BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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ほぼ殺陣回です。
レイヴンはいつもの(ACの)癖で、左手に刀を握っております。

未だにエミュが分からないのが私なんだよね……。


57.妖喰らい

 徒歩のアヤメを飛び越えて、一足先に百鬼夜行へ到着。

 事前に連絡を受けていたニヤが、また怪異かと愚痴りながら、住民をシェルターへと避難させていた。

 同時に、怪談を含めた物語は、全容が見えていなければ書けない。

 アヤメは、神木以外で最も高い、陰陽部の天守に来るのではと推測した。

 そして、その予測は的中する。

 

 エアの提案により、アヤメを天守で待ち伏せる。

 俺は右手に屍山血河を、ナグサは左手に百蓮を握りながら。

 アヤメはニヤの予測通り、誰も居ない陰陽部本部を上り、こちらに向かってきた。

 ハシゴを登ってきたアヤメは俺達に気づくと、背負っていた銃を抜いた。

 

 「待ってたぞ、七稜アヤメ。」

 

 その瞬間、柱の陰に隠れていた百花繚乱と先生が、アヤメの後ろを塞ぐ。

 銃口と切っ先を突き付ける3人を、流し目にちらりと見た後、アヤメは俺達をまっすぐ見据えた。

 

 「待ち伏せ、か……。ナグサが考えたにしては、動きが速いよね。キキョウか、傭兵さんの考えかな?」

 

 それぞれ色の違う光の無い瞳が、俺達を睨みつけている。

 どちらも質問には答えず、僅かな沈黙が天守を覆う。

 エビスから吹き込む冷たい風が、俺達の間を通り過ぎる。

 

 「アヤメ、何で……?何でこんな事しようとしてるの!」

 

 「分からないよね。あんたは私の友達じゃないんだから。私の事を知ろうともしなかった癖に、今更何言ってるの?」

 

 「ごめんなさい……!本当にごめんなさい……!でも、知りたいの!私にとって、アヤメは友達だから!何で!?どうして!?」

 

 顔をくしゃりと歪ませながら、泣き叫ぶようにそう叩きつけるナグサ。

 アヤメの背中を塞ぐ4人はただ、唇を結び、見守ることしか出来ない。

 対して俺は、事態の根本は痴情の縺れなのかとウンザリしている。

 

 「……だからだよ。」

 「そうやっていつもいつも私を頼って!!何かにつまづいたらすぐグスグス泣き出して!!ずっと私に寄りかかってきた癖に、友達!?笑わせないでよ!!!」

 「私を助けようともしなかった癖に!!知ろうともしなかった癖に!!私が、みんなが信じる“アヤメ”の仮面をつけてることに、気づかなかった癖に!!!」

 

 後30分で日の入り。

 天守に差し込む光が、ナグサに牙を剥くアヤメと、涙を流しながらもアヤメから目をそらさないナグサを照らす。

 きっと今先生は、アヤメを助けなければと決心した事だろう。

 現に、先生の顔は決意によって固められている。

 

 「ずっと、見られてることが辛かった……。みんな“私って言う仮面”しか見てない事が辛かった……!でも、今日でそれもおしまい。」

 「今日からは、私がみんなを見つめる番。この力で、百鬼夜行中を見守るの。」

 

 「……言ってよ!!辛かったって言ってよ!!助けてって言ってよ!!そしたら、私はアヤメを助けられた!!アヤメの事を知れた!!」

 「私じゃなくてもいい!百花繚乱の、みんなを頼ってよ!!ずっとずっと、アヤメを助けたかったのに!!」

 

 「うるさいッ!!!今更友達面してごちゃごちゃ言わないでよッ!!!」

 「あんたは良いよね……。その百蓮に、クズノハ様に認められたんだからさァ!!!」

 「私は選ばれなかった……。百花繚乱で、百鬼夜行で誰よりも強かった……!そのはずなのに……!」

 

