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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれた番外編 世界のアビスゲート卿から
213/545

立派な村人に……なれよ

 壮麗な夜景を背景に、社長椅子に座る黒装束の少年。


 その光景に、さしものケイシスも度肝を抜かれたようで絶句している。周囲の護衛も、社長直属の護衛というだけあって、普段はどんな状況にも動揺せずに迅速な対応ができるのだが、このときばかりは銃口を向けることすらできずに間抜け面を晒してしまっていた。


「エミリー、こっちに」

「うん!」


 浩介が手招きすると、エミリーは声を弾ませて駆け寄った。お猫様みたいな外見なのに、イヌミミとイヌシッポが幻視できてしまう。激しく振られるミミとシッポは、まさにワンコエミリーちゃん……


 パタパタと可愛らしい足音を立てて大きなデスクを迂回したエミリーは、そのまま浩介の傍にぴっとりと寄り添う。


 その後を、取り残されちゃかなわん! と、ウディが慌ててドスドスと足音を立てながら追随し、エミリーとは反対側の、少し後ろ側に控える。


 ……社長椅子にどっかりと座り、美少女を侍らせ、強面の男を背後に控えさせる。


 どう見ても、浩介の方が黒幕っぽかった。流石は魔王の右腕というべきか。


「……君はなんだ? どこから入ってきた?」


 早くも動揺から回復したケイシスが、自分の座席を侵す浩介に、怒りの眼差しを向けながら尋ねた。


 当然と言えば当然の疑問だ。この代表執務室に通じるルートは、エミリー達が乗ってきたエレベーター一つのみ。そのエレベーターには当然、監視カメラが備わっていて、代表室から確認できる。代表室に行くまでの間にも監視カメラは無数に存在しているし、代表室の扉の前にも当然ある。


 それらは、ケイシス自身が確かに確認していたし、今になってようやく銃口を向け直した護衛の男達も、代表室にある隠し扉の向こう側にある監視室のモニターでチェックしていたはずなのだ。


 だが、誰一人として、浩介の存在を感知したものはいない。


 最上階のこの部屋に入るには、ケイシス以外は中からしか開けられない正面の扉だけで、閉じてしまえば完全なる密室だ。空調ダクトは人が通れる大きさではないし、窓から侵入するなどもってのほか。


 ケイシス達からすれば、本当に、いきなり出現したとしか言いようのない状況なのだ。


 もっとも、浩介の答えは単純だ。


「どこからも何も、あんたが招き入れてくれたんじゃないか。そこの扉から」

「馬鹿な。私は君など……」

「まぁ、俺はちょっとばっかり目立たないからさ。見落としていたとしても、全然、気にしないよ。ほんとだぜ?」


 肩を竦めた浩介。一応、今回は全力の隠形に加え、監視カメラの死角を突きながら追随していたので、彼等に気づかれないのは当然であり、本当に気にしていない。癖なのだ。気づいてもらえないことに、「気にしてないし? 俺、全然傷ついてないし?」と言い訳するのは。


 浩介の答えを、当然信じられないケイシスは、浩介がタネ明かしをする気はないのだと察し、一度襟元を正して気障ったらしい態度を取ると話題を転換した。


「……まぁいい。ところで、私の席に我が物顔で座っている君。君は誰なのかな? 日本人のようだし、保安局の人間とは思えないのだが……それとも、この場所へ単身で乗り込むほどだ。もしかして、〝J・D機関〟のエージェントには、日本人の少年までいるということなのかな?」


 明らかに、自分の席を占領されていることに不快感を覚えているといった表情で、己の予測を口にするケイシス。確かに、それがもっともあり得る可能性だろう。


「へぇ、J・D機関って〝存在しない組織〟のはずなんだけど……普通に知られてんじゃん」

「普通は知らないさ。だが、こちらの世界でも上の立場の人間の間では、周知の事実だよ。保安局局長と情報局局長、そしてこの二人が率いる〝抹消機関〟には最大限の注意を、とね」

「まぁ、裏の組織のトップなら、何度も邪魔されたり痛手を受けたりしてそうだしな。積み重なった事実から存在を掴むことくらいはするか……でも、機関の名前がばれてんのは問題じゃね?」


 浩介に取り付けられたインカムを通してこの場の状況を把握しているマグダネス局長が、少し離れた監視車両の中で肩を竦めた。


『公然の秘密、というやつよ。ある程度知られている方が、抑止力にもなる』


 インカムを通して伝わった言葉に、浩介は「なるほど」と頷く。ケイシスは、その様子から浩介が外と通信のやり取りをしていると察し、浩介が保安局の人間であると確信したようだ。


