透き通るような世界観にいちゃいけないタイプのクリーチャーに成ったけど今日も元気に擬態する 作:食卓の英雄
ネルと不眠蟲は同時に地を蹴った。ネルは周囲を旋回するように絶え間なく弾丸を浴びせ、不眠蟲はやや遅ればせながら距離を取りながらアサルトライフルで狙いを付ける。
不意打ちによりエージェントを一人落とされ、その避難のためにアスナまでもが戦線を離脱した。
奇襲を仕掛ける側であるこちらが先制攻撃を受け、加えて反応できたのも偶々振り返ったからに過ぎない。そのせいでこうして自分が相手を抑えるしかなくなってしまっている。状況としては最悪一歩手前という所だろうか。
(…チッ、何なんだこいつ)
ネルは焦りと怒りを抱えながらも、何よりも冷静だった。彼女は怒りに囚われ目を曇らせるでもなく、むしろ恐ろしいほどに頭の冴えが良くなるタイプだった。
小柄な体を活かした高速戦闘と接近戦はネルの代名詞とも呼べるものだ。「自身の間合いでの戦いなら負けない」と豪語し、それが一切の誇張の含まれていない事実として残っている。
相手も巨体にしては軽やかなステップを踏む方だが、それでも自分程ではない。この距離ならば自分を移動しながらの射撃でありながら二丁のサブマシンガン、ツイン・ドラゴンから放たれる弾丸は的を正確に射抜ける。
反面相手から向けられたアサルトライフルの弾幕は経験と身軽さを活かして回避している。ただ速いだけではない。時に立ち止まり、壁を蹴って向きを変え、緩急のついた移動は変幻自在。直線移動では成り立たない戦闘スタイルは完成され尽くしていた。
こちらに向けてアサルトライフルを乱射するも、ネルは悉くを躱していく。ならばこちらが分があるかと言えば、そうではない。
あちらの銃撃はほぼ届いていないが、逆にこちらの攻撃はほぼ防御されている。腹はノーガードだが、頭や急所となり得る箇所へ向けられた攻撃は必ず腕で防いでおり、超人的とも言える反応速度により有効打が与えられない。
加えて少しずつ照準の精度が上がっていく。点での掃射が避けられると知るや、二丁を薙ぐように振り回し銃撃でありながらバツ印の範囲攻撃に切り替えてくる。
より小柄なこちらの方が屋内では有利かとも思ったが、流石に完全な回避も難しい。甘んじて受け入れる他ない。
「クソ面倒くせぇっ…!」
「……同意見だ」
ネルは吐き捨て、ギアを跳ね上げていく。距離を離そうとする敵にそうはさせまいと疾走る。
急に速度の上がったネルの動きに射線がブレる。姿勢を低く、背後へ回ったネルの集中砲火に対応できていない。後頭部に掃射された弾丸がクリーンヒットする。
「ハッ、この速度には対応できねえみてぇだなぁっ!!」
既にネルが飛び退いた地面を銃弾が抉る。ネルの扱うサブマシンガンとアサルトライフルでは取り回しが違う。そもそもにおいて突撃銃であるアサルトライフルは屋内で縦横無尽に動き回る相手を捕捉するには向いていない。
屋外ならばもう少し変わったものかと思いながらも、相手を仕留めるまで油断はしない。懸念としては、奇襲時に見せた隠密性とアカネを一瞬で戦闘不能にした攻撃。だが、わざわざそれを出させる必要もない。
(このまま仕留める…!)
痺れを切らしたのか、弾幕がフロア全体を襲う。流石にこれを全て回避することは困難。だが、全体をカバーするということは銃撃の密度が下がり、弾薬の浪費を意味している。
「―――ンな薄い弾幕で止まるかよ!!」
やたらめったらに撃ちまくったせいか、不眠蟲の弾幕が途切れた。今が好機だ。敵は即座にマガジンを捨て去るが、それよりもこちらの攻撃が届くほうが早い――――?
(―――いや、待て)
圧倒的に自分が有利。相手はアサルトライフル二丁分の弾薬を失い、この閉鎖空間で己と戦っている最中のリロードは命取り。
加えてあの弾幕の広げ方はこちらを捉えていないことの証明ではないのか。それは相手の方が理解しているはずだ。
なら、ならば何故―――
(―――あいつは顔色一つ変えねぇ?)
死角から仕掛けた筈だった。相手の行動は遅れていた筈だった。それが、何故今ヤツはあたしと目を合わせている?
ぞわりと、肌が粟立つ様な悪寒に襲われると同時、目の前にヤツの腕が迫る。対してあたしの足はすでに地を離れている。
(―――誘われた…!!)
「こっの、野郎―――!!!!!」
せめてその目論見だけでも潰そうと狙いを手に集中して、しかし至近距離からの集中砲火ですら眉一つ動かさないヤツに、いつしか忘れていた感覚が浮上する。
回避も迎撃も、不可能だ。
(クソが…!)