 この2人の癇癪を聞くのも飽きてきた。

 むしろ、ここまで手を出さなかった事を褒めてもらいたい。

 全員に聞こえるようわざと大きくため息をつき、屍山血河の鍔に指を掛けた。

 

 「なあ。俺はいつまでこの安いドラマに付き合えばいい?」

 

 「……ハァ?何言って――」

 

 「俺がお前に聞きたい事は1つ。降伏するかどうかだけだ。」

 

 アヤメの答えを待たず、左手で刀を引き抜き、 鞘を捨てる。

 俺が握っているのが何なのか、アヤメはそこでようやく気付いたらしい。

 まず刀を、そして俺をじっと見た後、その頬はぐいと引き裂かれた。

 

 「……屍山、血河。私は、私じゃ、抜けなかったのに……。」

 「……ハハッ。アハハハ。アッハハハハハハ!!!」

 

 天を仰ぎ、唾を吐きかける勢いで笑うアヤメ。

 そのあまりの圧に押され、百花繚乱全員が、1歩後ずさり。

 アヤメはひとしきり笑い終えると、だらりと体を下ろし、また叫び始めた。

 

 「そっか……!そっかそっか!あなたも選ばれたんだ!!私が選ばれなかったモノに、あなたがァ!!!」

 「じゃあ、もうこうするしかないよね。何からも選ばれなかった私が、何かになるにはさァ!!!」

 

 アヤメがだらりと体を下ろした瞬間、天守は暗闇に包まれ、そこから無数の目が現れる。

 アヤメの右肩から、うぞうぞと黒く平べったい触手が生え、そこからも目が現れた。

 その眼は俺を、ナグサを、先生を、百花繚乱を、ただじっと見つめる。

 だが、アヤメの右肩はともかく、暗闇の目は幻覚の類。

 今までの台詞から考えるなら、あの目こそがアヤメの恐怖か。

 

 「私は、ヒトツメ。この百鬼夜行全てを見通す者。お前達の、全てを見つめてやる……ッ!」

 

 「アヤメ……!そんなものに頼っちゃダメ!!アヤメッ!!!」

 

 「ナグサ、目の前に妖が居るんだよ?どうすればいいかなんて、私に聞かなくても、分かるよね?」

 

 突き放されたナグサは目線を落とし、両手をギリギリと握りしめる。

 だがすぐに涙をぬぐい、その眼に決意を宿し、左手の百蓮を薄く笑うアヤメに向けた。

 俺はようやく話が動いた事に安堵しながら、背中からLMGを取り出す。

 

 「あくまで戦うか。良いだろう。」

 

 「……百花繚乱紛争調停委員会、副委員長、御稜ナグサ……。参る……ッ!」

 

 右手を前に体を傾け、銃を軽く持ち上げ構える。

 ナグサは百蓮の銃口と切っ先を、両手で銃を構えナグサに向けるアヤメから逸らさない。

 百花繚乱はそれぞれの銃を、先生は箱を握り、俺達をじっと見つめる。

 

 冷たい風が止んだ瞬間、右手に握られたアヤメの銃が火を噴いた。

 俺は右にステップ、ナグサは左に転がって回避。

 ナグサを狙い続けるアヤメに一気に駆け寄り、左腕を力任せに振り下ろす。

 アヤメは切っ先が触れる直前でかわし、ナグサからの銃弾に身を屈めた。

 アヤメの後ろを回りつつ、足元にLMGを乱射。

 同時にナグサからアヤメの胸を正確に狙った1発。

 そのお返しのつもりか、銃弾を全てかわしたアヤメから大量の触手が放たれた。

 即座に突進。アヤメ本体に乱射しながら、落ちてくる触手を斬り払う。

 ナグサもアヤメを軸に回り、触手を掻い潜って距離を詰めていく。

 アヤメに向かう銃弾は見えない何かに防がれ、ナグサの頭に真っ直ぐ向かう弾頭が返された。

 それを辛うじて頬で逸らしたナグサは、至近距離からの1発でアヤメの姿勢を半身に固定。

 直後に脳天から振り下ろされる銃剣を、アヤメは自身の銃で受け止めた。

 アヤメがナグサを押し返した直後、俺は更に後ろから飛びかかり、左足をアヤメの脳天に落とす。

 当たったのは掲げられた銃だったが、衝撃でアヤメの両膝は地面に突き刺さる。

 追撃の後ろ蹴りも触手で防ぐが、アヤメは大きく吹き飛ばされ、柱へ叩きつけられた。

 地面に突っ伏したアヤメは、何度かせき込んだ後立ち上がり、切っ先を向ける俺達を睨みつける。

 

