BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL- 作:Soburero
レイヴンはいつもの(ACの)癖で、左手に刀を握っております。
未だにエミュが分からないのが私なんだよね……。
徒歩のアヤメを飛び越えて、一足先に百鬼夜行へ到着。
事前に連絡を受けていたニヤが、また怪異かと愚痴りながら、住民をシェルターへと避難させていた。
同時に、怪談を含めた物語は、全容が見えていなければ書けない。
アヤメは、神木以外で最も高い、陰陽部の天守に来るのではと推測した。
そして、その予測は的中する。
エアの提案により、アヤメを天守で待ち伏せる。
俺は右手に屍山血河を、ナグサは左手に百蓮を握りながら。
アヤメはニヤの予測通り、誰も居ない陰陽部本部を上り、こちらに向かってきた。
ハシゴを登ってきたアヤメは俺達に気づくと、背負っていた銃を抜いた。
「待ってたぞ、七稜アヤメ。」
その瞬間、柱の陰に隠れていた百花繚乱と先生が、アヤメの後ろを塞ぐ。
銃口と切っ先を突き付ける3人を、流し目にちらりと見た後、アヤメは俺達をまっすぐ見据えた。
「待ち伏せ、か……。ナグサが考えたにしては、動きが速いよね。キキョウか、傭兵さんの考えかな?」
それぞれ色の違う光の無い瞳が、俺達を睨みつけている。
どちらも質問には答えず、僅かな沈黙が天守を覆う。
エビスから吹き込む冷たい風が、俺達の間を通り過ぎる。
「アヤメ、何で……?何でこんな事しようとしてるの!」
「分からないよね。あんたは私の友達じゃないんだから。私の事を知ろうともしなかった癖に、今更何言ってるの?」
「ごめんなさい……!本当にごめんなさい……!でも、知りたいの!私にとって、アヤメは友達だから!何で!?どうして!?」
顔をくしゃりと歪ませながら、泣き叫ぶようにそう叩きつけるナグサ。
アヤメの背中を塞ぐ4人はただ、唇を結び、見守ることしか出来ない。
対して俺は、事態の根本は痴情の縺れなのかとウンザリしている。
「……だからだよ。」
「そうやっていつもいつも私を頼って!!何かにつまづいたらすぐグスグス泣き出して!!ずっと私に寄りかかってきた癖に、友達!?笑わせないでよ!!!」
「私を助けようともしなかった癖に!!知ろうともしなかった癖に!!私が、みんなが信じる“アヤメ”の仮面をつけてることに、気づかなかった癖に!!!」
後30分で日の入り。
天守に差し込む光が、ナグサに牙を剥くアヤメと、涙を流しながらもアヤメから目をそらさないナグサを照らす。
きっと今先生は、アヤメを助けなければと決心した事だろう。
現に、先生の顔は決意によって固められている。
「ずっと、見られてることが辛かった……。みんな“私って言う仮面”しか見てない事が辛かった……!でも、今日でそれもおしまい。」
「今日からは、私がみんなを見つめる番。この力で、百鬼夜行中を見守るの。」
「……言ってよ!!辛かったって言ってよ!!助けてって言ってよ!!そしたら、私はアヤメを助けられた!!アヤメの事を知れた!!」
「私じゃなくてもいい!百花繚乱の、みんなを頼ってよ!!ずっとずっと、アヤメを助けたかったのに!!」
「うるさいッ!!!今更友達面してごちゃごちゃ言わないでよッ!!!」
「あんたは良いよね……。その百蓮に、クズノハ様に認められたんだからさァ!!!」
「私は選ばれなかった……。百花繚乱で、百鬼夜行で誰よりも強かった……!そのはずなのに……!」