「ごめん部長!!」
「!?」
「!」
次の瞬間、そんな掛け声と共にヤツとあたしの鼻先に黒い物体が投げ込まれる。
それは、思考の隙間を縫い理解するよりも早く爆発という結果をもたらした。
「ぬあっ…!?」
「っ……!?」
一瞬の閃光。明滅する視界と同時、肌が軽く焦げ空中で吹き飛ぶ肉体。そして、支えられる感覚。
「だいじょーぶリーダー!?」
「アスナ、か。マジでナイスタイミングだよ、お前は」
それは、昏睡状態にあったアカネを運んでいたはずの一ノ瀬アスナの姿であった。
その手には彼女の愛銃であるアサルトライフル―――サプライズパーティーの他にアカネのカバンを抱えていた。そして今先程投げ込まれたものがアカネの爆弾だと遅ればせながら理解する。
「コールサイン
今しがた緩みかけた空気を引き締め直すようにネルが問い、アスナも要領を得ない様子で答える。
「何か必要かもって思ったから!」
「…はあ、だろうな」
そもそも戦闘不能状態で放置されているチームメンバーの主武装を勝手に持ってくるなとか言いたいことはあるが、それで助かったのも事実。小言は抜きにして煙の先にいる敵を見据える。
今のでやられる様な相手じゃないが、果たして―――。
黒煙が晴れ、視界が開けた先の光景に、ネルは口端を吊り上げた。
「………っ!」
「やっと人間らしい反応を見せたなぁオイ!!」
そこには、表情は変わらずとも両腕で顔を庇った体勢のまま背後へ飛び退った敵の姿があった。
●
例のC&Cというメイド集団の一人をステルスからの壁歩きで背後に回ったところまでは良かった。
惜しむらくは、先頭のチビメイドちゃん(なんでメイド服の上にスカジャン着てるの?)が振り返ったせいでバレたことだ。あのせいで一人しか不意打ち離脱させられなかった。
因みに眠らせられた理由は、今日摂取していた睡眠薬の、その成分を濃縮したガスを近づけた顔から放出したのが原因だ。マスクのせいで散布はされにくいけど、顔を近づければ効果はある。その前に頭を揺らしてたのも意識を失いやすくするためだね。
しかし、このメイドたちの反応があまりに早い。気づかれた状態でも二人は持っていくつもりだったんだけど、一番大荷物で最後尾のメイドしか倒せなかった。
うわ、あのデカいカバンの中全部爆弾っぽいな。…まあ、それをやれただけセーフとする。
ヘイローの消えた子を離脱させるためにもう一人が離脱した。それはいい。敵も減ったし俺もまかり間違って巻き込んでしまうとかは嫌だからね。
で、リーダーと呼ばれてるチビメイドちゃんと戦ったんだけどね。これが強いのなんの。
室内なのにメッチャ駆けて二丁のサブマシンガンを目茶苦茶正確に当ててくる。俺も動きながら狙いをつけて連射したけど、全然当たってくれない。たまに当たるけど、それでも怯まずこっちを攻めてくる。
うん、正直白状すると舐めてたわ。
ブラックマーケットで傭兵業デスマーチやってた時のほうが全然マシでした。
え、お前銃弾見切るくらいの動体視力持ってるだろって? いや、それとこれとは別じゃん。メッチャ連射してくるの全部避けれるわけないし、見えてても銃が当てれるかは別問題だよ?
っていうか、ホントに同じ生徒なのかと思うくらい強い。もしかしてこの世界同じ様なもの持ってても個人間でかなり戦闘力の差が出てくるタイプのやつ?
咄嗟に考えて使ったサザンクロス*1も身を捩られて回避されたし、まるで猫を相手にしてるみたいだ。
そんな風に思ってたら、更に速度が上がる。アサルトライフル取り回しよくないわ。しかも二丁だから背後とか一瞬じゃ対応できない。誰だロマンとか言ったやつ!
ええい! ミレニアムのメイドは化け物か! まあ俺のほうが化け物なんだけどね。
なんとかなれーっ!
って感じで全方位に弾ばらまいたけど全然止まんない。っていうか弾切れした。アカン。
マガジン換えたいけどそんな余裕ない。落とした瞬間左後ろからチビメイドちゃんが飛びかかってくる。
ってやば、こんな至近距離でバカスカ弾食らったらいくら頑丈なマスクといえど壊れる。壊れたらどうなる? 気が抜けてパカッてなった瞬間に人間じゃないとバレる。
うおおおおおおお!!止まれエエェェぇ!!
咄嗟に手を突き出して防御。弾丸が掌に撃ち込まれる感覚を感じていると、俺とチビメイドちゃんの目の前に何かが投げ込まれる。
俺の優れた動体視力はその正体をハッキリと映し出していた。
爆弾だコレ。さっき帰ってきたゼロワンって呼ばれてたメイドが投げたっぽい。
ってあああああああああああぁぁぁぁっ!!顔、顔を守れぇぇぇえ!!
伸ばしてた手どころか、両腕使って顔を庇って後ろに跳ぶ。
あ、危なかった…! 顔面攻撃よりも警戒しなきゃいけないのが爆発物だ。下手すればマスクがそのまま吹き飛んだ上衝撃で口が開くかもしれないから。
めっちゃ危なかった。そう思って爆心地を見てたらチビメイドちゃんがニッと笑った。
「やっと人間らしい反応を見せたなぁオイ!!」
怖っ。めっちゃヤンキー。あれがメイド部の部長なの? もしかして俺の知ってるメイドと違う可能性が浮上してきたんだけど?