 また牙を剥いたと思ったら、アヤメは唐突に触手を地面に突き刺した。

 何をする気だ、と思案した瞬間、下から攻撃警告。

 突き上がる無数の触手に、弾幕を張りながら飛び下がる。

 ナグサと並んで距離を取り、アヤメも触手を引き抜いて、戦況は仕切り直し。

 面倒な力だ。一気に片づけた方が良いだろう。

 

 小さく息を吐いて、直後右手をアヤメに向けて乱射。

 同時に駆け出したアヤメは銃弾を何かに任せ、なお銃口をナグサに向ける。

 ナグサは放たれる火を掻い潜り、アヤメとの正面衝突の構えに入った。

 アヤメがボルトを引いた瞬間、百蓮のいななきがアヤメの頬を掠める。

 すかさずナグサは背中を叩きつけ、怯んだアヤメの右肩目掛けて、百蓮の切っ先を突き出した。

 だが、切っ先は銃によって逸らされ、前蹴りがナグサの体を押し返す。

 アヤメとナグサが互いに銃口を向け合い、決闘の様相を呈した瞬間、俺はアヤメが立っている畳の反対側を強く踏みしめる。

 畳はほんのわずかに、だが姿勢を崩させるには十分な程度に持ち上がり、銃口はナグサの頭から大きく逸れた。

 目を見開くアヤメの脇腹に回し蹴りを食らわせ、再び壁際まで追い詰める。

 怒りに染まったアヤメは銃を手放し、握り拳に触手を纏わせ大きく肥大化させる。

 だが、もう遅い。

 残弾少ないLMGを捨て、体を大きく捻って刀を引き付ける。

 そしてそのまま大きく踏み込み、アヤメの黒い右腕目掛けて、高く掲げた刃を振り下ろした。

 

 ”クロハ、ダメッ!!!”

 

 だが、甲高い金属音と共に、その刃は止まった。

 ナグサが握る百蓮が、俺の刃を止めたのだ。

 空いた右手を峰に沿え、上から体重をかけて押し込む。

 

 「……何の真似だ、ナグサ。」

 

 「例え、妖だとしても、鬼だとしても……!あなたのような修羅に、殺させるわけにはいかない!!!」

 

 ナグサは刀を押しのけると、百蓮で左に薙ぎ払う。

 それを飛び下がって回避し、眉間を狙った1発を、頭を傾け頬で逸らす。

 瞬間、感じたのは、鋭い痛み。そして、頬を伝う滴。

 頬を指で撫でると、グローブの腹は赤い滴に濡れていた。

 

 ”クロハに、傷が……!”

 

 幽霊を封じる百蓮が、ただの人間であるはずの、俺に効いた。

 その事実は、俺以外の全員の目を見開かせるには十分だった。

 頬に傷が付いた時、刀を握る左手から、炎のような熱が、明確な意思が、悪意が伝わってくる。

 俺を使え。全てを喰らえ。

 

 「……そうか。邪魔をするか。」

 「なら、お前ごと斬るしかないな。」

 

 指に残る血を刀の腹に押し付け、そのまま切っ先へと擦り付ける。

 指を離したその瞬間、屍山血河から、赤黒い炎がごうごうと吹き出した。

 アヤメも、ナグサも、百花繚乱も、先生も、目を見開き、後ずさりする。

 この炎が何なのか、何を薪に燃えているのか、左手から嫌でも流れ込む。

 