 実際は、もっとやばい集団の尖兵だったりするのだが……


「ふむ、流石は、国家保安局局長というべきか。あの状況で敵方を引き込み、凄腕のエージェントを送り込んでくるなんてね……。だが、少々、軽率だったと言わざるを得ないな」


 ケイシスはそう言うと、懐からスマートフォンを取り出し、おもむろに指を滑らせた。


「ああ、またそれか。【ベルセルク】の起爆スイッチだろ?」

「ふふ、分かっているじゃないか。一度、私がこのボタンを押せば、数十か所の街中で大量のベルセルクが大暴れすることになる。ああ、それと一つ訂正だ。これは確かに〝起爆〟のボタンだが、この端末は本来的には〝解除〟用だ」

「……なるほど。この部屋に来るまでにも思ったけど、随分と用心深いな、あんた。それ、一定時間ごとにパスワードでも打って起動状態を解除してやらないと、勝手に起爆しちまうってことか」

「察しが良いね。その通りだよ。故に、私からこれを奪っても、私を殺しても、意味はない。むしろ、それはかつてない悲劇の幕開けとなるだろう。国家の保安を担う者がしていい所業ではないね?」


 蛇の眼差しで、ニタニタと嗤うケイシス。きっと、解除用パスワードも、ケイシスしか知らないのだろう。逮捕されても話すつもりはないだろうし、殺してしまっては確実に大惨事になる。


 自分の圧倒的優位を信じて疑わない狡猾さが売りらしいケイシスは、生命線であるスマートフォンを片手に掲げつつ、もう片方の手を誘うように差し出した。


「さて、それではエミリー。私の傍へ来なさい。君が、自分の作ったもので、この国に大量の犠牲者を生み出したくないのなら」

「っ、この下種」


 愉悦に浸るケイシスの視線を受けて鳥肌を立てるエミリーは、嫌悪の感情を隠しもせずにあらわにしながら罵倒を放つ。それすら、心地よいらしいケイシスはますます笑みを深くする。


「そうだな。君が私のものになるのは確定的だが、招かれざる者を引き入れたお仕置きは必要だね? こちらへ来て、誓いのキスでもしてもらおうか」

「な、なにを――」

「ふふ、どうやら、そこの少年エージェント君は、君の特別な存在らしい。ならば、決別の証として、彼の目の前で、他の男にその身を捧げさせるのが、素敵なお仕置きというものだろう?」


 下種の極みとはこのことだろう。他者を屈服させ、屈辱と恥辱に塗れさせることが、この男にとっては何より幸せなことなのだ。他人の不幸こそが、生きる糧なのだろう。滑らかに動く舌は、不幸に塗れた未来を想って更に滑らかに動く。


「あぁ、ついでに泣いて懇願するだろう君の前で、彼を拷問するのもいいかもしれないね。そして、苦痛に耐えきれなくなった彼に言わせるんだ。――『もう、エミリーのことは好きにしていいから、許してください』ってね。そのときのエミリーの顔を想像すると――」

「三流の悪役が、よくしゃべるってのは本当なんだな」


 恍惚とした表情で語り続けていたケイシスに、静かな声音が届けられた。呆れたような、取るに足らない存在に向けたような、なんとも感情に乏しい無関心さの感じられる声音。


 ケイシスは、この状況でも焦燥感を微塵も見せない浩介に、胡乱な眼差しを向ける。


「私が、三流の悪役だって?」

「ああ。絶対的な優位(切り札)を用意していたからなのか、元からなのかは知らないけど、この状況で(・・・・・)遊べるあんたは、間違いなく三流だよ」

「……」


 押し黙るケイシス。頭を巡らせ、自分の優位性が揺らいでいないか再確認するが、押せば即時開幕の悲劇のスイッチを握り、手を出せば一時間も経たないうちに勝手に始まる悲劇という手札は、そうそう簡単に捨て札となるような代物ではない。


 強がりか、という結論に達するケイシスへ、浩介はおもむろに立ち上がりながら言う。


「魔王曰く、切り札ってのは量産するものらしいけど……あんたはどうかな?」

「なに? 魔王? いったい何の話を――ッ」


 訝しむケイシスだったが、刹那、目を見開き言葉を止めることになった。


 なんの予兆もなく、眼前に、浩介がいたから。


 咄嗟に身を引こうとするケイシスだったが、次の瞬間、視界が反転し混乱に落ちいる。と、直後には背中に凄まじい衝撃を感じて声を詰まらせた。


 いったい、なにが起きたのかと痛みと混乱に犯されながら視線を巡らせば、視界に飛び込んでくるのは天井とLEDの明かりのみ。それで、自分が、床に叩きつけられたのだと理解する。


