは効率が悪いように思えるが、これも試行の結果、本人にとって最もやりやすい分担だからこそ、口は出せない。
「………ほう、桐藤ナギサがエデン条約に向け『補習授業部』の発足を進めている、か。……落第に匹敵する程ノ成績不振者が現れた為に特例として編成。シャーレの先生を顧問に迎え入れ、権限を一部適用し、該当スル生徒の迅速な強制編入を可能トスる。…というのは建前。『エデン条約』に向け、裏切り者の炙り出しが目的カ。ふむ、ドコモそんなものか。………されるとは思っていたが、案外露骨ニ使うつもりか、トリニティのトップは。……本人の善性に付け込んでいるつもりか、はたまた自身の座に自信があるのか」
まあ、そのどちらでもあるのだろう。リアンはそう思いつつ、件の発案者、桐藤ナギサへ想いを馳せる。
「…まあ無理もナイか。同じくティーパーティーホストである『百合園セイアの死亡』に加えて、まだ裏切り者が潜んでいる可能性があり、今度は自身か友人である聖園ミカが狙われる可能性があるとナッたらな」
どうやらトリニティは今現在水面下で重大な事件が起こっているらしい。リアンは今まではバッタの記録的な情報の断片を得ていたが、もっと詳細を調べるべきだと判断。
一部アビドスからバッタを呼び寄せ、不自然でない程度にトリニティの自治区へと紛れ込ませる。
ゲヘナと違って、学園の中枢に近づくほどに誰彼構わず暴れまわったり爆発が起こることは少なく、比較的諜報の目が届きやすい。
…とはいえ、格式高いトリニティでは見栄えも重視され、ましてティーパーティーの執務室とあってはバッタを多数潜り込ませることなど不可能…。
なのだが、幸いにも桐藤ナギサは人間不信に陥っているのか、誰にも知らせていないセーフルームを用意していた。そちらは人の出入りや管理もほぼなく、まして誰もいないという安堵感から踏み入った内容も聞き出すことが出来る。
暫くはこのスタンスを続けるらしい。
今回の条約に向けて、ゲヘナへも目を向けたいが、現状最も優先したいのは、疑心暗鬼の闇に陥った権力者が何をするか、だ。
尤も、情報が情報なので他言も告げ口も出来ないが、巻き込まれる誰かへ手助け程度は出来る。
更に、リアンは薄くなった各所へ追加のバッタを送り込み、この機に行動を起こす勢力がよその自治区で現れないかも念の為探っていた。
「……ミレニアムでは無いとは思うが、人の思惑とは予想のつかないものも多い。なケレば杞憂で済むこと。……百鬼夜行連合学院は百花繚乱紛争調停委員会の解体に内部で奔走。連邦生徒会はそもそもさして興味を持ッていない。レッドウィンターの情報はあまりないが……まあ、騒ぎはあれど、外道に走る生徒はいるまい。………消去法で、最も和の乱れているノガ山海経ダガ、あれは外に向けラレる類の……いや、外にまで向けては自分が食わレかねないのか」
それぞれの区画に侵入させている飛蝗の視界と聴覚をジャックし、手に入った情報を纏めた結果、やはり今注力すべきはトリニティ内部でのゴタゴタということになりそうだ。
今までは適当な情報網だったが、これからは意識して情報の収集に取り掛かるべきかもしれない。
「……モウコんな時間か。しまッたな。これまでには終ワラせるツモりが…」
壁にかけられたアナログの時計を見て、
それぞれのボディも理解したのか、作業を止めて元の胴体に集まり再び結合していく。
「……少し、臭うか?」
分離している際の血液が原因か、やや血生臭い。
これでは訪問先に失礼だ。スメハラというやつになるかも知れない。
そう思い、そのまま風呂へと直行する。
「……大きく作って正解だっタな」
既に服は全て脱いでいた。そのまま足を踏み入れる。
一人で使うには大きく、深さのある浴槽。対して、壁や床などは病的な程に真っ白で、飾り気のない室内は最低限の機能以外を除外した殺風景なものだ。
それも当然、なにせここはリアンだけが使う場所であり、また誰かに見せるものでもないため、機能を作ってからは手つかずのままだ。
―――ピシリ、と音を立てて体が割れる。
ただでさえ人間にしては大きな体が盛り上がり、肥大化し、二足歩行から六足歩行へと切り替わる。
手足は歪に伸び、体は膨れ、人間と竈馬の間の子のような悍しい異形が姿を現す。
「ァァ……ギィッ……!!」
口蓋が開かれ、下顎から先が変貌。首元まで垂れ下がる裂け目は肉肉しく蠢き、内部の組織が露わになる。
元の姿に戻り、人の言語すら失ったリアンは、勝手の変わった力加減に注意しつつ、浴槽の中に身を沈めた。*2
周囲の妙に清潔感のある真っ白な壁のせいで、新種の生物兵器の飼育場の様にも見えるが、断じてそんなことはない。