 「マジかよ……ッ!?」

 

 「あれが……!」

 

 「怨嗟の、炎……。」

 

 夥しい量の恐怖、絶望、憤怒、そして死。

 これが呪物と呼ばれる理由が、ようやくわかった。

 だが、これを捨てる気は毛頭ない。

 事が済むまでは、役に立ってもらう。

 

 「臆したな、アヤメ。」

 

 腰が引けているアヤメにそう言った途端、暗闇の目が一斉にアヤメを見つめる。

 それに腰を抜かしたアヤメを、即座にナグサが庇った。

 刃の炎を燃え滾らせ、天に向かって振るえば、軌跡に残った炎が弾け、暗闇と目を焼き払う。

 天守の中で灰と火の粉が降り注ぎ、炎は天守そのものへと燃え移る。

 眩い光と熱の中、俺とアヤメが睨み合っている間に、百花繚乱3人の狙いは俺に変わっていた。

 まずは、あいつらからだ。

 

 脱力し、体を沈め、左に急加速。

 3人の真横を取り、刀を振り上げ銃を両断。

 ここで、レンゲとキキョウが真横を取られた事に気づいたが、もう遅い。

 動かれる前に1歩、2歩と踏み込みながら、円を描いて切り上げ、振り下ろし、それぞれが持つ銃を真ん中から叩き斬る。

 分かる。どう動けばいいか。どう振ればいいか。

 人を斬るにはどうすればいいか、左手から流れ込んでくる。

 誰かが口を開く前に刃を向け、全員に黙っていろと意思表示。

 先生が後ずさりしたのを見て、顔を前に戻すと、立ち上がりはしたが、なお怯えが残るアヤメ。

 そして、それを庇いながら、俺と差し違えるとでも言いたげな目を向けるナグサが立っている。

 ナグサは俺の肩越しに先生へ軽く頷くと、先生は百花繚乱3人を柱の陰へと引っ張った。

 捨てていた鞘を右手で拾い、切っ先を左へ低く流して、アヤメとナグサに向かい合う。

 

 「……レイヴン。あなたを、百花繚乱次長として、ここで祓う。」

 

 「……やってみろ。」

 

 いつになく真剣な声音で、そう宣言したナグサ。

 そこまで言うのなら、付き合ってやろう。

 刀をゆっくりと、高く振りかぶり、1歩で銃の射程から懐に飛び込んで斬り下ろす。

 1撃目は打ち払われるが、すかさず2撃目を叩き込んで受けさせる。

 衝撃でナグサの膝が大きく沈み、されど地面まで落ちることは無い。

 すかさず刀を腰まで引き、へそ目掛けて突き出すも、受け流すと同時に刀身を踏みつけられる。

 刀を引き抜いた瞬間に突き出される百蓮の切っ先を、回りながら下がってかわし、追撃の銃弾を右手の鞘で打ち払う。

 

 夕焼け空の赤色と、赤黒く染まる怨嗟の炎の中、また睨み合う。

 左手から、また悪意が流れ込む。

 喰らえ。喰らえ。全てを喰らえ。

 なお強くなる思念を、左手に力を込めて黙らせる。

 