「き、貴様ぁ、街が、どうなっても――」

「ま、それは後でな」


 苦し紛れに、しかし、信じられないといった感情を乗せて言葉を絞り出したケイシスだったが、軽い言葉と同時に振ってきた靴裏が視界を塞いだと同時に、凄まじい衝撃に襲われて意識がぷっつりと途絶えた。


 急速に遠くなる耳に、銃声と怒号、そして悲鳴が聞こえた気がしたが……それを意識することもなく、ケイシスは闇に呑まれた。



~~~~~~~~~~~~~~~



「ぶべっ!? ハッ、な、なんだ!? なにが起き――ヒッ!?」


 突然、頬に走った痛みと衝撃に、ケイシスは目を覚ました。背中と額に感じる鈍痛に顔をしかめながらも、混乱する頭をどうにか立て直そうとする。


 しかし、ぼやけていた視界がクリアになった途端、今まで出したことのないような悲鳴を上げてしまった。


 もっとも、それを嗤えるものは、そういないだろう。なにせ、ケイシスが悲鳴を上げた原因は、それだけ異常な光景だったのだから。


「な、なんだ!? お前達、いったい何をしている!?」


 混乱を隠せない声音で呼びかけるケイシス。彼の視線の先には、見慣れた部下達がいた。


 ……ただし、それぞれが香ばしいポーズをばっちり決めた異様な部下達が。


 先程、部屋の中にいたケイシス直属の護衛達だ。その内の一人は、片足を上げ、両手を大きく広げるポーズを取っている。まるで、荒ぶる鷹が、今にも飛び立ちそうな雄大なポーズだ。


 またある者は、腰を落として大きく足を広げて立ち、片手を腰だめに構え、もう片手を交差するように斜めに構えている。まるで、今にも仮面をつけた戦士に変身しそうなポーズだ。


 またまたある者は、少し体を傾けながら右肩を少し上げて右腕を下方へ伸ばし、左手の五指を広げて顔を覆うポーズを取っている。腰の角度がなんともセクシーだ。まるで、今にも背後から何かが出てきそうなポーズだ。


 他にも、あのとき、ケイシスが気を失う前に部屋にいた護衛達は、皆、何かしらの香ばしいポーズを取って並んでいた。言うなればポージング博物館といったところか。広い代表室の空間を目一杯使っている。


 混乱の極みに陥ったケイシスの呼びかけにも、彼等は答えない。全員がサングラスをかけているので目は見えないが、無反応なところからすると意識がないのかもしれない。よくよく目を凝らしてみれば、ポーズを取る彼等の体や手足に、極細の糸が巻き付いていて、マリオネットの如く彼等を吊るしているのが分かる。


 同時に、ケイシスは、自分が椅子に縛り付けられていることにも気が付いた。手足を固定しているのは同じ極細の糸だ。


「ねぇ、こうすけ。あれってする必要あったの?」

「……必要があったかないかで言えば、確実になかった。やべぇ、アビスゲート卿があっさり顔を覗かせやがる。俺はもう、ダメかもしれない」


 異様な空間での軽い会話に、ケイシスはハッと我に返った。そうして声のした方へ視線を転じれば、すぐ脇に数人の人が確認できた。


 そのうちの三人は、先程まで部屋にいた浩介とエミリー、そしてウディだ。だが、そこに加えて、更に三人、人が加わっていた。


「流石です、コウスケさん。戦闘の最中にも〝美〟というものを忘れない。おみそれしました」

「……確かに、数十秒で敵を制圧し、私達を呼び込む数分の間にこれだけのオブジェを作り出したのは凄まじいと言えるわね。私は、もう家に帰りたい気持ちでいっぱいだけれど」

「あははは、何か得体の知れないことをされて動けるようになったのはいいですけど……局長がやつれるような事件は荷が重いなぁ。あのまま気絶していたかった……」


 うっとりした表情で、何故か落ち込んでいる浩介を称賛するヴァネッサ。遠い目をしながら、決してポージングを取る男達に視線を向けないマグダネス局長。そして、異世界製の回復薬を飲まされて、取り敢えず動ける程度には回復したアレンだった。


 アレンの場合、エミリーとしてはあのまま変形した顔面のままご退場願いたいところだったのだが、マグダネス局長の「失態続きのこの馬鹿を、これ以上休ませるわけにはいかないわ。馬車馬の如く働かせないと」という言葉で、仕方なく回復させたのだ。