この2人の癇癪を聞くのも飽きてきた。
むしろ、ここまで手を出さなかった事を褒めてもらいたい。
全員に聞こえるようわざと大きくため息をつき、屍山血河の鍔に指を掛けた。
「なあ。俺はいつまでこの安いドラマに付き合えばいい?」
「……ハァ?何言って――」
「俺がお前に聞きたい事は1つ。降伏するかどうかだけだ。」
アヤメの答えを待たず、左手で刀を引き抜き、 鞘を捨てる。
俺が握っているのが何なのか、アヤメはそこでようやく気付いたらしい。
まず刀を、そして俺をじっと見た後、その頬はぐいと引き裂かれた。
「……屍山、血河。私は、私じゃ、抜けなかったのに……。」
「……ハハッ。アハハハ。アッハハハハハハ!!!」
天を仰ぎ、唾を吐きかける勢いで笑うアヤメ。
そのあまりの圧に押され、百花繚乱全員が、1歩後ずさり。
アヤメはひとしきり笑い終えると、だらりと体を下ろし、また叫び始めた。
「そっか……!そっかそっか!あなたも選ばれたんだ!!私が選ばれなかったモノに、あなたがァ!!!」
「じゃあ、もうこうするしかないよね。何からも選ばれなかった私が、何かになるにはさァ!!!」
アヤメがだらりと体を下ろした瞬間、天守は暗闇に包まれ、そこから無数の目が現れる。
アヤメの右肩から、うぞうぞと黒く平べったい触手が生え、そこからも目が現れた。
その眼は俺を、ナグサを、先生を、百花繚乱を、ただじっと見つめる。
だが、アヤメの右肩はともかく、暗闇の目は幻覚の類。
今までの台詞から考えるなら、あの目こそがアヤメの恐怖か。
「私は、ヒトツメ。この百鬼夜行全てを見通す者。お前達の、全てを見つめてやる……ッ!」
「アヤメ……!そんなものに頼っちゃダメ!!アヤメッ!!!」
「ナグサ、目の前に妖が居るんだよ?どうすればいいかなんて、私に聞かなくても、分かるよね?」
突き放されたナグサは目線を落とし、両手をギリギリと握りしめる。
だがすぐに涙をぬぐい、その眼に決意を宿し、左手の百蓮を薄く笑うアヤメに向けた。
俺はようやく話が動いた事に安堵しながら、背中からLMGを取り出す。
「あくまで戦うか。良いだろう。」
「……百花繚乱紛争調停委員会、副委員長、御稜ナグサ……。参る……ッ!」
右手を前に体を傾け、銃を軽く持ち上げ構える。
ナグサは百蓮の銃口と切っ先を、両手で銃を構えナグサに向けるアヤメから逸らさない。
百花繚乱はそれぞれの銃を、先生は箱を握り、俺達をじっと見つめる。
冷たい風が止んだ瞬間、右手に握られたアヤメの銃が火を噴いた。
俺は右にステップ、ナグサは左に転がって回避。
ナグサを狙い続けるアヤメに一気に駆け寄り、左腕を力任せに振り下ろす。
アヤメは切っ先が触れる直前でかわし、ナグサからの銃弾に身を屈めた。
アヤメの後ろを回りつつ、足元にLMGを乱射。
同時にナグサからアヤメの胸を正確に狙った1発。
そのお返しのつもりか、銃弾を全てかわしたアヤメから大量の触手が放たれた。
即座に突進。アヤメ本体に乱射しながら、落ちてくる触手を斬り払う。
ナグサもアヤメを軸に回り、触手を掻い潜って距離を詰めていく。
アヤメに向かう銃弾は見えない何かに防がれ、ナグサの頭に真っ直ぐ向かう弾頭が返された。
それを辛うじて頬で逸らしたナグサは、至近距離からの1発でアヤメの姿勢を半身に固定。
直後に脳天から振り下ろされる銃剣を、アヤメは自身の銃で受け止めた。