体を縮めている関係上、こうして広げて洗わなければ、汚れも溜まるし、全身を広げて日々の拘束から解放される時間は必要なのだ。
そして謎の美意識により腹部の骨や絶対に見せることはないであろう臀部の鱗や羽毛を丁寧に磨き、脚部関節の隙間を洗う。
発汗はしないので、本人の体臭は無いに等しいが、それはそれとして環境の臭いは染み付くもので、やはり落とすのは必要だろう。
因みに使っているシャンプーとボディソープは基本的に無香料、無臭のものである。
仕事上、長い間拘束されたり、潜入、戦闘行為において特徴的な匂いが付着していては、不利になることがあり、また自身が嗅ぎ分ける際に於いても嗅ぎ分けの難易度が上がるために注意している。
一応自身のフェロモンはあるが、基本的に人類を始めとして脊椎動物には感知できない類の匂いになっているので、むしろ判別がつきやすくなるとのこと。
正直な所、余程汚れでもしない限りは水洗いも、極論風呂なども必要ない生態をしているが、そこは本人の気分の問題だ。
「コルルルルル……」
リラックスしたからか、自然と音が溢れ、再び全身に軽く水を浴びて浴槽から出る。
そのまま人型に戻ることはしない。このまま擬態しては、圧縮部分や折りたたみ部位に水が残ってしまい、臭いなどの元になる。
かといって、熱風で一気に乾かすにも、この巨体と無駄に複雑な体にとっては効果も薄い。
部屋全体が温風を吹き出し、暫くリアンは肉体を戻したまま弛緩し、リラックスする。
何気に本来の肉体で、ゆっくりと腰を落ち着ける貴重な時間だ。忙しい時にはろくに擬態も解かないまま現場に赴いたり、緊急を要するためにほんの僅かだけ体を戻して急行したり、色々とハードなスケジュールの中、ここまでリラックスできるのは久しぶりとも言えよう。
……というより、仕事や部下たちとの交流、その他趣味ややりたいことが最優先され、そちらに熱中している間は擬態の解除など二の次にしているのが主な原因でもあったりする。
待っている間、手慰みに腕を変容させボウガンのような形にしたり、骨を回転させてチェーンソーの真似事をして遊んでいると、水気も失われてきた。
「……ン、出…るカ」
乾いたことを確認すると、人型に戻って退室。
新たな装いに身を包む。
擬態しても尚残る人外の要素を隠すための黒いアンダーウェアが全身を覆い、珍しく乳白色のサファリシャツに袖を通し、上からオリーブ色のロングコートを着用。
勿論伽藍洞の腹のカバーは忘れず、意識を逸らすためにアクセサリーやベルト帯を通しておく。
後ろ脚は複数のベルトと拘束具で念入りに締め、最後に蟲そのままの足にも合う自作のブーツを履き、トントンと履き心地を確かめる。
「……サて、時間も丁度いいな」
黒いソフトハットを被り、仕事道具を担いで、事務所へ直通する昇降機に足を踏み入れる。
目指すはミレニアムサイエンススクール。
リアンが最も関わりの深い学校の一つであるそこに、足を運ぶ理由。それは、ついこの間のミレニアムプライスにて、特別賞を受賞した今話題の部活。
『ゲーム開発部』と出会うためであった。
Q.何?社長しか出来ない仕事が多い?
それに加えて趣味などもやりたい?
A.じゃあ体分割しようぜ
をマジにやった奴。当然服が汚れるし、その部位だけに合わせた衣類もないので、これをやるときは基本全裸である。
そもそも分割の時点で見せられない絵面なので、裸程度気にならないのである。
因みに電気つけてない理由は普通に節約。暗視できるやつしかいない時は基本電気つけてないよコイツ。
尚、当然だが擬態解除状態では人間の言葉を発せられないし、戻った直後は以前のようにカタコトや意味不明な羅列が多くなる。
最後の格好はカール・ハイゼンベルク(バイオ8)モチーフ。
『カニ道楽ちゃん』
義手を人用にチューニングしたものを現在使っている。本格的なものではなく、あくまで人に合わせ、データ収集用も兼ねた試作機だが、意外とこのままでも日常生活に支障はないらしい。
調子に乗って2回程モササウルスとじゃれて壊したので次壊したら完成品までそのままでいろと言われて焦っている。
目の方は、眼帯をしており、今は視力の違いに慣らしている
先生の台詞にゲーム本編のように「“”」はいる?
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先生と一目で分かるからあった方がいい
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別にゲームテキストでもないのでなくていい