 といっても、完全回復には程遠く、取り敢えず話せるように腫れを引かせ、砕けた顎と頬の骨を修復しただけなので、砕けた歯や裂傷のある頬や鼻などはそのままだ。顔面に、ミイラ男の如く包帯をぐるぐる巻きにしたアレンの姿は何とも痛々しかったが、気にする者は誰もいなかった。


 ちなみに、アレンを回復させた異世界製の回復薬(市販されている一般的なもので最上級のやつ)については、浩介は上手く隠しながら自分の能力で回復させたと説明したので、そういう力もあるのかと、取り敢えずはスルーされた。


 エミリーなどは、瞬く間に骨折を修復させる力を、かなり気にしているようだったが……。当然、ベルセルク化した者を治すような力はないので、それを伝えつつ、浩介が後で説明してあげると言えば素直に引き下がった。


「……これはこれは、国家保安局局長様自らおいでとは。光栄ですねぇ。しかし、随分と悪手を打たれたものだ。流石の女傑も、耄碌されたということですかね?」


 このままでは街中にベルセルクが解き放たれる事実を暗に伝えつつ、ケイシスは皮肉でねちっこい言葉を放つ。表情もマグダネス局長を嘲笑うようなものだ。


 一見すると余裕の態度にも思えるが、注意してみれば僅かに目元が引き攣っているのと、声が僅かに震えているのが分かった。その原因は言わずもがなだろう。


 だって、視界には香ばしいポーズを取る部下達がいるのだから!


「ミスターアビスゲート。頼んだわよ」

「だから俺の名前は浩介ですって」


 マグダネス局長はケイシスの言葉にも特に関心を示さず、浩介へと視線を飛ばした。浩介はきっちりと訂正依頼をかけてから溜息を吐きつつ、ケイシスの前にドカッと椅子を置いた。


 背もたれ側をケイシスに向ける形で置いたその椅子に座る浩介。背もたれの天辺に腕を置き、正面からケイシスを見やる。


「ミスターアビスゲート……。それが機関での君のコードネームか。ふふ、覚えたよ。必ず、君のことを調べつくそう。そして、君の大切なものを――うばぉあぁ!?」

「誰に向かって口をきいているのですか? 控えなさい」


 浩介に呪詛を吐こうとしていたケイシスは、直後、アビスゲート卿信者に成り果てたヴァネッサから、股間へのダイレクトキックを受けて奇怪な悲鳴を上げた。本当はのたうち回りたいのだろうが、椅子に縛り付けられているため叶わず、ビックンビックンしながら必死に耐えている。


「あ~、ヴァネッサ。俺がやるから、な?」

「すみません。コウスケさんを舐めるような態度を取られて、ついカチンと来てしまいました」


 いつでも冷静沈着なヴァネッサさんはどこにいったのか。断じて、挑発されたら即股間にダイレクトアタック! みたいな人ではなかったのに……


 アレンとウディが、揃って内股になりながらドン引きした様子で後退る中、浩介は改めて悶えるケイシスに向き合った。


「さて、ケイシス。洗いざらい吐いてもらうぞ。解除コードはもちろん、事件の発端から、今後の計画、そして盗んだ全ての【ベルセルク】の在り処を」

「そ、それを、私が本気で話すと思って――」

「話すさ。言ったろ? 状況が分かっていないのはお前の方だ。切り札を持つあんたを、どうして問答無用で捕えたのか。ウディが寝返ったのは何故なのか。それを考えなかったのか?」

「それは……」


 もちろん、その不自然さには気が付いていた。いくらなんでも、部下がサーモンサンドに釣られたとは思えないし、思いたくない。また、自分が拷問されればあっさり吐くはずだと、そんな確証のない方法で大勢の国民を巻き込む賭けに、保安局が出るとも思えない。


 だが、それでも、国民を人質に取るという絶対的な優位は揺るぎのないもののはずで、口を割りさえしなければ、保安局はケイシスの言うことを聞くしかないのだ。その意識が、不自然さに対する危機意識を、抑えていたのは否定のできないところ。


「これも言っただろ。だから、あんたは三流だって。正直、今回の黒幕について、まぁ、あんたがそうであることに疑いはないけど、もっと別の存在が背後にいる可能性は高いと思うな。この大企業の代表の座を、あんたに与えた存在……みたいにね」


 ケイシスの表情は変わらない。瞳に動揺も走らない。呼吸も僅かにも乱れない。だが、直ぐに皮肉が飛んでくることもなかった。それだけで、浩介は確信する。


 【ベルセルク】の存在を知り、最初に盗んだ者は別にいるだろう。ケイシスには、【ベルセルク】の存在を知るきっかけが必要だからだ。