アヤメがナグサを押し返した直後、俺は更に後ろから飛びかかり、左足をアヤメの脳天に落とす。
当たったのは掲げられた銃だったが、衝撃でアヤメの両膝は地面に突き刺さる。
追撃の後ろ蹴りも触手で防ぐが、アヤメは大きく吹き飛ばされ、柱へ叩きつけられた。
地面に突っ伏したアヤメは、何度かせき込んだ後立ち上がり、切っ先を向ける俺達を睨みつける。
また牙を剥いたと思ったら、アヤメは唐突に触手を地面に突き刺した。
何をする気だ、と思案した瞬間、下から攻撃警告。
突き上がる無数の触手に、弾幕を張りながら飛び下がる。
ナグサと並んで距離を取り、アヤメも触手を引き抜いて、戦況は仕切り直し。
面倒な力だ。一気に片づけた方が良いだろう。
小さく息を吐いて、直後右手をアヤメに向けて乱射。
同時に駆け出したアヤメは銃弾を何かに任せ、なお銃口をナグサに向ける。
ナグサは放たれる火を掻い潜り、アヤメとの正面衝突の構えに入った。
アヤメがボルトを引いた瞬間、百蓮のいななきがアヤメの頬を掠める。
すかさずナグサは背中を叩きつけ、怯んだアヤメの右肩目掛けて、百蓮の切っ先を突き出した。
だが、切っ先は銃によって逸らされ、前蹴りがナグサの体を押し返す。
アヤメとナグサが互いに銃口を向け合い、決闘の様相を呈した瞬間、俺はアヤメが立っている畳の反対側を強く踏みしめる。
畳はほんのわずかに、だが姿勢を崩させるには十分な程度に持ち上がり、銃口はナグサの頭から大きく逸れた。
目を見開くアヤメの脇腹に回し蹴りを食らわせ、再び壁際まで追い詰める。
怒りに染まったアヤメは銃を手放し、握り拳に触手を纏わせ大きく肥大化させる。
だが、もう遅い。
残弾少ないLMGを捨て、体を大きく捻って刀を引き付ける。
そしてそのまま大きく踏み込み、アヤメの黒い右腕目掛けて、高く掲げた刃を振り下ろした。
”クロハ、ダメッ!!!”
だが、甲高い金属音と共に、その刃は止まった。
ナグサが握る百蓮が、俺の刃を止めたのだ。
空いた右手を峰に沿え、上から体重をかけて押し込む。
「……何の真似だ、ナグサ。」
「例え、妖だとしても、鬼だとしても……!あなたのような修羅に、殺させるわけにはいかない!!!」
ナグサは刀を押しのけると、百蓮で左に薙ぎ払う。
それを飛び下がって回避し、眉間を狙った1発を、頭を傾け頬で逸らす。
瞬間、感じたのは、鋭い痛み。そして、頬を伝う滴。
頬を指で撫でると、グローブの腹は赤い滴に濡れていた。
”クロハに、傷が……!”
幽霊を封じる百蓮が、ただの人間であるはずの、俺に効いた。
その事実は、俺以外の全員の目を見開かせるには十分だった。
頬に傷が付いた時、刀を握る左手から、炎のような熱が、明確な意思が、悪意が伝わってくる。
俺を使え。全てを喰らえ。
「……そうか。邪魔をするか。」
「なら、お前ごと斬るしかないな。」
指に残る血を刀の腹に押し付け、そのまま切っ先へと擦り付ける。
指を離したその瞬間、屍山血河から、赤黒い炎がごうごうと吹き出した。
アヤメも、ナグサも、百花繚乱も、先生も、目を見開き、後ずさりする。
この炎が何なのか、何を薪に燃えているのか、左手から嫌でも流れ込む。
「マジかよ……ッ!?」
「あれが……!」
「怨嗟の、炎……。」
夥しい量の恐怖、絶望、憤怒、そして死。
これが呪物と呼ばれる理由が、ようやくわかった。
だが、これを捨てる気は毛頭ない。
事が済むまでは、役に立ってもらう。
「臆したな、アヤメ。」