向こうさんがやってくる前にマガジンを入れ替え、再び構える。今度は2対1。さっきよりも不利だ。
でも今度は作戦がある。今ので大体の速度は掴めたから、今度はこっちも相手の動きと同じ方向に動きながら撃ちまくる。
さっきは動き回る相手に避けようとしながら狙いを定めたからよくなかった。どの道正確に当ててくるならサブマシンガンの被弾は覚悟で相手に合わせて動けばエイムが並程度でも無理矢理当てられるだろう。
「おらおらおらおらあぁぁぁぁぁぁ!!!」
「いっくよー!」
――――そんな風に思ってた時期が俺にもありました。
いや、さっきと比較すれば普通に当たるようになったけど、やっぱり同じ部活と言うだけあって連携が上手い。追い縋ったり先読みして撃ってたら一番嫌なところに爆弾が投げ込まれる。
だからといってそっちを狙うと妙に避けられている間にチビメイドの方に集中砲火される。素早く撹乱しながら攻撃の手を緩めないチビメイドと、的確に俺の嫌なことをしてくるゼロワンさん。
……正直、こっちのゼロワンさんが来てから大分変わった。
あのチビメイドは俺が戦った中じゃ一番強い。でも、それだけだ。それよりも、あのゼロワンさんの方が俺的には不味い。どういうわけか知らないけど、俺の攻撃を読んでくるし、連携も抜群。特に爆弾のタイミングなんかは未来予知でもしてるのかってくらい重要な所で飛んでくる。
……いや、本当強い。これでメイド部っていうんだから、きっとミレニアムの保安部やトリニティの正義実現委員会、ゲヘナの風紀委員会とかはこれ以上ってことなんだろう。
所詮ブラックマーケットの中で無敗というくらいでお山の大将だったと分からせられた。
でも、こっちだって生活のための金がかかっている。みすみす通すわけにはいかない。
俺は撃つのをやめて二人に向き直る。
「あ?」
「止まった?」
「……あなた達は、オレの見てきた中で、最も強い。正直、ここまでとは思っていなかッた。……種類の違う強サが互いを引き立てあっている」
「はっ、急に饒舌になるじゃねえか」
向こうもこっちの意思を尊重したのか、それとも急に撃つのをやめた俺を警戒してるのか銃を向けながらも撃ってはこない。
「……特にゼロワン、あなたが一番厄介だ。……もう一人の方の速度に慣れてきたが、あなたが的確に潰しテくる」
「おい、あたしはどうなんだ!!?」
「それは〜、ありがとう、なのかな?」
何かチビメイドが噛みついてくるけど、知らん。もっと爆発物を顔面に叩き込んできたら最重要警戒対象だけど、サブマシンガンならまだ耐えられる。
「……手の内を隠したまま勝てる程甘い相手ではないとそう思った。……予め言ってオクが、少なくとも、仕事で使うつもりは無かった」
これは本当だ。正直ブラックマーケットの活動によって偏った考えで生徒相手なら十分だろうと考えていたことは事実。そして、侮った今しっぺ返しが来ている。
キヴォトスで働くのだから、キヴォトス流のやり方に従うべきと思っていたけど、それでピンチになるならそれは舐めプの様なものだろう。
だから、ここにその解禁を宣言する。そもそも、こんだけ強いなら俺も本気で挑む必要がある。
そうしなきゃ勝てないし、そうでなきゃ相手に失礼だ。
キヴォトスでも最強と噂に聞くゲヘナ風紀委員長とか正義実現委員会の委員長ならあり得るかと考えていたけど、その慢心と傲慢さはたった今消え去った。
「……少し、本気を出させてもらう」
「…ってめぇ、あたしら相手に舐めプしてたってことか……!」
あ、ヤベ。怒らせちゃった。いや、その、口下手なだけなの。でも全力って言っちゃうと嘘になるし…。え、どうしよ。何かそれっぽい感じで…。
「……あなた達なら、死ぬことはないだろう」
これ悪役のセリフやん。もういいや。どうにでもなーれ!
「……お見せしよう」
よく第2形態と感想でもありますが、ヒト型にはヒト型の利点、元の姿には元の姿の良さがあります。
例えば、ヒト型なら両足で立つため両手がフリーになったり小回りが効きます。あと、圧縮されてる分こっちのが防御力高め。
アギトで例えると
ヒト型がバーニング、怪物型がシャイニングみたいな感じ。
ふと思いついたネタ
アスナ「あなたを止められるのはただ一人!私だよ!」
……はい。
対策委員会編が終わったら幕間を書こうと思います。選ばれなかったものは作中や前書き、後書きでサラッと乗せます。因みに全部を選ぶと本編が遅れますがちゃんと読めます
-
C&Cリベンジ!
-
ツルギとのデート回
-
カニー・クッターと近所のヌシ
-
全部!