 瞬きしている間に、俺の周りの柱と梁に、平たい触手が突き刺さっていた。

 その大元は、巨大な拳を振り上げたアヤメだ。

 アヤメは触手で体を引き寄せ、俺に向けて一気に加速。

 顔面に迫る拳の下を潜り抜け、アヤメは自ら天守の外へ飛んでいく。

 だがアヤメは、俺を囲うように触手を伸ばし、また殴りつけようと構えた。

 余りにも雑だ。これが委員長とは、笑わせる。

 畳をへし折る重い打撃をかわした直後、手首を狙って逆袈裟切り。

 黒い手を斬り落とされ、アヤメが苦痛に顔をゆがめた瞬間、庇うように放たれた銃弾を2つに割る。

 ナグサが足でボルトを操作する間に、ただ歩いて距離を詰め、袈裟切りを仕掛ける。

 ハンドルが戻った瞬間、包帯が巻かれた右手まで使い、ナグサは初撃を受け流した。

 そのまま横薙ぎ、逆袈裟へと繋げるも、ナグサは全て打ち払う。

 反撃の横薙ぎを上段で叩き落し、突きを鞘で受け流し、無防備な鳩尾を蹴り飛ばす。

 ナグサが膝を突き、俺は刃を掲げた瞬間、後ろから足元に迫る薙ぎ払い。

 後方へ回りながら飛び、触手を細長く伸ばしたアヤメの頭を蹴り落とす。

 アヤメの淡い金の髪を踏みつけ、首筋へ切っ先を落とす寸前で、今度は後ろから突きが迫る。

 足を離し、回りながら百蓮を打ち払い、ナグサの首を鞘で打つ。

 まずはお前が死ね、ナグサ。

 ぐらりと揺らいだ背中目掛けて、唸り声を上げる切っ先を深く突き出した。

 

 だがそれは、黒い盾に阻まれた。

 アヤメが束ねる、黒い触手の盾に。

 盾の持ち主目掛けて更に押し込もうとした瞬間、触手によって根元が押し流され、切っ先は畳へと流れた。

 

 「ナグサ……ッ!私は、あんたの事なんか、大っ嫌い……!でも……!」

 

 炎に焼かれ、苦痛に顔を歪ませながらも、アヤメはナグサを庇う。

 結構な事だが、今は邪魔で仕方ない。

 盾に足をかけ、逆手で切り裂きながら飛び下がれば、生身の腕を斬られたかのように、アヤメはひと際大きな悲鳴を上げる。

 だが、これまでナグサがそうしてきたように、アヤメはナグサの前から動こうとしない。

 

 「人が死ぬのは、見たくない……。あんたが死ぬところだってそう。だから……。」

 「ナグサ、あの修羅を止めるのを、手伝って。」

 

 「……任せて!!」

 

 右腕を押さえ、焼けた触手を畳に落としながらも、アヤメは確かに自分の足で立ち上がった。

 その覚悟に呼応するように、ナグサもすぐに立ち上がり、アヤメの隣で百蓮を構える。

 アヤメもまた、触手を1振りの刀として集め、背筋を伸ばして中段に構えた。

 

 「ハァ……。メロドラマは……。」

 

 ため息をつきながら、屍山血河を地面に突き立てる。

 瞬間、刃から炎が溢れ、ごうごうと唸り声を上げる。

 

 「余所でやれッ!!!」

 

 順手で握り直して、体を大きく傾けてギリギリと引っ張り、天に向かって斬り上げれば、炎は2人に向かって地を走る。

 2人は分かれるように炎を逃れ、ナグサは銃口を向け、アヤメは右腕を高く掲げる突きを放ってきた。

 銃弾を潜り、突きを打ち払い、アヤメの首筋を鞘で打つ。

 飛んでくる2発目を斬り落とし、体を左右に大きく振りながら接近。

 ナグサの迎撃の横薙ぎを鞘で止め、百蓮を足場に飛び上がる。

 炎の刃をナグサに向けて振り下ろすも、横っ飛びでかわされ、着地した瞬間にアヤメが斬りかかってきた。

 大声を上げながら落とされる、3連撃の大上段。

 1撃目は受け、2撃目は刃で、3撃目を鞘で受け流す。

 アヤメの姿勢が崩れ、すかさず脇腹を蹴り飛ばし、直後飛んできた銃弾を打ち落とす。

 間髪入れず迫るアヤメの切っ先を、打ち払うことなく足場にし、ガラ空きの背中に刃を向けた瞬間、ナグサの援護射撃で阻まれた。

 弾頭を逆手で斬り払い着地。

 その瞬間にナグサは腰に低く構え、アヤメは高く飛び込むように、揃って放たれる追撃の突きを、すり足3歩で2人の間を潜り抜ける。

 2人はぐるりと振り返り、構え、決意の籠った眼でまた俺と睨み合う。

 