腰が引けているアヤメにそう言った途端、暗闇の目が一斉にアヤメを見つめる。
それに腰を抜かしたアヤメを、即座にナグサが庇った。
刃の炎を燃え滾らせ、天に向かって振るえば、軌跡に残った炎が弾け、暗闇と目を焼き払う。
天守の中で灰と火の粉が降り注ぎ、炎は天守そのものへと燃え移る。
眩い光と熱の中、俺とアヤメが睨み合っている間に、百花繚乱3人の狙いは俺に変わっていた。
まずは、あいつらからだ。
脱力し、体を沈め、左に急加速。
3人の真横を取り、刀を振り上げ銃を両断。
ここで、レンゲとキキョウが真横を取られた事に気づいたが、もう遅い。
動かれる前に1歩、2歩と踏み込みながら、円を描いて切り上げ、振り下ろし、それぞれが持つ銃を真ん中から叩き斬る。
分かる。どう動けばいいか。どう振ればいいか。
人を斬るにはどうすればいいか、左手から流れ込んでくる。
誰かが口を開く前に刃を向け、全員に黙っていろと意思表示。
先生が後ずさりしたのを見て、顔を前に戻すと、立ち上がりはしたが、なお怯えが残るアヤメ。
そして、それを庇いながら、俺と差し違えるとでも言いたげな目を向けるナグサが立っている。
ナグサは俺の肩越しに先生へ軽く頷くと、先生は百花繚乱3人を柱の陰へと引っ張った。
捨てていた鞘を右手で拾い、切っ先を左へ低く流して、アヤメとナグサに向かい合う。
「……レイヴン。あなたを、百花繚乱次長として、ここで祓う。」
「……やってみろ。」
いつになく真剣な声音で、そう宣言したナグサ。
そこまで言うのなら、付き合ってやろう。
刀をゆっくりと、高く振りかぶり、1歩で銃の射程から懐に飛び込んで斬り下ろす。
1撃目は打ち払われるが、すかさず2撃目を叩き込んで受けさせる。
衝撃でナグサの膝が大きく沈み、されど地面まで落ちることは無い。
すかさず刀を腰まで引き、へそ目掛けて突き出すも、受け流すと同時に刀身を踏みつけられる。
刀を引き抜いた瞬間に突き出される百蓮の切っ先を、回りながら下がってかわし、追撃の銃弾を右手の鞘で打ち払う。
夕焼け空の赤色と、赤黒く染まる怨嗟の炎の中、また睨み合う。
左手から、また悪意が流れ込む。
喰らえ。喰らえ。全てを喰らえ。
なお強くなる思念を、左手に力を込めて黙らせる。
瞬きしている間に、俺の周りの柱と梁に、平たい触手が突き刺さっていた。
その大元は、巨大な拳を振り上げたアヤメだ。
アヤメは触手で体を引き寄せ、俺に向けて一気に加速。
顔面に迫る拳の下を潜り抜け、アヤメは自ら天守の外へ飛んでいく。
だがアヤメは、俺を囲うように触手を伸ばし、また殴りつけようと構えた。
余りにも雑だ。これが委員長とは、笑わせる。
畳をへし折る重い打撃をかわした直後、手首を狙って逆袈裟切り。
黒い手を斬り落とされ、アヤメが苦痛に顔をゆがめた瞬間、庇うように放たれた銃弾を2つに割る。
ナグサが足でボルトを操作する間に、ただ歩いて距離を詰め、袈裟切りを仕掛ける。
ハンドルが戻った瞬間、包帯が巻かれた右手まで使い、ナグサは初撃を受け流した。
そのまま横薙ぎ、逆袈裟へと繋げるも、ナグサは全て打ち払う。
反撃の横薙ぎを上段で叩き落し、突きを鞘で受け流し、無防備な鳩尾を蹴り飛ばす。
ナグサが膝を突き、俺は刃を掲げた瞬間、後ろから足元に迫る薙ぎ払い。
後方へ回りながら飛び、触手を細長く伸ばしたアヤメの頭を蹴り落とす。
アヤメの淡い金の髪を踏みつけ、首筋へ切っ先を落とす寸前で、今度は後ろから突きが迫る。