 同時に、狡猾で容赦のない、優秀であることには間違いのない男だが、どうにも、浩介が思う組織力に見合う格があると思えないことから、この【Gamma製薬会社】が全ての大元ではないという推測も、きっと当たりだろう。


 そう思いながら、浩介はおもむろに懐から紐の取り付けられた五円玉っぽい何かを取り出した。サイズは五円玉くらいだが、材質は琥珀色の水晶っぽい何かだ。中心には円形の穴が開いており、そこに紐が通されている。


 一度、それを見ているマグダネス局長達が、なんとも微妙な表情をする。


「……なにをする気かは知らないが、私を解放しなければ、多くの国民が死ぬことになるぞ? 私は、なにをされようとも、決して口を割らないからな」

「世の中には理不尽ってのが溢れているんだよ。自分が理不尽を振り撒く側だからって、忘れたのか?」


 そう言って、紐を垂らす浩介。ケイシスの眼前で、五円玉水晶がぷらぷらと揺れる。


 浩介は、一度、ごほんっと咳払いをして居住まいを正すと、おもむろに口を開いた。


「あなたはだんだんおかしくな~るぅ~、あなたはだんだんおかしくなぁ~るぅ~」

「??? いったい何を言って……。頭でもおかしくなったのかぁああへぇ~」


 眼前で、振り子のように規則正しく揺れる五円玉水晶。その向こう側から妙に間延びした怪しげな呪文(?)。微妙に恥ずかしそうな浩介の様子と合わさって、ケイシスが浩介の正気を疑う。


 が、直後、ケイシスの語尾が砕けた。瞳からは光が抜け落ち、蛇の如き雰囲気が嘘のように霧散し、単一色となってしまっている。


「あなたはだんだん話したくなぁ~るぅ~。ぜんぶぜんぶ、話したくなぁ~るぅ~」

「わ、私は話したくなぁ~るぅ~。ぜんぶぜんぶ、、話したくなぁ~るぅ~」

「尋ねられたら答えたくなぁ~るぅ~。答えずにはいられなくなぁるぅ~」

「答えたくなぁ~るぅ~。答えずにはいられなくなぁるぅ~」

「教えることが嬉しくなぁ~るぅ~。なんでも教えたくなぁ~るぅ~」

「なるなるなぁるぅ~」


 間延びした声音が室内に響く。ケイシスはすっかり、リピートマシーンと化してしまった。同時に、その瞳に期待するような光が宿り始めた。まるで、勇者一行に話しかけられて、何故か伝説について知っているうえに、それを余さず教えてくれる村人Aのような雰囲気。


――魂魄魔法付与型洗脳用アーティファクト 〝村人の誇りに賭けて〟


 RPGの村人は、尋ねれば知っていることを何でも教えてくれる。勇者一行に言われれば、大抵素直にいうことを聞く。勝手に家に入られて、物色された挙句、勝手に物を持っていかれても文句の一つも言わない。


 対象の人間を、そんな素敵な村人化させる、魔王が深淵卿専用として贈った事後処理用アーティファクトだ。


 一分後、英国でも五本の指に入る大企業の代表は、立派な村人Aへとジョブチェンジを果たし、喜々として全ての情報を吐き出すのだった。




いつも読んで下さり有難うございます。

感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます。


感想欄のサーモンサンド祭り、有難うございました。

自分の好きなものが共有されるのって嬉しいですね!


さて、そろそろこの番外編も終わりが見えてきました。

あと2、3話くらいだと思います。

と言っても、プロットなんてないこの物語、どう転ぶかは白米にも分かりませんが。

終わったら何か書こうかなぁ。


次回の更新も土曜日の18時更新予定です。

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― 新着の感想 ―
大企業の社長が、裏の世界の重役が! 村人Aに!!
[良い点] 「もっとやばい集団の尖兵」っていうフレーズに大笑いしてしまいました。白米先生って天才!って思ってしまいました!と、白米先生に言いたくなるくらい、「もっとやばい集団」の恐ろしさを思い返すこと…
[気になる点] 部下たちの香ばしいポーズにて、仮面を着けた戦士に変身しそうなポーズ、とありますが、クウガでしょうかアギトでしょうか…… [一言] 最っ高です
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