 もう、面倒だ。

 絶望でも死でも、何でも喰えばいい。

 だが、力は寄越してもらう。

 

 刃を掲げ、左手越しに怒りを流し込む。

 すると炎は更に音を立て、喜んでいるかのように激しく燃え盛る。

 何かを察して守りの構えに入った2人に駆け寄り、全体重をかけて炎と共に振り下ろす。

 大きく吹き飛ばされるも受けきった2人は、俺を見据えてなお踏み込んできた。

 だがその瞬間、軌跡に残った炎が弾け、2人はかわす間もなく壁に叩きつけられる。

 その隙に刃を鞘に戻し、腰に沿えて低く構える。

 瞬間、名前と動きが脳裏に浮かんだ。

 葦名流奥義、十文字。

 先に立ち上がったアヤメの懐に潜り込み、親指で鍔を押し飛ばす。

 踏み込みの勢いを乗せた刃は、アヤメの守りを容易に砕き、続けざまに放つ兜割が、獲物を根元から斬り落とした。

 

 「――ッ!アヤメ!!」

 

 1歩出遅れ、右腕を押さえながら崩れ落ちたアヤメに気を取られたナグサ。

 すり足で踏み込みつつ左下から斬り上げ、ナグサはそれを百蓮で受け止める。

 

 「余所見をしている暇があるのか?」

 

 渾身の前蹴りでナグサは大きく後退。

 構え直される前に、炎を滾らせた突きを放つと、ナグサはそれを横っ飛びでかわす。

 牽制の1発を半身に避ければ、ナグサはアヤメの元へ駆け寄り、また俺の前に立ちふさがった。

 睨み合う間もなく、脱力して踏み込み、袈裟切りを浴びせるが弾かれる。

 続けて2撃加えるも、右手まで使った受け流しで有効打は入らず。

 直後、無造作に左に歩き、ナグサの気が一瞬緩んだ隙に、右目を狙う鞘尻の突き。

 頬を掠めるにとどめたナグサから返される、斬り上げ2連。

 刃で流しつつ下がり、〆の突きを踏みつけ、ナグサを足掛かりにバックフリップ。

 すかさず斬りかかってきたナグサを受け止め、屍山血河と百蓮越しにギリギリと睨み合う。

 その後ろで、アヤメは人ならざるモノとなった、自分の右肩を見つめていた。

 

 「私は結局、誰にもなれなかった……。百花繚乱の委員長にも、妖のヒトツメにも……。」

 「分かってた……。誰にもなれないのは、誰のせいでもない、自分が弱いからだって……!」

 「それなら……!結局、誰にもなれないなら……!こんなモノッ!!!」

 

 アヤメは変わり果てた右肩に左手を食い込ませ、大きく叫びながら思いっきり引っ張った。

 指の隙間から目玉があちこちにぎょろぎょろと動き、根元からはブチブチとちぎれる音が響く。

 俺とナグサが互いを押しのけ突きの構えを取るのと、アヤメが触手を引きちぎったのは、ほぼ同時だった。

 俺が一瞬アヤメに目線を向けると、踏み込もうとしていたナグサが、俺の視線の意味に気づいた。

 靄となって消えていく目玉の隣で、アヤメは畳の上に倒れ込む。

 ナグサは百蓮を捨ててアヤメに駆け寄り、肩を引いて仰向けに寝かせた。

 

 「アヤメッ!しっかりして、アヤメ!」

 

 左手を人へと戻った右肩に沿え、包帯塗れの右手で頬を撫でるナグサ。

 アヤメは憑き物が落ちた顔でナグサの目を見つめ、静かに心中をこぼした。

 

 「私は、あんたが、大嫌い……。素直になれた自分を見てるみたいで、本当に、大っ嫌い……。」

 

 また涙を溜めるナグサの目じりを、アヤメは右手でそっと拭う。

 そして、安堵の吐息を吐きながら、自分の意識をゆっくりと手放した。

 安らかな顔で目を閉じるアヤメに、ナグサはボロボロと泣きながら、アヤメの胸に縋りつく。

 