足を離し、回りながら百蓮を打ち払い、ナグサの首を鞘で打つ。
まずはお前が死ね、ナグサ。
ぐらりと揺らいだ背中目掛けて、唸り声を上げる切っ先を深く突き出した。
だがそれは、黒い盾に阻まれた。
アヤメが束ねる、黒い触手の盾に。
盾の持ち主目掛けて更に押し込もうとした瞬間、触手によって根元が押し流され、切っ先は畳へと流れた。
「ナグサ……ッ!私は、あんたの事なんか、大っ嫌い……!でも……!」
炎に焼かれ、苦痛に顔を歪ませながらも、アヤメはナグサを庇う。
結構な事だが、今は邪魔で仕方ない。
盾に足をかけ、逆手で切り裂きながら飛び下がれば、生身の腕を斬られたかのように、アヤメはひと際大きな悲鳴を上げる。
だが、これまでナグサがそうしてきたように、アヤメはナグサの前から動こうとしない。
「人が死ぬのは、見たくない……。あんたが死ぬところだってそう。だから……。」
「ナグサ、あの修羅を止めるのを、手伝って。」
「……任せて!!」
右腕を押さえ、焼けた触手を畳に落としながらも、アヤメは確かに自分の足で立ち上がった。
その覚悟に呼応するように、ナグサもすぐに立ち上がり、アヤメの隣で百蓮を構える。
アヤメもまた、触手を1振りの刀として集め、背筋を伸ばして中段に構えた。
「ハァ……。メロドラマは……。」
ため息をつきながら、屍山血河を地面に突き立てる。
瞬間、刃から炎が溢れ、ごうごうと唸り声を上げる。
「余所でやれッ!!!」
順手で握り直して、体を大きく傾けてギリギリと引っ張り、天に向かって斬り上げれば、炎は2人に向かって地を走る。
2人は分かれるように炎を逃れ、ナグサは銃口を向け、アヤメは右腕を高く掲げる突きを放ってきた。
銃弾を潜り、突きを打ち払い、アヤメの首筋を鞘で打つ。
飛んでくる2発目を斬り落とし、体を左右に大きく振りながら接近。
ナグサの迎撃の横薙ぎを鞘で止め、百蓮を足場に飛び上がる。
炎の刃をナグサに向けて振り下ろすも、横っ飛びでかわされ、着地した瞬間にアヤメが斬りかかってきた。
大声を上げながら落とされる、3連撃の大上段。
1撃目は受け、2撃目は刃で、3撃目を鞘で受け流す。
アヤメの姿勢が崩れ、すかさず脇腹を蹴り飛ばし、直後飛んできた銃弾を打ち落とす。
間髪入れず迫るアヤメの切っ先を、打ち払うことなく足場にし、ガラ空きの背中に刃を向けた瞬間、ナグサの援護射撃で阻まれた。
弾頭を逆手で斬り払い着地。
その瞬間にナグサは腰に低く構え、アヤメは高く飛び込むように、揃って放たれる追撃の突きを、すり足3歩で2人の間を潜り抜ける。
2人はぐるりと振り返り、構え、決意の籠った眼でまた俺と睨み合う。
もう、面倒だ。
絶望でも死でも、何でも喰えばいい。
だが、力は寄越してもらう。
刃を掲げ、左手越しに怒りを流し込む。
すると炎は更に音を立て、喜んでいるかのように激しく燃え盛る。
何かを察して守りの構えに入った2人に駆け寄り、全体重をかけて炎と共に振り下ろす。
大きく吹き飛ばされるも受けきった2人は、俺を見据えてなお踏み込んできた。
だがその瞬間、軌跡に残った炎が弾け、2人はかわす間もなく壁に叩きつけられる。
その隙に刃を鞘に戻し、腰に沿えて低く構える。
瞬間、名前と動きが脳裏に浮かんだ。
葦名流奥義、十文字。
先に立ち上がったアヤメの懐に潜り込み、親指で鍔を押し飛ばす。
踏み込みの勢いを乗せた刃は、アヤメの守りを容易に砕き、続けざまに放つ兜割が、獲物を根元から斬り落とした。
「――ッ!アヤメ!!」