 「アヤメ……!ごめん……!ごめんね……!あなたの痛みに、もっと早く、気づくべきだった……!本当に、ごめんなさい……!」

 

 アヤメから怪異の反応は消え、確かにあいつは人間に戻った。

 これで戦う理由は無くなり、俺の仕事は終わった。

 ただ、どうしても言いたい事が1つ。

 

 「結局、こいつらのドラマに付き合わされただけか。忌々しい……。」

 

 刀を大きく振るって炎を消し、逆手で鞘の中へと収める。

 同時に、天守に燃え移っていた炎も消えた。

 刀を収める直前に、忌々しそうな悪意が伝わってきたのは、きっと気のせいではない。

 

 「終わった、のか……?」

 

 ”全員無事、みたいだね……。”

 

 戦いが終わった事を察した先生と百花繚乱が、柱の陰から顔を出す。

 ユカリはすかさずアヤメとナグサの元に駆け寄り、レンゲは両断された百花繚乱の銃を拾い直す。

 

 「先輩方、ご無事ですか!?」

 

 「私は大丈夫……。アヤメも、失神しただけみたい……。全員、無事……。」

 

 「ん……?ナグサ先輩、右手!自分の右手、見てみろよ!」

 

 レンゲにそう言われ、右手に巻かれた包帯を解いたナグサ。

 中から現れたのは、何の変哲もないナグサの白く細い手。

 だがナグサは、自分の手に感慨深そうに触れた後、右手でアヤメの頬をそっと撫でた。

 その光景を見ていたユカリとレンゲは、互いに笑顔を向け合った。

 胸をなでおろした先生はナグサ達を見つめていたが、キキョウだけが眉間にしわを寄せながら、俺にずかずかと近づいてくる。

 

 「あんた、今回は良かったけど、それを使い続けてると、飲み込まれるよ。さっさと陰陽部に渡して。」

 

 「どういう事だ?」

 

 「気づいてないなら、猶更マズいよ!最初は素人の動きだったのに、最後は古流剣術を涼しい顔で使ってた!」

 「良い!?屍山血河は、本物の呪物なの!さっきまでのあんたは、刀にいる何かに乗り移られてた!そうとしか説明しようがない!」

 

 「キキョウ、待って。」

 

 俺に指を突き付け、刀を捨てろと詰め寄るキキョウを、アヤメをおぶったナグサが制する。

 そのまま俺の元まで歩み寄ったと思ったら、アヤメの負担にならない程度に、ナグサは俺に頭を下げた。

 

 「レイヴン、あなたを勝手に修羅と呼んで、ごめんなさい……。」

 

 「……どういう風の吹き回しだ?話が見えてこないぞ。」

 

 「もしあなたが本当の修羅なら、アヤメが倒れた時に、刀を止めはしないはず。でも、あなたは違った。」

 「アヤメがアヤメに戻ったら、あなたはすぐに刀を収めた。それは、あなたが修羅でない事の証拠。」

 「だから、あなたにも謝らせて欲しい。本当に、ごめんなさい……。」

 

 少し腫れぼったい目で俺を見つめた後、また頭を下げたナグサ。

 先生はその景色に目を丸くし、ユカリは力強く頷き、キキョウは納得しておらず、レンゲはそもそもピンと来ていなさそうだ。

 だがそもそも、俺にとって恐れられることは、ごく普通の事だ。

 前提も共有できてない以上、許すもクソも無い。

 

 「修羅だのなんだの、訳が分からん……。勝手にしろ。俺の仕事は終わってる。」

 

 「そう……。それなら、お礼を言わせて。私達を助けてくれて、ありがとう。」

 

 「……構わん。これも仕事だ。」

 

 ため息をつきながら、屍山血河を先生に押し付ける。

 素直に受け取ればいいのにと言わんばかりの目線を向けられたが、あえて無視した。

 ユカリがナグサの百蓮を拾い、キキョウもレンゲが持っていた銃の残骸を半分抱える。

 先生の帰ろうの一言で、アヤメを背負ったナグサを先頭に、天守から降りていく。

 ふとグローブで右頬を拭うと、乾いた血がペリリと剥がれる。

 外を見れば、太陽が地平線へと落ち、大地の底へ隠れようとしていた。




レイヴンが置いてけぼりになりながらも、本編時空の事件は終わりました。
でもそう言えば、一度も登場してない人がいましたね?
だからもうちょっとだけ続くんじゃ。

次回
夜叉烏
百花繚乱の責

次回も気長にお待ちくださいませ……。

――――――――――――――――――――――――――――――――

屍山血河

戦で生まれた最初の修羅、「エビスのいち」の獲物
数え切れぬ人を斬った刃は、薄っすらと朱い

浪人と共に育ったいちは、自らの力で生きる事を望んだ
故に武勲を求め、戦に身を投じ、命の鍔際に立ち続け、
そしていちは、戦に飲み込まれた

この刀は、長く勘解由小路家により封じられてきた
刻まれた名は、「落椿」
それがこの刀の真の名だが、忘れられて久しい
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総合評価:6285/評価:8.31/連載:66話/更新日時:2025年05月11日(日) 23:57 小説情報

猟犬烏の青春(作者:面無し)(原作:ブルーアーカイブ)

基本は「レイヴンの火」ルートの621が、ブルーアーカイブにくる話です。▼n版煎じですがよろしくお願いします。▼ストーリーも履修中だからキャラのエミュとか物語の流れとか……不備があってすまない、すまない……▼621転生で下記要素が見たくて書きました。▼・本体はあくまで包帯ラップ巻き621にしたい。▼・『メインシステム 戦闘モード起動』がやりたい。▼・特定条件下…


総合評価:1629/評価:8.34/連載:67話/更新日時:2025年04月30日(水) 01:47 小説情報

ミシガン英雄伝記補遺:透き通る世界を地獄が歩く(作者:柴猫)(原作:ブルーアーカイブ)

 『木星戦争の英雄ミシガンは、ルビコンで転んで死んだ』彼の生きざまを描いた伝記の最後は全て、そう締めくくられている。▼ これは死したはずの英雄が正史から外れた、透き通るような青春に先生として左遷させられた後を描く、いわば補遺である。▼ 願わくば、この物語があの子たちの青春を思い出させる一助とならんことを。▼※AC6とブルアカのクロスオーバーものです。「ミシガ…


総合評価:5113/評価:8.92/連載:21話/更新日時:2025年09月17日(水) 00:00 小説情報

ハンドラー・ウォルター先生概念。(作者:ヤマ)(原作:ブルーアーカイブ)

 Q.どうしてソシャゲの主人公はサポートしかしてないのにモテるの?▼ A.ハンドラー・ウォルター。▼ アーマードコア6のネタバレを含みます。▼ ストーリーを知らない方は買ってきてプレイしよう!▼ n番煎じかつ既出概念ですが、ウォルターの猟犬になった(脳を焼かれた)記念+どうしてもウォルターの心情を自分で書きたかったので書きました。みんなの解釈と違ったらごめん…


総合評価:26484/評価:9.29/連載:68話/更新日時:2025年09月09日(火) 01:15 小説情報

ブルーアーカイブ/灰の翼(作者:空素)(原作:ブルーアーカイブ)

ブルアカxAC6のn番煎じ…!▼ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー▼強化人間、C4-621、独立傭兵レイヴン。▼彼には、選択肢があった。▼恩師に報いるか、友の祈りに寄り添うか。▼彼が選んだのは、恩師へ報いる事だった。▼彼は、友と決別し、そして、立ちはだかった戦友を空の上で堕とし、友もまた、自らの手で討ち滅ぼした。▼恩師は彼の手が届かない場所に連れて行かれ…


総合評価:1185/評価:6.58/連載:160話/更新日時:2025年10月15日(水) 17:00 小説情報


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