1歩出遅れ、右腕を押さえながら崩れ落ちたアヤメに気を取られたナグサ。
すり足で踏み込みつつ左下から斬り上げ、ナグサはそれを百蓮で受け止める。
「余所見をしている暇があるのか?」
渾身の前蹴りでナグサは大きく後退。
構え直される前に、炎を滾らせた突きを放つと、ナグサはそれを横っ飛びでかわす。
牽制の1発を半身に避ければ、ナグサはアヤメの元へ駆け寄り、また俺の前に立ちふさがった。
睨み合う間もなく、脱力して踏み込み、袈裟切りを浴びせるが弾かれる。
続けて2撃加えるも、右手まで使った受け流しで有効打は入らず。
直後、無造作に左に歩き、ナグサの気が一瞬緩んだ隙に、右目を狙う鞘尻の突き。
頬を掠めるにとどめたナグサから返される、斬り上げ2連。
刃で流しつつ下がり、〆の突きを踏みつけ、ナグサを足掛かりにバックフリップ。
すかさず斬りかかってきたナグサを受け止め、屍山血河と百蓮越しにギリギリと睨み合う。
その後ろで、アヤメは人ならざるモノとなった、自分の右肩を見つめていた。
「私は結局、誰にもなれなかった……。百花繚乱の委員長にも、妖のヒトツメにも……。」
「分かってた……。誰にもなれないのは、誰のせいでもない、自分が弱いからだって……!」
「それなら……!結局、誰にもなれないなら……!こんなモノッ!!!」
アヤメは変わり果てた右肩に左手を食い込ませ、大きく叫びながら思いっきり引っ張った。
指の隙間から目玉があちこちにぎょろぎょろと動き、根元からはブチブチとちぎれる音が響く。
俺とナグサが互いを押しのけ突きの構えを取るのと、アヤメが触手を引きちぎったのは、ほぼ同時だった。
俺が一瞬アヤメに目線を向けると、踏み込もうとしていたナグサが、俺の視線の意味に気づいた。
靄となって消えていく目玉の隣で、アヤメは畳の上に倒れ込む。
ナグサは百蓮を捨ててアヤメに駆け寄り、肩を引いて仰向けに寝かせた。
「アヤメッ!しっかりして、アヤメ!」
左手を人へと戻った右肩に沿え、包帯塗れの右手で頬を撫でるナグサ。
アヤメは憑き物が落ちた顔でナグサの目を見つめ、静かに心中をこぼした。
「私は、あんたが、大嫌い……。素直になれた自分を見てるみたいで、本当に、大っ嫌い……。」
また涙を溜めるナグサの目じりを、アヤメは右手でそっと拭う。
そして、安堵の吐息を吐きながら、自分の意識をゆっくりと手放した。
安らかな顔で目を閉じるアヤメに、ナグサはボロボロと泣きながら、アヤメの胸に縋りつく。
「アヤメ……!ごめん……!ごめんね……!あなたの痛みに、もっと早く、気づくべきだった……!本当に、ごめんなさい……!」
アヤメから怪異の反応は消え、確かにあいつは人間に戻った。
これで戦う理由は無くなり、俺の仕事は終わった。
ただ、どうしても言いたい事が1つ。
「結局、こいつらのドラマに付き合わされただけか。忌々しい……。」
刀を大きく振るって炎を消し、逆手で鞘の中へと収める。
同時に、天守に燃え移っていた炎も消えた。
刀を収める直前に、忌々しそうな悪意が伝わってきたのは、きっと気のせいではない。
「終わった、のか……?」
”全員無事、みたいだね……。”
戦いが終わった事を察した先生と百花繚乱が、柱の陰から顔を出す。
ユカリはすかさずアヤメとナグサの元に駆け寄り、レンゲは両断された百花繚乱の銃を拾い直す。
「先輩方、ご無事ですか!?」
「私は大丈夫……。アヤメも、失神しただけみたい……。全員、無事……。」
「ん……?ナグサ先輩、右手!自分の右手、見てみろよ!」
レンゲにそう言われ、右手に巻かれた包帯を解いたナグサ。
中から現れたのは、何の変哲もないナグサの白く細い手。
だがナグサは、自分の手に感慨深そうに触れた後、右手でアヤメの頬をそっと撫でた。
その光景を見ていたユカリとレンゲは、互いに笑顔を向け合った。
胸をなでおろした先生はナグサ達を見つめていたが、キキョウだけが眉間にしわを寄せながら、俺にずかずかと近づいてくる。
「あんた、今回は良かったけど、それを使い続けてると、飲み込まれるよ。さっさと陰陽部に渡して。」
「どういう事だ?」
「気づいてないなら、猶更マズいよ!最初は素人の動きだったのに、最後は古流剣術を涼しい顔で使ってた!」
「良い!?屍山血河は、本物の呪物なの!さっきまでのあんたは、刀にいる何かに乗り移られてた!そうとしか説明しようがない!」
「キキョウ、待って。」
俺に指を突き付け、刀を捨てろと詰め寄るキキョウを、アヤメをおぶったナグサが制する。
そのまま俺の元まで歩み寄ったと思ったら、アヤメの負担にならない程度に、ナグサは俺に頭を下げた。
「レイヴン、あなたを勝手に修羅と呼んで、ごめんなさい……。」
「……どういう風の吹き回しだ?話が見えてこないぞ。」
「もしあなたが本当の修羅なら、アヤメが倒れた時に、刀を止めはしないはず。でも、あなたは違った。」
「アヤメがアヤメに戻ったら、あなたはすぐに刀を収めた。それは、あなたが修羅でない事の証拠。」
「だから、あなたにも謝らせて欲しい。本当に、ごめんなさい……。」
少し腫れぼったい目で俺を見つめた後、また頭を下げたナグサ。
先生はその景色に目を丸くし、ユカリは力強く頷き、キキョウは納得しておらず、レンゲはそもそもピンと来ていなさそうだ。
だがそもそも、俺にとって恐れられることは、ごく普通の事だ。
前提も共有できてない以上、許すもクソも無い。
「修羅だのなんだの、訳が分からん……。勝手にしろ。俺の仕事は終わってる。」
「そう……。それなら、お礼を言わせて。私達を助けてくれて、ありがとう。」
「……構わん。これも仕事だ。」
ため息をつきながら、屍山血河を先生に押し付ける。
素直に受け取ればいいのにと言わんばかりの目線を向けられたが、あえて無視した。
ユカリがナグサの百蓮を拾い、キキョウもレンゲが持っていた銃の残骸を半分抱える。
先生の帰ろうの一言で、アヤメを背負ったナグサを先頭に、天守から降りていく。
ふとグローブで右頬を拭うと、乾いた血がペリリと剥がれる。
外を見れば、太陽が地平線へと落ち、大地の底へ隠れようとしていた。
レイヴンが置いてけぼりになりながらも、本編時空の事件は終わりました。
でもそう言えば、一度も登場してない人がいましたね?
だからもうちょっとだけ続くんじゃ。
次回
夜叉烏
百花繚乱の責
次回も気長にお待ちくださいませ……。
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屍山血河
戦で生まれた最初の修羅、「エビスのいち」の獲物
数え切れぬ人を斬った刃は、薄っすらと朱い
浪人と共に育ったいちは、自らの力で生きる事を望んだ
故に武勲を求め、戦に身を投じ、命の鍔際に立ち続け、
そしていちは、戦に飲み込まれた
この刀は、長く勘解由小路家により封じられてきた
刻まれた名は、「落椿」
それがこの刀の真の名だが、忘れられて久しい